2024/08/09 のログ
ご案内:「山窟寺院跡」に影時さんが現れました。
ご案内:「山窟寺院跡」にフィリさんが現れました。
フィリ > 「ぁぁぃぇ、本当なら…!本当なら矢張り、その、ぉ酒は成人してからだと思われましてー…色々な意味で。
教師様でしたら、そのよぅにご指導ぃただく方が幸ぃなのです、が。はぃ。
少なくとも私は、ぇぇっと、其方の方面で冒険する気には…寧ろ飲めそぅになぃ物を、無理になど。
……ちゃんと窘めず、愉しめず、ですと。それこそ先人への敬意にも欠けるのではとー……?」

何だかあまり人間社会の掟が当て嵌まりそうにない叔母とは違い。こちとら大半人間として。そのルールは忘れていないつもり。
というか酒精という奴が、果たして、少女にとって如何なる影響を及ぼす成分なのか。その前提知識がさっぱりだ。
何事も挑戦であり冒険であるのかもしれないが…無謀や蛮勇で挑むべき事柄ではないと思う。
努力と研究を重ねて美酒を生み出したのだろう職人達に対してもだし、同時に…その源となった天然自然に対しても。
例えば。彼の国で言うのなら、酒の素でもあり主食でもある米などは。一粒たりとて無駄にしてはならないというではないか。
丁度今話題にしていた通りなのだと頷く事二度、三度。何処か必死に思える――のは。きっと勘違いではないだろう。
何せ全く予想が立たないのである…両親辺りは付き合い程度で嗜んでいそうだが。それ以外の親族達が飲むのか飲まないのか。
叔母が蟒蛇だという事も、本日知ったばかりであって。彼女等と比較する事も出来そうにない。

…断固として飲むべきではない、という勢いではないのだが。逆に、飲んだ事で何か迷惑を掛けたらどうしよう…と。
そういった心配で二の足を踏んでしまうのが。少女らしい所、なのかもしれず。

「ぃ、ぃぇその…っ。私も大変失礼を――言葉のアヤだったのでしょぅし。
ともあれ、はぃ、そぅぃぅ訳でして。…今更笠木様が独りとなられる事は、先ずなぃのかと――それこそ。
例えそぅ在りたぃと考ぇられたとしても。放ってぉかなぃ者が……多分。想像以上に、居られる筈です。はぃ。

――心許なぃとは思われますが、私――も。

…こほん、ですので、今…っ。今、こぅ、何とか…!
貴方様――がた、の事。ちゃんとぉ助けぃたします、ので…っ」

助けたい、という願望や。助けられるだろうか、という疑問。それ等を通り越し、きちんと「助ける」と。
勿論今この場で彼が倒れたら。がた、で付け足した二匹も、少女自身も、間違い無く助からない。
逆に少女が先に倒れて、彼が単身になってしまったら。…負けない、死ぬ事はないのだろうが、勝ったとは言えまい。
少なくとも彼はただ独り生き残った結果など、勝利だとは考えない――と思う。
独りになるも独りにするも、どちらも酷く恐ろしい物で…それが当人の意思ではなく、外的要因によって起こりかねないのが、今の状況。
だから、意を決さざるを得ないのだ。任された得物。任された役割。それを果たし、ちゃんと全員で生き延びる事を。

人の身には扱いかねる魔の力。竜の力。得物と持ち手がそれぞれの力をぶつけ合わせたのか、上手い事噛み合ってしまったのか。
はっきりとした事は正直誰にも解らないのだが、ともあれ、この魔鎚は少女の物となった。
身体の一部の如く振り回せてしまい。引き寄せ吸い上げた力が蓄積されれば、少女自身もちょっぴりその恩恵に預かれる。
果ては竜を模しておりながら、同種殺しの特性すら秘めているというのだから。色々手に余る代物であるが…
よもや仮初めとはいえ。そんな同種に向け振るう事になると、誰が想像しただろう。

骸へ向かい流れる力が、強制的に吸い上げられ。新たに生じた道筋へと湧出し。
結果死者は自らの術を継続する術を失った。人のカタチから竜へと、器たる存在自体を転化しようとしたのだろうが。
変化する過程それ自体、力を必要とするものであり。器では足りず外部から受け取っていたのだから…そうもなろう。


さて、今向かい合う敵が自分独りで掃討できない、とは言わない。だが、要素がこうも揃えば確実だ。確殺して恐らく余りある。
力の受け皿を器に例えるなら、常人よりも竜の方が明らかに大きい。皿よりも深皿、深皿より碗、鍋のように。
そんな器を穿ち、あるいは叩き砕く道具がここにある。ふたつも揃っている意味合いは非常に大きい。
土地から吸い上げる力の供給経路を乱し、さらに魔力喰らいの戦槌が驚異を振るい、致死の一撃が――今、ここに。
結果生じた術的な、空白、は。決定的な隙となって黒い影の接近を許し――


「――――ぁ、ぁ。 …これで」

吹き荒ぶ嵐。長く長く屍と共に在ったこの山の風が、玄室から吹き去っていく。
目も開けて居られなくなりそうで、轟音に何一つ聞こえなくなりそうな、数瞬…を経て。
漸くほつりと少女が言葉を漏らしたその時にはもう……屍であったモノは、欠片も残っていなかった。
聞こえた筈が無いのに、それでも――最後の言葉は。この鼓膜か、もっと深い所で聴き留められた気がする。
今はどうあれ生前、かつては同族と親しみ崇めていた、この地の人々の代表でもあったのだろうから。
こんな事となってしまった結末を、せめて少しだけでも惜しむ様。目を伏せて小さく。竜の声音が祈りを紡ぐ。

…さて。黙祷から少女の顔を上げさせたのは。ばさりと最後に舞い落ちた魔本の立てた音である。
自然と手を伸ばし拾おうとして………いや。いや、いや。どれだけ危険な代物か判らないから、首を振って指先を引っ込める。
代わりに拾い上げる竜所以の宝玉は――きっと。吸い付くかの如くに馴染んでくれそうではあるが。

影時 > 「ふむ、そうか? 処によってはもっと若いうちから、自家製のエールとか呑むらしいが……と。
 教師とは言っても、座学の講義はあンまり数はやらんのが、ちとあれか。
 
 ――いやいや、フィリ。まーだ酒に慣れる以前に、いきなりキツいのを進める奴があるかよ。勿体ないと云う前にもな。
 この国なら、そうさなぁ。麦酒に葡萄酒、いやいや、果実酒に確か“みぃど”……蜂蜜酒か?この辺りから、か?」
 
酒を若い頃から呑める風土、文化の土地が幾つかあった気がするが、この国はさて、どうだったろうか。
法でしっかりと飲酒可能な年齢が定義されている場合、酒精が過ぎた際のリスク云々を勘案したから、なのか。
だが、子供の頃から飲酒が出来る土地も、当然ながら訳ありである。水が合わない、というのが一番の理由であっただろうか。
飲めば腹を壊す生水より、水分補給の手段に醸造した酒の方がマシだというのは、中々想像し難いところだ。
どうやら、この国ではそうではあるまい。煮沸以外の水の浄化も、魔法にかかれば一瞬で事を成せることも大いにある筈。

(……こういうコトも、ある意味贅沢なもんなんだろうなぁ)

ふと、そんな思いさえ過る。贅沢な悩みであるし、豊かさの証左、でもある。
そんな感慨を浮かべつつ、少女に呑めそうなあたりも考えてみよう。
いきなり弟子でもある彼女の叔母の如く、底無しに呑めとは言わない。ちびちび吞んで、眠くなれそうな辺りは、きっと甘い辺りだろう。

「――はは。お陰様で、としか言いようがねぇなぁ、全く。贅沢なほどに、とも思っちまう。
 おっかなびっくりな時分なのに、心許ない、とか思わんよ。その辺りもしっかり勘案するのが、大人の務めって奴だ。
 
 だと、よ?スクナ、ヒテン。嬉しい話じゃねえか。な?」
 
つくづく、贅沢な話である。属する里、群から突出して離れた個。それが遠い何処かで諸々の縁を得る不思議な話だ。
倒れたら後がない。否、倒れて終わりではない。帰るべき場所に帰るまでが遠足であり、冒険という。
冒険に万一は起こりうる。絶対はない。とはいえ、お互いを失わずに事を成す意思を確かめられた気がして、とても悪くない。
笑いを含む声で襟巻の中の二匹に呼びかければ、ぽこんと尻尾の他に頭も出し、二匹の毛玉が少女の方に向く。
修羅場にも拘らず、茶黒のシマリスとモモンガが尻尾を振り、前足をわーい、とばかりに振って応えてみせる。マイペースなものだ。
とはいえ、瞬間起こりだす挙動に一斉に踏ん張りながら、襟巻にしがみつく。
そうでなければ、飼い主が使って見せた秘術の動きに目を回して、落ちてしまいかねない。

「! ――、竜の最期の咆哮って奴、か……」

影を渡り、相手の陰を侵し、生命を貫く。屍人を真に骸に帰したことで、術が解け、諸々の因果が押し寄せたのであろう。
堰を切ったように襲ってくる年月の波濤に押しつぶされるように屍が崩れ、塵と化す。
その際、不可解なことに生じた風は、若しかしたら。若しかしたら、猛き竜と呼ばれた竜の魂が残っていたのだろうか?
そう思わせる位に強く、永らくシシャの臥所であったにも関わらず、陰気を洗うように快かった。
風が玄室を洗うように、庇護者でありながら外法に手を伸ばしてしまった神官の成れの果ても含めてもってゆく。
風の響きの残響の感慨を噛み締めつつ刃を血振りに振るえば、屠龍の太刀は出番は終わり、とばかりに普段通りの姿を取り戻す。
それを腰の鞘に納め、チン、と微かな金属音を奏でるのを聞きつつ、先ずは残るものを見る。

影時 > 「……本は兎も角、その石はフィリ。お前さんが持っていていいんじゃねえかな。こうして残ってるのはそういうコトなんだろう」

術者が消えたことで、魔道書は初期化された、ということなのだろうか。
ばさばさと開かれたままだったページは、一人でにぱたむ、と閉じて、使い手の名残を伺わせるように薄汚れた表紙を見せる。
出元の真偽、由来はどうあれ、どんな力も術も使い手にすべて依存する。善くも悪くも術者次第、と。
だが、少女が拾い上げる宝玉は、きっと、同種の血統を引くもののために、失せることなく残っているのだろう。
吸い付くように馴染んでくれそうな鱗状の宝珠は、竜の力に共鳴して高め、安定する作用をもたらす媒体となり得る。
首飾りにでもすると、良い装身具にもなるかもしれない、と思いつつ、祈りを捧げる姿に歩み寄り、玄室の奥の方を見せる。

残るものは、まだいくつかある。

朽ち果てた民具やら沢山の種が入っていそうな袋に混じり、金銀らしい輝きと金属の色合い等が混じる。

フィリ > 「少なくとも……ぇぇと。私はそぅぃった風に習ったのです。はぃ。
学生の内からぉ仕事や、ぉ付き合ぃが有るよぅな――例えば貴族の方などでしたら。また違ぅのかもですが。

き、きつくさぇ無ければ…大丈夫と。言ぃ切れなぃ気も致しましてー…中にはこぅ。グラス一杯だけでも、なんて。聞く訳ですし。
…ぅぅ…ん…本当に、どぅ、なのでしょぅ。 …笠木様のぉ国ですと、正月の甘ぃぉ酒は、子供でも――でしたでしょぅか。
酒精よりも糖分の方が多めなどでしたら。…法的道義的には兎も角、体質的には、どぅにかなる……と、良ぃのですが…?」

首をひねる。自分自身の事なので、前例の無さを良く良く承知している腹積もり。
…確かに、国によって制限される年齢も異なるのだから。飲める文化も存在はするのだろうが。
それこそ、郷に入った際に従うべき事柄であり。敢えて此処に当て嵌める訳にはいかないだろう。
――その上でふと思い出す異国の飲み物。酒とはついているが、あまりそういった代物ではないらしい存在。
名前に反して米から作られたソレは、酒精がほぼほぼ含有されていないのだという。

だから同様、酒精の成分さえ少なければ。それこそキツくない奴ならば、と。此処は譲歩しておくべきかもしれない。
…果実に蜂蜜、いかにも甘味を思わせるネーミングに、つい釣られたという訳では……ない。ない、筈だ。多分きっと恐らく。

「勿論ですはぃ、先輩諸氏も含めてとぃぅ事で。
ぁぁっと、その。ちゃんと今だけでなく、帰りにつぃても?忘れてぃる訳では、御座ぃませんので。私。

――確かに、ぉっかなびっくりではぁりますが。…怖ぃ訳ではなぃの――です、私。
自分が、自分に出来る事さえこなせたのなら。それ以外は何ら心配する必要がなぃ――そぅ、確信出来る訳でして」

尻尾を、前足を振ってみせる二匹の先輩――が。すっ飛ばされかねない速度。
それは当然少女にも追える筈がなく。言ってみせた通り、魔力精力を奪うという役割さえ果たしたのなら――後はもう。
気が付けば既に、と言えてしまいそうな速やかさで、全てにカタがついていた。
屠竜の刃が此方に向かい突き出されている――屍の身体を貫いて。
次の瞬間には、完全に死人還りの術効が失せたのか。早回しで時を経て、骸は塵へ。在るべき様へ。

一応全てとは言え、正しく、帰るまでが遠足であり。山歩きは何が起こってもおかしくないものの。
少なくとも今回の冒険にて最大の脅威、障害は打ち破られたのだと。間違い無く確信出来た。
最も万一が起きかねなかった瞬間だけは通り過ぎた筈だと…今ばかりは。安堵してしまうのも許して欲しい。

「………主が現存してぉりましたら。此処に風が集ぅのは……はぃ。必然、でした。
今回を経て――改めてとぃぃますか。この山も、本来の姿へと。立ち返るのでは…なぃかと。思われます」

それこそ風竜たる存在や魔術の師。そんな親族達程ではないが。少女にも、漠然と……風の行方は察する事が出来た。
回廊を守る剛風も、入り込んだ魔物が出られなくなった理由も。これでゆっくりと解消されていくのかもしれない。
大いなる存在を抱き、全くの未知であった、一種の霊域とも呼べる場所が。
良く言えば純粋な、悪く言えばありきたりの、自然の驚異でしかなくなっていく。
物惜しいような、だが、それで人々の安全が確保されるなら喜ぶべきか。

何れにせよ風が吹き抜けたその跡に残るのは――

フィリ > 「ぇぇっと。 …宜しぃのでしたら。はぃ、是非――… …大事にとってぉきたぃと。思われるのです」

竜珠とは希少な代物なのだろう。何せ、それを形成するだけの余り有る力が必要な上。そんな強者が死した痕にこそ残るのだから。
力の結晶とも呼ぶべきそれを、例えば加工なりすれば。どれだけの効果を宿した魔導の品となる事か。
…もしそれが叶うなら。いつか、自分の手で成してみたい。
だから少女は今の処、宝玉を大切に大切に。懐へとしまい込むのだった。

――さて。竜由来ではなく、どうにも魔族由来であるらしき書物の方は。
おっかなびっくり、なるたけ伸ばした鎚の柄先で突っついてみたりした所。今の処主が不在となった為、動く気配はないらしい。
とはいえ無論このまま放置出来る代物である筈もなし。兎に角決して直に触れないように。謎の空間込みの鞄を引っ繰り返し、上から被せるようにして。
どうにかこうにか回収成功――此方については専門家に。魔術を修める師にでも鑑定と、いやその前に然るべき処置を依頼するべきなのだろう。

一息吐いた所で彼の視線を追い掛けたなら。
きっと此処へ集まっていたのだろう信徒達が、日常的に使っていたのだろう品々やその名残や――
鈍い金属質の煌めきが複数種紛れている事に。…まぁそれはそうか、と。納得顔になってしまった。

古来より竜とは、塒に宝を溜め込むものなのだ。少女が引き籠もり時代、知識という財を片っ端から集めていたように。
鞄に蓋をし歩み寄っていけば。小鬼達の所に有ったのより上等そうな色合いと――文字通りの、宝、めいた煌めきが見て取れそうだ。

影時 > 「なぁるほど。……貴族、ねぇ。昔の伝手を辿るなら、ああ、いや、止めとくか。訊いたら変なツラされそうだ。
 
 ははは、察しが良いなァお嬢様。――甘くて呑み易い癖に強い酒なんて、女殺しの最たるものだぞ?
 あー、屠蘇のコトか多分。俺はいまいち呑む機会が無かったが、侍の連中が正月に呑んでるのは見たなぁ……」。
 
作り方で言うなら、この国とかで言う“ほっとわいん”に近いか、と。新年の邪気払いに呑む薬酒についてそう語る。
成人した後でも、正月の概念は忍びをやっていると、時折希薄になる。
屠蘇の習慣、概念は寧ろ、大名に雇われて城に出入りする際に漸く初めて知った、という位でもある。
酒精を飛ばしたり、貴重な砂糖を加えて云々は、個々の家にもよりそうだが、文献を取り寄せるとまた知見も変わりそうだ。
そんな事柄を思い返しつつ、酒杯一杯で、と宣う言葉に、ほう、と人が悪そうな笑みを見せる。
甘く呑みやすい場合、思わぬ落とし穴が潜んでいるというのは、飲酒の在る在る、か。
だが、試さなければ限度が分からないのも、飲酒のあるあるでもある。まずは大人の監督下で試すのが、賢明か。

「帰りも、ああ、そうだな。気を抜いたらいけねえや。一先ず、腹ごしらえについては心配がないのは有難い。

 ――然り、然り、だ。ちゃんと今の自分で遣るべきことを遣ってくれてるなら、俺としては不安はない。
 役割の分担、持ちつ持たれつ等、定義は幾らでもできるがね。
 何は兎も角、フィリがそうしてくれるなら、それを踏まえて、俺は俺の遣るべきことを為す。それが信頼って奴だ」
 
忍びとして軽業やら疾走をしてみせる親分が、普段ほとんどしない技を見せると、流石の毛玉もびっくりする。
秘術の類は、秘してこそ意味があることが多い。必殺を期する技だからこそ、必殺技と云うとばかりに。
ここまで来ると、ついつい気を緩めがちになるが、少女の言葉は改めて気を引き締めるに丁度良い。
玄室の探索を終えれば、見回った上で帰途に就くだろう。
その前に食べるべき弁当も、差し入れしてもらっている。飢えたまま山を下りるという心配もないも大変心強いことでもある。
疲弊も許容範囲であり、大怪我の類もない。
お互いの考え方も確かめ直せば、戦闘態勢が解けたことでシマリスとモモンガが襟巻の中から出てくる。
男の右肩にシマリスが掴まり、頭上に定位置とばかりにモモンガが貼り付く。吹き抜けた風の名残にさわさわと毛並みを揺らして。

「だと、良いが。一先ず変なものが寄り付いたり、棲み付いたりは……暫くは無いか。あとは……と」

風の専門家と云える弟子の見識も伺ってみたい処だ。否、これは魔術師、魔法使いの知見までも必要、か?
少なくとも云えるのは今のこの状態、環境なら悪しき何やらの類が宿りそうな淀み、歪み、不自然の類は一掃されたということか。
不安なら結界でも敷く位は考えるが、そこまでは今回の仕事内容については求められていない。
依頼達成の報告で伏せる、秘匿を依頼するかもしれない事項は幾つかあるが、その前にまずやるべきことがある。

影時 > 「俺が後生大事に持っていても、な。それはフィリ。お前さんが持っておくにふさわしい。
 本は……まあ、仕舞っておくが良いか。気が向けば紐解いて、手懐けてみても良いんじゃあないかね」
 
竜珠は好事家含め、然るべき経路に流せば相当の価値、価格が付くことだろう。
神官が所持し続けたご神体とも云える程のものだ。適切に加工し、否、加工せずとも、何某かの効果も見込めようか。
ただ、自分が持つには値しない。男はそう考える。冒険の褒賞とするには、少女が持つにこそ相応しい。
そう思いつつ、戦果のもう一つである本を見る。これもまた、己が持つには――面倒が過ぎるか。
相応のリソース、魔力を注げば、開いて紐解くだけで魔術師でなくとも、術を行使できる類の品だが、さて。
まさにおっかなびっくりの体で、槌で突かれると、身震いするように震える本が鞄の向こうに消えてゆくのを見届ける。

――残るものは、奥。

「金貨銀貨に、この袋は……作物とかの種か? でー……」

肩と頭上に毛玉を乗せた男が奥に積もったものに向かい、ごそごそと漁り出す。
これはここ、これはこっち、とより分けるのは、先ずは金属であるか否かという大雑把な分け方。
金属違いの貨幣類と、崩れたものも交じる民具、奉納品類と、そして。

【個数判定(1d5)(最低保証:2個)】
[1d5→5=5]
影時 > 【4d6でうち4点の種別判定→奇数:武器 偶数:防具(服含む)】 [4d6→1+3+3+5=12]
影時 > 「……なンか、あれだな。敵が多かったとか、強さにあやかりたかったとかいうわけ無い、よな……?」

武器らしいものが、幾つか見当たる。
値がつきそうな、価値がありそうな品がざっと数えて5品。そのうちの四つは武器と思しい。
残る一つは服か、鎧が入ってそうな大きな箱が見つかってくる始末。

フィリ > 「その辺り、ご興味ぉ有りでしたら、伝手につぃては私の方に……ぇぇと。はぃ、それこそさっきの。学生同士の話だったのです、し。

少量でも強ぃぉ酒も有るのでしょぅし、少しだけでも酔ってしまぅ体質、とぃぅ例も聞きますし――ぅぅ。
味だけで判断すると痛ぃ目を見る、とぃぅ事なのでしょぅか。……大人になった時、参考にさせてぃただけましたらと。
多分それなのでしょぅか?寧ろ栄養豊富で健康にも良ぃだとか、ぉ陰で寧ろ太るのが怖ぃ、など。伺ってぉりまして」

年始の行事だとか。何かしらの祭だとか。主に寺社で振る舞われる代物であるらしい。
公でおめでたい場所…となると。確かに、忍ぶ者達が大っぴらに出入りしているイメージは無さそうだ。
寧ろサムライが口にしていたというのだから、其方が彼にとっては伝手という事になるのかもしれない…城主だとか大名だとか。
さて、若い貴族のお付き合いという物への伝手は。それこそ学生同士なら、でもある。
未だ一定以上の既知でなければ、なかなか会話も侭成らない少女だが。もし調べてみるべきだ、等と言われたら。
これも日頃の訓練の一つ、どうにか会話をこなそうとするだろう。
…先ずは身近な所から。職人気質の者達への邂逅を考えたなら。その前に置くステップとして、同年代は決して悪くない筈だ。

「……嫌な風も止まるのでしたら――本当の本当に、もしもの時は。またお弁当が届けてぃただけるのかも、ですし?
ぃぇ幸ぃ、この調子なら…今の内から下山に移れると。そぅも取れるのでしょぅか。

 …が、…ぇと……がんばり、ました…っ。
本当ですと、その、危なぃので決して人には向けなぃよぅに――と。そぅ決めてぉりまして。
私にとっては寧ろ魔術的な触媒と認識してぃたのですが………これも。本来在るべき事を、果たした…果たさせた、と。言ぇるのでしょぅか」

普段使わない技――という意味合いなら。鎚を鎚として用いる事も、少女自身にとっては当て嵌まったらしい。
腕力には存外無理の効く少女だが…やはり。物理的に、他者を傷付ける――直接攻撃する、という行為それ自体が。きっと本日初体験だったのだろう。
…まだ、緊張と興奮で胸が痛い。冷静になって周りを見ている…かのようでいて。実の所決して余裕が有る訳ではない。
もしかしたら――帰路に就いたどころか、その更に先。無事家まで辿り着いてから。若しくはその後普段の場所で眠ろうとして。
その頃になって初めて、怖かった――という感情が噴き出してくる。そんな可能性も有りそうだ。

ともあれ。逆を言えば今はまだ。無事帰るまでが冒険であり、それまでは気を張っている。
本来の形でも、魔術的にも性質的にも。本日大いに使われた鎚もまた、鞄の謎空間へ仕舞い込み。
彼と共に、此処へとやってきた元々の目的――調査と発見を再開しよう。

「勿論、自然のままで有るとぃぅのなら――本来在るべき、野生の獣、魔物につぃては。仕方有りませんかと。
とはぃぇその手の類は当然な訳でして…今後正式な調査団が組織されると仰るなら。然るべき体勢で挑んでぃただくしか。
……何とぃぅか。良からぬ死者が居りますと。自然と周りにも、そぅぃった存在が増ぇてしまぅと教わりましたので――
外からも、内からも、風の余波が働いてぃた此処は。不幸中の幸ぃだったのかも……です?」

ひよっこ魔術関係者からの意見で良ければ。少女としての見解を述べておこう。
正しく先程までの山々を巡る風が。物理的にも、霊的にも。結界を成していたのだろう…偶然かもしれないが。
不死者の残滓でも残っていればまた話は変わってくるものの、どうやら、此処についてその心配も無さそうだ。
後の事は然るべき団体に。それこそ、今後やるべき事をやりに来る者達に。信頼と共に委託しておくべきだろう。

フィリ > 「先程の彫像含め、大変貴重な物ですので――本来なら、はぃ。像と一緒に宝珠の方も。何処かへ託すべきなのですが。
……少しだけ。少しだけ、わがまま、とぃぅ事で。どぅか依頼者様には内密に――してぃただけると。本当に幸ぃだと…思われます、私。

ぅぅー…本は本でぁるとぃぅだけで、此方も興味を惹かれはするのです、がー……
魔導書の類は、絶対に、慎重に扱わなければ危なぃと。竜胆様から凄く……物凄く。ぉ達しを受けてぉりまして」

力有るとはいえ、本質的には分泌物…であり、生前の意思等は関係の無い竜のソレと違い。
意志を籠めて印され、意図を持った内容が秘められ、ともすればそれ自体が意思を宿していても仕方ない魔本については。
流石に活字マニアな少女とて、慎重にならざるを得ないらしい。――以前よっぽどこっぴどく。師に叱られるような事が有ったのかどうか。

さて。竜絡み神官絡みはその両者に留まるらしく。
残る品々は、割と一般的な民具や農具…種類は生物的か文化的に。調べる価値も有るかもしれず。
貨幣の方は数種類が雑多に混じっているが。どうやら小鬼達の所に有った物と同種であるらしい。
そして、その辺と別個に分けられたのは。


「――そもそも最終的に、この地では争ぃが起きた訳ですし――先程のぉ話からしても、此処が最後の砦でしたのでしょぅし…?
此処に備ぇが残ってぃても。何らぉかしくなぃ――な、ぃの……かと…ぉぉ、っ  っ」

結局勝敗に拘わらず、民はこの山を捨てざるを得なかった訳なのだが。
最後まで残っていた者が、先程の神官以外にも…皆無ではなかったとしても。何の不思議もないか。
恐らくはその際用いられたと思われる武具。
…内一つ、大きな箱。神官の…或いは民の、竜への想いを信じきった訳ではないが。どうやら、罠らしい罠も見受けられず。
先程の宝箱は彼が開けてくれたので、今度は少女が何とかせんと――その蓋に力を、籠める。