2023/11/14 のログ
チーリン >  
「そうなのですか、不思議ですねえ」

賜る機会がなかったと聞けば、それこそ不思議だと首を傾げる。
その後の言葉には、ありがとうございます、と丁寧に礼を返した。

「そうでしたっけか。
 どうぞ気になさらず。
 僕は巻き込まれたとも、迷惑とも思っていませんから」

ただゆったりと、気遣うというふうでもなく自然にそう告げるが。

「ああ――やっぱり僕は迷子になっていたようですね」

あなたの反応を見れば、ほんのり眉を動かし、可笑しそうに口元を抑えただろう。

「はい、暫くは留まろうかと思いまして。
 僕と共に生きて頂ける伴侶を見つけたいと思っていたのですが。
 これでは先が思いやられますね」

そんな旅の目的を打ち明けつつ、あなたに手を引かれながら、ぼんやりと笑っていた。
 

リセ > 「普通、なぃ、です……
 ぁ、いえ…多分、文化圏の違い、でしょうか……」

 特殊な表現に気づいていないように見えて本音が零れるが。
 ちょっとあんまりかも知れないと思い至ってはそう注釈して。

「ありがとうございます……お優しいん、ですね」

 心が広いと云うべきか。そしてマイペースに行動している様子が少し羨ましく映った。
 人の顔色を気にして機嫌を伺いながら時に自分を殺すような自身の心理とはまるで別の場所にその人は存在するように見えて。眩し気に目を細め。

「え。と……そ…ですね……ここは王立学院の近くなのですが、このまま進むと富裕地区の方へ出られていたかと思います。……この宿の場所は平民地区の方ですので……」

 逆へ来ている、と憚りながら出来るだけまろやかな表現で伝えては頬に手を当てて小首を曲げて。

「伴侶……ですか……? え、と……随分お若く見えますが……あの、お急ぎになるご年齢には思えません、が……」

 街灯の下を歩きながら時折後ろを伺い。
 街の灯りに照らされる容姿は配偶者を得るにはまだ尚早と云えるような年齢に見受けられ。身長に至っては小柄に類される己よりもさらに小さい。
 少し不可解そうにまばたきをし。

チーリン >  
「リセさんは素敵な女性だと思いますがねえ」

文化圏もあるが、おそらく感性もどこかズレているのかもしれないが。
その言葉は心底不思議そうな言い方になっていただろう。

「なるほど……反対方向ですね。
 いやあ、僕に迷子の才能があるとは思いませんでした」

ははは、とふわふわとした笑い方をして、頭を掻いていた。

「ふふ、そう見えるのなら幸いですねえ。
 ただ困ったことに、これでも随分と長生きでして。
 共に時間を過ごしてくれる方を探しているのですよ。
 ……そうですねえ。
 例えばリセさんのような、穏やかな心の方はやはり好ましいです」

あなたと共に手を繋いだまま、特に何かを隠すでもなく、ありのままに答えた。
 

リセ > 「え? あ、あの、その……きょ、恐縮、です……」

 さらりと口にされてしまって、一瞬虚を衝かれたような顔をした後。
 かぁ…と頬を紅潮させて、恥じ入ったように俯いてもごもごと小さな声で返答し。

「割と……そう、ですね……あのままお進みになられていたら、到着時刻は先になっていたかも知れません……
 あ、あの、お越しになられた、ばかり、ですし……その、知らない街、ですから、え、と、あるある? です……、きっと、たぶん……」

 ずばり方向音痴でしょう、とはとてもいえなくて。
 土地勘がないのだかたやむを得ないことだと頼まれてもいないのに庇うが、語尾辺りは庇いきれない云い回し。

「わたし…よりも年下に見えますが……。
 そうなの、ですね……
 え? え…? ぃえ、そ、んな……わたしは、ただ、気が小さい、だけで……人に悪く思われないように、と…そんな事ばかり考えている、弱い人間に過ぎません……」

 穏やかな心、と良い様に解釈していただいているらしく、それはありがたいと思うが。
 実際のところは気弱で自信のない矮小な人間だ、と云っていて落ち込んできたように項垂れて。

チーリン >  
「あるある、でしょうか。
 これがいわゆる、方向音痴なのかと思いましたが」

一生懸命に言葉を選んでくれている様子に、目を細め。

「ええ、実はリセさんのおじいさんよりも長生きかもしれませんねえ。
 おや」

言葉尻が段々と暗くなっていけば、目をしばたたかせ、繋いでいる少女の手に、もう一方の手も重ねるだろう。

「本当にそれだけの人間でしたら、僕に手を差し向けてはくださいませんよ。
 リセさん、あなたは確かにまだ小さな蕾かもしれませんが。
 蕾には必ず花ひらく日がくるのです。
 リセさん自身が、諦めてしまわなければ」

そして、手を伸ばして少女の前髪をそっと除けると。

「僕はリセさんがのびやかに花開く事を信じています。
 あなたは、あなたが想う以上に、とても魅力的な女性なのですよ」

 そう言って、柔らかく笑いかけるだろう。
 

リセ > 「ど。どうでしょう……わたしの、口からは、なんとも……
 な、慣れれば、大丈夫ではないでしょうか……」

 明言するに憚られたように目線を外し。
 もしも慣れて来てからも迷うようならばそうなのかも知れないが。
 現時点ではそう決めつけられも出来ないだろうとは思い。

「そ、それは、随分、ですね……では、伴侶の方も、長命ではないと、いけないでしょう、ね……」

 人間離れしているのは最初からの印象だけれど、本当に人間ではないらしい。
 そんな感じもしていたので驚きは強くなく、ああそうなのだとすんなり受容して。
 繋いだ手に手をさらに重ねられれば、目を瞠って。

「でも、それは、わたしの、都合、でもありますから……
 華……、ですか……。
 きっと、咲いたとしても小さくて目立たなくて、ありふれた花、になりそぅ、ですが……
 ……でも、そんな詰まらない花だとしても、目に止めて、気にかけてくれる……そんな人がいてくれたらいいな、と思います……」

 項垂れていた額に掛かる前髪を払う指先に顔を上げて、そんな控えめな希望を口にすると、小さく笑い返すように表情をふんわり和ませて。

「ありがとう、ございます……魅力的、なんて、本当に、滅相もない、ですが……
 チーリンさん、は嘘は言わないと思う、ので……少しはそう、見えているらしいと……思う、ことにします……」

 魅力を自負するのはおこがましい気がしたが。その言葉を否定するのは失礼にも思えて。
 はにかんだようにほんのり紅潮して肯き。

チーリン >  
「ああ、とてもいいですね。
 今の表情はとても素敵です。
 僕を信じてくださるのなら、今より少しだけ、ご自分を愛してあげてください。
 昨日の自分を、今日の自分を――そうしたら、明日はほんの少し、見える世界も変わってくるでしょう」

はにかんだ少女の愛らしさを知るのは、きっとこの国にはまだほとんどいないのだろう。
そう思うと、随分な幸運が舞い込んだものだなあと、目じりが緩む。

「……というわけでして、僕はリセさんをとても好ましいと思うのですよ。
 ああ、よければ学業を修めましたら、僕の伴侶になりませんか?
 リセさんのような方は、心の底から幸せにしたいと思ってしまうのです」

ぼんやりとほほえみ、僕の悪い癖です、と。
当人はまた手で頭を掻いているが、適当な事を言わない相手だという程度には信じてもらえるだろうか。
 

ご案内:「通学路」にリセさんが現れました。
リセ > 「あ、ありがとう……ございます……
 す、素敵……、です、か……? そ、そんな風に云っていただけること、なぃ、ので……嬉しい、です……
 ……自分を、ですか……?
 好きに、なる、には……もう少し、しゃんと、しないと、いけません、ね……」

 意志薄弱でいいところよりも悪いところばかり目立って自信を持てない。ついでにクラスではハブかれている。
 自己肯定するにはいろいろと自己改革が必要そうで少し微苦笑するように頬を緩め。
 ていれば、思わぬ科白に表情が呆気に取られたように固まる。
 全身も硬直したように停止し。

「……………………………え?」

 聞き違い?
 伴、侶?
 先程出会ったばかりのはず。
 いくらなんでも、そんな訳は……。
 頭の中で口にされた言葉を反芻させて混乱の渦中で。
 ぱくぱくと口を開閉させ。

「…………あの? わたし、何か、聴き間違えたかと……思う、のですが……今……なんと………?」

 こんなに速攻の嫁取りが存在するだろうか。
 する訳はないと帰結して、そうか、おこがましいこと極まりないが何か聞き違いをしたらしい、と胸に手を当てて深呼吸をしてから、微笑を浮かべる一見子供に見える相手へ遠慮がちに訊き返した。

チーリン >  
「おや、訛ってしまいましたでしょうか」

呆然としている少女に、不思議そうに首を傾げながら。
まったく的外れな事を言い。

「リセさんに伴侶になっていただけたらよいな、と。
 もちろん、学業を修められてからの話になりますが。
 リセさんを心から幸せに思えるようにしてさしあげたいと、想ってしまいましたので」

ぽやん、とどこか気の抜けた雰囲気だが、先ほどと同じことをゆっくり、はっきりと言い直すのである。
 

リセ > 「…………………」

 もう一度確認した。
 聞き違いではなかった。
 一層驚愕の渦に溺れた。

「………、あ、あの……そ、その……はんりょ……とは、配偶者……婚姻の相手、という……意味の……伴侶、でしょう、か……?」

 知る限りそれ以外にないけれど、欠片もぶれずにプロポーズ……と思われる科白を告げていただき。
 さすがに予想外過ぎてやはり確認を取ってしまわざるを得ない。
 どこか呆けたような表情のまま、恐る恐る尋ねて。

チーリン >  
「そうですねえ、婚姻、配偶者、夫婦、表す言葉はいくつかありますが。
 そのいずれと取っていただいても、間違いありませんね。
 ああ、今すぐと言うお話しではありませんので、婚約になるのでしょうか」

どうして茫然とさせてしまっているのかわからないのか、首を傾げる。
とても不思議そうにしてから、繋いだ手を顔の高さまで上げて。

「ふむ。
 やはりこちらでは、指輪を用意するべきでしたでしたか。
 言葉だけでは意味が伝わらないのですね」

などと、とぼけた事を言い出す始末だった。
 

リセ >  ぱくぱくぱく、と魚のようにただ開いては閉じる口。
 声にならないし言葉にならない。

「……………」

 合っていた。その意味の伴侶だった。
 そう認識するとより一層の衝撃が走る。
 いくら何でも電撃が過ぎて、マイペースにつないだ手を持ち上げて、指輪の有無など気にするその目の前で。

「―――……」

 ふらー、と大きく傾いて頽れていく身体。
 余りのことに感情が追い付かず、過眠症の発作…と云うよりもほとんど気絶のように気を失って倒れ。
 
「……………Zz」

 そのまま道端で。すう…と寝息を立てる。
 起こそうとすれば可能だろうが。放っておかれれば気が済むまでは寝ているだろう。

チーリン >   
「――おや」

幸いにも手を繋いでいたから、倒れ込ませる事はなかったけれど。
なんとか咄嗟に支えた身体を、見かけによらず軽々と両腕で抱き上げて。

「ふむ、これはまた珍しい病気ですね。
 リセさん、起きれますか?
 聞こえますか?」

そう声を掛けながら、道行く人に、地図を見せては宿を訪ね、何とか宿までたどり着くだろう。

「リセさん、お宿につきましたよ。
 次はあなたを送りたいのですが……。
 聞こえますか?」

そう、歩いてる最中も声をかけ続けてはいたが、はてさて。
宿の前に着いて、少女は目を覚ましてくれるのだろうか。
 

リセ >  思わず意識が吹っ飛んで行ってしまうような衝撃。
 幸いにも地面に倒れ込まずに両腕に抱えられて、すやすやと夢の中に逃避して寝息を立てていた迷惑な過眠症。

「…………zzz……」

 しばらく眠り込んでいたものの、ヒュ――と吹き抜けた鋭いほど冷たい風と根気よく呼びかけられる声に、うぅん……とむにゃむにゃ唸って瞼をぎゅっと閉じ眉根を寄せ。

「っふ……ぁ…………
           ………ん…?」

 眠っている間にも着々と逗留先の宿へと進んで行っていたようだが。
 ぼやー。と目が開いたのは宿に到着してからか。
 茫、としたまましぱしぱと睫毛を上下させ。

「………あら……?」

 ぼんやりしたまま、まだ夢見がちなままの双眸でそちらを見上げ。意識は夢の中に半分置いて行ってしまっているのか酷く鈍い反応で小首を傾げ。
 現状を把握していないように、きょとん……としていた。

チーリン >  
「ああ。よかった。
 目を覚まされましたね」

いわゆるお姫様抱っこな腕の中で目を開けた少女に、安心したように微笑みかける。

「なんとか宿までは来れましたので、今度はリセさんをお送りしたいのですが。
 案内していただけますか?」

そう、先ほど並んでいた時よりもよほど近い距離で訊ねた。
 

リセ > 「………。え……。
 え、あ。す、すみませんっ……わたしっ……」

 どうやら急激に襲ってきた睡魔に抗えず眠り込んでしまったらしいと判れば目を開いて慌てたようにぺこぺこと急いで頭を下げ。
 抱えあげられている……とその体勢に気づけば顔を真っ赤にして。

「ぁ、ぅ……は、はぃ……その…本当にすみません……、あ、歩け、ます、から……」

 真っ赤になったままぎこちなく肯き。
 降ろしてもらって大丈夫だと焦りながら伝えてもうまともに顔を見れる気がしない、と俯いた。

チーリン >  
「いやいや、気にしてはいけませんよ。
 眠りの病は仕方のないものですから。
 手の届く場所でよかったよかった」

そう言いながら、歩けると聞けばそっと下ろすのだが。

「ふむ、顔が赤いですね。
 冷える時間です、熱などはありませんか?」

と、少女の顔を覗き込みながら、額に手を伸ばすだろう。
 

リセ > 「で、でも……本当に、申し訳なく……お、お恥ずかしい限りで……
 あの、あり、がとうございました……」

 倒れた衝撃などはないし、その前に受け止めてくれたのだろう。
 急な症状なので驚かせたかもしれないと申し訳なさそうに紅くなりながら身を縮め。
 降ろしてもらって少し頼りない足取りながらも佇むと。

「だ、だい、丈夫、です………恥ずかしい、だけ、です、から……
 ぁ、あの……さ、先程の、こと、ですが……」

 額に手が触れるが、熱いのは頬や耳元なので発熱の異常さは感じられなかっただろうが。
 気恥ずかしくて火照ってしまいながら。
 有耶無耶にしてしまうべきかどうか逡巡しながら口を開いて……は、意気地がない様にやっぱり有耶無耶に…と口をつぐんでしまい。

チーリン >  
「ほう。恥ずかしい、ですか」

少女の額から手を離して、なにか驚くような事を聞いたように目を丸くして。
そしてふたたび、やんわりと目じりが緩む。

「恥じらう奥ゆかしさ、とても愛らしいです。
 リセさんの可愛らしい姿までを見れるとは、今日の僕は、どうやら運がいいみたいですねえ」

怠け者の表情筋が口元を緩ませ、ほんのりとにこやかに。

「先ほどのお返事は、急がずとも、リセさんの思うようにされてください。
 それに、僕とリセさんでは、価値観も大きく違う事でしょう。
 お互いをよく知る時間と言うのは必要です」

今更な事を言いつつ、改めてうやうやしく少女の手をとる。

「ですが、いずれ伴侶に迎えたいと思ったのは本当です。
 ですのでこちらを……」

少女の手に、そっと金細工の櫛を載せる。

「僕の知る文化では、こうして櫛を送るのを求婚の印としていました。
 こちらをどうされるのも、リセさん次第ですが。
 まずはどうぞ、受け取ってくださいませんか?」

そう、膝をついて少女の手に櫛を握らせると、微笑んで少女を待つように見上げた。
 

リセ > 「………滅相もあり、ま、…ません……より一層………恥ずかし、くて………
 穴があったら入りたい、です……いっそ今から掘って埋まりたい……」

 羞恥にとうとう両手で真っ赤に染まって茹ったような顔を覆って。
 本当に穴があったら躊躇なく飛び込んでいそうな空気感。
 ふる、ふるふるふる、と顔を覆ったまま、そんなことないです、見っともないところをお見せして、と首を振っていた。

「や、っぱり……夢、ではなか。った……んです、ね……
 ぁ、あの……そ……あ。ぅ、はい……お、お互い、のこと、まだ、何も、知りません、し……こ、これから、幻滅させて、しまったり……思ったのと、違うことも、あるか、と思い、ます。ので……
 も、もう、少し、よく、お考えに、なられた方、が…いい、かと思う、のです……」

 間違いなくある、絶対にある。伴侶にすべきじゃないと思うことなんて多数見えてくる、はずだ、と確信的な心境で。
 顔を覆っていた手を取られると、おずおずと手を委ね。

「え………?
 い、いえ、でも、こ、こんな高価な物………ぇ、っと………」

 どきどきばくばくと心臓が早鐘を打ち沸騰して蒸気すら湧きそうに顔を赤くしながら、金の櫛を握って驚いたように目を瞠り。
 しかし、跪いて微笑を向けられると、そのまま突き返してしまうのも憚られ。

「………ぁ、の……で、では……お預かり、して……おき、ます……
 こ、今後……王都でもっと、相応しい方、も現れる、かと思い、ます、……その時はお返し、致します、ので……
 い、今は……大事に預からせて、いただき、ます、ね……?」

 急なことでなかなか心臓が落ち着かず。緊張して声は上擦って吃音混じりにそう伝えると櫛を大事に両手で握って。

チーリン >  
「それでは、穴があったら塞がなければなりませんね」

愛らしい姿が見れなくなってしまいます、とにこりと笑い。

「ご安心ください、急かすつもりはありません。
 学業に差し障っては申し訳ないですしね。
 ただ、僕からリセさんに幻滅する事はありません。
 幻滅されるとしたら、僕の方でしょう」

ふふふ、と微笑みながら、動揺し困惑しても櫛を受け取ってくれる様子に、とても和やかな表情を浮かべる。

「値段など気にされず。
 僕が長い時の間に作った物ですから。
 何かがあれば、売ってくださっても構いません。
 それに一つではありませんから」

これまで幾つも売られてきました、とどこか楽しそうに話す。

「いえ、その櫛はもうリセさんに贈ったものです。
 伴侶は一人でなくてはいけない決まりはありませんし。
 リセさんが僕に幻滅されましたら、いつでも売るなど焼くなどされてください」

などとにこやかに話すのだから、早速価値観の大きな違いが出てきてしまっていた。
 

リセ > 「……掘る以外の選択肢を奪わないでください……」

 自信を埋めてしまえるほど掘り返せる体力は、正直にない。
 愛らしくないですから……とやはり首を振りながら穴は取っておいてください…と情けなく妙な懇願を市。

「あ……、はぃ、あの……すぐにどうこう、ではない、ですものね……
 げ、幻滅、なんて……あの、チーリンさんは、とてもお優しい、ですし……素敵な方だと思います……」

 幻滅されることはあっても基本他者に悪感情を抱くことは少ないのですることもないだろうと、穏和に微笑する、一見幼い少年に見えるが時折妙に大人びる、不思議な相手を見つめ。

「え、あ、わあ……て、手作り、なのですか……?
 すごい、です……い、いえ、売る、なんて、とんでもありません……っ」

 いくつも、と聴けば量産、そして伴侶は一人ではない、という科白に妙に合点がいった。
 なるほど、とぽん、と手を打って。

「そ、そうです、よね……所謂、側室、お妾、二号……いえ、もしかすると十号くらいかも知れませんが……
 わたし、第十夫人くらい、ですよね、得心しました。
 なるほどです、弁えました」

 笑顔で語る様子に納得がいって。握っていた櫛を差し出すと、

「その、何番目かの伴侶さん、きっと素敵な方が見つかると思います。どうか良い出会いをなさってください」

 やはりお返しします、と新たな出会いを心から祈ることにして。ファイトです、と陰ながら応援の構え。拳を握って。

チーリン >  
「おや、おやおや」

櫛を差し返されてしまうと、困ったように腕を組んで首を傾げる。

「いえ、いえいえ。
 僕にはまだ伴侶はいませんし、それは王族や貴族の考え方になるでしょう。
 僕にとって、伴侶にしたいと思う方に、一も二も、上も下もありません。
 それに、序列があるのだとすれば、この街で最初に声を掛けたリセさんこそ正室であるべきでは」

ううん、と真面目に考えるあたり、やはり随分とズレがあるようで。

「……ここで返されてしまうと、正直とても落ち込んでしまうのですが。
 もうしばらく、持っていてはくださいませんか?
 リセさんが僕を見定めてくださる間だけでも」

そう言いながら、だめでしょうか、とどことなく寂し気に言う。
それでも返すと言えば、大人しく櫛を返されるだろうが、はて。
 

リセ > 「この勢いで仰るので……てっきりとんでもない数の伴侶勢がお控えなのかと……
 え、と……その場合でも、わたしは末席でまったく、問題、ありません、が……」

 そう判断しても無理のない、まさに人間技ではない速度の伴侶への勧誘であった。
 もはや何かの勧誘を受けたような心理状態になり、逆に落ち着いてきて、もう全然眠くもない。先ほど一寝入りしたことだし。
 櫛を返そうとしたが猶予を訴える言葉に少し考え込むように首を傾げ。

「………分かり、ました……では、やはり、お預かり、しておきます……。
 でも、本当に伴侶にしたいと心から思う方が現れた時は、どうか特別な金の櫛をお渡しになって下さいね。
 さすがに、量産された品は差し上げない方がいいと、思うのです……」

 例えば『実は君の他にもう30は配ったよ、いくらでもあるから要らないなら好きにして』と云われて浮かれる者は多くはないような気もするから。
 そう静かに伝えて、取り敢えず淋し気な表情に気弱さが勝ってその櫛を一旦は収めることにし。ありがとうございます、と丁寧に頭を下げると。
 もう大分遅くなってしまった、そろそろ帰らないと家人が心配するだろうと気が付いて、早々に帰路に就くことにするだろう――

チーリン >  
「いやいや、思い立ったのもつい最近の事ですので」

どうやら、価値観の大きな違いがある事には得心がいったようで。
ううん、と悩むように眉間に皺が寄ってしまった。

「なるほど、そういうものですか……。
 しかしそれ以上に特別な物となると、僕に用意できるものでしょうか……」

とても長い時間をかけて用意した櫛の数々である。
たしかに数はあるが、一つとして同じ品はないのだ。
というところで、なるほど、伝え方が良くなかったのかとようやく理解したところで。

「ああ……すみません、遅くまで引き留めてしまいました。
 夜道は危ないと聞きます。
 ちゃんとお送りしますので、どうぞお手を」

そう言って、改めて少女に向けて手を差し出すだろう。
 

リセ > 「やっぱり、まだ、わたしのはチーリンさんのことは……良く分かりません……
 チーリンさん、もそうでは、と思うのですが……
 伴侶と云うものが触れ合うだけの関係、であるならば、とても分かり易いお申し出です、が……」

 どちらかと云えば愛人の意図かと思い始めていて、それこそ文化の違いで伴侶とされていたのかと解釈がある。
 そうでもそうでなくても、伴侶を決めるタイミングではないのは確かだと結論づけて。

「……いえ、すみません、こちらこそ……お気を遣わせてしまいまして……

 よろしく、お願い、します……」

 差し出された手を遠慮がちに取るとそのまま自宅まで送ってもらい何事もなく帰還したことで。

ご案内:「通学路」からリセさんが去りました。
ご案内:「通学路」からチーリンさんが去りました。