2023/09/03 のログ
ご案内:「タナール砦の牢獄」にゲルバさんが現れました。
ゲルバ > 「へ、へへっ、お疲れ様でございます。お疲れ様で……えへへえ」

 日夜、人間と魔族が一進一退の攻防を繰り返す最前線、タナール砦。その地下に設けられた牢獄を、掃除用具を持ち屑籠を背負った男が、兵士は勿論捕虜にすらぺこぺこと頭を下げ、気色悪い愛想笑いを浮かべながら雑用をこなしていた。
 男はもう長いこと地上に出ていない。今この砦が魔族のものなのか、それとも人間のものなのかさえ分からない。というのも、虜囚にはどちらも混じっているからだ。味方から忘れさせられたのか、それとも仲間内の裏切りか。

「おっほ……いひひひっ! 囚われの身で尚お美しい。ああ、おいたわしいことで……」

 鎖につながれた捕虜から汚物を見るような目を一瞬向けられた男は、身体を縮こまらせつつしゃっくりに似た笑い声を上げる。そんな捕虜も、捕虜たちを監視する兵士も、男など気にも留めない。
 驚くほど注意を払われないというゲルバの性質は、密偵を務めるならば天賦の才であったといえよう。ただし、それは本人に素早さ、賢さが備わっていた場合の話。この男にとっては全くの宝の持ち腐れである。

「お疲れ様でございます。お疲れ様で……」

 仕事をしているフリが出来る程度に手足を動かしつつ、ずるがしこそうな細目を牢内へ向ける。自分のような男でもどうにか出来る、今は無抵抗な、おあつらえ向きの「雌穴」がいないだろうか、と。

ゲルバ > その後も誰彼構わず媚びへつらいながら、男は牢獄の闇に消えた。
ご案内:「タナール砦の牢獄」からゲルバさんが去りました。