2024/05/18 のログ
■影時 > 「……――例えば、あー。ヤって撮って見返す観察日記、とか、と……!
って言うかな。需要は掘ってみると妙な処から出たりするが、流石に売れんよ。売ったら殺されちまう。
シェンヤンから入ってくる酒は呑むと悪くなかったが、いずれ足を運んでみたくはあンだよなぁ。
流行りが落ち着いたら、か。んー。どういう攻め方するにもよる、か? 刀然り、織物然り、売り込み方は如何様にもよるが」
売りようにも売れない。売るなんてとんでもない。仮に撮ったとすればそんな“だいじなもの”扱いになるだろう。
情報は洩れず、秘匿することで価値が上がることはしばしば有るが、秘すること疑いない。間違いない。
いよいよ呆れが度を越してきたのだろう。
戦いの中、親分が使う火薬の爆音対策に襟巻の中に避難してきた毛玉二匹が、ぽこんと尻尾を出す。
形状違いの尻尾が器用に親分の首筋を叩き、素直な感想を率直に表してゆく。緊張感ないことこの上ない。
さて、流行り廃りは世の常だが、旅の欲は然程関係ない。趣が湧けば未だ見ぬ地へ思いを馳せる。
流入して触れる事物は多くとも、その出元は?と思えば、気になるだけの所以、きっかけは溜まっている。
現地での最新に触れるという名目、偵察、開拓の目的――等々。旅につける理由、題目はいくらでも付けられる。
まだ探れるか。代替を考えるべきか。その匙加減、見極めを考えるのは商人としての勘を問うことになるだろうが。
そう思いながらも、この地で危なげなく売れそうな故郷の事物を思う。ある程度定評のありそうなものが、一番堅実だろう。
「最初からそこまで考えて、とかなると、長続きしないそうだから注意が必要だぞ?
……最初の動機を時折思い返す位が、何かできるようになった時の喜びを忘れない位が、良いそうだ。
それで喰っていくかどうか、とか思うとまた違う心持ちになるのかもしれねェがね」
そうだな、と。選択できる自由を持ち得なかった男が、そっと嘆息交じりに頷くのは少しばかり滑稽か。
出来るようになれなければいけなかった。出来なければ死に。出来るようになっても死ぬときは死ぬ。理不尽極まりない。
ただ、その理不尽を他者に強いる所以がない。教えにならないことをを反面教師として知るからこそ、選べる自由とは尊い。
どこまで高められるかは抜きにして、最初の動機を忘れずに続けていられるか。
これはきっと、自分たちにも云える。企図せずに与えられた大仰すぎる道具と、如何に向き合っていくか。
護身の道具として留めるか。商売道具とする生業を目指すか、等々。選ぶことを見守り、時折正すのが家庭教師の務めだ。
「あの小鬼を害獣同然と見る意見も多い。事例を色々聞けば、俺もおおよそ同じ見解になっちまうが、ね。
奥にもまた少し巣食ってる可能性もあるが、ここらは此れでひとまず片付いたと言えるだろうよ」
特に今回の仕事は、掃除でもある。魔物は根絶やしにするという徹底が求められる。
悪しきは許さぬ、という以前に逃がした場合の二次被害、今後の波及等を思えば、鏖殺も已む無しとも言いうる。
初心者、駆け出したちの善性をいいことに、逃げ延びようとする――そんな狡猾さも、小鬼のような妖魔の類は持ち合わせているのだから。
漸く事が済んだらしい匂い、気配を感じれば、襟巻の中に潜っていた二匹の毛玉が顔を出し、身を震わせて息を吐く仕草を見せる。
それを横目にしつつ、倒したゴブリンたちの死体を一体ずつチェックしてゆこう。
しっかり仕留めているかどうかの確認と共に、最後に投じた苦無型の手裏剣を回収し、体液を拭っては元の場所に仕舞ってゆけば。
■影時 > 「……さーて。気になる、よなぁ」
改めて、目についた残存物に意識を向ける。片隅に押しやるように置かれ、隠された宝箱でござる、とばかりの頑丈な箱だ。
それはそれはもう、気になるだろう。
浮ついたような足取りが近づき、はたと止まる仕草に小動物をついつい想起してしまい、血生臭い空気の中で笑いが零れる。
だが、目の付け所は確かだろう。床材や周囲の罠、如何にも怪しい処の検分、チェックまでは良し。
「俺が良い、というまでちょっと離れとけ。その間、こいつらを頼まぁ」
そう言いつつ、少女の傍まで歩み寄っては腰裏の雑嚢に手を入れる。
そこから小さな革製のポーチを取り出して見せれば、左右の肩に陣取る二匹がぴょいっと少女の頭と右肩に飛び移る。
頭にモモンガが。肩上にシマリスが。親分が今から何をやるかを察して邪魔にならないよう、同時に万一に備えて守れる態勢を取る。
慎重に宝箱の前に近づき、しゃがみ込んで蓋と箱の境目、隙間を確かめてゆく姿は――宝箱の罠の有無を確かめる風景そのものだ。
■フィリ > 【継続いたします】
ご案内:「山窟寺院跡」からフィリさんが去りました。
ご案内:「山窟寺院跡」から影時さんが去りました。
ご案内:「九頭竜の水浴び場 マッサージ室」にエレイさんが現れました。
■エレイ > ──温泉旅籠内の、主に宿泊客向けに用意されたサービスの一つが、このマッサージ室である。
その施術室はいくつかの個室に分かれており、客は専用のカウンターで受付を済ませた後、各個室で待機しているスタッフと
一対一でマッサージを受けることになる。
なお、客にどのような施術を行うかは、スタッフの判断にすべて委ねる、というあたりはこの旅籠らしいといった所。
ついでに、各個室内には客に安心感を与え、施術への抵抗感を知らず知らずのうちに薄れさせてゆく効果を持った、
ほのかな香りのアロマが炊かれていたりもする。効果がどれほど出るかはその客次第なのだが。
「──さーて、今日もブブイーンと張り切ってやりますか、ねぇッ……と」
その中の一室に腕をグリングリンと回しながらやってきたのは作務衣姿の金髪の男。
知り合いからの依頼という形で臨時のマッサージ師としてやってきている冒険者、という立場は今も変わらないのだが、
もうすっかりここの一員として馴染んでしまっていた。
そんな自分に時折疑問を持たないでもないが、男自身としてもなんやかんやこの仕事は
気に入っているのでまあいいか、とあまり深く考えないことにしたのだった。
「今日はどんなお客が来るかねぇ……」
ともかく、男は施術台の傍のスツールに腰掛け、腕組みしながら客待ちを始める。
出入り口のカーテンが開かれ客が現れるか、あるいは魔導機械の通信機を通して客室への
出張依頼が来るか。
いずれかの訪れが、今日の男の仕事の開始の合図となるのだろう。
もしかしたら、受付を経ずに紛れ込んで来てしまうような珍客が現れる、なんてこともあるかもしれないが。