2023/10/14 のログ
ご案内:「王都近郊/森」にマーシュさんが現れました。
ご案内:「王都近郊/森」にヴァンさんが現れました。
マーシュ > 王都近郊の森。秋の色に染まりつつある森の中は、常緑樹と広葉樹が林立し。
さりとて自然地帯ほども鬱蒼としてはいないのは、狩場としても人の手が入っているからなのだろう。
落ち葉の積もった柔らかな地面。時折野栗鼠が走り抜けてゆく。

葉の落ちた樹上にヤドリギが丸く茂っているのが見受けられ。

─────頭巾布のない普段の修道服姿、大きめの籠を手にした女がそれらを見上げる。
邪魔にならないように軽く束ねた銀の髪がその挙措に背で揺れている。

普段はあまり森に入ることはないのだが──それでも森で手に入れるほうが早いものもある。
そんなことを普段の会話でこぼしたら、興味をそそられたらしい相手の言葉に甘えて連れ立って訪れてみたのだが。

「───思ったより紅葉が進んでいますね、探しやすそうです」

実りの時期。
食べられる野草も、食べられない野草も。
葉の落ちた樹木がわかりやすく在りかを伝えてくれると言葉を向けた。

ヴァン > 男が森に入ることはあまりない。
男の仕事は大半が街中でのものだし、週末冒険者でも街道沿いがせいぜいだ。

「紅葉するのはもうちょっと先かと思っていた。綺麗なものだな」

森の浅い部分にはこの時期平民が行楽も兼ねてよく訪れる。
夏が終わり、冬に向けて変わっていく季節は動物の姿もよく見えた。はるか遠くに鹿の姿が見える。

「ところで――今日探すのはどんな薬草なんだ?」

男は掌サイズの本――といっても、綺麗に製本されたものというよりは誰かのお手製といった風だ――を持っている。
ジャケットのポケットに入る程度の大きさだからか、本にしては携帯が便利そうだ。
ぱらぱらと開いてから渡した。野草の外観を言葉とスケッチで説明しているもののようだ。
季節を問わずに載っているようなので、お目当てのものがあるかはわからない。

「春にヨモギをたくさん採ったら、別のも採ってた、ってことがあったなぁ」

遠い目をするあたり、ろくなことにならなかったのだろう。今日は自分より詳しい人が隣にいるから安心と思っていそうだ。

マーシュ > 街に近い森、というのは基本的に狩猟場として整えられていることもあって、基本的には貴族の持ち物だ。
───ここは貴族の代わりに主教が所有権を持っている場所だが、運用方法としては似たようなもの。
しかるべき時期には狩猟なども行われているだろう。

野生動物の気配が濃いのは、基本的に祭祀の時でなければそういった狩猟が行われないからだろうが。

「寒くなってまいりましたし。……ヴァンは風邪などひいていませんか?」

せんだっての醜態を忘れたふりで嘯きながら。葉の落ちている場所よりは、常緑樹……緑の多く残る場所へとその歩みは向ってゆく。
人の気配の薄い場所、天気は良く。降りてくる陽ざしは心地いい。

「何を、とはあまり考えていませんでしたが。ここなら───。」

そばの低木に向ける眼差し。枝についてる緑の葉の一つを手にして、香りを確かめるように顔を寄せる。
ヤドリギを落とすにはまだ少し早い時期だから、足元の野草や、山葡萄などを持ち帰ってもいいですね、とゆるりとした言葉をややあってから返す。

書付のようなものを手にしてるのに視線を流して、それは?と問いを向けた。

「ヨモギは香りが強いですから、あまり間違えなさそうなんですが…?」

いったい何を摘んだんだろう、とその遠い眼差しに首をかしげる。

ヴァン > 「今の所は。もうちょっと寒くなると身体を温めるために紅茶にウイスキーを入れたりする」

やや少し間があったのは、酒にまつわる返答をしようと考えたのだろう。
空が見える場所から、所々日陰のある場所へ。定期的に人の手が入っているのか、魔物の気配もない。
葉の香りを嗅ぐ姿に、続く言葉を待った。
私的な場ではそこまででもないが、衆目のある場所で修道女が髪を晒す姿は比較的珍しいように思う。
映像記録用の魔導具を持って来ればよかったか、と思ったが後の祭りだ。

「山ぶどう……」

呟きながら、周囲を見渡す。森について不案内な男がすぐ見つけられる場所にあるとは思わないが、どうしてもやってしまう動き。
高い場所など、取りづらい場所になっていたら手助けができるだろうか。
ヨモギは香りで判別する、と言われると男はぐ、と詰まった。

「役に立つ野草をまとめたものだ。昔、といっても故郷を出てからかな。誰かからもらった。
形が似てたからぽいぽい籠に詰め込んでた……食べられないものだけじゃなく、毒草も混じってた」

マーシュ > 「香りがよくなりますし。少量なら……きっと、ちょうどいいんでしょうね…?」

直近で失敗したばかりなので、若干目をそらす女は。まあそれもいつか、あるいはすでに笑って話せる程度の思い出になってるといい。
己はお茶に少量、こういった場所で採取した薬草を代わりに入れてますね、と香りづけや効能についての話にふれる。

香りも、効果も様々だから、己に合うものを選ぶのがいい。相手にとっては酒精がそれだったんだろう、なんてからかうような色を帯びた声音で。
さしあたっては、目的の草木を探すように視線を滑らせる。
同じように視線を向けて探してくれるのなら、山葡萄ならこの辺、と少し上のあたりで、つる植物がはびこっていそうな枝ぶりの多い場所を告げる。
小さくて、黒っぽい果実が密集してるのがそれですね、と特徴を告げながら、がさりと茂みに分け入ってゆく。
そんな大雑把な仕草をとるせいか、女は汚れてもいいようにいつものお仕着せのワンピース姿。
ウィンプルなどがないのは作業の邪魔にならないように、なのだろう。

ヨモギにまつわる言葉に詰まるのに、己は変なことを言っただろうかなんて不思議そうな目を向けたが。
相手の言葉には少し目を瞠って、それから、軽く頷いた。

「慣れてないならそんなものではないでしょうか。……毒、は、まあ……大丈夫そうですけど」

己よりも神聖魔術の巧みな相手は、解毒も行っていたことなどを思い返しての言葉。
手にした香りのいい葉を一つ取り上げて、差し出した。
その辺の低木についてる葉のように見えるが、ふわりと独特の香りが届くだろう。

ミルテス(祝いの木)、ですね。これもお酒を造るのに使ったりしますし、香辛料の代わりにもなりますよ」

ヴァン > 「あまり入れすぎると折角の紅茶が台無しになるからね。数滴ぐらいでいい」

若干目を逸らす姿にふふ、と笑う。お茶に薬草を入れるという話には納得するように頷いた。
薬草そのものをお茶のように淹れることもありそうだ。
からかう口調には頬をむに、と摘まんでみたくなるが、やめておいた。街に戻ってからすることにしよう。

「……あぁ、これか……?」

ぶどうと同じように房のようになっている。ダガーを取り出して丁寧に茎を切り、籠に入れる。
ちょっと視線を動かすとぽつぽつと実がなっている部分もある。同じ植物なのに面白い。
ヨモギの話で思い出す。確か――。

「ヨモギ、ニガヨモギ、オウコクヨモギ、トリカブト……たくさん採ったよ。
仕分けをしてくれる人がいたから問題にはならなかったけど」

今であれば解毒の魔法も使えるが、まだ若い頃の――実家にいた頃の話だ。
野草を採るなど貴族らしからぬ行いをなぜしていたのかまでは思い出せなかった。

「白い花をつける奴か? 結婚式とかでよく見る。酒……ジュニパーベリーもあったりするのか?」

祝いの木、という言葉で紐づいたのは花だった。
酒と聞いて故郷の酒を思い出す。ただ、あれは確か針葉樹だった。このあたりにはなさそうだ。

マーシュ > 「────……ハイ」

微笑ましそうにされるのに、先日の醜態を思い出してるんだろうな、とは思うが。記憶が新しすぎて否定ができない。
こちらの言葉には納得したような頷きが返されるのは、数度そんなようなお茶を振舞ったこともあるからだろう。
彼の予想通りに、それだけを配合したものを作ったりもするが、そちらは風味に好き嫌いが出やすい。
……不埒な考えのほうには思い至ってはなかったが。今ここでその応酬に走ったら、草の汁まみれになることは想像にたやすい。

「ええ、それです」

己では地味に伸長が足りない位置。果肉は破れやすいから、仕切り用の布を籠に敷いて柔らかくくるみこもう。
店で売られている葡萄としての姿とは似ても似つかないが、薫り高いのは同じ。
目が慣れたら、見つけるのはたやすい。似たような場所に似たような姿でぶら下がっているものだから。

「…………薬、というより毒作りになってません…?」

毒でも少量であれば薬にはなる。なるが扱いは難しい。
仕分けの人の腕がよかったに違いない話ではあるのだが。

「ええ、それですね。実は……こんな感じなのですが」

相手の言葉に頷いた。一般的にはそんな花の姿が一番記憶に残ってるだろう。
花も、枝も祝いの席に、あるいは女神にささげられる花として。
つい、と枝を引っ張って、液果状の果実を見せる。徐々に黒っぽくなっていった頃が食べごろなのだと告げた。
熟した果実のついた枝をいくつか、手にしたナイフで落とす。

「────」

小さく歌うように聖句を述べて。
根こそぎ持ち去らないのは、あくまでも秋の実りを分けてもらっているからだ。

「探せばあるような気もしますね。このあたりよりは、もう少し奥?」
この辺りは日当たりがいい。寒さを嫌う低木が多くあるのはそのせいだろう。
もっと奥の緑の濃い場所であれば、見つかる気もする。
目的らしい目的があるわけでもないし───。

「探してみます?」

散策がてらではあるが、冒険のようで楽しいし。
その最中に気になった野草があれば己は採取もできるから。

ヴァン > 「結構、丁寧に扱わないといけないんだな」

仕切り用の布が敷かれるのをみて呟くが、考えてみればここで採って終わりではない。
背負ったまま街へと戻るのだから、その間揺れる籠と果実が擦れたらどうなるかは想像がついた。

「素人に集めさせるくらいだったから、仕分けはしっかりしていたと思うが……。なんで集めたのかは思い出せないな」

差し出された実も色は違えど形には覚えがある。
先程の山ぶどうの茂みには所々、動物が食べたような跡がある。
一方で人が刈り取った形跡はない。主教の所有ということで地元住民も理解しているのだろう。
そういった道理が伝わらない者達――ゴブリンをはじめとする魔物や山賊、ならず者に近い冒険者もいないようだ。

「いや、やめておこう。この森は安全なようだが、それなりに広いんだろう?マーシュがわかる範囲で動いてもらえれば」

男には土地勘がない。森の中で迷うのはこの軽装備ではいささか心許ない。
平地が多い地域なので方角さえわかっていれば街道に出るのは難しくないが、それでも起伏や茂みで行動は制限される。
慎重な意見を言うのは、意外に思われるだろうか。

マーシュ > 「せっかく採っていただいたものが、使えなくなってしまうのはもったいないでしょう?」

葡萄は、潰れやすいものでもあるし、となるべく他の野草の上になるように移動させながら。
籠を複数持つのは非効率。収納術や、保存の術、そういったものに明るければいいのかもしれないけれど。

「……急に薬が必要だったんでしょうか。ヴァンの……故郷のお話ですよね?」

思い出せないと言っている以上それはここ数年の話ではなさそう。森に人が手を入れる理由は様々あるから己もよくはわからない。
単に薬種を作る話であれば、備えとして定期的に行うこととして不思議はないが。
獣との境界を敷くためにも、そうやって人が痕跡を残しに入るというのはおかしくはない。
それが人通しのものであっても同じだ。

この森の痕跡はとりあえず問題がないのは相手の様子が普段と変わらないことからも感じられた。

「私も……この森は長く入ったことはないので、奥のほうは不案内ですから」

慎重な意見に対してはゆるく瞬いたが、奥に入って獣を刺激してしまってもよくない。
己は戦闘に長けているとはいいがたいから、きっと足手まといになるだろう。

ミルテス、アンゼリカ、キャロブ、とそれなりに食用に適したものが手に入るのはそう整えた誰かがいる、ということ。
原生林とは違うのは確かだ。自然の生育には任せてあるようだが。

その合間に山葡萄やアグリモニ、とこまごまとしたものも採取してゆく。
己は良いのだけれど───。

「退屈してませんか?」

籠の半ばまでをそういった薬効や食用のある野草や、香草といったもので満たしながら問いかけた。

ヴァン > 籠に入れるのを感心しながら眺めている。
男が持ち運ぶものは本が多いが、本独自の収納術は確かにある。
普段関わることが少ない物だからこその発見、というべきだろうか。

「確か集めるように言ったのは――父じゃないな。母だったか。
領地で何かあったなら、地域の住民に金を払ってとってこさせればいい話だ。当時子供の俺がやったのは――――教育、か?」

故郷での話という言葉に頷いた。歳は十かそこらだったろうか。
色々と考えて一つの仮説に思い至る。似ているが異なるものがあること、間違えると大事になること。
今でも記憶に残っているのだから、もし教育目的だったのならばその試みは大成功だったのだろう。

「あぁ、なら尚更だ。熊はここにはいないだろうが、猪なんかと出会うと大変だからな……」

おそらく、主教はかなり厳しく密猟者を罰しているのだろう。
貴族が所有している森での密猟は通常縛り首だ。主教がそれ以上のことをしていても驚くには値しない。
その結果、山菜や薬草なども部外者に手を付けられることがなくなった――とみるべきか。
山賊などはそもそも野草にあまり興味を持たないだろう。そういう連中だ。

「……いや?」

不思議そうに問い返す。何かを採る度に解説めいた話を彼女はしてくれる。
知識を得るのは楽しいし、何より。

「マーシュと一緒だからな」

歯が浮くような台詞をさらりと言ってのけた。

マーシュ > 軽いものや、潰れると困るものを上に持ってくる程度の工夫ではあるが、それでもしないよりはマシなのかもしれない。
相手が普段持ち運んでる書籍も、明らかに容積より多く運んでいるように見えるから、そのあたりは慣れによる習熟度というべきか。

「────いいお母さまですね」

記憶を手繰るような言葉に対して。
ただ座学で学ぶよりも、実地で覚えたほうがいいこともある。
野草類は、その生育環境から似たような特性と持つものもある。
香りがあったり、なかったり。少し葉のつき方が違ったり……。
姿かたちは似ているのに、逆の特性を持つなんてこともある。
そういった学びがあれば理解しやすいだろう。

己もこうした知識は一人で学んだわけではない。先輩だったり、そういったことに造詣の深い人を招いて学んだりした。
でも、指触りや、香り、時にかじってどんな味がするかなんて言うのは実際にそうして覚えるほうが身に着きやすかった。

「………逃げられる気がしませんね」

猪、という言葉にしみじみと返す。
パーティーの人ごみに流される程度の己には、あの速度についていけるわけがない。
人よりも獣の多そうな森だからきっと、そちらの危険性のほうが高いだろう。

己の問いかけに否定が返るのには少し意外に思った。
己の話は特に面白いものではないし、ただの知識で機知に富んだ言葉でもないから。

「…………………」

次いで紡がれた言葉にはさすがに黙した、が。じんわり頬が染まるのを自覚する。
かすかな吐息はそんな熱を逃がそうとする抵抗として落とされた。

「……私もですよ」

小さく返して、じゃあ彼方に行ってみましょう、と相手の袖を引いてあるきだすのだ。
植物学者に二度とは食べたくないと名付けられた苺の木ですよ、なんてどうしようもない野草を紹介しながら。

ヴァン > いい母、と言われると曖昧に笑った。
父との不和が続いた中で、だいぶ心配をかけた。
その原因を解消した彼女に対して母が向ける感情は並大抵のものではない。
一度彼女と母は話したことがあるから、その時の印象もあるかもしれない。

「落ち着いていればいいが、興奮状態だと真っ直ぐ向かってきて、捕縛の呪文も効果がない時があるんだ。
そういえばどこだったか、最近巨大化した魔猪が討伐されたとか街の噂で聞いたな」

捕縛は大地から手が伸びて足を掴む、移動を妨害する呪文だ。猪自身のあまりの早さに、掴まれた脚が耐えきれなくなるのだ。
結果、三本足の猪がタックルをかけてくることになる。ただでは済まないだろう。

紡いだ言葉、相手の頬が染まるのがわかる。
深い意図がない、思ったままを口にするというのは存外効果があるようだ。自分自身も照れくさくなるのが欠点だが。
袖を引かれながら耳にした言葉に対し、つまり一度は食べてみろってことかと返しながら。

マーシュ > 一度言葉を交わした…といっていいのだろうか。
声だけの印象ではあったが。─────好意的ではあったのだろうと思う。
総じて、息子への心配や、近況についての質問攻めにあっていた気はする。
……話が終わらなくて、手紙で近況報告をすることを約束してようやく解放してもらったのを思い出した。

その”息子”へとちら、と視線を向けて。あいまいな笑みを浮かべているのにこちらも口許を笑ませた。

「────それは、その。壮絶ですね……?」

興奮状態の獣というのは総じて厄介だけれど。それが手負いになったらさらに手が付けられなくなりそうだ。
魔猪についても通常の大きさでそれなら、討伐はかなり大変だったんじゃないだろうか。
家畜化されていない猪には立派な牙が生えていることくらい己も知っていることだ。
時折、狩人がそうした牙や、鹿の角での負傷をして運び込まれてくることもあるし。

「……熟したのがあるといいですね」
この時期だとまだ少し早いが、丁寧に育てられているわけでもない。生育状況にはばらつきがあるだろう。
気恥ずかしさをごまかしついでに、それを探すのは悪くはない。

日が暮れる前には森を後にして、その恵みの恩恵にはあずかることにしただろうけれど──。

ご案内:「王都近郊/森」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都近郊/森」からマーシュさんが去りました。
ご案内:「ダイラス近郊の森」にジギィさんが現れました。
ご案内:「ダイラス近郊の森」に影時さんが現れました。
ジギィ > ダイラス近郊、一大歓楽街を擁する巨大都市も、農場などを抜けて多少離れればそこには森林が広がる一角もある。
潮風の影響も多少あるのだろう、自然地帯ほど樹木は密生しておらず緑濃くはないが、その代わりに見通しは良く野党なども少ない。多少魔物への対処法など知っているならば、散策するにはうってつけの場所だ。
そのせいか
野生の小動物がとみに多く生息しているようで、昼前の木漏れ日が差す森の中は、鳥の囀りと小動物の駆ける音、鳴きかわす音が少なくない。

あまり風のない中ちらほら落葉する葉もある、そんなのんびりした雰囲気を、ざくざくと落ち葉を踏みしめる足音。
銅色の肌と紅茶色の髪の毛を下エルフは、早くも紅葉した気の傍にいると溶け込んでしまいそうである。
当のエルフは先ほどから足元に視線を落として、目を凝らしてはたまにしゃがみこんでいる。

「―あー……やばい。 ぴーちゃんどっかいった……」

うーん、とうめく様に声を漏らしてしゃがみこんだエルフは、ほんのすこししまった、という顔をする。
『連れてきた』といった方が良いのか『持ってきた』といった方が良いのか、宝石と鉱石で出来た小さな生き物を見失った。
活発に動く手合いだったらいいのだが、ともすればすぐに卵型になって転がるクセがあるので、落ち葉で彩られた中に潜られると大変厄介である。
…厄介である、と、確か一緒に森を訪れている相手に忠告をされていた気がする。

(聞かれたかなー)
とは思いつつ白々しく、しかし驚くほど上手に口笛で鳥の鳴きまねなどしながらエルフは立ち上がって、気ままに散策するするふりを続ける。
足元を見ているのは、薬草詐取、+αのためである。

影時 > 主に王都を行動範囲の中心に置くが、こうした土地も嫌いではない。
単純に見所があるということもあるが、どうしてこのようになった、成立したか、等と思いを馳せてしまう。
嗚呼、もっと他に意識を払う理由が最近出来てしまっている。
住処の同居者にして子分たる小動物達のうち、片方が特に外に出かけたがっている。

「おぅい、スクナ。あンまり勢いよく走り回るな。抱えたものを落っことすぞー」

木漏れ日が差す森の中、長閑とも平和ともとれる情景の中、赤と茶色が濃くなりつつある景色を一匹の獣が走る。
ちっちゃな白い法被を着こんだシマリスだ。
思う存分走り回っているように見えて、手あたり次第に木の実を拾いまわっている様を見下ろす姿が二つ、ある。
一つは柿渋色の羽織を黒色の動きやすそうな装束に重ね、腰に刀を差した黒髪の男。
もう一つはその男の頭の上。四肢を拡げて張り付き、ぺたーんと尻尾を垂らしたモモンガである。
モモンガも栗鼠と同じ法被を着ているのは、何者かに飼われていることの証なのだろうが、さて、飼われ飼わされているのはどちらか。

声をかけられた栗鼠が気づいたのか、男の足元まで走り寄れば、抱えた団栗をその場に落としてきらきらおめめで見上げるのだ。
持ってくだせぇ親分、とも、もっと素直に“もってて!”と云っているのかどうか。
無視すると思いっきり落胆するのを知っている男は、仕方ねえなァ、という体でしゃがみこみ、羽織の袂から小さな布袋を取り出す。
その布袋に集められた団栗を一個、二個、と収めてゆく。それを見終えればまた、栗鼠が走り出すのを見送れば、

「――さっきから、どうしたンだ? ジギィお嬢様よう」

ともすれば秋の紅葉に紛れ、溶けてしまいそうな色の持ち主にしゃがみ込んだ姿勢のまま問いかけよう。
ダイラスに冒険者の依頼として手紙を抱え、ひとっ走り伝令に赴いた際、薬草売りをしていたのを見かけて声をかけたのだ。
一か所の土地の秋の産物では、何か物足りげな毛玉コンビのためを兼ねて、薬草採取を兼ねた散策へと共に赴いて今に至る。
しかし、はて。ぴーぴー鳴く何かが居ないような、見当たらないような?
親分たる男よりも、頭上でぺったり休んでいるモモンガのほうが察しが良いらしい。耳をぴくぴくさせつつ、ほわ、と溜息を零す所作は――男の目からは見えない。

ジギィ > 「ンー ちょっとね。 落ち葉の下に隠れてるキノコとかないかなーと思って」

エルフが当て所ない足取りで、ともすればぐるぐると回るように歩き回っている傍らを颯爽と駆けぬけていく白法被姿。それを見送ってから、掛けられた声の主の方へ振り返って見せるその笑顔は『お嬢様』然としたもの。ふふふ、とか、ほほほ、とかその口元から零れそうなものだが、森の中で見せるものとしては聊か取り繕いすぎかもしれない。

その視線が彼の頭の上のつぶらな瞳とぶつかると、一瞬ウインクしてSOS信号を送ってみる。

『ひーちゃんも探してよー』

『おやぶん』を通り越してそんな通信を試みた後。エルフはぐるぐる歩き回るのを再開する。
彩からして紛れるなら、この辺りのはず。万が一踏んづけても大丈夫、なんだったら100人乗っても大丈夫(大きさからして無理だろうが)な点は非常に安心絵ある。

(カゲトキさんのほうが先に踏んづけちゃったりして)

とか脳裏に思いつつ

「カゲトキさん、冬に南方にバカンスとかいったりしないの?」

相変わらず視線を足元に落としつつ、世間話を振ってみる。
後頭部から背中にかけて当たる日差しが、ほんの少し冷たい空気の中で気持ちがいい。

(…昼寝にかこつけて寝転がって、その間に精霊に探してもらおっかな)

そう思ってしまうくらい、踏みしめる足元も柔らかだ。

影時 > 「さよか。茸、茸ねぇ。
 ……確か、二日くらい前に雨だったらしいから、生えてきてるンじゃねえかな」
 
欲しいものが無いかどうか、隅々まで探したい性質なのだろう。
あと、それに加えて街暮らしというのは、どうしても今走り回る様な山野の空気が偶に恋しくなるらしい。
大きな邸宅の庭先やら、学院の中庭といった処で走り回る二匹の様子はとても楽しげに見える。
気を抜けば、直ぐに見えなくなる勢いな白法被(ミニ)が、エルフの傍を効果音付きで駆け抜けるのを見やりつつ、首を傾げる。
地勢もあるのだろうが、栗鼠が拾い集める団栗のいくつかは、しっかり乾いている――とは言い難い。

おぜうさまめいた表情は、“なーンか、あるな”と察したのか。
ついつい真面目に受け答えを送った後に感じる気づきに、思いっきり首を捻りつつ立ち上がろう。

『あっしは休むのに忙しいでやんすー』

とくりくりおめめを瞬かせ、親分の所作にもぞもぞと頭にしがみつき直すモモンガが尻尾をぱたん、ぱたん、とさせて。

「お、なンだ?どうかしたか?ヒテン。
 ……南のほう、かあ。生憎そっち方面にはあてが無くてなぁ。
 俺の雇い主やら学院の課外講義次第では、出向くかもしれねぇが、――何か面白ぇ話でもあるのか……ン?」
 
その仕草に気づいた男が上目遣いで頭上に声を遣りつつ、ふられた世間話に胸の前で腕を組む。
子分たちの越冬やら生態次第では、温かい処に出向くのも必要かどうか考えるべきか。
否、同時に優先せざるを得ない、または意向を汲む必要がある諸々も色々ある。
だが、南方でのバカンスというワードは寧ろ、貴族ともかかわりある雇い主たちなら、もっと詳しいのではないか?
そう思いつつ、新しい落ち葉や腐葉土が積もっているのか。
足跡が残りそうな地面を踏み締めれば、爪先にこつん、と。何か小石にしては大きい何かが当たった気がした。

ジギィ > 「あーん、そういうのじゃないの。 水はけが良いところで日当たりいいとこに生えるやつなんだけど、あんまり大きくなって傘がひらくと香りが飛んじゃうんだよねー」

真面目に返答してくれた彼の言葉に、おまけで目標にしていたキノコの特徴を答える。
確か急斜面とかのほうがよかった気がするが、そのキノコが生えやすいという、松の木が密生している場所はあったので、もしかしたら、と思っていたのだ。
このエルフの住んでいた森では見かけたことがなく、噂を聞いただけのそれを探すのは宝探しのようなものだ。
見たこともないが食材として高く売れるらしい、ということもあって好奇心が勝り過ぎた。足元をよちよち歩いていたはずの姿が落ち葉に紛れ込んでいったのは、果たしていつのことだったのか。

『えーっ、けち!今度オニグルミお土産に持っていってあげようと思ってたのにー』

エルフは器用に視線と唇のカタチだけでモモンガとやり取りをすると、太い眉尻をさげてまた足元に視線を落とす。
その視線の端をまた白い法被姿が駆け抜ける。食料の採取だけでなく、なんだかウキウキするものがあるのだろう。

「ホラ、寒くなると冒険者向けの依頼も減ってくるでしょ? その間南方にでも行けば、変わった面白い依頼とかあるんじゃないかなーと思って…
 ―――ン?」

冬になると依頼が減るのは、去年街で過ごしてみて分かったことだ。エルフはその間戦場向けの薬を調合して回って何とか口に糊したのだが、どうにもコチラの戦場は肌にあわない。
何度か味方にいろいろな意味で襲われそうにもなったこともあって、できれば今年はそういったことは避けたい。

などなど、器用に心を割いている方とは違う話題を彼に振っていると…一瞬脳裏をよぎった予感が当たってしまったらしい。

「あ――――――カゲトキさん向こうに―――栗の木がある!」

エルフは彼の方を振り返りざま、その彼の背後に向かって指さして見せる。
同時に大股で彼の傍らまで近寄って、彼のつま先に当たったものを派手な足取りで舞い上げた落ち葉に埋もれさせようと試みた。のだが。

『――――ピィ!』

ふだんの態度からすると、クレームの反応は驚くほど速かった。
宝石と鉱石でできたコガモは、鶏の卵大とはいえど重いし固い。ローリングアタックをされると、そこそこダメージがある。

ごん!と鈍い音。当たったのは――――彼のつま先だったかもしれない。