2025/02/07 のログ
ご案内:「カルネテル・ヴィスコワニティ邸」にベルナルドさんが現れました。
■ベルナルド > 【お約束待機中】
ご案内:「カルネテル・ヴィスコワニティ邸」にリュシアンさんが現れました。
■リュシアン > 王城の一角、カルネテル・ヴィスコワニティ邸。
歴史こそあるもの余り派手ではない造りの邸宅の、その廊下を、本やノートを抱えて急ぎ足で進むのは末の王子。
余程急いでいるのだろう、けれど走ると怒られるので出来る限りの急ぎ足だ。
目的の部屋の前まで到着すれば、一度はずんだ呼吸を整えて厚い扉を二度叩いた。
「ベル兄さま、リュシアンです。
入っても、いいですか?」
今日は、兄に勉強を教わる約束をしていた日。
なのにやっぱり学院を出る前に追い回されて遅くなってしまったのだ。
約束の時間に間に合わせなければと必死で支度をしてきたのに、結局急いだせいで彼方此方へ跳ねてしまった柔い髪を、指先でちょっとずつ直しながら返答の如何を待つ。
■ベルナルド > 今日は弟の勉強を見ることになっている日。
とはいえ、弟は学院に通っているのだから、時間に対して多少ずれることもあると認識している。
ただ、同時に弟の現状について全く知らないわけでもない。
交友関係がある程度広いため、そしてある意味で『目立つ』家門でもあるために、なんとなしに耳に入ってくることもあった。
とはいえ、それをどうするか、どう考えるかは弟の考える事。
故に、自分から水を向けることはなかった。
もちろん、相談されれば答えるつもりではあるのだけれど。
「ああ、リシー。どうぞ、入っておいで」
そうしていれば扉から聞こえるノック音。
立ち上がり、扉へと数歩ちかづいて
それに応じて扉が開くのを待つ。
■リュシアン > 少年は、算術が苦手だ。
自分の年齢を足したり、本の合計金額を出したり、年代の計算は出来る。
けれどそれ以上のことを求められると圧倒的に計算が出来ない。
例えば、地図上の縮尺の計算だとか。
魔導機械が駆動している際の効果範囲を求める、だとか。
史学中心の講義を受けていても計算は時に必要だ。
だから、このままではまずいという危機感を募らせた結果、算術の得意な兄に教わりに来ているというわけだ。
「お邪魔します」
入室許可が下りたので、自分が少し余裕をもって入れる程度の隙間を開き、まず顔を覗かせる。
中に、兄以外の誰もいないことを確認してから、体を滑り込ませて中へと入り後ろ手に扉を閉めた。
「…ごめんなさい、遅くなりました」
兄弟間であってもこの時間は教え、教わる関係。
だから弟はまず頭を下げてきちんと謝ることにした。
それから、顔をあげると抱えてきたものを腕の中で纏めなおすと教わるときの定位置であるテーブルと椅子のほうに足を向ける。
まずは前回指示された宿題を見てもらうことになるだろう。
■ベルナルド > 開かれる扉と入ってくる弟。
その姿に笑み深め、数歩こちらからも近づくも、閉まる扉と一言目の謝辞。
くすっと小さく笑いをこぼせば
「まあ、学院で学んでいるのだから、そういうこともあるだろう?
リシーのために時間を取っていて、その後にも別に予定は入れてないのだから、そこまで気にすることでもないよ。」
気安い調子でそう言葉を向けてから、テーブルの方へと誘導するように自分も動く。
そして、お互いに椅子に腰かけて、前回の宿題を受け取れば、その内容を見ていく。
「…………」
特に表情を変えることもなく弟の答案を見て、その答案に何やら書き込んでいく。
丸だったり文字だったりと、色々だが、一通り確認を終えれば、弟の方へと差し出して
「基本的な四則演算は問題なく出来ているね。
ただ、少しひねられるとミスが見えてくる。
ということは、リシーが学ぶべきは計算法というよりも、思考法、という事になるのかな。」
そう言葉を向けてから、間違えたポイントを一つ一つ丁寧に教えていく。
何れも計算の方法で間違えた部分はなく、考え方として、どう考えるのかを教えていくために。
■リュシアン > 「でも、遅くなっちゃったから。
次は遅れないように気を付けます」
優しく許してくれる声に一度は気が緩んだが、次にはふると首を横に振ってテーブルへと促してくれる兄の後ろをついていく。
前回の宿題は本当に大変だった。
結果は朧気によそういるものの、その結果に至る道程が解らない。
道程が解らなければ、勿論その結果に辿り着くことが出来ないのだから不正解だ。
返却された宿題の結果を見るのが怖くて、受け取った時には両の目を強く閉じて。
けれど見なければ始まらないので、覚悟を決めて恐る恐る結果を確認すれば自分で思っていたよりも出来ていた。
安心して胸を撫で下ろせば、細いため息が長く伸びる。
「思考法…。
うーん…、答えが一つしかないのは、やっぱり難しいよ…」
悩まし気な顔で小さく剥れはするものの、教わりる態度ではないと自分で気づいたのか膨らむ頬もすぐにしぼむ。
間違えていた部分の解説を聞きながら、自分で間違っていた回答の横に違う色で教えられたことを書き込んでいく。
こうすれば、自分がどう間違えたのかを後から確認することが出来るのを教えてくれたのも兄だ。
それでも時折眉間に皴を寄せたものの、前回の復習が終われば一先ず、とばかりにテーブルに突っ伏す。
未だ今日の勉強もあるのだが、ほんの少しだけ息抜きがしたい自分を見逃してほしいとばかり、頬を天板にくっつけたまま兄の翠瞳を見上げた。
■ベルナルド > 「そうか?俺は答えが1つだからこそ楽だとすら感じるけどなあ。」
家族との間のみ使う一人称で弟の感想に小さく笑いをこぼしながら自分の感想を重ねて見せて。
そしてテーブルの上に突っ伏す様子を微笑ましく見やれば、
すぐ次の学習へ進むでもなく、ちょっと雑談と言うように向ける問い。
「そういえば、リシーはどうして算術を俺に教わろうとしたんだい?
別に算術を好きになろうとしているわけでもなさそうだし、
何か必要性が出てきたのかな?」
何の気なしの問いかけ故に、気安い調子で返答も返しやすかろうか。
そんな言葉を向けてから、見上げてくる弟の瞳をこちらからも見やりつつ更に紡ぐ言の葉は
「その必要性の一つとか教えてもらえれば、もう少し算術も取っ掛かりやすくなるんじゃないかな?
あまり得意じゃないものを、ただ勉強しようとしても、飽きてくるだろう?」
■リュシアン > 「兄さまはやっぱり凄いなぁ…。
ぼく、まだそんな風に思えないよ」
天板に頬をのせたままきゅうッと眉を寄せる。
まるで酸味が強すぎるものでも食べたかのような表情だ。
少年からすれば、算術も、酸味が強すぎるものもどちらも変わらない苦手なものだ。
「古い本を読んでると大きさとか距離とか、想像しづらいなって思うことがあって…、かなあ。
単位ごとの実寸とかも今とはちょっと違ったりするでしょう?
例えば、今と昔で馬車の車輪同士の幅の規格とかも違うし…」
テーブルから上半身を持ち上げて、両の手を道筋に見立てる。
それをそのまま前に押し出しながら言葉に合わせて感覚を空けたり、狭めたり。
得意じゃないもの、と聞けば少し萎れたような顔つきにもなった。
「必要性って……その、お家の勉強、みたいな?」
少年の算術よりも苦手な勉強。
この家に生まれたからには避けては通れない教育。
他の兄姉のように積極的に学ぶような高い意識を少年は持てずにいる。
■ベルナルド > 「だって、正しいか間違えたかがはっきりわかるんだよ?
そういう意味では、はっきりとした正解が分からない勉強をしているリシーの方が凄いとすら、俺は思うけどな。」
自分の中の本音を言葉にしてから、弟の言葉を耳にしていく。
その中でいくつかのキーワードを聞くことが出来れば頷きながら
「なるほどね……だとしたら、リシーに必要なのは算法ではなくて、もっと実学に近い方なんだろうね。
地図を見て、距離を計算できるとか、単位間の計算法とかが知りたいんだろう?」
身振り手振りが入るから、そこが知りたいのだという本質が見えてくる。
見えてくれば、算術が知りたいより本当に知りたい所が見えてくるから、何を材料に教えればいいのかも見えてくるものだ。
そんな中で、続いた言葉。
あまり得意としていないのは分かっているからこそ向けられた言葉に少しだけ考える様子。
「そうだなぁ……俺の予想だけど、リシーは家の勉強はなぜ必要なのか、あまり良く分かっていないのかな?
そうすると、確かにあの勉強は続けるのは苦しいと思うよ。
言葉の意味では分かっていても、それだけでは納得しにくい所があるだろうからね。」
小さい頃は自分もそうだった、と楽しげに笑って付け加えて。
何が楽しいのかと思うことは過去の自分にもあったことだから弟の気持ちが分からないわけではない、と。
■リュシアン > 「答えがないほうが、いっぱい想像できるからぼくは好き。
実学って言うのかな…うん、でも、そういうことが解るといいなぁと思って。
再現する時にも正確な数字が解ってたほうが再現もしやすいだろうし」
天板の上を滑らせる両の手を引き戻す。
家の教育が苦手なことはきっと知られているのだろうけれど、口に出してしまうとやはり気が重い。
兄も通ってきた道を自分が同じように辿れないことも、表情を曇らせる一因になった。
「わかってる、わかってるけど」
家の勉強は、家門を存続させるためには必要なこと。
そのためには、少しでも自分たちの体を性行為に適した体へと作り上げていく必要があることも。
けれど、それを解っていても
「…だって、怖いよ」
気持ちいい、のではなくて、怖いのだ。
日々、追い回される恐怖に晒されている身からすれば猶更だ。
与えられる感覚を、まだ気持ちいいと思えるところに自分の中で上手く処理できずにいる。
それこそ、何が正解なのかがわからない。
すっかり萎れた表情で天板へと落とした視線は、宿題の上で踊る丸と文字の上をうろうろと彷徨う。
■ベルナルド > 「そういう意味では、リシーの方が賢いんだよ。
考えることが好き、想像できるから好き、と言えるのは一つの才能だからね。」
まっすぐに、弟の思考を、心根を褒めていく。
そう思えること自体が大切なことなのだから。
そして、続いた言葉に頷いて
「なら、これからはその部分を重点的に教えようか。
特に、単位変換だったら単なる暗記問題だよ。
単位間で変換するために必要なものは、幾つ掛ければ、もしくは幾つで割ればいいかの『いくつ』を覚えるだけだしね。」
学校の先生に言わせれば、ある意味でずるなのかもしれないけれど、
知りたいことがそれならば、その周りをわざわざ覚えていく必要はないという合理的な思考。
そういう思考を持つがゆえに、知りたい所を重点的に覚えればよいとすら口にして。
そして、家の勉強については怖いと告げる弟の言葉。
それに少しだけ考える様子を見せてから、視線を重ねて微笑んで。
「そっか、怖いんだね。
……例えば、俺や、母様とか、家族とする時でも怖いって思うかい?」
向ける問いは、自分に近い、最も信頼できるだろう相手との行為でも同じく感じてしまうのか、と言う問い。
弟の現状を図るためにはちょうど良いしつもんだったから。
■リュシアン > 自分のほうが賢い、と褒めてくれる兄の言葉に首を捻った。
弟の中ではその言葉をきちんと理解して受け止めるまで少し時間がかかっている。
それが兄と弟の間にある時間と経験の差のようなものだった。
「本当に?嬉しいな。
単位が解れば文献読むのもっと楽しくなりそう!」
知識欲が満たされたことは素直に嬉しいのか、ぱっと表情を明るくした。
けれど、それも束の間のこと。
家門独特の教育事情の話は明るくなった弟の表情をまた暗くする。
兄の考えるような間が、短い沈黙のはずなのに少し怖い。
「…ちょっとだけ」
視線を合わせられると、逃げ場がないので顔を持ち上げざるを得ない。
もう自分が苦手だということは知られてしまったのだから、包み隠さずに言うことにした。
「ちょっとだけこわいし、それに、はずかしい」
元々の性格に起因していることもあるのだろう。
こういう会話も恥ずかしいのか、柔い髪に埋もれる耳は少し赤くなっていた。