2023/10/15 のログ
影時 > 「ふむ?……あー、なンかその類で思い当たるのが一つあるぞ。珍味な奴。松の木がまとまってたトコがあったよな……」

件のキノコの特徴を聴けば、山育ちなお陰で思い当たる節が一つある。
苦楽が染み込んだ忍びの里の近くの山、その山野を成す森でも生じていた食用に足るキノコのことだろうか。
独特の芳香はこの国の人間には合う合わないがあるようだが、合う人間は珍重する類に相違ない。
あれ探すの結構手間なんだよなぁ、としみじみと思い返せば、吐息も漏れる。

『……仕方ねーでやんすなぁ』

そんな中、アイコンタクトでエルフと器用に会話するモモンガが報酬交渉?に負けた、のだろう。
もぞもぞと親分の頭の上で立ち上がり、ぴょいと飛び上がる。
四肢の被膜と法被の裾を拡げて、優雅な動きで滑空し、近くの木にしがみつけば器用にするすると登ってゆく。
それを頭が軽くなった男が見上げる中、その足元をもう一匹の白い法被姿が走り回る。

「確かに。遺跡探索にしても、道中で雪が積もると行くだけで億劫になるしなあ。
 一風変わった草花やら、遺構の類を探りに行くのも――……考えると、気になりだしていかんな」

冬の仕事は、工夫やら何やらしないとままならない。
雪が降り積もるタナール砦に駐留する傭兵の真似事は確かに金にはなるが、その分地獄だ。
襲撃が起こり、攻防戦が生じるたびに、それこそ紙切れのように生命が軽く吹っ飛ぶ。運が無ければそれで死ぬ。
かといって、冬の下水掃除も誰も好まないが故に在りつける労働依頼だが、悴む手足に加えて諸々危険がある。
ある程度懐に余裕がある冒険者なら、文字通り河岸を変えて仕事を求めだす勢いだろう。
後援者、パトロンとも呼ぶべき雇い主が無ければ、間違いなくそうしていたかもしれない。
王国に至るまでの旅の最中、通り過ぎた南方の記憶を掘り返していれば、――其処に声が響くのだ。

「――栗の木? 丁度いいな。スクナとヒテンに食わせてやりてェとおも、っ、ごあっ!!」

街中で採取された栗が売られているのも見かけるが、こうして山歩きで毬栗を拾うのだって趣がある。
市場で籠に盛られて売られてる栗を、おねだりするように見る二匹の切なそうな目線を思い出したところに、何か当たった。
エルフが指差す先に振り向こうとしたところに、革で包まれた爪先に何かこつん、と。確かに当たった。
だが、その当たった何かが自分から攻撃してくるとは、思うまい。
如何に忍者といっても、認識できない、認識が遅れた何かに対しての行動には、どうしても後手にならざるをえない。

「おま、っ。いつのまに居たンだ。こら、止めろ。帰ったら集めといた鉱石喰っていいから、な?」

産まれからして硬い輝石を抱いていたコガモは、小さいナリに反してとても硬く、みっちりとしていた。
足を思いっきり踏まれたか、めいた痛痒に呻きつつ、嘴でごんごんと爪先をつつく仕草にそう声を上げる。
遅れて探し物に気づいたのか、モモンガがひらりと地面に降りてくる。
ご機嫌斜めな後輩と親分の間を取り持つように、まあああ云ってることだし、と、てしてしと前足でコガモの肩を叩くのだった。

ジギィ > 「えーほんと? どこどこ?
 なんか、王城の知り合いが欲しがってたんだよねー。割といいお値段で引き取ってくれるみたい…だけど、珍味なら私もちょっとたべてみたいなー。香りがどうのってのは聞いたけど…
 カゲトキさんは食べたことあるんだ?」

彼に件のキノコの特徴を告げてみると、探したことがある風情に加えて食べたこともある様子。
貴重なものだろうと金銭に変えるに忌憚はないが、珍しい味だというなら一口食べてみたいとは思う。

効いたのは必死な嘆願かそれともやっぱり賄賂か。賄賂な気がするなぁ、と思うエルフはオニグルミの採取を頭の中で予定に取り付ける。
2匹のことだから皮をむいていなくても大丈夫だろうが、折角なら良いものを見繕ってあげたいところ。

(…次回以降の袖の下にも使えそうだし)

エルフはするする木登りをしてゆく法被姿にウインクひとつ送った後、すこし首を傾げてモモンガの分頭が小さくなった彼の方を見た。

「ねー、 気になるよね。
 私、森を出てからまだ王国の辺りしかうろうろしてないからさー それこそ噂とか歌とかでしか、向こうの事知らないんだよねー」

エルフは彼と違って純粋な戦闘要員としてヒトの世界に混じったことは無い。それでも冬の冒険者や傭兵の姿を垣間見ただけで、その辛酸さは察するに余る。
幾ら手取りがよかろうと、命あってのものだね、健康第一である。

「あ――――― あ――― あー…」

色々遅かった。というより思いのほかコガモが素早かった。
彼のつま先にストライクを決めたコガモの表情は伺いづらいが、ピィピィ姦しいところをみるからにご立腹だ。
先輩たるモモンガに宥められて、ようやくぷすーっと膨らませていた胸を落ち着けて、『鉱石、本当ですよね、有機物の混じりものだったら承知しませんからね』とでもいっているのか、それともまだぶつぶつとクレームを付け加えているのか
ともかくピィピィピィピィひとしきり騒いだ後、よちよちとエルフのつま先まで歩いてくるところんと転がってそのまま文字通りの卵型になった。
もうおねむである、ということなのだろう。

「ぴーちゃんさー、人使い意外と荒いよねー…
 あ、カゲトキさんごめんね? よかったら後で打ち身用の塗り薬あげるから。女子受けする香り着きだから、ナンパにも使えるよ。
 栗、どうしよっか――― ぁ」

エルフは屈みこんで卵型を拾い上げ、腰に付けたポーチにしまいつつ、監督不行き届きだったことは棚上げして彼に親切を装う。ついでにひーちゃんもありがと、と喉元をくすぐっておいてあげよう。

栗の木は本当である。かなり前から気づいていたが、いろいろあって(主に探し物)言いそびれていたのだ。
その少し遠くにある栗の木を再び見やると、その視線の下をびゅーんと駆けていく今一つの法被姿。

「あー すーちゃん、ちょっと待ってよちゃんと持って帰ってあげるからー
 ……カゲトキさん、トゲとか結構平気なタイプ?」

エルフは一目散に駆けていく姿を見送ってから、真顔で彼を振り返って見上げる。
素手で持ち帰らせるつもりだろうか。

影時 > 「待て待て。俺もざっと見でしかないから、少し戻って見直す方が良いだろうなぁ。
 ……確か、落ち葉が腐れて出来た土が積もって無ぇトコを真っ先に見極めなきゃならん。
 
 数度は、な。炭火焼に吸い物、御飯に混ぜて炊いたり……いかん。思うと腹が減っちまう」
 
故郷の土地にのみ自生する類、種ではなかった――ように思う。
聊かの違いはあれ、恐らくは記憶にある独特の芳香を放つものであるに違いない。
貴族や豪商の間では、異国趣味に走る者が多い。その中で珍重されるキノコを求める者が高値を付けるのだろうか。
風味を落とさずに持ち帰れば、ちょっとした小遣い稼ぎになることは疑いない。
だが、運よく沢山採取できれば、その半分くらいは自然の恵みに感謝しながら食べたいものだ。
思うだけで、酒が進みかねない衝動を自覚すれば、はっと我に返って、大きく頭を振ろう。

お前ら知らねェか?と問おうと思えば、鼻が利く二匹はどちらもいない。
とったかたーと木登りするモモンガの背を仰ぎ、あとで聞くか……と思うエルフと毛玉たちのやり取りは知らぬ顔であった。

「海を渡る覚悟と勢いで南下すりゃあ、砂地やら荒地に遭いそうだが、そこまで下るのもアレだな。
 順当に王国の南方辺りを巡って、風土やら遺跡やらを見回るトコロから初めてみるとイイかもなあ……」
 
冒険者は信用第一である。手っ取り早く金策と貢献を集めたいなら、国の守りにかかわる依頼を請ける方が手っ取り早い。
手っ取り早いのだが、それに増して危険がそれこそ報酬に比例して増してゆく。
人命が風に吹かれるだけで散る花のように儚いのは、古今どの地でも変わらない。
偶には、そう言った血腥さより離れるのも――悪くあるまい。生命を賭けるのは大義ではなく、自分とその周辺のためくらいで、いい。

「……寝た、か。いつの間にンなトコに居やがっただか、ったく。
 別段荒いつもりも何も無い筈なんだが、よう。薬は、あとでくれ。一休みするときに試させてもらう」
 
鉱石産まれのコガモは作りからして表情を伺い辛い分、姦しい程のアクティブさで自己主張してくる。
音色も違うぴぃぴぃさ加減は文句をぶつぶつ宣っているのか、どうか。それを宥めるモモンガと一緒に見下ろす。
がしがしやられる爪先は裸足だったら、はだしてどうにかなっていたコトやら。冗句にするだに恐ろしい。
疲れたのだろう。ころんと卵型になったそれを拾い上げるエルフの言葉に、くしゃくしゃと髪を掻き、大きく息を吐く。
ナンパは余計だなぁ、と肩を落としつつも、厚意にはかたじけない、と応えよう。
喉元をくすぐられれば、えへん、と言わんばかりにふんぞり返るモモンガがよぢよぢと男の体躯を登り、左肩に留まって。

「……あ、あるな栗の木。 
 どーにかやる手段は幾らでもあるが、爪先でこう、やってな。中身を拾う方が手っ取り早いかね」
 
肩上のモモンガが、前足で親分の顔を軽くつつく。つつかれた方を見れば、栗の木に目掛けて走り、毬栗の間を踊るシマリスの姿が見える。
歓喜の小躍りか、それとも催促してるのか。
沢山あれば背負子でも引っ張り出したい処だが、まずは落ちている個数も確かめておきたい。
見上げる目に靴底の爪先でいがを抑え、割る仕草を身振りして見せたのち、子分が居る方に歩いてゆこうか。

ジギィ > 「やったー 返り道に忘れないでよね!
 あーいいな、食べたことあるんだ。ごはんに混ぜるの?フーン?」

エルフの知る『食べられる』キノコはどちらかというと淡泊なものが多い。 だから天日干ししたりして風味を強くするとかしていたような気がするが…
このエルフが専門にしていたのが薬種になるようなものだったので、実際食用のものにはとんと詳しくない。
ただ興味はとてもある。香りの強いものは、薬種になるものも多いから…かもしれないし、ただ単純に食い意地かもしれない。

「えー 砂漠とか常夏とか、そこまではいかなくてもさー
 まあ南下すれば即暖かい所、ってこともないのかもしれないけど、寒いってわかっているところに留まってるのもナンだしね。
 そういえばご飯の種(戦争)があるからついついこっちばっかり見ちゃうけど、王国も南の田舎とかどんな雰囲気なんだろうねー」

柔らかいモモンガの喉元をくすぐってやってから改めて卵に戻った己の……ペット?というのとはちょっと違う。うーん、同居人?
まあそのイキモノに触れるといかにも固い。 たまに触ったとき暖かいときがあるのだが、今はちょっと怒ったあとだからなのか、やっぱり温かい。

「そうだねーイツノマニイタンダロウネー
 ぴーちゃんもまるちゃんたちも、生活するうえで必要だからっていうか…なんかそんなつもりなんだろうけど。
 まだよくぴーちゃんの性格わからないからさー そのうち『ぴーちゃんと仲良くなる週間』とかつくってみよっかな」

前半やや棒読みで返答をして、『ぴーちゃん』をしまったポシェットをぽんぽんと叩く。
生態にも謎が多いが、まずは性格を知らないとお互い一緒に暮らすの大変だよねという意向だ。唐突にやってきた偏屈な親戚のような気分である。

「へー 栗ってそうやって取るんだ?まー確かに手だとすごく大変だよね。
 故郷だと『栗爆破係』とか居たなー」

彼に引き続く様に栗の木の方へと歩く。エルフが気持ち、弾むような足取りなのは 降り注ぐ日差しと、まだ泣きかわす鳥たちの声に混じるようにハミングをしているせいだ。
森の中にあった里でももちろん栗を食べたが、もはや一つひとつ拾うということは無く、つるりと剝くことが出来る、そういう祝福を受けたものが居た。
つるりと剝くのになぜ『爆破係』と呼ばれていたのは、はてなぜだったろうか?

そのあと、彼に栗の取り方を教わったり
再び起きだしてきた『ぴーちゃん』に栗をつついてみてもらったり(派手に穴が開いた)、ひとしきりその場で食べた毛玉コンビがお昼寝を始めたり

時折小枝を揺らして風が通る中、深まる秋とその実りを堪能する時間はゆっくり過ぎていくだろう。

影時 > 「あいよ。とはいえ、運任せだなこりゃ。……空振りの可能性は覚悟してくれや。
 売りもの、行商に流した後の余りか、あとは――宴席の時、だったか。
 
 覚えてる限りでも色々工夫して食べれるキノコ、だぞ。刻んで米と一緒に炊いた奴とか、格別だったなぁ……」
 
薫り高い食用のキノコはと問われて、間違いなく筆頭となるのがアレであろう。
出汁にできるキノコも匂いが良いものの、何かと推されるものは想像する品できっと間違いない。
手持ちの範囲でどうにかなる、となると炭火焼か、それとも鍋釜借りての炊飯――か。醤油が欲しくなる。

「砂漠も向こうの風土やら風俗を知ると、中々に頷ける処はあったが……ちょっと得意じゃねえなあ。
 とはいえ、冬場は諸々慣れてきた中堅どころになると、稼ぎが難しい季節には違いねぇやな。
 あー、それは俺も気になる処だ。火の国、火山でもある処だったら、温泉でも湧いてねぇかなあ」

故郷から海を渡り、陸地を西に西に進む際、東南の国と砂漠の地を踏み越えてきた。
それぞれの風土や風習、文化は理解し難い点は幾つかあれども、土地柄を知ると幾ばくかは腑に落ちる点も多かった。
だが、そういった物見遊山よりは、渡り鳥よろしく冬を凌ぐ、寒さが和らぐ地をもとめての提案だろう。
子分の片割れの栗鼠が冬場は動きたくない、冬眠してしまうかもしれない可能性もあれば、何らかの方策も必要だろう。

「ははは、本当にイツノマニイタンダロウナー。
 ……いやまぁ、そもそもの成り立ちやら何ンやらを思うと、気難しくなっちまうのかねえ。
 俺も正直よくわからん。餌付けの手段から、改めて考え直さなきゃならンか」
 
その棒読みは毎度ながら如何にもあやすぃ。ついつい半眼でエルフをぢぃと見つつ、棒読み口調で切り返す。
子分たちの性格、生態に離れてきたが、成り立ちからして生き物ではないぴーちゃんは謎が盛り沢山だ。
何か貴重な鉱石やら魔術鉱石の欠片でも買っておけば、ご馳走になるのかどうか。

「やっとこや厚手の手袋がありゃ、掴み採りしても良いンだが……結構落ちてンなあこりゃあ、
 爆破って穏やかじゃねえな。何やらかす係なんだか」

手袋は兎も角、破産で摘まみ上げられるような用具の類が生憎手持ちにはない。
弾むような足取りの主を肩越しに見やり、日差しの下に見える姿を改めて見据えよう。
諸々あって足先も痛いが、おおよそとしては――実に平穏、そのものである。鳥の鳴き声も切羽詰まるような響きは無い。
栗の旨味、味わいは異種族でも共通らしいが、爆破とは?一体?
そんなことをに首を傾げつつ、思ったよりも毬栗が散乱している様相に、収集心を大いに刺激される。
先日仕立て直したばかりの雑嚢より、入らない筈の大きさの背負子と籠を引っ張り出し、先程述べた方法で栗を拾おう。
割り切れないものはひとまずタオル越しに掴んで拾いつつ、起きたぴーちゃんの嘴の威力や実食する毛玉コンビを拾って背負子に収めたり。
そして、そう。例のキノコの生育の確認と採取に勤しんだり、と。

穏やかな時間を日の傾きと共に感じつつ、秋の実り、豊饒の一端を堪能しよう――。

ご案内:「ダイラス近郊の森」からジギィさんが去りました。
ご案内:「ダイラス近郊の森」から影時さんが去りました。