2024/10/22 のログ
■ドリィ > 「実地で技能試験とか、スパルタ過ぎるんですけどぉー…。
まさか、速攻で踏み抜いてくれちゃうとか思わないじゃない?もぉ…」
罠というのは大抵、一撃必殺。
侵入者の油断に牙を剥き仕留めるのが罠であり、致命傷──或いは即死すら誘うのが罠である。
故に、下手したら此処でバッドエンドなんてオチも多分にあるわけで、
それをどうにか回避しないといけないのだけども。
蹲っていた上体を起こしつつに、女がその双眸を細め。柳眉の真ん中に皺を刻み。
「大事な足どころか、足動かした瞬間に二人でミンチになって
オークにハンバーグ御馳走しちゃうコトになるかもしれないじゃない?
やれるコト…って言われてもぉー…………
─────… ぁ。」
そこで、瞠目は一瞬。思い出した──“取っておき”。
腰のポーチを繊指が漁り、取り出すは黒くとろりとした鈍い艶を帯びた丸い小石だ。
“悪魔の牌石”と呼ばれる魔石。
効果は明瞭にして単純だ。───願い、置けば重くなる。人一人の代わりを担うほど、巨岩をも砂と潰すほど。
掌に転がし、女が悲愴を呟く。
「コレを、ヴァーゲストの足の代わりに挿し入れて置けば多分イける──…けど、
ぇ。ヤダ。こんな浅層で使いたくない。
めッッちゃくちゃ高かったのにコレ。」
もっとこう、重要な局面で使いたかった。いや使うけども、使うけれども。
「ェ。 足一本のほうが、良くない?」
───良くはない。
■ヴァーゲスト > 「まさに油断大敵って奴だなハハ…ハハハ………。」
笑えないけど、笑うしかない状況があるとしたら今。
一先ず笑うしかなくて乾いた笑い声をあげて、最後はため息になりガクッと肩を落とす。
魔族のミンチ肉なんて魔物にとっては涎垂もんだな。
栄養と魔力豊富だもんな。
何て喰われたくない、むしろ死にたくないわ。
まあ自分だけなら?まあ百歩譲って、まあ?
自業自得だし、許せるか許せないかといったらマシだろう。
仕方ねぇ、仕方ねぇなー……切り札切るのが一番マシか。
などと考えれば思い切って足をあげ、と、そのタイミングで相棒の悲愴な呟きを魔族の耳は的確に聴き捉える。
「とっておきのアイテムとさー……出会ってそう長くない男とドッチが大事なん……。」言葉途中で言い淀む、めちゃ高いと言うし、
イケメン魔族ってところくらいしか、貴重なアイテムに勝てる要素がない。
「いや、不毛な話は良そう。
って、いやいやいやいや俺の足の方が大事絶対。
次は気を付けますから!次はなるべく踏まないように!
しますんで!お慈悲を!ね?」
足がこうでなきゃ土下座でもした。
でもそんな高いものを買い取るだけの金はない。
だから売れるのはプライドくらいで、正直懇願をしながら、あとは……。
「この迷宮で拾ったアイテム!金!宝石!
その代金分差し引いていいから!な?な?」
こうお願いします!的に両手を合わせて相棒に頼む。
足の対価は白紙の小切手、後で後悔するのだが今はそれに気が付くことなく、それを対価にお願いをば。
■ドリィ > 「出会ってそう長くない男とぉー…とっておきのアイテム、
ドッチが大事でしょーぉ、か?
正解はぁーー………… ひ み つ ♡」
流石に、言葉を濁さずに伝えて命を預ける相棒との関係に亀裂を生じたくはないので♡マークで濁した。
否、もう亀裂は男の靴底より物理的に生じて命を脅かしているのだけども、それはさておき。
高かったのだ。そりゃあもう。
昔の顧客であった貴族の伝手から魔石オークションに潜入して
大枚叩いて競り落とした、結構頑張っちゃったヤツ。
指先に摘まみ上げたその魔石を、名残惜しく眺めては──嘆息。
「まぁ、大事な今回のバディであり剣ですし?
これから助けて貰う局面もあるかもですしー…?
──────“なるべく”?」
なるべく?踏まないように?───其処はゼッタイだろ、と。
女の夕暮彩の双眸が剣呑な色を宿してじろりとまた一度睥睨する。
常日頃に微笑みをたやさぬ愛嬌に満ちた厚ぼったい唇を、今ばかりは尖らせて。
とはいえ。稀少石と男の命を天秤に掛けて見捨てる悪党にもなりきれぬ性分。
はぁーーーーーーっ。深々、もいちど嘆息したのなら。
「ンー……じゃぁ……ソレで手ぇ、打ちますか!」
仕方なし、と女は眉下げ、破顔した。
片手が一度、男の掌にぱちんと触れて、手打ちとしよう。
そうと決まれば再度床に蹲り、床と男の靴底の接点を覗き込み乍ら、
男の足と床の隙間──…罠のあるだろう一点に、慎重に指に挟み摘まんだ石を差し入れようか。
■ヴァーゲスト > ――…罠を踏む男、それを解除する女。
差し出された空白の小切手を対価に、男の足は無事二本のままでいられるだろうか?
それは今はわからない。
たぶん無事かとも思うが……それはまた次なる時間に。
続く
ご案内:「無名の迷宮」からヴァーゲストさんが去りました。
ご案内:「無名の迷宮」からドリィさんが去りました。