2024/11/19 のログ
ご案内:「無名の迷宮」にドリィさんが現れました。
ご案内:「無名の迷宮」にヴァーゲストさんが現れました。
ドリィ > 「ロマンよりもぉー…相棒への配慮が先、でしょ!
 耳塞いででもゾワゾワしたし、思い出すだけで…もぉ、ナンかこの辺が…」

男の抗議なんて、爪先でぱちりと弾いて返してやりながら、
頚の後ろ、項のあたりを気にするように女が片手で撫でた。
男の声は嫌いじゃない。寧ろ好ましさすらあったが、これは由々しき前言撤回案件である。

なにはともあれ、一喝に気は晴れたので、女はお宝回収に勤しむこととしよう。
傍らから途中嫌味めいた声が降ってくるも、女の意識は既に採掘に向いているが故。
視線すら向けずに、

「あらそぉ? 耳にクるくらいにセクシーだったならご褒美かもー?ヤッタァ」

如何にも空返事感満載の適当っぷりで返しながら、トンカントンカンと岩を割る。
「コレ高そ♡」だの「ヤダ綺麗な色、かぁわいい」だの魔石を猫撫で声で愛でながら、
時折惚れ惚れと眺めてキスすら降らせながらに手際良く魔石塊を選り分け男へと渡そうか。
そして暫くそんな作業を黙々としていれば、軈てピッケルの嘴が捉えるは、
───が、きんっ。 一際大きく絢爛たる輝きを放つ特大の魔石核。

「ぁ。ゴーレムの心臓、発見♡」

女の喜悦が一際大きく、その双眸が笑い猫のよに三日月を描く。
それは長い歳月に培われた育った、超級のお宝であったろう。
艶やかで深い濃紫の結晶は眺めているだけで吸い込まれそうな魅惑と魔力を擁し、
渾沌たる濁りと夜闇の透徹を同時に孕むかの彩を宿していた。

これを持ち帰れば一攫千金。否──売るも惜しい逸品であろう。
その処遇は後でじっくり考えるとして。そう、まずは。
女が慎重に、ピッケルを隙間に打ちあてた、瞬間。

「───… ェ!?」

石が。
男の一瞬にしてまるで薄氷に皹が敷き詰められゆくよに白濁し。
ぱき。ぴきぱきぱきぴき ッ。

「!???!??」

粉砕した。──────唖然。
思わずにフリーズする女は、知る由も無い。
「水晶やガラスなど脆い物を破壊する」男の美声の“効能”とやら。
とはいえ、全く何の関連をも察しないかと言えば嘘にはなる。
ゆえに、女は──…未だ衝撃より脱せぬ無言にて男を見遣るのである。

ヴァーゲスト > この場合正直に答えるべきだろうか。
例えば相棒とロマンを心の天秤にかけると若干ロマンが勝つ。
ただ相棒に身の危険がない状態であることが当然の前提であるが、
矢張り『必殺技』や『切り札』というものは見せて魅せて意味がある、即ちどっちも大事なのだ。

うーん、答えは保留としておこう、敢えて、敢えて答えないという第三の答えを選ぶとして、だ。

何はともあれ己の主観的には誤魔化せたようだ。
相棒がお宝回収を始めたのだから、この辺は再び深く突っこまれる事はないだろう。

耳も当事者の声でキーンっとしてて聞こえなかったしな。
よしよし、相棒が自由にやっているように己も自由にするとして、
足元に落ちている純度が高そうな塊を回収しながら、
食べやすそうなサイズの欠片の一つをポイっと口に放り込む。

がりがり、ぼりぼり、がりがり、ぼりぼり

魔石に含まれている純度の高い魔力をおいしく頂きながら、
美味しくつまみ食いをさせていただきながら、仕事を続ける。

仕事を続けるのだが……。

「お?ゴーレムのし…ん……ぞー……う……。」

特大の絢爛たる輝きに気が付かないわけがない。
相棒の声とそれから発せられる魔力とに、一度仕事の手を止めてゴクリと魔石の破片を飲み込みながら、
相棒の方を覗き込むと…あー………。

「わはー見事に砕けちまったなー……がはははー……はは……。」

隻眼の眼をふいっと逸らして、明後日の方向を眺める。
これはちょっと気合を入れすぎた?
間違いなく入れすぎた?
もしかして、もしかしなくても、俺の成果で所為か?

いや、きっと、違う、可能性が……ワンチャンある……。

こちらに注がれる相棒の視線にそらしたばかりの隻眼をチラチラっと向けてから、おれわるくない、と、ごまかすように視線どころか顔を背けるのであった。

――…よし、土下座するか!

ドリィ > トンカン、トンカン。がりがり、ぼりぼり。
トンカン、トンカン。がりがり、ぼりぼり。

女が石を器用に打ち砕くのと重なるよに、何やら不審な雑音が混入する。
流石に一度、ちらと男を訝しく見遣ることはした。

「───…」

咎め──…るまでは、まァいいか。
何だっけ。ミネラルが足りなくて石を舐める犬とか猫とか馬とかよくいるし、
そういうのかなァ、とは思うので。多少の実害無き程度の摘まみ食いは許容しよう。
黙って手を動かしてくれて、ついでに腹も壊さないなら文句は言うまい。

そう、だって女は忙しいのだ。
この鉱床こそが今回の稼ぎ。魔物の結晶核こそが今回のときめきなのだから。
案の定、ゴーレムの心臓の輝きは類い稀なる魔性の美を秘める。
魔力の凝集であり坩堝であり──迷宮の永くも停滞した時間に研ぎ澄まされた光煌。
慎重に、丁寧に。壊れものにふれる繊細さで器具の切っ先をあてがった─… 筈、だったのだ。

それが。よもや割れるとは誰が思おうか。

透徹がみるみると白み、蜘蛛の巣めいた皹を散らし、そして。
砕け、こぼれて粉と散る。
これにはさしもの女の表情が、凍りついた。
何が起こったのか解らない、といいたげな唖然茫然な疑問符に、
横から届く男の空笑いがなんとも不穏というかタイムリー過ぎたのだ。

案の定、その声に誘われるかに女が視線を向ければ、男は隻眼をふいと逃がす。
ナニソレ、犬?悪いコトした飼い犬ってこんなカンジじゃない??
と、いうことはコイツの所為か???ンン????

「ヴァーゲスト、コッチ向いて?」

呼んで向かぬなら腕を引く。

「ヴァーゲスト。」

それでも向かぬなら肩を叩き、それでもダメなら──…

「─────…ヴァス!!!」

両頬をグイッと指で挟み引っ掴んで顔をコッチへ向けようか。もうなんというか犬である。

ヴァーゲスト > 口の中に広がる高純度の魔力。
魔石を噛み砕きながら嚥下する事で身体に満ちるその魔力。
人ではなく魔族だから、魔族でも己の一族だから出来る術。
若しかしたら似たような術を持つ他の一族はいるかもしれないが、
それは出会った事がないからわからない。

あともう一つ出来る事といえば。
口の中で魔石の魔力だけを吸い上げることで、濁った色を無色透明にまで変えられるが、
これは帰還後のお祝いの席でネタとして使おう。

さて、現実逃避は此処までにしてだ。
……ああ、土下座不可避だろうなぁ。
って気持ちでいっぱいになりながら、まずは腕を叩かれてみて見ぬふり、
次に肩を叩かれる衝撃に更に気が付かない振りをして。

ぐぃ、と、今までに呼ばれたことのない名前で呼ばれる。
それはアレだ誰かを呼ぶように、ではなくて、こう……。

「ふぁい。」

口の中がかみ砕いた魔石で少々じゃりじゃりするが。
それもまたゴクリと飲み干してから、年下の女に両頬を摘ままれた決してカッコいいとは言えない顔で、
強引に顔をそして隻眼の視線を相棒の方へと向けられると、
だいぶ間の抜けた声で返事をするしかなかった。

「…いったい、なんのごようでしょうか。
 あ、あれだ、もう、帰るか?そうだないっぱい魔石あつまったもんな?」

隻眼を右往左往、あっちこっち、上に下に、最後に上へとむけて天井を眺めながら、
利き手の指で自分の顎先を撫で自分で言うのも何であるが、明らかに動揺を隠せぬ様子で、
誤魔化すように帰還のタイミングが来たのかと言葉を返す。

もちろんわかっている。
それではなくて、今相棒が知りたがっているのは零れて粉と散った本冒険において一番高く売れそうだったそれが、
どうしてそうなったかの話だろう。

それから「……肉にふりかけて食ったら美味そうだな。」と粉と散ったそれの感想を小さく一つだけ、ポソ、誤魔化せるかなと。

ドリィ > 帰還後の祝いの席は果たして存在するのか。祝えるとなるのか否か。
男がネタを披露できるのかの瀬戸際がまさに今、この時であるとも言えるだろう。

相棒の名は愛称──もとい、勢い任せに端折られた。
年上の男の頬を、少々強引に引っ掴んでぐぃと此方へ向けたなら。
女の夕暮彩の眼差しは、僅かに凄むよに眇められる。

男の隻眼は、女の視線を掻い潜るよに器用に右往左往と泳いだ。
口振り相俟って愛嬌めいたものも感じられなくはない。が、今この時ばかりは胡散臭さ一択だ。

「なぁんのー…御用だとー、思う?
 帰るより先にー……、聞かなきゃいけないコトがあるんじゃあないかしらって思うのだけどぉー」

確かに魔石はたくさん集まった。利益だけを言うなら、これだけでも上々だ。
だがしかし。男のいうところのロマンが、女にとってはあの輝きであったものだから、
そりゃあ物言いたくもなる。故に詰問の眼差しは、男より言葉が返るまで向けられて。
そして極めつきに返ってきた言葉が「肉にふりかけて食ったら美味そう」ときたのなら、
口振りのハニーヴォイスはそのままに、ついに女の双眸が剣呑に据わるのである。

「ほぉ? ふぅぅーーん…??」

先ず、女は腰の革袋を漁り携帯食の乾肉を取り出した。
ついでに火酒の入ったスキットルの栓をきゅぽと抜き、どっぷどっぷと肉に振りかけ
両面たっぷりと粉と散った魔核を揚げ物の衣よろしくまぶしたなら──…
己はスキットルをぐびりと呷りつつに、即興の“手料理”を男の口元に差し向けようか。

「はい、ぁーーーん♡」

拒まれても口に突っ込む所存。女にしてもこれはもう、或る種の自棄と言わざるを得ない。
ああもう、酒が進むったらありゃしない。