2024/10/16 のログ
ご案内:「帝都シェンヤン近隣」に影時さんが現れました。
ご案内:「帝都シェンヤン近隣」に宿儺姫さんが現れました。
影時 > ――何の因果かそれともよくわからぬ何かのうねり。
はたまた、精緻な織物を為す色とりどりの糸が不可思議に絡まって、何かの形を作ったのだろうか。

見知らぬ旅先で、知った誰かと遭う可能性は如何ほどかを算出せよ、と問われてどのように答えられるだろうか。
答えはこれも色々。或いは玉虫色。そんなことできるか、とも、五割、とも。個々人の価値観次第であろう。
だが、明らかに一つ言えることは明瞭、明確であろう。
旅のために偶々乗り合わせた馬車を。偶々襲ってきた鬼が知り合いで。是非もなく馬車を逃して一人残れば、どうするか。

戦うのだ。

    戦った後は――どうするか?
    
「……かぁぁぁぁ、いろンな意味で、身に沁みやがるなぁ、おい」

マグメール王国から伸び、北方の帝国・シェンヤンの帝都へと続くルートに繋がる街道筋。
最終目的地たる帝都に近い街道から離れた一角で、夕日が落ちた後に生じだす黄昏時の中、一筋の煙が上がる。
もともと掘りたてられたのか、干乾びた池だったのか。
やや窪んだ土が不思議とそのかたちになるよう、型を押し込んだように四角く均されて、さらにその中で竈のつもりか。
これまたきれいに掘りたてられたように窪んだ処に、拾い集められたらしい薪が投じられ、パチパチと燃え盛る。
そんな焚火の傍で何が起こっているのかと言えば、酒盛りであった。大きな樽がある。小振りな甕がある。形様々な瓶もある。

それらを置きつつ、酒杯を呷る姿が声を挙げる。襟元から包帯らしい白が垣間見える異邦の装束姿の男だ。
手酌で盃に注ぎ呑み、あるいは柄杓で樽や甕からくみ出して注ぎ、吞む。或いは振る舞う。
種も嵩も色々とある酒類が、男の腰裏に括り付けられた雑嚢(カバン)の中から出てきたとは、誰が思うだろう。
だが、ありったけを出して猶足りるか、という呑み相手でもある。喧嘩相手であり呑み相手とするものは、それほどのものであった。
 
……どちらが勝った? そんなことは云わぬがきっと華である。

宿儺姫 >  
男の前に在るのは、どっかりと地べたに尻を降ろした浅黒肌の鬼だ。

八卦の山に久堅戻るかと足掛かり、良い頃合いに通りかかった荷馬車を一撃、
ひっくり返せば出てきたのは見知った男の顔。
上等な酒の一つでも積まれていれば良いといった程度のコトだったが。

「呵々。貴様が乗り込んでいると知っておればわざわざ襲う必要もなかったのう」

酒を浴びるかと思うほどの勢いで飲み空かす牝鬼。
どこまでも上機嫌、この場面だけを切り取れば有効的に接しているようにも見えようが、
そもそも馬車を襲った悪鬼であること自体は忘れてはいけない。
人と酒を飲み交わそうが、人悔いの悪妖であることに変わりはないのだ。

豪快に酒を呑むその姿のあちらこちら、襤褸布はところどころが避け地肌が覗き、その地肌にも少なからずの疵が見える。
その場で一戦、やり合ったのは言うまでもない。

影時 > 乗り込んでいた幌馬車の荷物は、雌鬼のおおよそ見立て通り。
街道に戻れば見える、真新しい轍の深さからして重量物を積んでいた。その一部から漏れる匂いは酒精のそれに相違なく。
そんな馬車が足の速い誰かに襲われたりしたら、護衛を積んでいなければ逃げられまい。
“危なくなったら降りて護衛するから、乗せてくれないかね”と便乗したのは良いが、まさによもや、であった。
並みの野盗、山賊程度ならば馬車を停めて対処させるのは容易だが、それ以上のものは難しい。

それはそう。お互い本気にやれば、地形が変わりかねない。
そして何より、どうしても生命を奪いたい、コロシタイ、という所以、理由がない。
酒を呑み交わす相手が悪鬼であろうとも、事後にこのような緩くも見える光景が出来るのはそのためだ。
程々に闘争心が満ちれば、自ずと腹が減る。喉も乾く。自分たちでのどを潤す際に真っ先に浮かぶものは、何か。

「そうかぁ?本っ当にそうか? あんまし考えずにやっちゃいねぇだろうな、お前さん。
 ……この辺りの出、とかは前に訊いたつもりだったが、まさかこんなトコで会うとは思ってもなかったぞ」
 
飲み干したら空になる樽が出たり、甕が出来たりする。
樽はバラして薪木にするが、甕はそうもいかない。シェンヤンの帝都に付いたら真っ先にやることが甕売りになりそうだ。
そんな勢いで順繰りに飲み干すように、雑嚢の向こうに繋がっている倉庫から買い貯めたものを出す。
道中に立ち寄った村で、小分けの瓶ではなく醸造の樽や甕で買い上げたものも、幾つもある。
帰って呑むかと思っていたが、真逆早々に干すことになるとは、誰が思っただろう。

そんな親分と呑み相手の有様を遠巻きにするように、小振りの樽の上でぽりぽりぽり、と音を立てるものが居る。
焚火の火影を受ける小さな二匹は、白い法被を着こんだシマリスとモモンガたちである。
小皿に注がれた水をどんぐりの王冠を盃代わりに呑み、つまみ代わりにナッツや干し野菜を齧るのは、男と雌鬼の真似のつもりか。

それを横目に、時折餌を補充して遣りながら手を伸ばす。
掴むのは柄杓。甕から一杯酒を注ぎ、身を乗り出しながら向こうの酒杯に注いでやろう。
その目がついつい、垣間見える地肌や襤褸布を押し上げるものに向いてしまうのは、仕方がない。諸々以て刺激的過ぎる。

宿儺姫 >  
「里帰りの道程の途中じゃったからな。
 酒の恋しき頃合いに峠から見えた荷馬車に一目散というわけよ」

一体何が「というわけ」なのか理解ったものでもないが。

手酌を受取、また飲んで、言葉を交わし、また呑む。
程よく酔いもまわれば鬼とて饒舌になろうというもの。

「貴様こそ何故帝都に向かう?
 我が言うのも何じゃがロクなところではないぞ」

まぁ、悪妖の立場からすれば天敵たる道士の屯する帝都はロクなところではないだろうが。
実際その内部の腐敗ぶりはおそらく王都にひけを取らない。
何故わざわざシェンヤンへ、と。

影時 > 「里帰り、ふむ、里帰りか……って、木の幹に塗った蜜に集まる蟲じゃねェんだから、ったく」

鬼とてふっと湧くものではあるまい。否、そういうものが無いとは言い切れない。
向こうの言い草に、おいおいと笑いつつ思考を回す。記憶を掘り出す。

曰く。男への情念が過ぎて、蛇のようになった女がいたという。
曰く。呪詛を受けて鬼となったものがいたという。
そもそもが姿さだまわらざる、この世ならざるもの、(オン)のものとか言ったか。昔齧った何とやらで聞きかじったものを思い出す。
だが、そういう言わばぽっと出のようなものを除けば、鬼の一族、集落のようなものがあってもおかしくない。
生き物がこの世に出るにあたり、親がなければそもそも産まれようもないのだから。

故に気にもなる。里があると聞けば、そこは近いのか?とも問いつつ、がさがさと傍を漁る。
つまみ代わりのつもりではなかったが、保存食としてストックしていた干し肉だ。ほら、と鬼の方に投じて。

「そろそろ、どういう場所が見て知りたくなってなァ。
 折よく暇が出来たから、ひょいとな。足を延ばしてみたわけだ。街道を走って急ぐ旅でもなかったからなぁ……」

単に思いついた。未知を求める冒険心がむずむずと騒いだ、というか。
旅に出る理由は大体其れで事足りる。それだけでタナール砦の向こうの魔族の国や、何処か見知らぬ秘境を目指し得る。
ろくではないかもしれないにしても、それが真にそうかというのは、見聞きしてみない事には分からぬ。気が済まぬ。

宿儺姫 >  
「近くもないが、人の身にはやや厳しいぞ。
 八卦の山は魑魅魍魎蔓延る(あやかし)の住処じゃからな」

山道や峠を登るにはこの男の身体能力があれば問題なかろう。
しかしそれはそれ、この鬼が生まれた鬼の里とて山の登り口にあったに過ぎず、
それよりも上を見上げればどれほど生きているのかすらわからぬような妖仙どもが跋扈している。

「ふむ。では行ってみるも良いやも知れんが」

「好奇心はなんとやら、痛い目を見ても知らんぞ?」

ぐびりと酒を煽れば、忠告…というよりも冗談めかす様な口ぶり。
先程やりあって、この男の手腕は十分に身で知っているということだろう。
しかしそれでも、数百年前に今よりも強大であったこの鬼を石碑に封じた者達の末裔がいる筈の国でもある。
出会っていないだけで一体どれほどの強者がいるのやら。

影時 > 「――……良いねェ、中々悪くない。刺激的な響きだ。
 その、アマツキ、じゃねぇ、宿儺。お前さんの里とやらは、山のどのあたりだ?麓とか中腹かとかの方だが」

人を寄せ付けぬ、身に余る地と聞けば滾るものがあるが、同時にリスクを鑑みる理性も働く。
手持ちの装備で足りるか。そもそもどうにかなるものかどうか。考えなしの挑戦は最悪、速やかな死を招きかねない。
装備のすべてを求めるなら、雑嚢(カバン)の中を漁ればよい。そこに全てがある。
その全ての中で敵うものがあるかどうかを見定めても、なお足りぬ状況で生残するのもまた、冒険ではある。
踏破の二文字は心躍るものだが、さて、堅実も求めるべきであるかどうか。
そう考えながら向こうの名を呼ばわれば、にゅいと。傍らにて、“呼んだ?”とばかりに偶々同音の名を持つ毛玉が背を伸ばす。
呼んでない、とも言い辛い。その毛玉の耳裏や背を指先で撫でつつ、ひとまずぼかしてみせようか。

「痛い目を見れる場所、にもよると思うがなぁ。
 都の街中を歩くだけじゃぁ、余所者だからと石を投げられるとは思えん。身なりを弄れば、紛れるのは容易かろう。
 
 ……例えば、そうさな。王宮にでも這入り込めば、面白いモンでも見らンるのかね?」
 
市井に混じる、だけならそう難しくはないだろう。そう見立てる。
そもそもの風貌を思えば、髪色と肌色については染めたり変えるまでもないだろう。服を変えるなどすればどうにかなりそうな気がする。
そして、余所者と露見したら、通りの人間がまとめて敵となる――ようなこともない、とも思いたいが、そんな国が王国と関わりを持つのか。
酒精が入った頭で考えるに、歩くだけで死地のような危険が跋扈しているとは思い難い。
在り得るなら、どうだろう。官吏や警吏の類がまずいのか。もっと推し進めるなら、何処にでもある話の如く、宮廷の中が、そうなのか。

手酌で新しい酒を注ぎつつ、鬼に問う。そこまで攻め入ったことなどあるのかどうか、も確かめるついでに。

宿儺姫 >  
「五合までは往かぬ。中腹よりは麓より、か。
 最もそれもかつてあった場所、でしかないがな。
 我が眠っている間に気がつけばただの廃墟に成り果てておったわ」

からからと笑いながら、尚も酒を煽る。

「しかし程度の道士どもだけで鬼の里を一つ滅ぼせるとも思えん。
 じゃから時折戻ってみてはいる、といった程度じゃな」

別段隠すこともなく、身の上を語る鬼であったが。
その行動からは一抹の寂しさのようなものは感じ取れるのが人情か。

「さて、のう。
 麓の集落や村を襲うことはあれど帝都に仕掛けることなどはさすがになかったが。
 小狡い悪妖などは王宮にもちょっかいをかけておったおうじゃぞ。今どうなっておるのかは、まぁ見ものじゃな」