2024/05/31 のログ
ご案内:「山窟寺院跡」に影時さんが現れました。
ご案内:「山窟寺院跡」にフィリさんが現れました。
■フィリ > 「物理的にも。それ以外でも、です――はぃ。流石は笠木様の薫陶なの――だと。思われます。
…ぇぇ、はぃ、合意の上の事柄でしたら。それで問題なぃのでは――と。思ぅのです、が。私は。
ただ――ぉ家の立派な生徒様等になりますと。どぅしても当事者だけでは決められなぃのかも……です。
それこそ、手を出した人物に。どぅぃった責任が求められるのかは……ぁ、ぁぇっと。 こほん。
そろそろ留めてぉくべき――だと。思われるのでしょぅか、これは。
――ぉ力添えを期待する…べきでは。なぃのでしょぅか。馴染みの誼とぃぅものは。得てして重要なのですが。
…ん…しかしその。それも含めて、私のぉ勉強でぁると仰るのでしたら。ぁー……と、その、努力は、吝かではなぃ…の、です、はぃ。
それで上手く行けましたら。さぞ、気分良く。美味しぃ物も頂戴出来ると、思われますし――?」
かの伯母は竜である。ハーフなので少女よりも更に濃く…というより。姿すら変えられるのだから、オリジナルと大差無いのではないか。
当然竜種に相応しい力も備えており、それによって自然に、その力に、大いに親しんでいる。
…謂わば端から人を超えた力の持ち主が、更に人の技すら学んでいる訳で。そりゃぁ強くて当然だと、納得せざるを得なかった。
だから対抗手段として。何をしてきてもおかしくない気がしてしまう――もしくは。何をしでかしても、なのか。
さて。此方もどうやら、あまり大っぴらには口に出来ないような事柄を。言葉の裏で想像してしまったらしい。
赤くなったり青くなったりを行き来する表情からして、思い浮かべた責任とやらは。
或いは…拗れる男女の仲を、明確な婚姻、縁戚、で纏める事であり。また或いは――責任の代償に何かを差し出す事か。
指かもしれないし、首かもしれない。どちらにせよ物騒なアレである。
つい今し方体験したばかりの、小鬼達との血腥い事柄を思い返しそうになって首を振り。毛玉先輩達にツッコまれるまでもなく話題を変えようと。
…という事で、真面目な話だ。例えそれが試し打ちであれ、陶芸家なら自分で割っていそうな代物であれ。
武器として使えるかを決めるのは、実際に振るう客…でも良いと思う。それを仲介するのが商売人の役どころ。
そういう所を果たして、既に気難しい相手に違い無い、そう脳内で思い浮かべてしまっている相手に。どう伝えれば良いのやら。
正しく今後の大仕事として想像してしまいつつも――よもや同じ場所で作られている、とは思わずとも。
話の流れでついつい。上手く行ったら件の菓子類も頼みたい。そう考えてしまうのだった。
――いや。成功の暁というのなら。それこそ本日の冒険の結果次第でも、か。
少なくとも目標が一つ増え、その分、惨状でげっそりと目減りしかけていたやる気も、戻って来るというものである。
「私の場合は特に、とぃぅ事で。ぉ願ぃ致します……それこそ。物理的にも、それ以外にも、です。
幸ぃ――こぅして。笠木様や、周りの大人の方々から。ご教授ぃただぃて、ぉります――ので。
さもなければ、私だけ……ではとても。とても。…向き合ぅだなんて。考ぇられなかったでしょぅ……から。
……成果は、こぅ――差し当たって一つ。発見出来た訳ですが――それを。
持って帰れなければ、見つからなかったのと、同じ…でしょぅし。
…返るまでが、遠足、という言葉。こんな所でも――思い浮かべてしまぅもの、なのです。はぃ」
実際。産みの母方から、産ませた方の母方へ移り住むまで。少女はもっと――今よりも更に、他者との交流が不得手だった。
それこそ今だって、訥々、句切り句切り。時折どもり。そんな会話になってしまうのだが。
学院という、否応無しに第三者と関わらざるを得ない場所に通い始めるまでは。なるたけ口を開かずにいたレベル…である。
だからこそ。其処に少しずつ好転を自覚しては。それをもたらしてくれる者達――彼を含めて、に。感謝するのは当然と言うべきだ。
そんな彼との、はじめてのおつかい、ならぬ初の冒険は。果たして此処までで折り返し…なのかどうか。
先行調査が途中で引き返している以上。何処まで行ったら終点なのか、見当がつかないのだから。
遠足などという言い草自体は、冗談めいているようでいて。大事なのは前半分。…そう、見付けただけでは、まだ。何の成果とも言えないのだ。
それを持って帰って売り出すなり、然るべき機関へ提出するなり、結果と呼べる所まで行って。それで漸く「成果」な訳で。
――それこそ伯母の如く。人知を越えた力と人事を尽くした技とを以て。彼に奇襲を成功させ得る何か…は、なかなか想像出来ないが。
ともあれ万が一の事もある。二匹と共に、辺りへ向ける意識だけはしっかりと。
「…なんでしょう。こう夏場の夜など――ぞわっと来る、ぁれ――の、よぅな。ものでしょぅか。
なかなかに不随意だと思われまして――それを、自分の感覚として、モノにするとぃぅのも。技術の賜物なの…でしょぅ。えぇ。
――っ、と。 …無事開き、ました……よぅで?」
オカルトチックな何かというか。或いは単なる「気のせい」か。
だがそうした、動物本能的な何かが。決して無意味ではないというのは何となく解る。…竜だって、いきもの、なのだし。
そうした無意識、直感、第六感――等々と呼ばれる物を。意の侭に出来るのは、正しく、達人という存在に違いない。
もし、見えない何かが本当に襲ってきていたのなら。少女の魔鎚は…有効打になっていたか、或いは逆か。
力その物である相手なら、実態よりも尚強く引き寄せられそうだが。同時に、周りのあれこれも巻き込みかねない。
幸い…そうならずして無事に箱の中身も確認出来たなら。
今この場で出来るだけの軽い検分と共に、倉庫へ移せる物は移してしまって貰おう。
これで少なくとも――何も持ち帰れなかった、とはならずに済むだろう。いや、「帰れなかった」にならないように。まだまだ注意が必要だが。
「ただ、はぃ。…其処まで深く再調査しなければいけない程、希有ではなかった――と。思われます。
古銭も貴重ではぁりますし、保存状態もなかなかですが…この一帯では。余所でも発掘されている物でして。
…まぁその。この場所も、間違い無く。周辺と同じ次代、同じ文明、の物でぁると。証明出来るとぃぅのは。学問的には有難いかと…?」
此方も自分の鞄に、手にした分の古銭を仕舞い込む。彼程ではないが此方も。ある程度容量を無視出来る代物なのである。
――さて。改めて顔を上げ。彼の表情と…その視線が向いているであろう先。洞窟の奥先とを見比べた。
無意識に、きゅ、と。鎚の長柄を握り直しつつ――無言で問い掛ける。「行くのか」、と。
■影時 > 「物理的もそうだが、魔法的に――という観点じゃぁ、俺は竜に劣る。
ラファルにはラファルならではの、俺にはできねぇコトがやれるのが強みだ。まぁ、目的が定まるなら手段は意外と色々あるかもしれん。
お家の立派な生徒様っていうと、フィリ。お前さんもそうだが……あー。
実に同感だ。長くするといよいよこいつらから、噛み付かれちまいそうだ。痛ぇんだよな、こいつらの前歯。
……あいつの。布津の流儀を思うなら、注文物以外は好きに打つだろうよ。
頑固な職人に限らず、人をどう動かして転がすかというのは――将来を考えるなら、ずっと考え続ける事項になンだろうなあ。
ま、美味いモンなら俺ので良けりゃ時と物が整ってりゃ、可能な限りで拵えてやるよ」
弟子のずば抜けた、頭抜けた特性は己の教育ばかりではない。そもそもの素質が何よりも大きい。
様々な忍術を体得したと云える自分でも、弟子が明らかに上回るだろう、師が見習うべき突出した事項が幾つかある。
魔導機械の目に映らないように動く際、如何様な方向性を導き出すだろう? 一番弟子の場合、師と全て合致しない点が見込めるのが、面白い。
しかし、嗚呼。面白き、と思うのは男女の仲、睦まじくもいやらしき性というものだろう。
ある意味のしでかしから始まった上に、立派な家柄と言えば、自分たちの間柄だってそうではないだろうか?
そう思えば、考えると愛すべき空気読める毛玉たちが、ぢー、と。お目付け役よろしく見てくるのである。
リュックサックの肩紐の上に陣取り、齧歯類特有の前歯を、わざと歯ぎしりさせるような仕草を横目にして、肩を竦めよう。
奇妙な風が吹き込むような心地を得つつ、その上でちょっと話題をずらす。或いは真面目な話題に少し立ち戻る。
実際の商会の組織図の全容は幾つか把握できていない点があるが、腕利きには直接長が声をかけにいく小回りの良さがあるだろう。
アクティブさ、ともいう。人心把握と人材運用は一朝一夕に会得出来まい。
こればかりは忍者としては、アドバイス程度にしかならないが、思うところは幾つかある。
取り敢えず、帰ったら何か作ろう。自分たちの分ばかりではない。今回連れていない弟子に雇い主、その家族の分までしっかりと。
「俺の力のが及ぶ範囲で良けりゃァ、可能な限り、な?
何せ、大それたものをもたらしてしまった身としても、“あふたーけあ”って云うのかね。
最早そればかりじゃないが、きっちし責任を持たなきゃならん。
……ぉぉ、良い言葉を知ってるな。言い古されていても実際正しい。間違いじゃない。ちゃんと買えるまでが遠足だ」
氏育ち、幼少の何やらまで、彼女に対して知らないことは多い。敢えて聞いていないこともある。
だが、それは特に重要ではない。
ある冒険で手に入れた、少女にとって手に余るものが辿り着いたから始まった縁は、入手物に対するアフターケアだけでは最早ない。
この場所の最奥、全容を把握し、同時に魔物の掃討を終える。最終的にギルドに報告し、家に帰って「ただいま」を言うまでが全てだ。
自分はそれを為しつつ、しっかりと生還させる責務を家庭教師役として、先達の冒険者として有している。
責任は果たすものだ。それが仕事人であり。冒険者であり。何は兎も角、一人の大人として。
そんな親分に対するツッコミの責務を終えた、のだろう。肩上の二匹は少女に尻尾を振って、再び襟巻の中にもそもそと潜ってゆく。
「……或いは、何か猫が明後日の方角の空間を凝視したり、鳴いたりするアレとかな。
場を重ねると馬鹿になんねぇんだよなあ。どれだけ場慣れしろ、というと定義するのが難しいが。
さて、問題は其処だよなあ。粗方探索されたあとの出がらしも多い辺り、なんだが。先に行ってみりゃ――何か分かるのかもしれねえか」
そういうケースもあれば、似たようなケースならこんなものもある、と。同じとどうかか定めるには怪しい事例だが。
冗句交じりに述べつつ、近隣の同系統の遺跡、遺構を思う。
初回探索の発見物までは生憎と暗記などはしていないが、発見物を持ち帰ることが出来れば、照合出来るかもしれない。
行くのか、という問いには、“行くか”とばかりに目配せし、男はゆっくりと静かな足取りで先を進む。
洞窟が続く先の進路は、緩やかな上りを思わせる傾斜がついている。明かりはなくとも、足取りにはきっと困るまい。進む先を見れば光がある。
ご案内:「山窟寺院跡」にラファルさんが現れました。
■ラファル > それは、風だった。
会話をしている所だから、なのだろう、不意だったとも言える。
彼女の師さえも、油断していたのだろう。
そもそも、付いてくる予定もなかったのだ。
フィリのショーツはいつの間にかなくなっていた。
そして変りに地面に置いてあるのはフィリの分、影時の分、そして、ヒテンマルとスクナマルの分のお弁当、作り立てなのだろう、まだ暖かい。
「忘れ物だって!」
誰の仕業なのかは、もう、敢えて言う必要もないだろう。
にしし、と言う声が聞こえたのなら……誰か問いかけるまでもない。
ちゃんと。
代わりのショーツは。彼女のモノで一番過激なものが、置いてあるのも……。
犯人にとっては、悪戯の範疇、と言う事なのだろう―――。
ご案内:「山窟寺院跡」からラファルさんが去りました。
■フィリ > 「勿論笠木様には笠木様ならではの、も有られますし。 …はぃ、私魔術の方は、竜胆様から教わってぉりますが――ぁの方には、笠木様のよぅな事は、出来なぃのです。
人間の強みとぃぅのは。やはり、如何なる種族にとっても侮れない物、なのでして――……ぁー、ぇー、はぃ。
両方学ぶラファルちゃん様が、やはり、一番とんでもなぃの…かも、な。
こほ、ん。其処は、その、はぃ。……置ぃてぉぃて。下さぃまし、と―― ぅぅ。私も。噛み付かれるのは、ご遠慮させてぃただきたく。
やはり。私達商人が行うのは。作り手、使い手、その間に入る事でぁり。両者を繋げる事――と。なりそぅ、ですし。
今後生涯、どれだけの方々と、関わる事になるのかは……なかなか。想像つきません。それこそ人によって、色々な方が居られるのでしょぅが……
…ぅぅ。何故でしょぅ、職人、と呼ばれる方々には得てして――その通り、頑固、なイメージが。つぃてしまって、離れなぃの…で、す」
強大な力を持った人外のモノ達に、往々にして見られる傾向が。生来持ち合わせたその力を誇り。或いは胡座をかいて。力無き者の技術や研鑽を見下す所だ。
折角自分達に無い物を見られるのだ、それは勿体ない悪癖ではないのかなぁ…などと。少女なら考えるのだが。
実際。素質素養に、更に努力や修行を加味したのなら。何処まで強くなるのか――の、好例が。人の強みと竜の強み。両方学んでいる彼女であるのだろう。
少なくとも――少女の狭い人間関係の中でなら、ではあるが。
少女自身。腕っぷしその他はともあれ、今はこうして。そんな二つの種族のあれこれを学ぶ身と言える。
竜の血については、それこそ彼の弟子と同じ。血縁関係だなら当然だ。…人の血、生みの母、について考えると…確かに。割と立派な方になってしまいそうである。
…ある、のだが。其処については緩く首を振っておく。今は商売を学んだり、彼の下で研鑽したり冒険したり。その方が――性に合っていると思うから。
勿論、話題として誤魔化したかったのは。其処だけでなく、男女のあれやこれや…が。寧ろ本題だったのかもしれないが。
多分、職人という単語についての偏ったイメージは。既に商会で縁を持った、金属工芸に長けるドワーフ達や。魔術道具に秀でたエルフ達…といった亜人種の職人達が影響している。
前者はそもそもからして偏屈で知られているし、後者は何かと他種族と揉めがちだ。商会として、でなければ少女では絶対話せない。というか泣く。
…が。そうした者達との縁、契約がとうに出来上がっているという事は。先達、即ち母が自分でどうにか渡りを付けたという事だ。
なかなか信用してくれない者達である以上、礼儀という意味でも、直接当人が赴き話を進めたに違いない。
……身体的な事は彼に。魔術はもう一人の叔母に。こうして学んでいるが。人心については、きっと。直接母から学ぶ時が来るのだろう…いつか。
「少なくとも。今、とても多くの事を学ばせてぃただぃてぉりますし……こうぃった。私には思ぃもよらなぃ、機会も用意してぃただきましたし。
――はぃ。帰った後の御褒美?に、つきましても。それはもぅ大変、楽しみに――なの、です。
………むぅ。む…言った当人が、何とも、色々考ぇてしまぅので…す、万が一とか、かもしれなぃ、とか。
此処を無事に出られるかは、勿論なのですが。寧ろ出た後、横取り目当ての盗賊が待ち構ぇてなぃか、だとか…山道で馬車がひっくり返らなぃか、だとか。
後はー…ぇぇと…… それこそ。目に見えなぃ、映らなぃ、何か。本当に出て来たらどうしよぅだとか」
彼に出来て自分には出来ない事。ごまんと存在するのだが――甘い物含めた、調理の腕前に関しても。間違い無くその一つ。
こうして繋がる縁が無くとも、彼からしたら雇い主の娘、という関係から。ご相伴に与る機会は有ったかもしれないが。
只、顔も知らぬ誰かさんからの頂き物、として味わうよりも。顔を知り関係を持ち。色々詳しい話を聞きながら、一緒に頂ける方が。ずっと美味しいに決まっている。
縁というのは、やはり大事なのだろう。それを血縁者以外の誰かから、教えて貰ったというのも。彼のお陰の一つに違いない。
…かもしれない。良く有るネガティブな想像だ。
なまじ此処までが、初めてにも関わらず上手く行っている為に。揺り戻しでアクシデントの一つも有りそうだ、と。つい想像してしまうらしい。
勿論、不測の事態を想定し、それに備える、という事自体は。きっと間違っていないのだろうが。あまり変な事まで考えていると、それこそ、ツッコミの一つでも入れられそうである。
「何たら何たら現象―― …ぁの、はぃ。…ちょっとぉ名前、ド忘れしてしまったのです、が。
少なくともそぅぃった野生の勘めぃた物はー……私、ちょっと。はぃ。…全く人間と変わりなぃと言ぃますか。それ以下とぃぅか。
…ともあれ、入口が塞がってぃたのは、間違ぃなぃのですが。実際魔物が存在してぃたとなりますと――何処か。未発見の出入り口、一つや二つ有るのか……も?」
実際の所例のアレに正式名称など無く、曰く何たら、は完全なネタなのだが。それはさて置き。
少なくとも近年、人の調査が入っていない…というだけだ。もしかしたら、それこそ、「無事に帰るまで」いかなかった者が居たかもしれない。
もしくは何かしらを見付けても。それを公にする事なく持ち去った…そんな可能性もあるだろう。
そもそもからして先程の小鬼というのも。何百年もあの場で生き続けていた筈がない。だから、完全に密閉された場所ではなかった。それについては間違い無い…と。
どうやら、直ぐにその事実を確認する事となった。空気に動きが有る。灯りとは違う光が見えてくる。
山中深く深く潜っていくのではない、登り方面へと続く洞窟は。矢張り必然、いつか山肌を突き抜ける物であったのだ。
と、と。知らず知らず光を求め、足取りが速くなりかけた、所――
■フィリ > 重ねて言おう。
目に見えないような。水晶が記録出来ないような。そんな物はあくまで、少女の「考え過ぎ」であった筈なのだ。
――思わずつんのめった。歩み踏み込もうとした目前に。徐にぽんっと飛び出して来たのは、間違い無く。
少女がいつも学院に持ち込んでいる弁当箱であり。その他一緒に在るのは――同行者達の分、なのだろう。
寧ろ今日だって愛用のそれを。拡張鞄に入れていたつもりだったので。遠く聞こえた「忘れ物」とのお達しは、非常に有難い天の声だったのだが。
「―― っ、 な、ちょ、は。 ……ぅ。 ……ぁ、わ。 わ、あぁ ぁ ぁぁ ぁっ…!?」
数瞬遅れて素っ頓狂な声が響き渡った。少女自身の喉から。
神出鬼没、どうやら本当に「目にも映らなかった」らしい件の人物が。ただ心配して様子見に来た――だけで済む筈がなく。
山中の清涼な空気を肌で感じ始めたかと思えば、そうして触れる肌面積が少しばかり増えている…事に気が付いた。
どうやら。防具も制服も突破して、内に秘める大事な物を、お代にかっぱがれたらしい。
流石にただ奪われただけなら、帰宅後大泣きしてやる所だが。流石に恩情が有ったのか、代用品も用意され………
ば、ば、と。恐らく彼が初めて見る位に機敏な動きを見せた少女が。小鬼を叩き潰した時以上の勢いで、弁当箱の上から何か、掬い上げていった。
具体的に何がどうした、何が有った、された、とは決して言うまい。見られたかどうか、間に合ったかどうか、は別として。
――というかこれでもし。動転しきった少女が語彙を失う所までいかず、有らぬ何かを口走っていたら。どんな事象を引き起こしていたか――という所。
■影時 > 「ま、だろうな。
似たようなこと、近しいコトは俺も竜胆お嬢様も出来るかもしれねぇが、重ならんこともあるだろう。
……ラファルには向かないよなー、とは思って、教えてねぇ類も幾つかあるし。
あ、多分心配いらねェよ。こいつらが噛むのは基本的に俺だぞ?
後はよっぽどイヤーな触り方とか、ちょっかい出された時位だろうよ。後者は……どんだけある?お前らよ。
今のこの段階で将来の見当と想像が付いちまうってのも、ある意味才能が過ぎるがね。
そりゃぁ、フィリ。こだわりが無い人間が何か窮めたようなモノ、コトを作り上げられると思うかね?ン?
商人らしさについてなら、これはやっぱり俺の雇い主殿に付いて回る方が恐らく間違いないだろうなあ。見て覚えるなら」
人間でありながら、様々な逸出した要素ゆえに強大な人外に伍する。その一例がこの男だ。
人外に教えられるものがある故に、忍者の家庭教師というある意味類を見ない生業を得ているが、並行して研鑽を積んでいる。
今の地位に胡坐をかき、努力と研鑽を怠ってしまうのは、この先も冒険者を続ける意味でも大変良くない。
例えば、弟子に教えていない忍術、秘術の類の錬磨だってそう。
本人(?)の適性云々もそうだが、魔導士たる弟子の姉妹も修めていない、可能としてない方向性もあるかもしれない。
そんな秘術への適性が今連れている少女にあるかどうかは分からないが、学びを得ようとするなら、いくらでも成せる年頃だろう。
オトシゴロの彼女にちょっかいを出し過ぎると、ツッコもうと身構えている肩上の二匹が、ふんす、と息を吐く。
乙女の守護者にいつ鞍替えした?と内心で思いつつ、横目を投げてみると毛玉たちが何か黄昏た風情を見せる。
一見お気楽そうにも見える毛玉たちも、色々あるのだろう。可愛いといっても、自分たちが望むように愛でてくれるヒトばかりではない。
そう。――望むようなばかりではないのが、他者、他人というもの。
他人が常に自己にとって都合のいいものばかりではない。次第によっては、ガチガチに揉め、競り合うことも皆無ではない。
例えばそんなトラブルの事例を聞き出し、どういう風にしたのか?
そんな逸話から聞いていくことから始めると、きっと雇い主も喜ぶだろう。ふと、そう思う。
「そう言ってくれるのは嬉しいが、諸々思いを馳せンのはちょっと早いぞ。
……例えばもっと先があるとか、別の何かに続いてるとかなった日には大変だ。
――……そーゆー心配については一応、速攻でどうにかできる手はなくもないが、極力使いたくは無ぇなぁ。
横取り相手も幽霊も如何様にも対処できるが、山道で馬車が転覆したとかは、いかんな。うまく逃げられるとイイんだが」
料理、製菓の技については昔取った杵柄――というわけではないが、器用な細工や工作は練習も積んだ事項でもある。
本来の目的は勿論別にあったとしても、正しく人を和ませ、賞味してもらう術になっているのは、巡り巡った徳なのだろう。
考え過ぎるときりがないが、きっと良いことである。ただ、モチベーションアップには良いが、ちょっと気が早い気がしなくもない。
初見の遺跡、遺構の類で気を付けなければならないのは、例えば広大な迷宮に繋がっているといった万が一のケースだろうか。
この場合、深入りせずに可能な限りの現場保全を行い、速攻で取って返す必要が出てくる。
己は良くとも、同伴させる少女の経験の観点で思うと危うい。まだ、迷宮巡りに同伴させるには青過ぎる。
芋づる式に続くネガティブな要素は、運が混じる。祈るか、とぼそりと零す時点で諸々を物語ってしまいかねない。
「名前がある何かだったのかよ、あれ……――いんや、そこまで複雑な何たらじゃあないだろう。
歩いてちゃんと入れる経路は、俺たちが通ってきた処のみで多分間違いない。ただ、問題はなぜこの辺りで屯ってた点だが……」
なんと。猫の例のあれに、名前があったというのか? 素直な驚愕を顔に出してみつつ、周囲を見回す。
交戦の痕跡と比べると薄いが、小鬼たちの移動経路を伺える足跡、排泄物等を思うと、彼らの生活範囲、導線を導き出せる。
進める奥はまだある。もう少し深い先がある。目を遣れば見えてくる光に向かって歩いていれば――、風が吹くのだ。
■影時 > ――闇が開ける。光が広がる。そして一陣の風が吹きぬけて笑ったような気がした。
洞窟を抜けると見えてくるのは、まるで岩山の峰をテラス風になるように削ってできた遺構の威容であった。
緩やかにくねった一本道の左右に、住居や商店のように見える石組みの建物が並び、昔日の風情を思わせる。
王都の通りの一つにも見える先には遠く、また洞窟の入口らしく見える石組の建物が見えてくる。
人っ子一人見えない場所だが、不思議と薄汚れた風情が見えない。
十分に原型を残した寝床にも出来そうな建物があるにもかかわらず、先程掃討したゴブリンがそうした形跡が見えない。
否、それらしい痕跡は薄れた足跡、放置された骨を始めとしてごちゃごちゃと散乱したものが手前に見える。
けれども、奥まで至ったように見えないのは、何故だろう。
抜忍の男には、まるで神を祀る参道と、その左右に並ぶ民家や店舗の軒先のそれのようにも見える。そのせいもあるのだろうか?
「……――噂をすれば、なンとやらじゃねぇんだぞ、ったくよう、……と、お?お??」
そんな通路めいた洞窟から抜けた先のこと。風が吹いて。声がして。何かが置かれて。悲鳴がする。
誰の声か、というのはもう考えるまでもあるまい。こういうことをやってのける、仕出かせる存在は自ずと限定される。
準備万端であるつもりで出かけたのだが、それでも抜け、見落としがあったのだろう。
現地調達でも問題ないというのは、修行中の身には危ういという心配の如く、出来立てのお弁当が毛玉たちの分まできっちり地面に置かれている。
わーい!と云わんばかりに二匹が男の身から滑り落ち、或いは飛び出して群がってゆく。
そこまではいい。問題は、響き渡る素っ頓狂な乙女の叫び。悲鳴。何が起こったのか。
弁当箱に添えられてる布切れはショーツと思われるが、にしてはとても過激な布切れがー―。
「…………早ぇ。この俺すら見逃しちまったぞ――」
あ、見えなくなった。ここから先の言葉は、敢えて噤む。一先ずそっと後ろを向こう。少なくともいい、と云われるまでは。