2024/05/17 のログ
ご案内:「山窟寺院跡」に影時さんが現れました。
ご案内:「山窟寺院跡」にフィリさんが現れました。
■フィリ > 「本来。興味は有っても、ツテが、なぃ――そんな方が。大半…かと、思われますので。
思ぇばこれも。興味は有っても…安全に調べられるだけの。無事手に入れられるだけの。力が無ぃ…そぅぃった方々な、訳なの――です。はぃ。
立派に受容と供給がなりたってぃると、思われます。
…はぃ。はぃ、そぅなので…す。そぅ、思われます。……その筈です、決して――」
少なくとも、此方としては。…彼を頼る側としては。彼に、彼らしく在って欲しいと。そう思う。
勿論。彼自身ではない、それを見る者からの「彼らしさ」が。必ずしも正しいとは、当人の望みとは限らないのだが――これについては。
間違っていないと確信する事も。許されると思いたい。
そして。そんな展望の中に。自分達の存在が含まれる事も…願わくば。
全力で二度も三度も縦に振られる首。本来在るべき使い方を全肯定。
どう考えてもやましい所が有るからこそ、人は誤魔化しに掛かるのだ――という素振りでしかないが。
…さて置き、人間…ないしそれに近しい五感を備える生命体にとって。視覚という情報は実に多くを秘めている。
勿論残りの感覚も大事だし、更にはそれ以外…魔力だの霊力だのその他諸々、察知する存在も居るのだが。
それでも、真っ先に意識してしまうのは。眼球から入ってくる情報という事になるだろう。
目に見えて、判る――というのは。それだけで大きな意味と説得力を有するのである。
熟達した冒険者や魔術士等が。この仕組みを如何に交い潜るか――は、それこそ専門的なプロに任せておくべき話であって。
少女のような初心者からすると。先ずは恩恵、商品仕様、の方が。大事なのである。
「観る事で、分かってくるモノが有る…とぃぅ。経験にはなるとぃぃますか。成功体験は、大切だと。思われます――はぃ。
もしくは。観察するとぃぅ事の大切さを。意識出来るよぅになりましたら、とか。
…ん、ん …はぃ。私としても。そのよぅな罠の気配は――今の所、感じ取れませんので。
――罠程度じゃ止まらなぃ、などと。過大評価されている訳ではな――ぃ、でしょぅ……し。少なくとも」
少なくとも、少女の方は。へっぴり腰で素人丸出しなのだろうし。
逆説同行者は明らかにベテラン冒険者なので。此方の強者に対しては、無駄にしかならないだろうトラップを控えている…可能性も有るが。
寧ろそんなベテランにとっても隠し通せるような物であるなら、矢張り使ってきそうな訳で。
取り敢えずそういう所まで損得勘定を働かせるような。迷宮の主である知的生物の類――というのは。居ないと考えて良さそうである。
――子供の頃、については。彼が濁すというのなら、此方としても。これ以上は言葉を重ねないでおこう。
それに……そろそろ。会話を中断した方が良さそうだ。前方から何やら物音がする――と、なったのが。丁度小鬼達を発見しタイミング。
斯くして彼等との遭遇を経て、交戦に入り。
「は、っ。はひ――…! ですがこれ、は、ちょっとっ――」
…正直。今は、考える余裕が無いから良いのだが…無事この場を切り抜ける事が出来たなら、きっとその段階になってから。
動転やら混乱やら…目の前で飛び散る魔物の血。叩き潰した肉の感触。そうした物に対する怖気めいた物が。一気に襲い掛かってくるのだと思う。
何事にも考え込みたい少女にとって。考えているどころではない、という希有なシチュエーションを。生まれて初めて、有難い、そう感じつつ…
縦に振り下ろした鎚を。今度は身体毎旋回して横薙ぎ一閃。
『Gigyu、Gyuhu――!?』
前後を見比べざるを得ないゴブリンがまた一匹。声を残してすっ飛んだ。その侭壁へと叩き付けられ、めり込み、うんともすんとも言わなくなる。
…彼等が、鎚に溜め込まれた魔力の存在や。それが生じさせている現象を。理解出来るかは分からないが…少なくとも。
ぱっと見貧弱な、何なら容易に組み伏せ、好き勝手嬲り物に出来そうな、見た目人間の幼い雌――が。
物理的な法則をあれこれ無視して、重量級の得物をぶん回す、危険な存在であるという事は。二匹目の被害が出た辺りで。確信せざるを得なくなるだろう。
勿論、舐めて掛かって無造作に飛び掛かっても良い雌ではない――それを理解した瞬間も。結果生じる数瞬の躊躇も。
一緒に現れた人間の雄、此方が見逃してくれる筈はなく。見る間にまた一匹、また一匹、首を切られ背を切られ――
「…っ、こ、これで ――半分越ぇ……!?」
そして少女が、三匹目――やけくそ気味に飛び掛かってきた一匹を。思わず悲鳴を上げつつ手を振り回す…みたいな動きの延長線上に鎚を置き。またぶっ飛ばした。
少女自身の膂力と無関係の重い打撃に、遠心力だけは真っ当な形で加味されたそれが。吹き飛ぶ一匹を、男に備える一匹の背に直撃させ。もみくちゃで転がして。
やはりどちらかと言えば。積極的に間合いを詰めてくる彼の方を警戒しがち、其方に視線を取られがちなゴブリン達の只中で。驚きの声が…隙、が。生じるか。
■影時 > 「……思う以上に、向こうのあれこれが入っているようにも考えられるが、ねェ。
とはいえ、そんなもんか。有名な何かが働きかけるとかしても、舶来物は大体お値が張るときやがる。
まっとうな方向ならそうだが、その逆が気になるなら――“帰った後”にでも試してみるか?」
自分らしさとはどうか、と考えだすと難しい。事細かに自認すると鼻で笑いたくなる。そんな衝動に駆られる。
その中で言えることは一つある。考えなしに誰かに仕える生活は、勘弁蒙りたいと。
金銭で雇われる方がまだ身が引き締まる。誰かに物ごとを教え、教えた悉くを監督し、誤らないよう見守る方が責任を覚える。
あとはちょっとの気侭なことができる。それ位が多分、丁度良い。つまりは今位が丁度良いのだ。
脳裏で故国より、船旅やら弟子がひとっとびに故郷まで急襲し、持ち帰ってくる品々はこの辺りでは色々と見られる。
高価なものであれば、悪いものにかかれば実に粗雑な模造品、偽造品まで出回りかねない。
それらを目利きできるものがどこにでも居るとは限らない。例えば、己。はたまた物事の真贋を見定める竜眼を持つもの等。
悪いものと思って、ふと、思い立つのは記録用の魔道具である。
これもまた記録されたものでピンキリの値、珍重されうる品だが、私的に扱う範囲なら――どうだろうか。
そう思いつつ、覆面でいかにもな笑いを浮かべ、少女を見ては、にぃ、と目を細めつつ宣うのは、この場では少々意地悪だろうか。
肩上の毛玉の片割れが、親分がまた変なこと考えてる……と、呆れのような気配を漏らすのを心中で明後日の方角を見て受け流して。
「遊びでやる、やれる分なら大いにやっていいだろうよ。
より深く踏み込むなら、相応の心構えも準備も必要になっちまうが、動機付けの意味でも遊びは馬鹿になンねぇよなぁ。
……罠を仕込むには、この辺りは地勢が整い過ぎてンな。
あからさまな罠はすぐに目につくし、手間暇かけたものを仕掛けるなら、大事業になっちまう」
まだ魔法による何やら、の方がきっと遣り易い、と。そう考えつつ、罠の有無とありうる場合の想定について考える。
魔物が持ち込んだ宝箱の方が、罠が仕掛けられる事例としては分かり易いだろう。
踏んだら何か仕掛けが作動する、ようなものを仕掛けるにはこの辺りはまだまだ不自然より、自然らしさの方が一層勝る。
そして何より、先に立ち入った魔物たちが直々に体験し、その餌食となっていないという点でもしかすると証明になるのだろう。
「今は、自分の周りに寄ってくる奴らに集中するだけでいい。
初めてな中で、俺が引き付けた敵を倒さないといけないなンて、役割分担を意識すると諸々滞っちまう」
さて、これで何体か。少女が振るう槌が倒して見せたのは、これで都合2体目。今はこれだけで十分ともいえる。
役割分担は戦闘時の動きを効率化するためのものだが、かといってそれを順守せよ、というものではない。
特にこれが初めての戦い、実戦であればなおのことだ。これで3体目となるゴブリンの悲鳴、呻きを今相手にする一体の向こうから聞く。
「フィリ、此処までで良い。……息を整えろ。残心を怠るな。あとは、俺が片づける」
残りこれで7から3を引いて4。そのうちの1体は少女が叩き飛ばした同族の死体をまともに喰らい、壁の方へと吹っ飛んで悲鳴を生む。
視界の中に見えるのは3体。吹き飛んだ奴は思考の片隅に置きながら、対処、処理の順番の一番最後に振り分ける。
真正面で刀を構えてくる奴は手強く、その癖、雌はなんかやったらに物々しい重量物をふん回して見せる。
逃げるにしても練度の差はあれ、前後に挟まれるということは集中を保てず、判断と対処に後れを取る。驚きも抱くなら、そこに隙が生まれるのだ。
故に忍びが歩を進める。肩に担ぐように刀を構え、気配もなく、殺気もなく、ただそこにあるかのような自然な動きで踏み込んでくる。
■NPC > ある種鍛えられ、洗練された動きとは体の線を乱さない。
どうする?どうしよう?とばかりに顔を見合わせだしたゴブリンたちは、混乱も相まって大いに隙がある。
情け深い駆け出し等は、そこに取られ、油断もしただろう。こんな浅い階層だから逃そうか?とも思うかもしれない。
だが、倒すべきもの、排除すべきものを見逃しては仕事にならない。故に――
「G、a?」
「「――gEa、huoooo?!」」
すっと肉薄してきた忍者の動きに、一瞬の恐慌をきたした顔が、ぴたと強張る。
子鬼の頭から顎まで、静かに一本の線が引かれる。静かに振り下ろされた刀が描いた斬線と気づくのは、線を境に顔が上下にずれ始めた処だ。
それを異口同音に見る小鬼の顔が、上半分より横一文字に振り抜かれる刃で断たれ、つぷ、と赤黒い体液を漏らして倒れる中、音がする。
先程壁に吹き飛んだゴブリンだ。よろよろと身を起こすのを、刀を振るう忍者が見逃すことはない。
横薙ぎに振られた刀が刃を返し、翻れば――風が吹く。
氣風が奔り、得物の切れ味を写し取ったような斬風と化して離れた敵を袈裟切りにして斃す。
刃を取り出す布で拭い、鞘に納める姿が放つ言葉を死に落ちる骸たちが聞いただろうか。荒風の太刀、と。それが技の名だろう。
■フィリ > 「それはもぅ、はぃ、需要が多ぃとぃぅ事ですので――家の方でも。頑張らせて、ぃただぃてぃる――ので。す。
勿論、その、値が張るとぃぅ事は。必然、自力――自費、で手に出来る方も。限られて参りますので。
笠木様のよぅな方が、提供して下さるというのは……大変に。助かるのでは、と。
っぁ、あー、ぁーっ! ぁーっ…! ぃ、今…!今は、その、あぁっ、 ………ぁー――!」
貴重な物。海の向こうというのは、それだけで。希少性という価値が付随する。
世の中魔法やら翼やらでひとっ飛び出来る者はそうそう居らず。船一つ出すのにも旅費から人件費から様々な経費が生じてくるのだ。
結果、実費へ更に上乗せされる金額が。一般人にとっては手を出しにくい所まで高騰させてしまう訳で。
――其処に。文字通りひとっ飛びの手段を持つ、少女の実家が。他よりもお安くいっちょかみしてニーズを得ている訳である。
そういう意味では…危険物の提供元でもあり。同時に、生徒相手には無償で差し出したりもする彼は。功罪備えるお得意様、と言うべきか。
とはいえそんな所もまた、彼らしく。その恩恵を自身も味わっている身としては。変に口を挟む事でもないだろう。
…というか。これ以上の会話は案の定。例によって少女の自爆芸を誘発しそう…いや既に手遅れだろうか。
生物学的には余計の一言、それこそロクでもない事を考えている…と。毛玉先輩に見なされるらしいあれやこれや。
世の中情報、映像、にも値段は付くし。それが性的な某であったなら――特にこの国、況や、である。
勿論そんな所で金にがめつい相手ではなく。それこそ意地悪自体を目的としての発言である…と、重々承知しているものの。
売るか否かと、撮るか否かは。全く別の問題である。…本当に撮られかねないし、もしそうなったら、自分は――と。
ついその先まで想像してしまいかけて。思わず大声を上げてしまうのだった。
もう少し先まで進んでいたのなら、その素っ頓狂な悲鳴を、魔物達に聞き付けられていただろうから。
其処だけは幸いだった――と。思いたい。
「はぃ。先ずは興味を持つか否か。それが大事だと思ぃます、ので――遊び。馬鹿には出来ません。
…其処から、本当に生業にするかどぅかと考ぇるのは。個々人の自由ですし、ぁくまで切っ掛けとぃぅ事で。
少なくとも――昔々から。それ程、手を加ぇた風には。見受けられなぃのです。ぇぇ。
…其処までの。それこそ、嘗て此処に暮らしてぃた方々と同じかそれ以上の…技術の跡、とぃぅのは。無ぃと言ぃますか」
知的。文化的。そういった痕跡は…往時の侭。其処から先には続いていないように見える。
持ち込む事が出来る、設置系の物品が有るならさて置き。遺構を加工や改築などする手合いは。居なかったと見て良いだろう。
それはそれで――調査研究を旨とする者達にとっては有難い話に違いない。長らく封鎖されていた事もあり、割と状態の良い遺構なのだろうから。
竜の眼。魔導の知識。その辺全て、少女はまだまだ。人として竜として術者としての大先輩に師事して学んでいる真っ最中。
とはいえ、好きこそ物の何とやら。こうして目に見える範囲なら、ある程度の判断を下せる位には。鑑定眼を育みつつあった。
これこそ。趣味や興味が高じて、実益に繋がりつつあるという事…なのだろう。
さて…こうして考えてみると。入り込んだ魔物の存在も。決して古い物ではないのかもしれない。
何十年、何百年、平気で安眠し続けられるような。長寿の生命体でもない限り。
実際今の処遭遇しているのは。山野でも往々にして見掛けるような野生の小鬼であり、狼であり――
「っぅ、っく、ひゃ――ぃ… っ。 ぉ、願ぃ、します――っ…」
そんなゴブリン達が。人語についても、理解はしていないらしい事が。有難い。
彼が少女に何を伝えたかをきちんと把握出来ていたのなら…半歩下がって身構えたままの少女が。其処から先は積極的に仕掛けてなど来ない、と気付き。
その分後方へと意識を取られて、彼に注意しきれなくなる――と。ならずに済んだだろうから。
結果として小鬼達は最後まで、どうやらこのまま。何時動くとも知れない少女と、常に動き続ける彼との間で。板挟み。
少女が鎚を握り直す――実際は、警戒しつつも一休みの為、本当に持ち直しただけなのだが――動きに気を取られた一匹は。
彼から離れた目線と目線の中心線で、次の瞬間真っ二つにされ倒れ伏し。
どうやらめり込む勢いで壁に激突しつつも、まだ動けるらしい一匹が…明らかに間合いよりも遠くに居ながら。血飛沫を噴いて倒れ伏した。
……ぉぉ。と。つい感歎にも似た息が出てしまう。
風に馴染みの強い伯母等なら出来そうな、遠い斬撃。それをきっと彼は、技術だけでやってのけるのだ。…流石は、その伯母の師。即ち大師匠である。
――これで。残り二体。
もう勝ち目の無さは明らかであり、明らかに動物的な生存本能に駆られた彼等は、逃げ腰の様子なのだが……
またもう一つ。少女は強張りを解くように息を吐く。
…決して油断するつもりはないのだが、無意識に――此処まで来たら、もう逃げていくのではないか、という。
文字通り駆け出しならではの想像が有る事は。否定出来ないだろう。
■影時 > 「売れるものは売れるうちに、ってな。仮にそうでなくとも……需要は途切れねェ域でもあるか。
故郷にしか無いと思ってたモンが、ここでも手に入るとなれば、なぁ。
俺に売れるものと言えば知識位しか無いわけだが、――ッ、クク。少なくともお前さんのは撮っても売らねェ、よ。な?」
故郷でしかないもの、作り得ないもの。考えれば意外とあるものだ。
例えば茶器類。嗜好品の類。刀剣具足の類。
茶器は他所の国からの輸入物を活用した事例は多く、刀剣についてはどうこうできる縁がこの国でも出た。
書物に記された知識、詩吟の類は――見聞きしたことのある類であるならば、論じられる。語ることは出来る。
故郷での最新をアップデート、更新するのは難しくとも、見解を語れる者は矢張り少ない、得難い者であることに恐らく変わりはない。
しかも、迷宮含めて危険地帯から様々なものを持ち帰ることが出来るとなれば、良くも悪くもかの商会に貢献していると言えるか。
とは言え――、ここでこんなことを言うか?と言われたら、ツッコミは受けざるを得ないだろう。
肩上の毛玉たちの目線がちょっと痛い。尻尾で叩いてこないだけ、ましだろう。今が修羅場であることを弁えているが故に。
何せ、緊張をほぐすというには少々生々しい。今が諸々とカバーをしやすい状況だから言える言葉だ。
素っ頓狂な悲鳴が上がっても、逆に都合がいい。一人でこの場所の掃除を行う場合、淡々と背後から刺し殺すだけの作業とならざるを得ない。
一人と二匹の隠密行動は概してそうなる。今はその逆だ。敵を集めるなら、逆に騒がしい位が丁度良い。
「そうだな。
……例えば剣の稽古がちゃんばらごっことか揶揄られることがあるが、そこから入門する子供が居ても良い。世が平らなら尚のことな。
憧れから進んで、壁の険しさに懊悩するのも若い奴らの特権だろう……なンていうと、俺も歳を取った気がしていけねぇや。
手が入った証を求めたいなら、より奥だろう。
そのためにもまずは、ここをしっかりと片づけてから先に進まなきゃならねぇ」
必要に迫られる強制か。選択できる自由か。後者を選べる余地がある点では、少なくともこの国は平和である。そう思う。
自由を選べるものが多いように思えるのは、それだけの余裕がある者たちと接する機会の多さからだろう。
軽い気持ちで選んだ道に膝を折っても、再度選べる余地を考えられるのも、気持ちと金銭に余裕があるからとも言える。
それがみっともないとは言うまい。余所者であり、逃亡者が尤もらしく言えるかどうか、と考えだすと言葉に詰まる。
それだけ歳を重ねていると思うのは、思案の種の多さと蓄積でもある。若者が語る見解を裏付けられる材料が多い。
外からの風雨も吹き込むうえに、魔物たちが出入りするエリアだ。手入れの余地があっても、それは住み着いたものを排除しなければ意味がない。
「斬撃を飛ばすのも、小鬼にゃ勿体ない手妻か。……あとは手堅く遣るかね。
さて、フィリ。よく見ておくように。あれらはな。逃げ出すなら確実に仕留めておかなきゃならねェ」
心得た、と。斬撃を見舞い、飛ぶ斬撃を放ち。一旦は腰の鞘に刃を落とす。
一定以上の技量を持つものは、ここまで出来る。斬撃を放つ技は数あるが、それはそうした能力の証明とも思える。
だが、強敵相手の決め手になるかとなると、これが難しい。同じ技を使えるものは、同様の技の対処にも腐心するものだ。
現状、生き残ったゴブリンたちがいよいよ恐慌をきたし、少女の左右を回って逃げ去ろうと粗雑な得物を放り出して走り出す。遁走し出す。
速度、距離、動き。脳裏でそれらを勘定し、羽織に包まれた両の手首を振る。
羽織の袖口に仕込んだ刃が手元に滑り落ちる。忍びがよく使う苦無、そのミニチュア版のような鈍色と漆黒の刃がそれぞれ一本ずつ。
それらを言葉を放ちつつ薄らと氣を篭め、両手を振り上げる動きで放つ。投じる。
■NPC > 「「hyuaaaaaaaaaaa――、a……!!」」
少女の横手を抜け、侵入口から遠く差し込む日差しに向かって突っ込もうとするゴブリンたち。
苦手な日照の中に躍り出ようとするのは、苦手を押しても生を浅ましく拾おうとする本能か。
勝てない敵には仲間を捨ててでも、逃げようとする浅ましさ。生き延びて弱者を足蹴に殖えるであろう悍ましさ。
――逃がすにはおかない。そう言わんばかりに風を切る二色の刃が、残る二体の延髄に狙い誤ることなく突き刺さる。
遠く、倒れる屍の音二つ。静寂が生じたエリアの片隅を見回すと、見えるかもしれない。
暗がりに隠れるように置かれた金属で補強された箱が。宝箱かもしれない。
■フィリ > 「っぉ、ぉぉ …ぉ願…ぃします、はぃ―― ……とぃぅか!とぃぅか、需要……無ぃ、のです、無ぃと思われます――っ。
……っは、ぁ。は――こほん。 正直な所、帝国の品――は、そろそろ。流行も落ち着いてぉりますし。
より向こぅ…はぃ。笠木様の、故郷の品等――手に入るなら。是非、ではぁるのです、が」
こちとら商人。売る側である。売られるのは御免被りたい。
取り敢えず出ている所が有るでもなく、引っ込んだ所ばかりしかない、そんな少女然とした身体。
需要が有るとしても、決して多くはない…もしくは、一般的ではない、と思いたい。
ぶんぶんと首を振り、頭の天辺から湯気の出そうな想像と。ついでに先輩二匹の生暖かい視線を追い払い。
…さて、気を取り直し改めて思案すると。実際、異国の品々に興味を抱く、切っ掛けとして。帝国のあれこれは有意義だった。
更なる未知の国々に。思いを馳せる者も出て来るのなら――輸入品は引き続き売れ線であり続けそうだが。
より遠く。より珍しく。そういった希少性を客が求めれば求める程、付加価値として値段は高騰し続けるだろう。
――危険を侵さなければ手に入らない。こういったダンジョンに眠る品というのも。有る意味では似たようなものだ。
身内にも高い戦力は複数存在しているが。忍の術を学ぶ伯母ならともあれ、ドラゴンその物の力を奮う者等は。ダンジョン毎ぶっ壊しかねないので。
こうして彼のように、冒険者や傭兵といった者達が居てくれるのは。非常に有難いのである。
…という事を。矢張りこうして、実際に同行すればこそ。これまで以上にしっかりと実感し、意識していけるようにもなるか。
其処もまた少女にとっての学習である。
「ごっこ。大事なのです、はぃ。…模倣から始まる物。より真に近付けるべく、練習する事。世の中、多ぃと思われます…ので。
後は…それを、どの程度までで。納得出来るか、と言ぃますか。…本物を。憧れを。超ぇたぃと考えるのも、自由――かと。
ん、と。…はぃ。先ずはその、目の前の――」
選択出来る自由が有るのなら。それを行使するのは権利であるし、同時に義務だ。何も選ばないのは剰りにも勿体ない。
少女自身、そうして将来の道を幾つか。考えられるだけの時間的、金銭的猶予を与えられている身の上なので。
其処の所はしみじみと噛み締めつつ――今日此処に同行しているのだって。職業選択の一貫、体験と入門を兼ねている。
戦う術は手段であり、それ自体は将来の目的ではないものの。選択肢を拡げてくれるという意味でも非常に大事な物だろう。
そして、実地で。これから選んでいきたい候補として。真贋を見極める為の機会が得られるのだ。
…宝物の類だけではない。寧ろ遺構その物も、人が作り上げた造型物、即ち財産に他ならず。それを直に触れ調べる為に、先ずは――
今こうして。目の前の魔物達に、対処せねばならないのである。
斯くして少女にとって初めての、戦う、という行為が繰り広げられ。やがてそれも終わりに近付いて。
「―――― ぁ。 ……っ、ぇ、ぁ …は――ぃ。 …そぅ、でした。もしかしたら…」
少しばかり。無意識の間隙を読まれたような気がして、は、と。
ただ逃げるだけ。もう戻って来ない、というのなら。それに越した事はないのだが…
小鬼というのは群れるモノだ。もしかすれば外から、新たな仲間を連れ戻って来るかもしれない。
同じ小鬼と限らず、喧噪が別の脅威を招き寄せる可能性というのも。決して零ではないだろう。
――また、逃げ出した先で別の被害をもたらす、という事案も考慮したのなら。矢張り発見したそれ等は。排除するべき、という事か。
等と考えている内に、少女の脇を抜けるように逃げ出した残りの二匹も。投げ付けられた刃を以て、速やかに倒れる事となった。
投擲物に爆発物。勿論手持ちの得物。そうした手数の多彩さと正確さは。矢張り大人――経験と技術の賜物か。
そういうのこそ、大人の特権、という奴だろうから。彼が歳を取った等とぼやいてみせるのも。決して悪い事ばかりではない筈だ。
■フィリ > さて。 さて、どうやら。
騒ぎの収まった後で見回して見れば。どうやら上から差し込む光を避け、片隅へ押し込む様に隠された箱が、一つ。
…しっかりとした枠組みによる頑強なその作りは。落ちている槍等と比較しても先ず、ゴブリン達が作った物ではないだろう。
拾って持ち込んだものか、それとも最初から此処に有ったのか。
一先ず鎚は仕舞い込み。と、と、と上付き気味の足取りが。さも「ダンジョンお約束の宝箱で御座い」と主張せんばかりの箱を目指し――
かけて。数歩で止まった。
首を竦め、しゃがみ込み。箱周辺の地面を見回して、足跡等を探り。それから埃を吹き飛ばして、もう一観察。
…少なくとも。少女が床の設えやら石材の具合等から、見て取れる罠は。箱周辺には無さそうである。
箱自体は直接調べてみないと分からないので、彼の方を振り返り―― 取り敢えず、今から。近付いてみても良いかと、無言で問い掛けて。