2024/08/24 のログ
ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 整備担当区画」にルシータ・ヴァルケスさんが現れました。
ルシータ・ヴァルケス >  
 早朝の王立学院
 狭間地区に存在するこの場所は身分と立場という垣根を超える唯一の場所
 身分の違いはあっても、多種多様な存在がいても不思議ではない。
 認められてしまえば、全て同じ。

 学び場で使う教材の一つに、もちろん武具というものはある。
 模擬剣が一般的でも、どうやればうまく斬れるのか、という段階に入れば刃は当然潰れていない。
 それらを制作する場所として、適切に加減された武具を整えながらも一つ一つが手ずからの品。
 鋳造量産品のような、ほぼ同じ形をしていても、だ。

 鉄を熱し、火の塊のように見せ、槌で形を曲げ、その手で形作る。
 小柄な躰 滲む褐色肌に浮かぶ珠汗。
 両目を覆うゴーグルの向こうでは、ギラギラといつまでも求める気持ちを失わない若々しさ。

 左手で柄を掴み、先で接続された姿で伸ばし、曲げ、整えられていく。
 一級品?特別な剣? 全て餓鬼には不相応。
 別の剣を持った瞬間にその両手はその剣を鈍らに変え、いたずらに相手を怒らせ、その顎が己を喰らう。
 故に、全員加減して作成されていく。

 攻撃力という点において、安全性の意味でも切れ味は必要。
 しかし増長させず 自身の両腕と手首を用いて斬る斬ったという機会と結果を生み出させなければ意味がない。
 生徒 餓鬼に持たせる剣の中でまともに持たせるには、どの鍛冶屋も苦労する。
 もっと斬れる剣を寄越せ、見た目が地味 などに何度心の青筋を立てた者がいるだろうか、と。


   「“にせ”らは無駄に長か夏季ん休みを使うど。
    手入れせすりゃ生き続くっ剣を 両腕をきちんと振っえば斬れる剣を
    そいを与えないけんのが、肝ってところじゃな。」

 
 こてこてのドワーフ訛り
 他の鍛冶師数人と、点検と必要数の確認
 学業を休む夏季休日 学生の特権 こここそ、宿題という学業を除けば実戦を費やせる場でもある。
 外でも中でも、剣撃の稽古が聞こえると造り手としては気概も増えるというものか。
 走り込みの音一つすら、聞こえればきっと笑みが浮かぶ。
 

ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 整備担当区画」からルシータ・ヴァルケスさんが去りました。
ご案内:「山窟寺院跡」に影時さんが現れました。
ご案内:「山窟寺院跡」にフィリさんが現れました。
影時 > 「あー、なる……、ほど……? いやぁ、どー、だろうなぁ。現実は小説より奇なり、とか言ったか?
 存外虚構として描かれている縮図が実際にある、やもしれン。其れも生々しく……と云うと、おどかし過ぎか。
 
 ――こういうものを手に入れましたので、お話しません――?なんてやンなら、多少は俺も手伝える。
 まぁ、甘酒はちと時間は欲しいところがね。
 コメは兎も角、肝心要の麹は恐らく取り寄せなきゃならねぇ。こっちはドラゴン急便で相談してみるか……。
 
 薬と毒の建前とは別に、フィリ。この世の最な真理を云うとだ。
 呑むと無くなっちまう。なかなか手に入らねえ奴を呑みたいのと、一息に空けちまいたくなるとか考えだすと、……深いよなぁ」
 
学院という匣の中のコミュニティは、存外にオトナの世界の縮図と化している等と宣う者が居る。
何かの本で見たのか、それとも学説、あるいは講釈かはよく覚えていないが、見立てとしては当たらずとも遠からずだろう。
やがて子供は大人になるものだ。未成熟であろうとも容赦なく、親の意向等の諸要因で社会に放り込まれる。
さて、そんな場にどうだろう。良さそうな集団があれば斬り込むには、手土産でもある方が、話に弾みは付くのではないか?
酒繋がりで、エールやワインより子供が呑んでも大丈夫そうな飲み物を考えると、ひとつ思いつくものがある。
甘酒だ。材料を選べば酒精を含まず、飲み応えも味わいも、この土地ではきっと珍しいだろう。しかも甘い。
材料については、此れは素直に伝手を辿ろう。トゥルネソル商会の力を借りれば――かなり何とかなりそうな気が凄い。

あとは――沢山作れるといい。
呑み終えるのを惜しむ程の甘酒とは逢ったことは無いが、スターティングがなんとかなればどうにかなりそうなのが、甘酒だ。
もっともらしいことを述べつつ、遠くを見てみよう。もっとも、直ぐに目に入るのは玄室の壁でしかなかったが。

「おっと、そうか。そもそもそうだな。……子を心配してこその親、だよなぁ――。
 下手に遅くなったら、ラファルの突撃と、それと雇い主殿から――念話で確認の催促もされかねん。
 というわけで、尚更に真っ直ぐに帰らなきゃならなくなったなァ。
 
 意思、意思か……はは、そうなってても可笑しくない代物には違いねェわなあ。
 アリと答えようか。呼べば来る、だろうし。ふむ、そう考えると、仕舞ってばかりなのも少しばかり考えもの……か?」
 
冒険者の仕事は、仕事である。道楽ではない。程度はどうあれ、明文化された契約に基づいた仕事だ。
だからこそ、ギルドの意向や依頼とは別に未知を探し求めて、行けそうなところに行く。行ってしまう。
命を懸けた道楽然としている後者とは違い、仕事というのはきっりしかっしと、締めるところを締めなければ話にならない。
依頼受諾の段階で難易度を想定し、ある程度のマージンを設けられてることもあるが、今回は別の観点もある。
帰りが遅いと親から心配される――という、至極まっとうにして当然の事項だ。
トゥルネソル家の家庭環境として、自分と少女の関係は悟られているにしても、今回の一件は訓練ではない。実地だ。
故にこそちゃんと帰って報告してみせて、漸く一区切りと云える。酒を呑むのはその後でいい。
取り敢えず、肩上の二匹については、後で胡桃かヒマワリの種をあげよう。弟子が運んできた弁当にも入っているかもしれない。
さてさて自分と少女、シマリスとモモンガ、弟子に、槌。
意思が宿っているかもしれない武具で言えば、己が左腰の刀もその節は否定しないが、口に出すと少々ややこしい。
そんな使い手の思念を拾ってか、腰で揺れたような気がする刀の柄頭を宥めるように軽く叩こう。
槌も刀も席に置かなくとも、卓に立てかけておけばそれだけ様になる。良い武器、良い道具の映え所という奴だ。

「その辺りやるなら、どっから始めるかな……。
 植生の分布の確認と麓の村とかからの聞き取り、猛獣が居るならその痕跡の調査か、まずは。
 熊の危うさは俺もよぉく知っているとも。
 小鬼が残したりばらまいた残飯など食って、変な癖を覚えてたりしてたら厄介だな。
 
 ……ふむ。あれか? その手の“あふたぁけあ”や対策をやる何か、でも興してみるのかね?」
 
己が知識と経験から、何処から取り掛かるか。魔物や害獣、猛獣の対策へのアプローチを脳裏に思い浮かべる。
まずは敵と己を知らなければない。敵を窺うには痕跡、己を知るには想定される領域の諸々を詳らかにする。
この辺りは現地の猟師、冒険者個々人で異なるだろう。
学識的な面まで及ぶとさらに複雑になるだろうが、さて、事業化するとなると――どうなるのだろう?
恐らく、彼女が見出したところは厄介な手順等を一まとめにし、投資があれば為せるようにする、といった点か。
被害が想定される場所はだいたいが街中ではない。
冒険者ギルドになけなしの金銭を皆で募り、掻き集めて依頼を出すような貧しい村落、集落が被害の矛先となる。
魔物の害や獣害を未然に防ぎ、正常な収穫を得られるならその数割を――といった建付けとなるか否か?
改めて定義すると、色々と厄介が絡みかねない。とは言え、入り組んだ面倒を解き、糸口を見いだせるなら、面白くなりそうだ。
今聞いた限りで、浮かぶ懸念は敢えて口にしない。
理想と現実を並べたあと、精査して見えてくる相違と問題と向き合い、頭を悩ませてこその学びだ。

「ああ、そうだな。俺にとってはいつものように、って奴だがね?
 元が良くても柄とか鞘とか、細かい処が劣化してる可能性が高い、どの道点検と補修は避けられん。
 まァ、帰ってギルドに報告済ませたら、倉庫を見て換金しやすいようにざっと目録作るか。
 
 杖は、ぁー、いや。お代は要らんというか……形の上としては共同討伐、だろう?
 何だかんだと貰ってばかりじゃぁ悪い。指輪共々、フィリ。お前さんの取り分にしていってくれ」
 
いつぞや弟子と共に入手した武具類と同じだ。手に入れた武器がそのまま使える、という方が寧ろおかしい。
異界と化した迷宮なら分からないが、柄巻を始めとして手入れされず、経年に耐えかねて腐ることは起こりうる。
特に全身鎧に至っては、体形に合わせて誂えられている場合は寸法直しが必要となるだろう。
経年が起こらない異空間に放置されていない限り、調整が要らないのは保護の魔法が掛かった物に限られるか。
既に間に合っている、使いようもないが値が付きそうな品々については、急がずとも金銭に変えてしまう方向で問題ない。
最終的に自分たちの手元に残る品は短剣と槍、杖、そしていましがた見つけた指輪だろう。
一番価値がありそうな杖と指輪については、代価は求めないかわりに魔導書と同じく少女へ扱いを委ねる。

指輪も杖と同様、魔法が掛った品らしい。戯れに指を通せば、リング部分は不思議とフィットしてみせる。
そうでなくとも、紐や鎖を通して首にかけるだけでも、護りをもたらす筈。この性質は改めて鑑定をすれば自ずと知れよう。
了承するかどうかは兎も角として、全ての品を改めて自分の鞄の中に納めてしまえば、帰りの支度が整う。

最後に玄室の外へと出れば、自ずとその扉は閉ざされる――だろう。

フィリ > 「有ります。はぃ、頑として存在すると思われ――ぃぇ、存在するの、です。
そもそも――物語程大袈裟ではなぃにしろ。似た者同士や、同好の士が集まる、とぃぅのは。必然とも言ぇまして。

…ぃただぃたのですが、何分自分は、素人なので…とか。先達のご意見を是非、とか。何も無ぃまま切り出すよりは。多少気も易くなります…かと。
なのですが―― む。 ……そぅぃぇば、そもそも酒精――醸造?発酵と言ぇば発酵、なのでしょぅか。時間が掛かるのも必然でした、はぃ。
入手もですが、時間だけは――如何な魔法でも。早々変ぇられはしなぃ、摂理――でして。其処は承知、です。

ぁ、ぁー……それは。それは、はぃ、飲食物――消費する上では。確かに、致し方なくー……」

学生とは、大人の前段階なのだ。社会に先んじた共同体でもあるのだ。だったら其処が縮図と言えるのも必然だろう。
…学校に行って勉強をして何になる、という若者が。学生生活その物にも意味が有るのだと諭されるのも、その辺りに由縁する。
ならば既に学生の段階から、ある程度大人社会との共通性を見出す事が出来る…というのも然り。
オマケを言えば今回のターゲットは主に、既に社交界デビュー済みの者が多かろう、貴族サイドの諸先輩方である。
其方の意味でも、子供と大人の中間――から、一歩先へと踏み出しつつあるような者達だ。
がっつり強烈な蒸留酒等とは行かずとも。ある程度――それこそ。甘くて飲み易いにも拘わらず、甘酒、等という名前で。大人っぽさを錯覚させる代物は丁度良い。
此方が言いだしっぺなのだ、商会の伝手で入手せねばならない物が有るのなら、出来る限り協力しよう。
…とはいえ…重ねて言うが。必要な時間を縮める事。加えなければならない手間をすっとばす事。それ等は竜の力でも、魔法の力でも、出来ない事だ。
自然の摂理には抗えないし、玄人の技術には勝てないのである。

真理。…酒、に限定すると分かり辛いのだとしても。食べたらなくなる甘い物に換算すれば、少女にとっても他人事ではない。
糖分を摂取しないと脳味噌が回らないが、カロリーに変わってしまうと、もう味その物は失せてしまう。
喉元過ぎてしまえば決して取り返しが着かないのだ――二人して壁を向いてしみじみと物思う、奇妙な光景が。暫し。

「――…です、はぃ。
しかしその――心配の上で呼び出し、喰らぅとぃぃますと。 ……姿が確認出来無ぃから、とぃった感も有りますし…何だか。
何だかこぅ、迷子になった所を探されてぃるかのよぅと言ぃますか。…良ぃ歳をして恥ずかしくもなると、言ぃます――か。 ……ぅぅ。
これはこれで、出来るなら。避けてぉきたぃ所なので――す。

名付けて呼べば応えるだとか。年を経た器物には、ぁれやこれやが宿るとか。…そぅぃった話は尽きません、し。
ぃつかそんな頃合ぃがやって来る――決して。在り得なぃ事では無ぃのかと。
まぁ、その――流石に学舎等で振り回すのは、大変に危険、なのでして。 …今回のよぅな所が有れば、とぃった所でしょぅか」

仕事、大事。見習とすら言えない立場だが、商売人の娘として。其処の所には大いに賛成だ。
そしてどんな職業も、信頼無くしては成り立たない。依頼に背く、雇用主を裏切るのが御法度なのは当然として。
最初に決まり事が有るのなら、出来るだけそれも守っていくべきだろう。――納期だとか、報告だとか。

さて。商売とは人と人の関わりではあるが。人間関係という物の中で、もっとも最初から存在するのが、親子や家族の関係である。
当然其処にだって、信頼も信用も無くてはならないのである。約束を破ったら怒られる。学生生活よりも前に、幼い内に学ぶ事だろう。
――良い歳、等とのたまう少女だが。実年齢的にはまだまだ、そうやって家族という極小共同体で学ぶ段階だ。
基本的には個々のスタイルやスペースが尊重され、おまけに王国らしい放任要素も有る…とはいえ。親が親で子が子である事は変わらないのである。
果たして少女の場合。怒られるのは嫌だなぁ、なのか。心配させるのは申し訳ない、なのか。何れにせよこの後、ちゃんと。
一旦は帰宅と報告という、適切な義理を果たす事となるだろう。

――器物にして百年。猫ならその十分の一。それだけ経てば皆大いに化けるという。
彼等リスにモモンガという諸先輩方なら、更に短い期間で。今以上の存在に成り得そうだ…なる気があれば、かもしれないが。
そんな彼等は種や果実で満足かもしれないが。更に先輩弟子である、少女の叔母については。そういう訳にはいかないだろう…同じくウワバミ、だそうなので。
彼女も合流しての一席が、どれだけにぎやかな物となるか――はまだ判らないが。
既に活躍華々しい彼女が其処に居るという事も。刀に鎚、明らかな業物がその場に存在する事も。
普通ならお飾りにしか見えないであろう少女が、彼等彼女等と同席し得る存在なのだ――そう、酒場の者達に思わせてくれるかもしれない。
少なくとも、其処に居る者達が…それこそ本職の。生粋の冒険者達であればある程に。

「実際の所――…冒険者、探索者、の仕事の中に。何処までの”アフターケア”が保証されるのか…は。
正直私の知る所ではなぃの、ですが…流石に。何年も何年も、ずっと。続けてぃく訳にもぃきません…のではと。
これが地上の建物でしたら、警備の保障等、れっきとした職業としてぁる訳ですし――それが。地下に及ぶ、街の外に拡がる、のは。
決してぉかしぃ事では無ぃ――と思われるのです。はぃ。

…ただ長期契約してぃただける、とぃぅのには。適度にぉ値段抑ぇる事も必要となりますし――…ぅぅ、ん。
取り敢ぇず最初から本格的な物は出来なぃでしょぅ、から。ぉ話伺ぅ所からでもぃけましたら……?」

知識と経験。それが有ると無いとでは大違いだ。
村落の一般人達、ともなれば。それこそ被害の経験ばかりが嵩む割に。対抗する為の知識が足りないから、抜本的な解決に至れない。
もしくは、襲われた時に逃げる事や、奪われた後の餓えを凌ぐ事は知っていても。
そもそも狙われずに済む事や、襲われないようにする事が出来るような。力を持っている訳がない、とも言うか。

其処に――それこそ。相手が魔物なら冒険者の、猛獣なら猟師の、知識と手際を伝える機会だけでも設けられれば。
直ぐに商売としての儲けに繋がる事はなくとも、何かしらの取っ掛かりにはなる、気がする。
伝えられた経験則が一定の効果を発揮し、被害が減ってくれたなら――金銭事情の改善は。商売っ気にも発展していくのだろうから。
どんな商売も、直ぐに成果を期待してはいけない。長期的な展望と願望を…成立させ得るだけのプランニングが無いと、最初の出資も見込めないだろう。
あくまで少女が今口にしているのは、思い付きの段階であるし、可能性の話でしかない。
現実的な諸問題は、やってみなければ分からないか――或いは。
とっくに誰かが似たような事を試した上で。うまくいかなかったからこその現状である。そんな可能性も有るだろう。
この先両親やら大店やらに、ちゃんとした話を。即ち、儲けを見込めると思わせるだけの話を提出出来るかどうか――それ自体が、まず。何年も掛かる事になるのだろうか。

「常々ぉ母様との間で交わしてぉられますのは。私も承知してぉります――ちょっぴり。覗かせてぃただぃたりも…… こほん。
今回は、はぃ、現場の段階から関わらせてぃただきましたので。事後処理につぃても、最後まで私、ぉ付き合ぃさせてぃただけましたら――なのです。
此処まで来ましたら、後始末はぉ任せ仕切り、だなんて大変に据わりが悪ぃと思われますし……その、ぇぇっと、後は。
直ぐにぁれこれ送ってしまぃましたので、改めて――この目で。もっとしっかり確認してぃきたぃ、とぃぅのも。ぁりまして――?

……では。それでは、はぃ――ぉ言葉に甘ぇさせて。ぃただきます。
杖、と指輪と―― ……宝玉も、含め。こんなにぃただぃてしまぃますと――これは。
これはその分、私、それこそ笠木様への”アフターケア”、努々手抜きは出来ません、かと」

道中小鬼達から手に入れた鎧も同じである。身に着ける物は基本、服であれ鎧であれ何であれ…一度は設えを見て、整えなければならない。
その上で買い手が付いたのならもう一度。その人物に合わせた手直しが行われる事だろう。
特に鎧ともなると。服と違って、身体との間で遊びが有るのは。あまり宜しくないだろうから。
その他の武器についても。魔力を感じさせる刀身等は別として、巻かれた布等有機物については。どうあっても劣化を免れ得ない。
殊――此処で見付けた物については。文字通り風に吹き曝しとなっていた物が多いだろうから。

実際襤褸布同然、もしくはそれ以下となっていた箱の中身達。…その中で唯一真っ当に残っていたのが。それこそ魔力の秘められた指輪。
如何なる指にも合う、そんな辺りにも力の存在を感じさせられ、おぉ、と軽く声を上げたりもしつつ――大切に。仕舞い込んだ。
杖も指輪も。然るべき、大切な人達に送りたい。その目処が有る分、今後の補修にも。矢張り最後まで関わっておきたい所。
…それを行う職人達に接するというのも。件の刀鍛冶と関わる為には、プラスの経験となる事だろうし。

序でにちょっぴり、目録作業その物への――というより。恐らくは種族の本能レベルで、財への興味という物を滲ませなどしつつ。
何はともあれ二人が外へと出た事で――主無き玄室は閉じられた。
今後其処を荒らす者も。或いは内から悪し様な何かが湧き出す事も。無い筈――と信じて、そ、と息を吐いたなら。
山を下り街へと向かう、その道中も。話題は尽きる事無く最後まで。それこそ熊等が居ても寄ってこないような、和やかで賑やかな帰路となった事だろう。

影時 > 「うーむ、あれだ。アレだな……なんたらは、存在した……ッ!みてぇなノリになってきたぞう。
 あ、案じなくてもいい。この地の気候と水での試しは必要なんだが、問題なけりゃ甘酒は一晩位で出来る――筈だ。

 呑めば無くなンのは、嗚呼。道理とは言え、つくづく真理に通じちまう気がする。
 旨い酒を際限なく喰らうというのは、味に変化も何も無けりゃ、拷問でしかないからなあ……」
 
平和な国――とは言い難い点は多分にあるが、国全体で渦巻く戦乱がなければ、世の中はきっとこのようになるだろう。
そうした中で、学院とは間違いなく教育機関として、社会の縮図的な要素を内包しうる。
最終的に学業を修了した子女が社会に放り出されるにあたり、教育機関が事前演習のようになりうるのも必然か。
だから、ある。同好の士、貴族の取り巻き的ななど、三文小説で見かける寄合が存在しうるのだ。
シマリスとモモンガともども、凄い物をみた……!といわんばかりの顔真似を大の大人がしてみせて、続く言葉に心配するな、と肩を竦めよう。
材料と環境を整えてしまえばさっと作れるのが、甘酒の凄いところだ。どぶろくより完成までの時間がずっと早い。

主素材の米が何とかなるなら、あとは肝心要の材料のみ。
抹茶ともども注文したいところだが、ただ、直ぐに呑みきってしまいそうなのが――とても悩ましい。
二人して壁の方、或いは天井を振り仰ぎつつ、しみじみと。一瞬しみじみと物の道理を噛み締めて。

「……過保護、っても無い、とはいえ、二人して藪の中でシケ込むのもどうか、とか何とか、おっと。下世話過ぎるか。
 って、こら。蹴るな叩くな。マジでお前らが噛むと痛ェんだぞ……?
 
 ま、まぁ、依頼を抱えてるなら、真面目に真っ直ぐ帰るのが最善、って話だ。仕事も報告も淀みなくやるに限る。
 長じて化けて変じる話は、夢も願望も交じってるかもしれンが、在り得ないワケではないのがな。世の中不思議に溢れていると思わせてくれる。
 特性もそうだが、刀とか剣と違い、槌やら槍とかの長物の類はその辺り致し方ねえさな」
 
要した日数に応じて、報酬を増やす――というそんなどんぶり勘定な依頼者は基本的には居ない、居ない筈だが。
ともあれ、仕事を終えて速やかに帰還、或いは現場から即報告と言うことが出来ないのは、雇用主としては好ましからざることだろう。
この旅が例えば、連れ添い同士で、ついつい催して――ということも在り得ない、というよりは多い世の中だろうが、報告が遅いものはいやな顔をされる。
しかも、捜索やら呼び出しが音の速さを超える位でやれる肉親が居るのだから、真っ直ぐに帰るのが正しい。
下世話な例えを出してしまえば、毛玉たちが尻尾で叩いたり、爪を立ててくる。噛み付かれないうちに程々にしよう。
こんなに人の機微が分かる彼らは、長じるなら化けそうだ。そんな気がしてならない、
二匹の食事はささやかで済むとしても、一番弟子も揃っての宴会は、きっと賑やかになることだろう。
貯蓄の一部を叩いて、盛大にあれやこれやと買って卓上に並べるご馳走と美酒は、駆け出し交じりでも実に“らしく”映る筈だ。

「――……そういうのは大体自己責任、例えば手足が吹っ飛んだ後に生やすのも、すべて自前、だな。
 だから、道具が全て最上、買い替えの頻度も減る奴らなら、万一のために金を貯めたりする。
 それを引退後に何かやるときの元手にする、という例も結構あるらしい。
 
 まずは何が出来て、その際どれだけ掛かり、如何様な影響が生じるか――を想定して纏める処からか、と、あとは帰りながら話してもいいか」
 
アフターケア、何それ、なのが冒険者、ピンからキリまである個人事業主の集団の実情だ。
魔獣や魔物の被害を受ける村落や集落が、国や領主からどれだけの支援があるかどうかは――これもまたピンキリ、なのだろう。
何らかの支援や救済を受けやすく、今後の事後対策まで網羅などが出来るかは、まだまだ机上論じみている。
良し悪しは今ここで一蹴するつもりはない。夢があるかもしれないし、そうでないかもしれない。先ずは考えてみろ、だ。
少なくとも理路整然と説明できるようになり、資料をプレゼンテーションできるようになら、目がある。
そうやって具体化できるかどうかこそ、雇い主も望む成長、研鑽の具体化になるに違いない。

「おっと。まあ、目にも入るわな。大体の品は商会に卸してる以上は気づくか。
 ……取り敢えず、お言葉に甘えさせてもらう。
 何せ、フィリお嬢様の初めての冒険だ。其れに俺が持っていても仕方がないものも、多い。
 あとは出来りゃあ、物置きか空き部屋に民具やら農具とか置いてくれる手配もしてくれたら、色々と助かる……」
 
発見した貴重品、武器類は、此れは或る種いつも通りでいい。常々頼んでいるサポートの一環だ。
手元に残してる品はそう多くはないが、今回については、数少ないものがちょっと増える、といったことになるだろう。
自分で使うかどうか、譲るかの判断は後で良い。
自分の取り分が武具に偏るなら、それ以外であり、然るべき所以が用いるものこそ、少女の取り分になる。
ただ、民俗学的な雰囲気が多分にある品々ばかりは、手元に置いておくのは――毛玉たちに言いつけても、危うさ満点だ。

出来れば、直ぐ、早めに――と依頼を述べつつ、最終的に色々と片付いた玄室をじっと見よう。
ふと、足を停め。頭を下げた後に外に出て、ごごごご、と勝手にに玄室が閉じてゆく姿を見届けよう。
いずれまた、魔物が寄り付くかもしれないが、それはきっと今すぐではない。
帰途に就く前に腹ごしらえを済ませ、その後に山を下ろう。語らいが絶えない足取りは、穏やかに、呼べば混じろう者もあればより賑やかに――。