2023/09/09 のログ
■セーレ > そして、そんな主がわざわざ足を延ばす市場は当然ながら、普通の市場ではない。
そこに並ぶ商品は、即ち『人』。
人族、ミレー族、そして魔族といった様々な種族の『人』が、そのまま商品として並んでいる。
そのどれもが、セーレを見れば一目散に逃げだそうとしたり、あるいは腰を抜かすようなものばかりだ。
だがしかし、セーレはそれを気にした様子も無く、むしろ楽しそうにそれらを眺めている。
「んー……まあいつも通りって感じだな。
あ、逃げようとしちゃダメだよ?契約違反したらどうなるか、知らないわけじゃないよね?」
笑顔を浮かべながら、セーレはその視線を逃げ出そうとした一人の男へと向ける。
男はびくりと体を震わせて、それでも必死に首を縦に振った。
「よし、じゃあいい子いい子。
君はちゃんと言う事を聞いてくれるんだね。偉いなぁ」
満足げに微笑んで、男の頭を撫でてからまた別のところを見て回る。
■セーレ > セーレはそうやって暫しの間、市場やその周囲をふわふわと飛び回っては品定めを続けていた。
正確には――契約を反故にするようなものが居ないかの、確認である。
この場にいる者たちは商品を含めて、全てセーレの所有物であり、庇護下にあると言ってもいい。
ただしそれは契約を破れば即座に破棄され、罰が与えられるという条件付きのものではあるが。
当然のことながら、この場での契約とはただの口約束ではなく、正式にセーレと言う悪魔との間で交わされたもの。
破った場合の末路は様々であるが、基本的にはその身に訪れるであろう破滅は免れない。
「ま、そう都合よく暇な時に居るもんじゃないか」
例えばそう、こうして暇を持て余したセーレの都合のいい玩具として使い潰される末路も、そのひとつ。
セーレがわざわざこうして市場に顔を出す時は、決まってそういう時なのだから。
■セーレ > ……結局、この日はそんな”玩具”は見つからなかったのか。
「約束を守る子たちばかりなのも、困りものだな」
そんな言葉を、どうしてか上機嫌に零しつつ、暫しの間、空を漂いながら気分よさげに鼻歌を口ずさみ。
そしてまたふわりと翼をはためかせて、静かな街中を飛んで行く。
そう、そんな玩具になるような相手が居ないのならば、それはそれで構わない。
所詮それは己が趣味の暇つぶしに過ぎないのだから。
ご案内:「欲望の街『ナグアル』第十一区」からセーレさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール平民地区-葦原会」にツネオキさんが現れました。
■ツネオキ > 夕暮れどき。西日の朱色が王宮も平民地区も貧民地区も纏めて赤く染め上げていく。
街の至る所から立ち上がる煙は炊事のそれ。時折風に乗ってくる美味しそうな匂いが鼻孔を擽る。
「今日の晩飯何や~ろね~」
『霊桜教混珸命流分院葦原会』の看板が掲げられた門扉の向こうは、広い広い敷地。
石畳に罅はなく砂利道も平らに均され立ち並ぶ軒の幾つかも見目は綺麗、だが……
中身は結構老朽化が激しくて定期的な修理・修繕が必要であったりする。
今日も本堂の屋根の一部が抜けて瓦が落ちた。
其処を丁度修理が終わって屋根の上で、うん……! と背伸びをしてから、
随分と高い場所に居るため夕暮れに染まる街並みも炊事の煙も伺え眺めて、
「よっ」
独り言もそこそこ梯子も使わず飛び降りる。
「いしょ」
ぐしゃ! とか。
めきょ! とか。
イヤな音が立つ、事もなく、修繕に使って余った瓦を何枚も右脇に抱えて金槌だの何だのとたっぷり詰まった道具箱を左手に持ったままに音もさしてなく着地。ぁーしんどー、とぼやきながらに境内の隅の隅っこ、あまり参拝客の皆様方の目に届かぬような所にある此処はもう見目からしてぼろっぼろの納屋へと向かって道具を次から次へと放り込んでいく。
■ツネオキ >
「こん納屋もそん内どないかせんとあかんわ、ほんま」
鍵が壊れて施錠も出来ない引き戸に。隙間風が出入り大っぴらに自由な壁に。大の大人が思い切り蹴飛ばしたら圧し折れそうな大黒柱に。修繕というか建て直さなければどうしようもないだろう状態の納屋の、瓦だの木板だの丸太だの鋸だの金槌だの釘だのがごっちゃごちゃになった中から、箒やら塵取りやらを探し出しつつ溜息一つ。
開け締めに相当なこつが要る引き戸を掴み、
ふんぅ……!
気合入れて何とか閉めて回れ右。
「大工さん呼びたいとこやねんけど……
立て直しともなるとまあ銭がなあ……
おかず一品減らされたらたまったもんやないで……」
境内を一往復して。立て掛けておいた梯子を外すと折り畳み此方は納屋ではなく裏手の隅っこに安置して。更に一往復してから箒を使って、修繕中に下に落ちていった木屑をはじめ普段から吹き込んでくる風に運ばれてきたゴミとか敷地内のあちらこちらにある木々から落ちてきた葉っぱとかを掃き掃除。