2023/12/11 のログ
ノーマ >  
「……そーゆーとこ、ほんとうまいっていうか。
 なーんでピンポイントに聞いてくるかなー?」

いい感じに話が進んだところで、漏らした一言に的確にツッコミを入れてくる男。
以前もそうだったが、どうにもこういう呼吸がうまい。
これもまた、戦士の勘、みたいなやつなんだろうか。

「この間と同じ話。
 自分で言うのもなんだけどさ。
 うさんくさいうちを信じて、仲間にするわ、世話焼くわ。」

どこまで正確かは伺いしれないが、それでもどこか自分の正体を察してそうなところも含め。
それでもなお、対等に接しようというのが面白くもあり、奇妙でもあった。

「これが変わり者じゃなくてなんだって話だよ。
 いい加減、色々予想も立ててるんでしょー?」

信用したから、とはいえ自分もだいぶ無防備に色々晒しすぎている。
戦闘は勿論、日常的な部分でも、だ。
それは相手の言動からも察せられる。

だから、あえてこちらも逆に問いかけてみる。

「ま、今更だし。
 それで揺らぐモノもなさそうだけどね。
 だから、もの好きって言ってるワケ」

そんな言葉を発しながらも、別に警戒をすることもなく男の後をついて歩く。
それが深遠に向かうが如き、螺旋の下り坂であろうと。

アドラー > 「耳は良いんだ。でなければ生き残れない」

気配や音、そういう物は敏感に察知する。
でなければ勝てない、生き残れないからだ。戦士の勘といえばかなり的を得ている。

「…君の素性も、経歴も、能力も、私には知ったことではない。」

確かにファーストコンタクトでは彼女の言動に驚かされたが
今こうしてパーティーを組み、共に協力して、依頼の達成に尽力している。
それはなぜか。彼女の素性でも、経歴でも、能力でもなく、何を重視したか。

「こうして背中を見せている私に対し、刃物ではなく言葉を掛けている。
 それが全てだ」

真っすぐと彼女に背を向け、歩きながら伝える。

「ま、君の言う通り物好き。変わり者なのさ。私は」

自嘲するかのように笑いながら下っていき、しばらくすると広い空間に出る。
到着した空間は円柱状で床には大きめの穴が開いている場所。
穴の中は暗闇が覆いつくしており、もそもそと大きめの蠢く物体と白い線のようなものが見える。

「どうやらここが終点のようだ。…『ライトボール』」

穴の中に光球を走らせていく。
チラッと見えるのは黒い毛並みと複数の脚、白い糸。
そして、人間の女性の上半身、柔肌。これは…

「――――気を付けろノーマ。強いぞ」

アラクネだ。

                                   

ノーマ >  
「ふーん?」

目の前の背中が語る言葉に、一言だけ、答えとも言えない答えを返す。
生き残る。
どうも、この相手はそういうところを妙に気にする。
……これも、例の友人、というやつが影響しているのだろうか。
まあ、それは聞くことでもないだろう。

代わりに

「そうはいうけどさー。能力だけは知らないと、じゃないのー?
 そうじゃないと、パーティー組むにもうまくやれるかわからない、じゃなかったっけ?」

そうやって、以前こうして組む前に話した話を持ち出して混ぜっ返した。
自嘲気味に話す男の背中に、その軽口は届くだろうか。

「ま……先に言っとくけど。
 うちは、なにがあっても大丈夫だから、さ」

なにが、とは特に言わず。
そう一言だけ告げて……そこでついに、最下層にたどり着く

「……おや、おでましか。
 蜘蛛っぽいし、糸も見えるし。気をつけないとだねえ。」

ぼり、と。先程拾っておいた、虫たちの欠片を少しかじる。

「……なにか、作戦とかある?」

アドラー > 「ふふ、それはパーティーメンバーとしての話だ。
 友人としては相手の素性なんかより性格を重視する、ということだ」

確かにパーティーとしては、相手の事を知らなければ生死にかかわる故、重視はする。
が、友人としてはそこは考慮しないと、補足を入れて。

「…」

相手の言葉には何も返答せず、下唇を噛む。
君が大丈夫でも、と口にしようとするがそれは抑えて
次なる敵へと目を向ける。

「下の蜘蛛を巣ごと焼き尽くし、同時に上の瓦礫を崩落させ…」

敵は眠っているのか動きはなく、狙うなら絶好のチャンス。
持っている爆発ポーションと彼女の膂力や自分の魔力を使えば、一方的に封殺は可能だろう。

しかし―――

「…計画変更だ。周囲への被害は最小限。奴のみを仕留める」

次に光球が照らしたのは穴の奥底に張られた巣と、糸に巻かれた複数の塊。
どれも人間のサイズのそれは大半は動きはないが、2~3個、もぞもぞと動いている。

依頼内容にあった生存者。まさか本当に居たとは。きっと保存食としてあの化け物が残したものだろう
見つけてしまったからには救出するしかない。

「君は暗闇を見通す目と機動力がある。生存者の救出を頼む。
 その間、私があれを引き付けよう。危なくなったら援護を要請する」

ワイヤーの格納器の調子を見て、腰の剣を引き抜く。
息を吐き、ワイヤーを使って穴の中を下っていく。

ノーマ >  
「友人……友人、かあ……」

そういう枠に入れたらしい。
なるほど、それは簡単に死ねないな、と思う。
まあ、嫌でも簡単には死ねないのだが。

「……」

返ってこない返事に、仕方ないのでこちらも沈黙を返す。
言葉の選択を誤ったのだろうか。
いまいち、わからない。

「……おやおや。
 生きていたパターンね。一番面倒かもしれないやつだ。
 いいよー。うちがあっち行って、アドラーがそっちね。
 無理はしないでね。」

先程のように力技で倒せるならソレがシンプルで良かったのだろうが、そうはいかないらしい。
面倒なことだが、依頼、というものなら仕方ないのだろう。

それにしても、救出、か。
まさか自分がそんなことをすることになるとは夢にも思わなかった。

とりあえず、そこを考える意味はないし気持ちを切り替える。
救出に必要なことは、危険を減らすこと、だろう。
できるだけアラクネを刺激しないように……と、なれば……

……脳を、切り替えねば

「……じゃあ、行くか」

ワイヤーで降りていくアドラーを横目に、穴の中に静かに飛び込んだ。

アドラー > 「よろしく頼む。可能であれば動かない糸巻きも調べてほしいが、無理はなくな。
 
 言われずとも生き残る。
 こんなところで死ぬわけにはいかないのでね」

飛び込む前に懐からマナ回復のポーションをきゅっと飲む。
彼女の言葉には微笑みながらも返答するも、次の瞬間には真剣な表情に切り替わる。

ワイヤーを伝い、穴の奥へと下っていく。
そして、巣の中へと自ら飛び込んで

「あぁ、そうだ。
 "縦糸"を足場にするんだ。そこなら引っ付かない」

巣全体を揺らしながら、中央へ向かう縦糸を踏む。
横に張られた糸は獲物を捕らえるために粘着質である。
縦に張られた糸を踏めば、糸に絡むことなく移動することが可能だ。

「…さぁ、来い」

抜いた黒い剣をぎゅっと強く握り、光球の光度を強める。
巣全体を薄暗く照らす光量に調整すれば、もぞもぞと黒い大きな塊は動き出し、こちらへと向かい直る。

アラクネ > 「…!」

二人の存在、匂いは仲間の虫たちの体液によって気付かなかったが
流石に自らのテリトリーに侵入されたとなれば話は別。
目を覚まし、身体にある赤い模様が発光すると先に降り立ったコートの男に目をやる

「シャ―――ッ!!」

人間の、そして、下の蜘蛛の口から甲高い咆哮を放つ。
上半身、人間の女性の目の色は黒く、美しくも不気味な様相を呈している。
その手には長い、歪な形の剣が握られている。

下半身の蜘蛛の赤い瞳が輝き、開いた口からは糸のようなものが見え隠れする。
二本前足はカマのようになっており鉄のような鋭利な骨が光に反射する。

洞窟内で出会ったモンスターとは明らかに様相の違う相手。
それはコートの男性へと急接近し、3本の刃で同時に攻撃を仕掛ける

ノーマ >  
「……」

すとん、と羽根のような軽さで巣の上に降り立つ。
ちらりと様子を見れば、この場の主たるアラクネも流石にこちらに気がついた模様。
早速アドラーに向かっていくのが見える。

「……任せる」

ぽつ、と小さく口にすると、縦糸を器用に踏んで遠回りに糸の塊の方に向かって走る。
経糸を選ぶ不自由さと、アラクネとの対面に入ってしまえば意味がない故に仕方がないが手間がかかる。

「……剣まで、もっているか」

こちらに注意が向いているかどうか。
それを確認することも含めて、アラクネの様子を観察する。
今のところは、まだアドラーの方に夢中である。

「……後、少し……」

糸の塊までがだんだんと近づいてくる

アドラー > 「これは…ちょっと不味いかもしれないな」

巨体とスピード。手数、そして巣という相手に有利な地形。
ワイヤーを使って派手な移動をすれば、救出に勘づかれる可能性がある。
息を吐いて目を細め、ともかく"受け"に回るしかない。

「、ぐッ!」

相手が突撃してくれば、その場で跳躍し、前足の攻撃を回避。
そして人間体の持っている剣は空中で受け止めるが、魔物の膂力。吹き飛ばされて壁に激突する。
痛みで悶絶をする暇も惜しく、歯を食いしばって態勢を立て直そうとするが…

アラクネ > 前足の攻撃は防がれたが、続く剣の攻撃は受け止められつつも相手を捉え派手に吹き飛ばす。
壁に激突し、ダメージを負った様子にニヤリと笑い、左手をその男へ向ける。

「שָׂרַף」

何か言葉を発した後に、手のひらが熱く発行する。
男へ放たれようとしているのは火球。このモンスター。魔術も扱うようだ。

救出活動をしている女性には気づいておらず、コートの男性に殺気を向けている。

ノーマ >  
「……到着」

ようやっと糸の塊たちのところまでたどり着く
アドラーの方にも注意は向けるが、互いに挟む位置取りではあるがすぐには手出しもできない。
やや歯がゆさを感じつつ……当面の仕事を済ませることにする。

「といっても、なー。とりあえず、糸切って確認……か?」

蠢く糸の塊に、右袖を振って出した刃物を当てる。
すい、と刃は通るが糸が絡みついて切りにくい。

「……って、アドラー?!」

一瞬、糸の方に意識を向けた間に男は吹き飛ばされていた。
その上、畳み掛けるように魔物は魔術を行使し火球を飛ばそうとしていた。

「……間に合う、か?」

左の袖を前に突き出す。
もはや、振る動作もなく袖の奥から布も破けよ、という勢いで針の群れが飛び出し……アラクネを襲う。

「確保、完全じゃないけどこりゃちょっと、ねえ?」

女はなんとも言えない表情を浮かべていた。

その瞬間、糸の塊からは意識がそれる

アドラー > 「魔術も使うのか…そうか、魅了…」

ソルジャーアント、ジャイアントタンクビートル、エンプレス・ビー。
全てを使役できたのはこのアラクネが魔術を使えるからだ。
恐らくは魅了か支配の魔術。それに類するものを使ったのだろう。

「ダメか」

避けられない、防御はするが有効とはなり得ない。
相手が詠唱を終え、放とうとするのは火球。
その手の発光を見て半ばあきらめていたが…

「!?ノーマ!」

彼女の援護が飛んでくる。
針の群れはアラクネに突き刺さり、自身への注意が彼女へと向かう。

「作戦と違うぞ、私が引き付けると言った!」

助かった、が救出ではなく自分を優先した彼女に叫ぶ。
しかし気付かれてしまったのなら背に腹は代えられない。二人でアラクネを倒す、今はそれが最善案となった。

懐から爆発ポーションを取り出し、アラクネに投げつける。

アラクネ > 向けた手、放たれる寸前の火球。
相手が動かないのを確認してニヤリと笑うが・・

「――――ッ!?」

飛んできた針の群れが、蜘蛛の腹部に突き刺さり悲鳴を上げる。
ギロッと鋭い眼光でノーマを見つめ、手をそちらに向ける。
近くに保存食があるが関係ない。それもろとも吹き飛ばす勢いで大きな火炎玉を放つ。

が、アドラーが投擲した爆発ポーションを食らい、狙いが逸れる
火炎玉は明後日の方向へと飛んでいき、壁に衝突すると炎を巻き上げ周囲を照らす。
張っていた木の根に着火し、そのまま光源となる。

巣の下…穴の奥底にはいくつもの虫と人間のモノと思われる白骨死体が散らばっている。
一体何人が、何匹が犠牲になったのか。数えきれない。

ノーマ >  
「ごめーん、手が滑ったー」

叫び声が聞こえてきたが、へらへらと笑ってとぼけた答えを返す。
真面目がすぎるなー。まあ、約束破ったのはこっちなんだけどさ。
そんなことを言葉には出さず、心に思う。

ともあれ、相手の注意はこっちにも向いてしまった。
なんなら、保存食、なんていうものが盾にもならないこともわかった。

「やるしか、ないねえ……」

光源ができることで、なんとなく見えていた死体たちがはっきりと見えた。
どうにも、自分が一番、ほかはどうとでもなれ、みたいな手合らしい。
穏便に終われることはもうないだろう。

「ごめんついでにさー。
 役割交代しない? うちが抑えて、アドラーがトドメって感じでさ!」

そんな提案をしながら……走る。
アラクネに向かって一直線に、だ。
ぼろぼろになった袖からは……白い腕、ではなく禍々しい鉤爪を備えた手が覗く。
それは、先程から虫たちを屠ってきた、あの爪だ。

「だめ、かな!?」

その言葉とともに、鉤爪をアラクネに向かって振り下ろす。

ガギン

アラクネもまた、前足でその攻撃を受けていた。

アドラー > 「調子のいい、ことを、全く!」

彼女がへらへらと笑うと、こちらもニヤリと笑って呼吸を整える。
こうなってしまったらやるしかない。
剣に魔力を込めて、アラクネの動きを観察する。

そして明るみになった足元の白骨死体。
それらを一瞥した後に、先ほどよりももっと鋭く、アラクネを見る目つきが変わる。

この怪物は、生きててはいけない。

「わかった。期待しているぞ、ノーマ!」

彼女の禍々しい鉤爪を見て問いかけたいことはあるが、今はそれを飲み込む。
そしてアラクネに一直線に向かう動き。
自分が介入をするタイミングを見計らい、それに備えて魔力を高める。

自身の身体全体を青いオーラが包み、右手の剣は青い輝きを増していく。

アラクネ > 前足でノーマの攻撃を受けながら、縦ぶりに剣を振るう。
それを回避された場合に備え、左手の魔力を込めて

「הַקפָּאָה」‬

詠唱の後、水色に左手が発光するとノーマへ向かって冷気の攻撃が襲い掛かる。
魔力を伴うそれは、周囲の気温を下げ、まともに晒されるならば身体は凍りついてしまうだろう。

ノーマ >  
「ま、こっちの手はすべんないから、許してね」

禍々しい鉤爪を振るいながら、口だけはのんびりと場違いな謝罪をする。
爪は、両の手から……

「っとぉ!」

前足で抑えられた片方の手。
それだけで、相手は抑えきれない。
人型の方の腕が剣を振り下ろしてくる。

慌てて、もう片方の手で受け止める、が。

「もー、器用だなおまえー!」

それでも、まだ相手は怪物。
残された手から冷気の術を解き放つ。

「アドラー! もう一度、言う!
 うちは! 大丈夫! だからぁ!!」

そう叫ぶと、伸びてきたナニカがノーマの腰から袋をとり口に運ぶ。
ソレは、ノーマの裾から伸びた……何かの器官だった。

そのまま……まともに冷気を喰らった

アドラー > 「…!」

集中力を高め、魔力は最高潮へと達する。
剣身を包む魔力、熱は高まり、剣の周りは陽炎を伴う。
いつでも準備は出来ているがあの蜘蛛の視野は広い。いつ仕掛けるかタイミングを待つが…

「く、本当に大丈夫なのか!?ノーマ…!」

攻撃を受けるたびに、あるいは動くたびに服が破け、正体が露になっていく女性。
裾から伸びた何らかの器官を目にして、また袋から何かを口にした様子に疑問を抱くが
それよりも彼女の安否の方が心配だ。

チャンスはそう多くない。
今すぐにでも救援に行きたい気持ちを抑えつけながら、歯を食いしばる。

アラクネ > ニヤリ

冷気が命中した手ごたえを感じた。
相手がどのような状態になっているかを確認することもなく、剣と前足の連続攻撃を繰り出す。

いつもであれば、凍った相手が自身の膂力で砕け堕ちるはず。
もはや精密な動作は必要なく、大雑把な動きで充分

油断にも満ちた動きでノーマを仕留めに掛かる。

ノーマ > 冷気を受けた女は、その姿勢のまま立ち尽くしていた。
もはや芯まで凍りついてしまったのか……そのようにも見える。
 
「……」

正面から冷気を喰らい、その個体は凍りつきなんの抵抗もできなくなっている。
そのうえ、強力な力で攻撃を打ち込めばあっさりと砕け散る……はずだ。

通常であれば

「……」

バチン、と弾ける音がした。
その音と共に、ノーマの全身から火が起きる。

「この程度ぉ!!」

鉤爪の両腕が炎をまとい、再動する。
勢いよく振られるたソレはアラクネから繰り出された剣戟と、前足の鋭い一撃を受け止めた。

「どっかの雪山にはさー。
 油だかで体を覆って寒さに耐えて雪に潜んで、毛皮であったかーく過ごしてる動物を刈り取る変な魔獣がいるんだってさ!
 ま……そいつの一匹はうちが、喰ったんだけど。あんたにゃ関係ないか」

ニヤ、と……女は今までにない獰猛な笑みを浮かべる。
端正な顔が、今はどこか獣じみて見えるかもしれない。

「負ける気はないけど一対一じゃめんどくさそうだね、あんた。
 腕に魔法に、器用すぎでしょ。こっちは魔法なんて使えないんだからズルいよねー。
 でも、残念。間が悪かったねー」

ノーマの裾から伸びた……硬質の尻尾らしきものが、アラクネに絡みつく。
まるで、逃さない、とでも言うように。

「うちは今、一人じゃないんだなーこれが」

アラクネ > 困惑している。
こんな生き物を見たことがない。
人間は何人も殺してきた、人間以外も殺してきた。
いつもこうすれば死ぬはず。だが目の前の人間は死んでいない。

人間ではない。
人間ではない。
人間ではない。

「――――ッッッ!」

相手の異様さ、そして獰猛な笑みに気圧されているうちに彼女の硬質の尻尾に拘束される。
金切り声にも似た叫び声をあげ、身を捩るが、逃げられない。

そして近づいて来るのはこのモンスターにとっての死の光。

アドラー > 「…!…ははは、見せてくれる。流石は私の戦友だ」

バチンとわずかに見えたのは火花
そして、燃え盛る彼女の鉤爪。とって置きの策に笑顔がこぼれる。
剣戟と前足の攻撃を受け止めた様子に目を見張り、呼吸を整える。

駆ける。
真っすぐと自分の敵の方へ。

彼女が作った絶好のチャンス、それを逃すわけにはいかない。
魔力の籠った剣を強く握り跳躍する。

「眠れ」

接近し、繰り出すは目にも止まらぬ連撃。
剣を振るった際に発生する魔力の残光がアラクネを通過する。
敵には一切の傷が付いておらず、男は反対側の縦糸に着地する。


「…ふぅ」

魔力の放出をやめ、腰に黒剣をしまう。
呼吸を吐いて糸の塊の方へと向かっていく。
アラクネはその様子に一瞬困惑するも、背を見せた獲物にニタァと笑顔を見せ、手を向けるが

スッ

アラクネの身体に線が入る。
身体の力が入らず、どんどんと崩れていく。
体液が噴出し、次の瞬間には身体はバラバラに砕け、細かな肉片となってぼとぼとと糸の隙間を落ちていき
白骨死体を体液の色である紫に染めた。


「お疲れ様、ノーマ」

彼女の方を振り向き、ピースをしながら笑顔を見せる

ノーマ >  
「……うわ、えっぐ」

目の前でバラバラになるアラクネ。
いかなる剣術か……は、なんとなくわかるが。
完璧に見えていたかと言われると、ちょっと自信がない。

ともあれ、脅威はこれでなくなったわけだ。

「はー……と、やば」

勢いよく足元にダイブして、転がる。
体中についた火がまだ残っていたのだ。

「……よし、と。はい、お疲れアドラー。
 やー……色々見せちゃったねぇ」

ピースをして笑顔を向ける男に、こちらも笑顔を向ける。
もう、先程までのような獣の表情は消え、どこかゆるいいつもの顔になっている。

「……いや、もういまさら引く、なんて話でもないか。
 にしても……うん。替えの服、やっぱ考えたほうがいいかー」

様々な姿、様々な攻撃……そして、様々な攻防を経て、すっかり色々とぼろぼろであった。
かろうじて、服としての体裁は整ってはいるが……

「まさか、ここまでやることになるとは思わなかったなー。
 そのうち、これじゃすまなくなるかもねえ」

やれやれ、と盛大に溜息をついた。

「ちなみに、アドラー。そっちの塊。中身はどーなの?
 切れ目だけはちょっと入れたけどさー」

そういえば、と思い出す。
少し切ったところでアドラーの救出に入り。ついでにアラクネ退治までしたのですっかり放置していた。
……冷気とか、そっちいってないよね……?避けてたらまずそう、までは考えたんだけど。

アドラー > 「あぁ、それは良いが、怪我はないか?」

見たことに関しての考察は後ほどで、色々と無茶なことをやっていた彼女。
服もかなり破け、下手をしたら大事なところが見えてしまう。
パッと見た様子では怪我はなさそうだが…あれだけの攻防をして無傷なのも凄い。

「だろう?胸元などが破けてなくてよかった」

あまりじろじろと相手のことを見るのも失礼だろうと思い目をそらす。
まぁ、彼女に至ってはそのようなことで恥ずかしがるような人物ではなさそうだが。

「あそこまで器用に戦うアラクネは特殊だろう。
 今回はむしろ運がよかった。場合によっては仲間を呼んでいたかもしれない」

懐からナイフを取り出し、人を包んでいる糸を器用に引き裂く。
冷気や火炎の影響は受けてはいないが、密閉空間のストレスと数日の絶飲食は精神・身体を衰退させており、息が浅い。

「辛うじて生きてはいるが、救出を急ごう。
 このままでは死んでしまう。君はこの人たちを上まで運んでくれないか」

彼女へそのように告げながら、他の塊へと急ぐ。
時間が惜しい、糸を引き裂くのは担当し、彼女には上へ運ぶよう頼む

ノーマ >  
「怪我は……細かいのは色々と。
 ヤバいのはないから、平気平気。
 アドラーこそ、景気よく飛んでたけど大丈夫?」

あくまで表面上は無傷に見えるが、細かい傷や怪我がないわけではない。
なんなら、中身も……ではあるが、性質上、タフにできている。
それに、多少なら再生力でごまかすこともできる……のだが。

そこまで説明するとめんどくさいので、とりあえず流しておく。

「別に見られて減るもんじゃないけどねー。
 でも、気にしないといけない、んでしょ?」

先程言われたことを思い出す。
いや、一応丸裸があんまりよくない、くらいはわかってるけれど。
服着てればよくない、と一瞬思ってしまうのだ。

「仲間……仲間なんてゾッとしないなー。
 流石にそれはものすごくめんどくさそうだ」

三日くらい寝ずに戦えばいけるかもしれないが……そうもいくまい。

「うん?上に? ああ、任せて。
 よいしょ、と」

指示された通り、糸の塊から取り出された人を軽く抱えて上まで運び上げていく。

アドラー > 「やや鈍痛は続くが、骨の罅までには至っていないだろう。帰るまでは耐えられる」

思いっきりぶつかった背中はやはり痛むが、それに苦しんでいる暇はない。
とにかくここを脱出するまでは油断できない。アラクネが一体と限ったわけではない。

「その通りだ…ま、その格好なら辛うじて……王都につく頃にコートを貸す」

辛うじて平気、かと思ったが多分少し風が吹けばダメになるだろう。
自身が身に着けているコートを貸すと彼女へ言い放つ。
服を着ていても、だめなパターンが存在する。今回がそれだ。

「ともかく、急ぐぞ」

そうして救出作業を進めていく。

自分が安否確認。
彼女が運搬で役割分担をして、最終的に生きていたのは3名。
10代に見える少女、若い青年。
そして初老の男性。初老の男性は貴族であり、当初の依頼目標でもあった安否確認・救出を達成。

その後は周囲の安全を確保しながら、時に戦闘を繰り広げて3人を王都まで搬送することに成功。
ギルドに成功報告をすると貴族の救出を成功したことにより、追加報酬が発生。多額の金銭を受け取ることができた。

「…まずは、君の服を買う所からだな」

報酬の使い道について、自身のコートを着ている彼女を見て、そのようにつぶやく。
何はともあれ、彼女との初の協働での依頼は大成功で終わった――――

ノーマ >  
ここまでくれば、あとはもう流れ作業。
言われた通り、せっせと人を運ぶだけ……なんだけれど、これ入り口まで……どころか王都まで連れて行かなきゃか

「……案外、帰りのほうが大変そうだなあ」

そんなことをぼやく。

「むー、やっぱこれじゃだめかー」

そんな中、コートを貸すと言われれば……まあ、そんなものかと理解。
やっぱだめか、これ

そして、散々苦労した結果は……成功、だったらしい。
よくはわかっていない。
とにかくそれなりの金額の報酬をもらったらしい、というのはわかった。

「ああ、服……そうか。
 まあ安物でいいよ、どうせまたボロになるし」

実際、そうしてボロに近い服装でいたのだから。
その辺はきっと、色々なせめぎあいをすることになるのだろうな、と少し思った。

まあ、ともあれ無事、初のパーティー行動は成功に終わったのだ。
あとは、ゆっくり楽しんで休もう。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 モンスターの巣」からアドラーさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 モンスターの巣」からノーマさんが去りました。