2023/10/08 のログ
影時 > かの屋敷に出入りする者は、何も竜だけではない。ヒトもまた当然に出入りする。
この男もまたその一人。
頭の上や肩の上に齧歯類を乗せ、遊ばせる姿はユーモラスともミスマッチとも見えるが、ただのヒトではない。
気ままに走り回ったり、頭の上で四肢と広げて尾をぷらぷらさせる獣を乗せていても、気配が薄い。
否、目の前に誰かがいたとしても気づかず、素通りさせてしまう隠形の技とは、果たしてどれだけのものが扱いうるか。

誰にも気取らず。そして悟られず。
さながら、街の気配と秋めいた気候に溶け込むように進み、漸く気配が生じたのは――豪邸の門を抜けた先のこと。
慣れた様子で豪邸の主に目通りを願い、腰の得物を預ける等の手続きを済ませ、案内される先は一つ。

「――どーも。すまんね、別段急ぎのつもりはなかったが、世話をかける」

この豪邸の主の部屋だ。
ノックのあと、開く扉を抜ける前、案内してくれる顔馴染みに会釈した後、改めて件の人物に頭を上げる。
それに倣ってか、肩上や頭上に立ち上がり、ぺこんと頭を下げる二匹の気配を確か、応接室のソファの方に向かおうか。

リス > 「―――情報は鮮度が命、と申しましょう?
 それと同時に、輸送も又速度、鮮度が命に成ります。
 早くて悪い、と言う物は、存外少ないものでしょうから。」

 彼が何者なのか、其れに関して、リスは知るところは少ない、妹の方がよく知っているだろう。
 しかし、それで良いとリスは思っている、彼と適切な距離を保ち、適切に付き合う。
 近すぎても良く無い、遠すぎても良く無いそう、思うのだ。

 何も―――彼の刀が怖いから、と言うわけでは無い、いや、理由のうち一つにはしっかり入るが。
 朧げな彼、家にはいる事を、執事長を含めたごく少数の物しか気取られない存在を、客人として扱うのは。
 彼の人となりの保証があるから。

 コロコロと笑いながら。
 書机の中から取り出すのは、一つの鞄。
 それは先日彼から依頼を受けた、装備の更新。
 依頼の品が完成したからこその、連絡で、そして、手渡しに成る。

「注文通りに、出来ましたわ。
 今回は、竜胆が特別に、と行ってくださいまして。

 容量は―――家、です。
 ああ、そうそう、その中に、注文いただいた、高品質のコークスも、入れておきました。」

 にっこり微笑みながら、持ち上げて、彼の方に差し出す。
 見た目的には、彼が今まで使っていたものと変わりはない。
 ただ、強度がけた外れに強化されて、内容量は、先ほど言ったとおりに、家。
 家のように入る、ではなく、この家の中に転送される、と言う意味である。
 この家の一部に、鞄の中に繋がる空間を設けて、其処に放り込む仕様である。

「サービスとしまして、この袋に、血を一滴たらせば、指南役様専用の鞄となります。
 何処に有っても、キーワード一つで、手元に戻りますわ。
 緊急時には、その袋の中に入れば、安全に帰宅できますの。」

 これも、竜胆が、行った結果ですわ、と。
 それもこれも、妹のラファルに、姪のフィリ、その二人の指南をしてくれるのだから、サービスをしてくれたそうだ。
 伝聞なので、そういう事ですわ、としか言いようがないが。
 どうぞ、と鞄を差し出す。

影時 > 「それは確かに云えるな。諸々以て頷ける。
 早くて困るのは、あー。……あれだな。鮮魚の活き位なモンだ」
 
己が何者か。深く考えれば諸々深くなる。長くなる。
こういうことは単純で良い。雇われ人だ。相互の信用が続く限り、こちらから刃を向ける理由は何もない。
現状己が帯びている刀もまた然り。
特質だけを見れば、特に龍または竜の類に災いをなす妖刀、魔剣のように見えるが、使い手を支配する類のものではない。
刀はきちんと使い手が最終的に全てを決定する、武器である分を守っている。
であれば、その所有者として信を置けるものに切先を向けることはしない。それらをひっくるめて信用だ。

「出来たか。改めて手間もそうだが、世話をかける。
 契約更改の機会ついでに頼んだとはいえ、差額等あれば言ってくれ。その分を払う用意はある」
 
取り出される鞄。見た目含め、それ自体は何の変哲もない。
仕立て含め、冒険者たちが背に担ぐバックパックに対し、セカンドバッグのように身に着ける類のものに変わりはない。
ただ、こうして預ける前の段階として、色々と注文をつけて弄り回した。その意味でも思い出深い。
他所の国にはこういう便利な道具があるのだ、と。初めて見た時には感嘆したものだ。
それを自己の装備に取り入れ、利便性を追求するのは決して珍しいことではないだろう。
具体的には羽織り含め、上着の下に違和感なく装着でき、なおかつ、裏面に薄手の鞘を仕込み、ナイフや苦無を差せるようにする等と。
今回はそれらに加え、大幅なアップデートを行う。頭上や肩上の二匹と一緒に、出されるものを受け取り、見回す。

「……家、か。言葉通りの、だけじゃねぇな。何処か別室やら置き場と繋げてくれたようなもの、かねこりゃ。
 これは俺が思ってた以上のあれこれが施されたようだ。コークスの件も含め、かたじけない」
 
家と聞いてい首を傾げ、続く内容やら説明を聞きつつ、吟味する様に改めて鞄を見る。
商会、そして彼女たちの家と関わりが続く限り、利用と享受ができるサーヴィス、と。そう考えて差し支えないだろう。
そして、緊急帰還のための仕掛けとも聞けば、その必要性と意義は複数あるものと思われる。
文字通りの緊急時のショートカットであるだろうが、それはあまりに遠い旅先より急いで取って返すための経路足り得る。

置き場と指定された部屋や倉庫、または魔法的な異空間のゲート等が何処ぞにあるなら、念のため確かめておきたい。
改めてよろしく頼むとばかりに帰ってきた鞄をそっと撫でつつ、女主人に依頼しようか。

リス > 「新鮮なお魚の鮮度は、もっと長く保って欲しいものですわ。」

 新鮮なお魚さんのおいしさ、それを届けるための、船に、ドラゴン急便。
 こればかりは、色々と悩ましい所ですわ、と商人的な思考に行きかけ……直ぐに引き戻す。
 影時先生は、信頼できる人物、お金を支払ってでも引き留めておきたい人物。
 それが、彼への評価。

「ふふ、今回に関しましては……世話と言う程の物ではありませんわ。
 元々、モノがありましたし、それに、付呪(エンチャント)しただけですの。
 それに、可愛い妹と、姪―――家族に技術や知識を教えてくれる方に。
 竜胆なりのお礼、と言う事なのでしょうね。」

 差額と言っても、まあ、技術料だけと言う事もあるし。
 今まで、ちゃんと支払えていなかった分と言う事で考えれば、大丈夫と思う。
 それでも、と言うならば、お仕事頑張っていただければ、と、にっこり笑って見せた。
 彼の鞄は、彼の道行きを思わせるような、草臥れ具合でもあった。
 それに関しては、補修をさせて貰っている、折角作り直したのにすぐに壊れてはいけないだろうから。
 綺麗にした事に怒られるのであれば、それは謝罪するしかないだろう。

「ええ、竜胆が、使われていない部屋を、竜胆自身の部屋と同じように魔術で広くして。
 其処に、荷物が移動する様になっているそうです。
 取り出すときは、鞄の中に手を突っ込んでほしいものを考えれば手に触れます。
 あと、自分で入れば、荷物の部屋に移動できますわ。

 ああ、使われていない部屋―――部屋の名前は指南役様にお任せしますが、鍵です。
 これと、鞄の持ち主しか開けられないようにしてあるそうです。」

 家、と言うのは本当に、家レベル。
 ただ、逆に言えば―――Dragonの考える家レベルなので、このトゥルネソル家も……と言う大きさでもある。
 なので、屹度、使い切るのは大変かもしれないが、それは其れだ。
 ドラゴンクラスの物を入れる事も、取り出す事も出来る、と言うのは便利だろう。

 そして、部屋の場所は此方ですわ、と、立ち上がり、鞄を見ている指南役に。
 鍵をそっと手渡してから、どうぞ、と案内を。

 もともと広い家、庭に出て、庭の奥の一角にある森のようなところ、無暗に人が入らないような場所に、ある倉庫のうち一つ。
 それを拡張して、と言う事だ。
 場所も場所だけに、彼以外は誰も使う人はいないだろう。
 鍵で中を開けて入れば、体育館クラスの、大きな大きな、広さだ。
 其処の一角に、山の様に、高々と積み上げられたコークス、3mくらいの高さは積まれてるだろう。
 

影時 > 「ははは、そればっかりは天命のようなもんだ。
 何でもかんでも魔法やら何やらでどうこう、ってにしても、ゴリ押しが過ぎる。
 
 ……あー、魚は生魚ばかりじゃないがね。
 商人に説法するのも烏滸がましい限りだが、干物やら燻製も味わいがあるから侮れん」
 
寧ろ、魚を生食する国、民族というのは、意外と少ないのではないか。
王国に至るまでの旅の途中、色々なものを見たが、刺身のような生食というのは――みかけた記憶がない。
焼き魚にする場合、勿論新鮮であるに越したことは間違いない。
だが、調理法と保存方法次第で味わいが出る点については、魚類は肉類に劣ってもいない。

「それでも、だ。
 より多くを仕舞えて、小さくできる用具をいい加減揃えるべきと思ってた頃合いでもあったんだ。
 内容を思うに、鞄にまじないを施すだけじゃ済まないものであれば、礼は猶更に述べなきゃならん」
 
仕事は勿論、契約である以上履行しなければならない。望んで請け負ったならば、猶の事と言える。
バックパックのような大型、もう少し嵩のある用具の場合、また話は変わったかもしれない。
だが、自分のやり方やスタイルを考えると、大荷物は極力避けたい。
まして危険地帯に踏み込むとなれば、身軽でなければ、回避に難が出る。
旅の賑やかしでもある小動物を伴って、瘴気や毒気に満ちた場所を進む際、少しでもリスクを避ける必要だって出る。
そのうえで、求める道具は新造ではなく、流用または仕立て直しを前提で依頼し、託した。
補修の痕、痕跡を見かければ、その厚意に文句をつける所以は己の裡に何処にもない。

「あー。……思ってた以上に、諸々手間かけてもらってンな。
 よく部屋に物の置き場がなくなった際の預かり屋を、ギルドで紹介しているのを見かけるが。
 
 ……確かに預かった。これは、ギルドの認識票ともども紛失(なく)せる類じゃねェな。気を付けよう」
 
魔法的に拡張された部屋、となれば、なるほど。それだけで広い空間、物置きの類を想起できる。
“ドラゴンのおうち”という基準となれば、余計にだろう。その上に恐らくは保温等の諸々の対策も仕込まれていよう。
出来立てのごはんを仕舞う、突っ込んでおくような無茶はしないつもりだが、適切な管理が必要なものを収める場合がある。
保管空間内の維持、並びに空間内の異常の対策を怠るようなことは、きっと施術者はするまい。
念のため確認はしておこうと思いつつ、鍵を受け取る。しっかりと見まわしたそれを羽織の袂に仕舞い、立つ。

鞄を抱えながら案内される先は、今回の倉庫として定められた場所であるらしい。
誘われるままに扉を開き、見やれば――ひとりと二匹が目を丸くして、積み上げられた品を見る。
倉庫の先客、第一陣は知り合いに回す予定の燃料であった。いざ出せば、罵声を浴びせられそうな分量がそこにある。

リス > 「商人のお仕事、ですからね。
 私は魔法が使えませんので、その辺りは……理解できますわね。

 色々な食べ方、色々な調理法。
 お魚に限らず、ですわね、ええ。
 美味しい干物を、ご存じですか?」

 この国は、海に近く、魚をよく食べる、そう言う民族。
 そして、海に囲まれた島国に住まう彼だ、先程でた、干物、燻製と言うキーワード。
 美味しい匂いを感じ取ったのか、じぃ、と空色の瞳は見つめる。
 美味しいご飯?と力強く問いかけるような、視線なのである。

「その礼に関しては、竜胆にお伝えくださいまし。
 技術を、魔法を振るったのは、あの子ですし。」

 お礼を言いたいというのであれば、自分ではなく、実際に技術を施した人に。
 それは、当然のことだと思う。
 リス自体は、ただ、依頼を遂行できる人に、お願いしただけなのだ。
 それを、此処迄の性能にしたのは、竜胆なのだ。
 そこまでやったと理由は何となく判る。
 だから、本人にお礼を言ってやってほしい。
 と言って、影時の前に、竜胆が姿を現すかどうかは、不明だけども。

「土地も、場所も余っておりますし。
 何を考えて、あそこにしたのかは―――多分。
 竜胆は家に入って欲しく無いのかもしれませんわね?」

 嘯く、理由としては、大きな場所を作るのにそれなりの場所は必要だし。
 彼としても、緊急脱出を家の中に設定してバレるのは気まずいかもしれない。
 だから、使われない、目立たない場所の方が良いのだろうと、考えたと思う。
 竜胆の考える事全て知るわけでは無いが、その程度には偏屈な子だ。
 無くそうと思っても、呼べば来るので、無くせるアイテムでもないだろうし。

 倉庫の中のコークスは。
 超多いのは、ドラゴン的な感覚が色々悪さした結果でもある。

影時 > 「術の類は少しは心得はあるが、使い勝手はこの国の魔法には劣る。

 ……肉も良いンだが、たまには魚も喰いたくなるんだよなぁ。旨い酒があれば余計にな。
 どこそこの問屋が扱ってたのが美味かった、で良けりゃ後で教えるが?
 
 昔、別の宿に寝泊まりしていた時、鰊の燻製(キッパー)とか出てきてなぁ」

忍術も色々あるが、魔法ほど多種多様に派生したものと比べると、色々と差異が出てくる。
生活に根差した道具まで作れるか、と言われると無理だと言わざるとえない。
故に使い分け、住み分けの余地が出てくる。
別の技術体系が必要とする方面で有用なら、それを活用するのは何らおかしいことではないと考える。

さて、何か商魂擽る処もあったか。それとも素直な食欲の秋らしい興味の発露か。

女主人の投げかける問いとまなざしに、顎を摩りつつ思い返す。
豪勢な食事とは真逆の質素、素朴な食事というのも、味わい深いものだ。

「そうだな。その時には、と言いてぇ処だが……かのお嬢様の部屋の前まで出向いて、というのはまずそうだ。
 そうなると、良けりゃ聞いておいてくれねぇかな。
 礼を兼ねて指南役がお嬢様の探しもの、欲しいものがあれば取りに行く、と」
 
件の施術者、術者と会話を交わしたことはあるが、性格は確かにと思うところがある。
礼を言いたいと申し出て、素直に応じるかは――すこし首を傾げざるを得ない。
術を施すためのスペースのこともあれば、屋敷内の部屋だけでは足りなかったのかもしれない。
が、同様に別の意図も想起してしまうのもまた、否定できない。
それを踏まえて思うなら、言葉よりも手紙と何か一品添えて、という方が余計な心配が薄れるに違いない。
そう思いつつ、ドラゴン基準に基づいた、とばかりに積み上げられた燃料の山と向かい合う。

「……これを担いで、山を歩くとなったら、どんだけ骨を折ったと考えると、なァー……」

山野をものともしない忍者でも、一人あたりの積載量、運搬量には限度がある。
この分量は分身の術をフル活用してどうにかこうにかどころか、牛馬を使う必要すら考慮せざるを得ない。
構築された置き場の具体的な容積、注意点等、可能な限りを聞き出しつつ、活用を考えよう。
コークスの山に続けておくものは既に決まっている。
作り貯めた火薬類と、子分たる二匹の仮宿となる巣箱と。女主人と話しつつ、そう考えて――。

ご案内:「トゥルネソル家」からリスさんが去りました。
ご案内:「トゥルネソル家」から影時さんが去りました。