2025/02/10 のログ
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ご案内:「カルネテル・ヴィスコワニティ邸」にリュシアンさんが現れました。
リュシアン > 【お約束待機中】
ご案内:「カルネテル・ヴィスコワニティ邸」にベルナルドさんが現れました。
リュシアン > この兄はいつでもこちらの自分の言葉を待ってくれる。
だから、自分の考えをきちんとまとめてから口にすることが出来た。

「裏口…?」

だが、何だかちょっとだけ不穏な気配をその単語に感じて肩が竦む。
裏通りだとか、講堂裏、だとか、裏で始まる何かはどこか不穏な響きがある気がした。

兄に告げた本音は弟の予想を反して肯定される。
だから、思わず驚きをはっきりと滲ませた顔で悪戯を思いついたように笑う兄の顔をまじまじと見た。

「こわくても、いいの?その…はずかしくて、も」

弟は、自分が教育係たちの間でついこの間まで陰口じみた話題の種にされていたことを朧気ながら知っていた。
一向に教育に慣れる気がないどころか、相手が純粋な人間だったから最悪の事態は免れたものの、未教育にも拘らず避妊もなしの胎での性行為という、ある意味本人の自己管理が出来ていない最たる証拠のような、文字通りの事故の発生。
助けてもらったのだからと相手には罪も責任もないことを幾ら主張しても取り合ってもらえなかったどころか、どうせ怯えて断り切れなかったのだろうと断じられ、そしてこの事態を理由として今後少年の教育の時間は今までの倍になることが決まっている。

それらの全てを、解決してくれるというのだろうか。
兄のことを疑う気はないけれど、本当にそんなに上手くいくのだろうかと想像できずにいる。

「…ほんとうに、ベル兄さまと『勉強』する、だけでよくなるの…?」

サボるだなんて、家人の誰かにでも聞かれたら卒倒されそうな言葉を平気で言う兄を見上げるころには、不安と緊張が入り混じりすぎてきつく握りしめた手も指も真っ白になっていた。

ベルナルド > 「そ、裏口。」

弟の方が竦むのを見てくすっと小さく笑いがこぼれる。
言葉から恐れを抱くのは分からなくもない。
実際にはそんなに怖いことをするつもりもないのだが、わからないという事は怖いという事でもあるのだから。

「リシーは学校で算術を学ぶときは、色々細かい部分から教わるだろ?
でも、リシーが知りたいことはそこまで細かいことを知らなくてもわかってしまう。
なら、最初にそこだけ教えてあげるってこと。
知りたい所から算術に興味を持ったら、すそ野の部分も学べばいいさ。」

最も最低限の部分は出来ているのだから、算術全てを学ぶ必要はないのだ、という事を口にする。
効率的に、興味のあることを学んで、興味を広げてから他の場所を学べばよい、と。


そして、弟の本音を肯定したことが、弟にとっては予想外だったのだろう。
まじまじと見つめてくる弟の視線を楽し気に受け止めて、向けられた言葉を受け入れてから開く口。

「ああ、いいんだよ。怖くても。恥ずかしくても。
知らないことは怖いことだし、自分を曝け出すことは恥ずかしいことだ。
それを知って、知られることに慣れていく。
そこから進めたって問題ない。
特にリュシーはまだ13歳なんだから、そこまで慌てなくたって構わない。」

はっきりとそう言い切ってから、続く言葉にも頷いて。

「まあ、家人連中が考える速度よりはゆっくりだろうけれど、嫌なことを無理に進めて本当に心の底からきらいになってしまう方が問題だろう?
だったら、ゆっくりペースの『勉強』に変える。
リシーがそうしたいと思ってもらえるなら、母様にも俺が直接話をつける。
母様の許可が取れれば、誰にも後ろめたく思うこともない。
なにせ、『勉強』はしているんだからね。それに……」

そこで、少しだけ兄の周囲だけ空気が冷えるような錯覚を覚えるかもしれない。
ただ、その冷気に似た気配は弟に向けられているものではなく

「……何とかしようという気持ちは否定しないが、家人ごときが当家の子息、息女に対して一方的に物事を押し付けて良いはずもない。
主と従には壁があるのだから。」

この場には二人しかいないからその気配を向けられる相手はどこにもいない。
それでも兄として弟を守るために、弟の教育係たちに冷たい怒りを覚えないわけではないのだ。

リュシアン > 「うん、最初から順序だてて。
最初に…って、えっと………答えから順番に門際の最初に戻っていくってこと?
それとも違うのかな…」

自分なりに解釈をしてみて、兄へと答え合わせを求めるように尋ねる。
裾野、の部分が上手くわからないから、きちんと答えられている自身はなくて、少し言葉尻が萎む。

不安げな弟と比べて、兄の表情は相変わらずどこか楽し気だ。
その事が、弟からしてみれば不思議で仕方なかった。

「…いいのかな、本当に」

白くなるほど握りしめた手から少しだけ力を抜くと自分の指先が随分と冷えてしまっていたことに気づく。
僅かに握り、開いて、指先を温めるために動かせば落ち着きがないようにも見えるだろう。
そんな不安を断じるかのようなはっきりとした口調に唇を結んで続く言葉を真剣に聞いた。

「兄さまが教えてくれるなら…ぼく、兄さまに教わるほうがいい。
こわいの、もう嫌だし、それに……兄様となら、頑張れる、と…思う」

少し心臓がひやりとするような言葉が聞こえたような気がして身を縮こませるものの、それでもまっすぐに兄を見返す。
いつも明るく穏やかな人ほど怒らせたら怖いとは聞いたことがあるけれど、こういうことなのだと理解する。

それに兄から直接母へと話をつけてくれるのならこれほどありがたい事はない。
何せ、自分の母親であるのに彼女を前にするとどこか緊張してしまうからだ。
昔はすぐ上の姉と同じように子供らしく甘えていたような気もするのに、いつからだろう。

「…ありがと、兄さま。
ぼく、ちゃんと、頑張るから」

自分の意思をちゃんと兄に伝えることが出来れば思わずほっとして目の前と声が滲んでしまった。
こういうところが、如何も男らしくないと言われてしまう理由だとわかっている弟は慌てて服の袖で目元を擦ってなかったことにしようと試みる。
折角嬉しいのに、それでも緩んでしまう自分の涙腺とは仲良くできそうにない。
けれど自分が決めた気持ちはきちんと伝えたくて、袖の下からでも伝えなくてはと声を挙げる。

ベルナルド > 「そ。答えから順番に最初に戻っていくであってるよ。
今のリシーは算術を知りたいのではなくて、単位の計算方法とかを知りたい。
なら、どうしてそうしたら計算できるのか、の理由は置いておいて、計算ができれば問題ない。

学校の先生は、算術を極めている人たちだから、つい知っていることを教えたくなる。
結果、算術は難しいと思われる。」

やれやれ、と言うように最後、肩をすくめて小さく笑う。
使うための算術と、学問としての算術は違うのだと。

そして、『勉強』の話について、暫くの間、自分の主張と、それを聞いて考える弟の構図となり、
結果として、自分と勉強することで頑張るという言葉を引き出せば、笑み深めてから頷いて。

「ああ。それじゃ、そうしよう。
……頑張らなくても大丈夫。でも、頑張ろうと思ってくれるのは嬉しいよ、リシー。」

頑張ろうとすると体に力が入り、上手く行かないとがっかりしてしまう。
だから、自然体で慣れること。自分が教えようとしていることはそういうことだが、今はそこまでは口にしない。
代わりに頑張る気持ちは大事だけど、頑張らなくても大丈夫、と告げる。

弟の所作と声で、安心して、緩んだ気持ちでつい涙がにじんだろうことは分かる。
だが、指摘することもなく、まじまじ見つめるでもなく
ただ、その手を弟の頭の上にのせて、優しくぽんぽん、と軽く落ち着かせるように。

リュシアン > 「合ってた、良かった…。

でも、先生ってきっとどの先生でも一緒なんだね。
史学の先生も教科書にないことばっかり話すから授業中寝ちゃう人がいっぱいいるよ。
折角面白い話してるのに、もったいないなって思って僕は聞いちゃうんだけど」

恐らく間違えていたとしてもこの兄は怒らないのだろう。
ちゃんと解説をつけて教えてくれるのだと思う。
そして、教師が先回りして教えてしまうのは何処にいっても同じらしい。
肩を竦める兄の様子をみれば、少しだけ算術にも親近感が持てそうで此方も同じような苦笑を浮かべた。
並べばやはりどちらの苦笑も似ていることだろう。

「…でも、頑張れた方が、みんなはいいんでしょう?」

兄の言いたいことは何となくわかる。
空回りや無理をしすぎれば今の二の舞になってしまうのだろうということも。

「アン姉さまは、もっと勉強したいってよく言ってるもん」

だから自分も頑張るほうがいいのだろうと思っていた節もあった。
けれど、今までどうにか気をはるようにしてきた身からすればいきなり気を抜くのも難しい。
なにより、姉よりも随分と早くから勉強が始まった身としては、兄にサボっていいとはっきり言われてもどこか気が咎めないわけでもない。

「…頑張りすぎないように頑張るって、どうしたらいいのかな」

直近の命題にも思えて、撫でる手の主へと問いかける。
そのまま顔をあげれば遠慮なく袖口で擦ったせいか、目元が随分赤くなってしまった。

ベルナルド > 「一緒みたいだなあ。人間、どうしても自分が知っていることは教えたくて仕方ないらしい。
そんな所には興味がないって言ったとしても。」

似た二人の苦笑が揃ってから、頑張らなくても良いと告げる自分の言葉に返ってきた弟の言葉。
一度頷いてから、そのまま表情を変えずに首を横に振り

「それは正しくて間違っているかな。
頑張れた方が、みんなはいい。
でも頑張ることがリシーにとって苦しいことならそれは良くない。
『勉強』をするのはリシーなんだからね。」

そして、妹の事を引き合いに出してくる弟に一つ笑顔で頷いて見せてから

「アンジェは確かにそうだろうね。
それは、アンジェが『勉強』を楽しいと思っているから頑張れる。
でも、今のリシーはそうではないだろう?」

妹と弟の間の違いを指摘して、ここまでで終えてしまえば弟は追い詰められて感じるかもしれない。
だから、間を置かずに言葉を続ける。

「さっきのどの先生でも同じ、という話と一緒さ。
教育係も先生と一緒。だから、自分の知っていることを教えたがる。
生徒が知りたいと思ってなかったとしても。
ましてや『勉強』は1対1になりやすいのだから、居眠りなんかで逃げられない。

だから、答えから知って、ゆっくりと戻っていけばいい。」

そして、頑張りすぎないように頑張るには?と言う問いかけには、悪戯っぽく笑って見せてから

「とりあえず、暫くは同じベッドの上で、同じ布団にもぐり、話したいことを話して、軽く触れる程度に愉しむことだな。
誰かと同じベッドに入るのは、勉強と一緒。
まずはそこまでできればそれでいい、くらいで考えれば、頑張りすぎないように頑張っていることになるかな。」

リュシアン > 「正しいのに、間違ってるの?
……難しいね」

兄の言葉は、まず自分を中心に考えるよう勧めているように聞こえた。
それから続く言葉をじっと聞く。

「…ぼくは、姉さまみたいに楽しいって思った事、ない」

彼が言う通り、姉と自分の間で大きく違うことと言えば教育に対する意欲と真摯さだろう。
そして、自分には姉のように意欲もなければ楽しいと思えるだけのものがない。
更に深く考えようとすれば、自分にはやはり勉強に対してもっと真面目にならなくてはいけないのか。
少年がそう思いかけたところに差し込まれる言葉に一度考えが止まった。

史学や算術を教える教師も、少年の体に全てを叩きこもうとする教育係もやろうとしていることは同じ。
そう説明されると少年でも腑に落ちたのか、自分の中でかみ砕いてから一つ確かに頷ける。

「そうだね、居眠りしても無理やり起こされちゃうもんね…。
…えっと…そうしたら、夜になったら、またベル兄様の部屋に来ればいい?」

寝たふりを擦れば勉強がなくなるだろうと試みて失敗に終わった経験がある少年の表情は苦い。
授業中の居眠りは自分の成績が多少上がり下がりするだけなのだからそれに比べれば随分かわいいものだ。

部屋に戻って、夕食を皆と食べたら、湯浴みをして。
そのあとはいつも通りならば自分の部屋で、『勉強』の時間になる。
夜になったら、とは思うが今この部屋にいるのも事実。
けれど、今は未だいつもの勉強の時間でもあって、どうしたものだろうと部屋の主に伺いを立てよう。