2023/08/04 のログ
ご案内:「布都の工房」に布都さんが現れました。
■布都 >
メグメール森の奥の川沿いに、ひっそりと作られている、東洋建築の建物。
東洋建築には珍しいが、二階建ての作りで、一階は鍛冶場となっている。
木で作られた囲いは、獣や妖魔を避ける為の防衛柵、庭には、農園なども作られている。
世捨て人である布都は、此処で鍛冶を続けながら、一人生活するための場所と言う様相を持っていた。
今日も又、金槌が鉄を打つ音が、響き渡っている。
カーン
カーン
重々しく、鉄を叩く音が響き、鍛冶場で一人の鍛冶師が刀を打ち付ける。
刀を打つ。
刀を打つ。
一人で汗を流しながら、一心不乱、ただ、刀を凝っと見つめ、金槌を振るう。
鉄が一打ちされる度に、精神が集中し研ぎ澄まされる。
汗を垂らし、職人は、その刀を、強く、叩き打つ。
真っ赤に染まった刀身、一打ち、一打ち、魂を込めて、打ち付けている。
ご案内:「布都の工房」に影時さんが現れました。
■影時 > ――森を抜けると川がある。その川沿いに刀匠の工房があると誰が知る。
いわば、知る人ぞ知る、というものと云えるだろうか。
鍛冶師はこの世に多く居るとはいえ、異国の地でこれまた異邦の地の様式に即した武具を頼めるのは、そう多くはあるまい。
住処兼工房の立地が世捨て人同然であれば、訪れるのも一筋縄ではいかない。
「……ン、やってンな」
遠く遠く、だが強く。しん、と静まる森の中、聞こえてくる槌音を聞き留め、立ち止まる男もまた一筋縄ではない。
重い荷物を背負い、手に提げて木々の合間を無事に抜けてゆく能力があり、獣や妖物を搔い潜る技を持つ。
幾つもの包みを固定した背負子を背負い直し、獣道同然の木々の合間をすり抜け、進む。
進む先が程なく開けてゆけば、目的の川が見えてくる。その川の流れに沿って下れば、目的の場所は其処にある。
結界として工房を囲う柵の切れ目、順路と云えるルートを抜けて、工房の扉を開けてゆくのも最早勝手知ったもの。
「――よう、差し入れに来たぞぅ。」
そう声を奥の方にかけつつ、背負子を降ろす。
傍に括り付けていた篭から真っ先に外してゆけば、道中拾い集めた木の実や果実が転がってくる。
拳大の果実に抱き枕よろしく、ぎゅっと抱きついている栗鼠とモモンガもまた一緒に。
■布都 >
来客―――知った事か、呼んではない。
そもそも、商売をしているわけでは無い、鍛冶師として、求道する者だ。
今は、大事な鍛冶作業中だ、紅く熱されている刀を只管叩き、打ち、作り上げる。
一瞬の視線の移動が、一瞬の気のゆるみが、刀の出来上がりに大影響、悪い影響を与える。
金槌を振り上げる。
カーン。
カーン。
背負子から転がる木の実、果実、小動物。それらさえも、意識を向ける事もない。
金槌を振り上げて、振り下ろす。
刀を打ち、鉄を打ち、不純物を打ち出して、形を整える。
視線は開き、鉄は、命を持って、切り殺すための武器を打ち、精錬していく。
叩き、水で冷やし、熱し、更に叩き。
――――来客の方に振り向くのは、刀身を作り上げ。
鈍色に光輝くそれを見やり、目を細める。
作り上げた自分の道具が、満足行くものか、どうか。
「―――――。」
ぽい、と鉄窯に放り込む。気に入らなかった。
「ンだ。ジジィ。それは飯か?」
挨拶さえもなく、胡乱な視線を来客の方に向けて。
そこから、転がり出る小動物の方に向ける、肉も、偶には良い、食い出はなさそうだが。
■影時 > 作業中に呼びかけに応える、とは思わない。そもそもその期待はしていない。
向こうも刀匠であると同時に、ひとかどの剣豪である。
来訪者である己が気配を隠さず、敵意も示さず、真っ向から進む限りはひと悶着はないであろう。多分。
故に工房のヌシの動き、挙動には意識を飛ばしつつも、慣れた素振りで荷解きにかかるのである。
「ここ最近は木炭が高くなってて面倒だな。
骸炭と一緒に仕入れてきたから、分けておいとくぞ。
それと、今回は鉄鉱の代わりに鉄クズを持ってきた。剣や槍、それと包丁になってた奴を大目にな。
わざわざ石を精錬するより、卸して弄る方が手間が少なかろう?」
背負子に括り付けた大きな包みは、おおよそ3つ。
一抱えのある布包みの一つは炭類。燃料である。鉄と対話するものに於いて、燃料は欠かせない。
上質な木炭と石炭を錬金術師が乾留し、精錬に向いた燃料とした骸炭(コークス)がその中身。
もう一つの包みは、赤錆にも塗れた大小さまざまな鉄鋼製品の残骸だ。
既に一度は製品として完成し、損傷等故に放棄されたものは、溶かし潰して再利用ができる。
その際、炭素量を調整すれば希望の硬度と粘りを有する鋼を一から鉄鉱を精錬するよりも容易く得られる。
「鼻が良いなァ。……物が運良く手に入って、興が乗ったんでな。作って持ってきた」
ちらと見やれば、出来が気に入らなかったのか、できたものを炉に放り込む姿が見える。
相変わらずだなと肩を竦めてみせながら、三つ目の大包みを解く。
麦と米、乾燥野菜が入った袋、酒を満たした陶製の瓶、それとは別に漆塗りの箱が其処に入っていた。
その箱を土間の板敷の上に置く。箱の蓋をわずかにずらせば、茶色い葉の包みが幾つか見えるかもしれない。
先に置いた篭には山菜類も幾つか摘んでは置いたが、これは後で川の水につけて冷やしておこう。
■布都 >
鍛冶の傍らに剣を振る鍛冶師と、様々な技能を戦闘を中心に覚えている剣客。
どちらが強いのか、と言うのであれば、言う必要も無かろう、少なくとも、彼が面倒と考える程度には強さがあると思われる。
それを試したいと思わないのが、剣に生きるかどうかだ。
在ったとして、傑作が出来た際に、試し切りが出来るかどうか、と言う程度でしかない。
それが、彼と鍛冶師の実力の差の原因だ。
「あン?……ぁあ。そうか。
それニャぁ、礼を言っておくさ。あんがとな。
鉄剣に、槍に、包丁か……。
直して、売り直し、だな。」
出てきた武器や刃物はボロボロであり、普通に考えれば鋳つぶして、作り直しである。
しかし、他の鍛冶師で作られた武器には、その鍛冶師の想いや技術が詰まって居るものだ。
そして、作り上げられた鉄に関しても、その鍛冶師の色があるから、溶かして混ぜたとしても、自分の作りたいようには作れない。
―――否、鍛冶師としてのプライドから一からすべて作りたいと思う我儘に走っているだけだ。
ハン、と鼻を鳴らして。
お前の技術はこの程度か、と言わんばかりに直して返してやる、と。
「ハハ。違う匂いってのには、敏感になるもンさ。
ああ、そうそう。
珍しいのが手に入ったから、適当に作ってみた。
ヤルよ。」
彼の手土産の数々、満足に値するものであるから、返礼とばかりに、立ち上がり、つづらを開く。
そこから出てくるのは、木で出来た苦無。
それを放り投げる、手にすれば、鉄のような重さと、木製であるのに、切れ味が存在する。
「世界樹とか言うのを出かけたときに手に入れた。
叩いてみたら、叩けたから、興が乗った。
あんたなら、使いこなせるだろ?なぁ?」
にぃ、と口角上げて、ケダモノのように笑いをつくる。
■影時 > 来訪者たる男もまた、鍛冶の心得がある。
道具と材料、そして場の3つが揃っていれば、自分で使う消耗品や生計の足しとして、鎌や鍬、包丁といったものは打てる。
だが、打てるとはいっても、其処に質を如何に求め、上げていくかとなると此れが難しい。
道具と材料、場の3つを揃え、さらに四つ目となるものは色々ある。
天地の運行と時節を除いた場合、その有力となるのは技である。魂である。
間違いなく技は比べるまでもない。
そこに女だからどうこう、という目線を交える理由はない。信頼に足る技、技術がある。
故にこのようにして時折訪れては、金銭の代わりに差し入れるともに、幾つかの武器の作成を依頼する。
「なぁに、礼には及ばねえさ。
何かを頼む以上、生きるにあたって何かと物入りになるモンを揃えるのが道理だろうよ。
直すも良し。はたまた鍛えを見て、鉄の具合を見てどうこう、というのもアリとは思うがね。
砂鉄を溶かして得た鉄と石を溶かして得た鉄は、やっぱ微妙に具合が違うみてぇだ」
金銭を積んで仕事を依頼する――といった生活や間柄ではないと心得ていれば、重いものを運ぶのはいつものこと。
息まくような答えを聞けば、は、と苦笑を噛み締めるように息を吐く。
この辺りの気質は変わらんな、と。次は伝手を辿って、海を渡ってきた砂鉄を溶かした鉄でも探すかとも考えながら。
「まぁそりゃそうか。竹の皮と灰汁が揃ったンでな、ちまきを作ってきたぞ。
魔法で保存されたやら云う売り文句だったが、看板に偽りはなかったようだ――、と?」
米は意外と手に入る。粘度のあるもち米に近いものと、最近よく注意を払う舶来品の材料で拵えられるものがある。
俗に粽、ちまきと呼ばれる料理だ。
魔法で採取直後の状態を保った竹皮で米を包み、蒸らして仕上げた料理は、手が汚れていても食べやすい筈。
甘みが足りなければ、箱の中に一緒に入れた小瓶入りの砂糖をかけて食べるといいと言い添えつつ、向こうの動きを見る。
茶でも入れるかと思いながら、何やら投じてくる品を両手で拝むように掴み取る。
白刃取りめいた手つきで受け止めた品は――刃には違いないが、鉄ではない。
「……木を叩けるたぁ、新鮮な話だなァ。確かに使える手応えがある。くれるってなら、貰っておく」
木である。世界樹という語句は幾つか噂に聞きかじるものはあるが、真逆な、と呻きながらその刃の柄を握る。
手つきを変え、指で回し、試す感触は普段使いのそれと遜色ない。つまりは悪くない、ということだ。
■布都 >
所謂何方かに偏っているかに過ぎない。
鍛冶師は、鍛冶に、男は、武術を含めた何某に、と。
出来る事が違う、役割が違う、それ以外の事は、生きるため、必要の為に覚えた、それだけの話。
鍛冶師にとっては、の話ではあるので、彼に関してはまた別だ。
彼の信条、技術優先の里であれば―――鍛冶師はここには居ない。
よくあるお里の男尊女卑があったからこそ、鍛冶師は住まいを追われ、ここに来ている。
様々な国を練り渡り、技術を、生存能力を鍛えた故に、金銭に見切りをつけた。
だから、金銭に依らない物々交換は、寧ろありがたい所だった。
一人では、確保が難しいものも、多いからである。
だから、残念ながら、完全に世捨て人にはなり切れず、成り切るにはもう少し時間が必要だった。
「金を持ってくる阿呆が多いがな。
こんな所でそんなものが何になるかよ、と、ああ。棍棒替わりにはなるか。
――――気が向いたら、金で棍棒作ってやンよ、柔らかくねぇやつな。
その鍛冶の色が残るからな、溶かして混ぜても魂は、作成者の念は残る。
なら、整えて放り出した方が良いさ。
ま、金子の、技術の足しにさせてもらうさ、精々な。」
依頼を受けて、腕を振るう、気が向いたときにしかしないが、依頼を受けるならば全力で熟す。
何時もの事で当然のことだ。今回の、この鉄の塊も、依頼の報酬でしかない。
此方が指定してるわけでは無かったので、彼が持ってきたものは別に間違いではない、指定しなかった此方の落ち度だ。
ただ、指定するのさえ面倒で、察しろ、と言うドワーフでさえないレベルの面倒臭さだ。
この鍛冶師は相当を超えて、面倒。
「へぇ……粽ねぇ。
懐かしい名前を聞いたもんだ、そう言うのはますますいいね。
米は作ると面倒だし、久方ぶりの馳走だ。」
にやり、にやにやと口角をあげたままの鍛冶師、ハハンと、満足げに息を吐き出す。
彼の対応が、彼の反応が楽しくてたまらないと言った所。
「打った時は驚いた、木なのに、打てたのさ。
鎚を跳ね返した時には唖然とさえした。
でも、面白くなって打ってヤッタ。
白い木だったけどな、圧縮して、叩き打ったらってその色になった。
重さもちょうどいいだろうし、アンタのその反応が見たくてね。
―――そいつ、其れで生きているから、鉄のよりも、使いやすいんじゃないか?
氣が通ったし、な。」
氣とは、命の力だ、己の生命力を燃やして流すエネルギーだから、戦士の技術。
それが鉄より通るから、なお面白かった、と。
普段金属を鍛えるから、木を鍛えたのは、経験になったと、重厚な色をした苦無を見やる。
■影時 > 戦闘に関連しない、忍者としての務めに関連しない技術、技能の多くは生活のためだ。
かつて属していた忍者たちが寄合って住まう里、集落では、生活のために使う鉄工品の多くは自分たちで鍛えていた。
その技を修業の最中で教え込まれていれば、おのずと鉄の打ち方には慣れてゆく。
だが、そこから大成するか、一皮むけて抜きん出られるかどうかは、才能ありきの話となる。
熟練と云える慣れは得ても、己は其れ止まりだった。
匠として成った者たちに及ぶには、時間が解決するかどうかは怪しい。
であれば、己が為せる以上のものを求める際、間違いなく他者に依頼する方が過つことはそうそうない。
何か特定の結果を求める道筋は多様だが、何よりも合理的な方法は何か。考えるまでもなかった。
「金の棒かよ。せめて延べ棒にしておいてくンねぇかな。
お前さんはそうは云うが、多くのところで取引材料となって、尚且つ腐らンのが強みなんだよ、金は。
――なるほど? 確かに一理ある。その手合いでトチ狂った素材にも覚えがあるお陰かね。
次に差し入れるなら、もう少し馴染みがあって無垢な奴を仕入れとくよ」」
少なくともこの国に限って言えば、何にもできるからこそ、金銭を用立てるものが多いのだろう。
仕入れて運び込んできたものは、この工房が人里に近ければ、もっと容易く安く手に入れられるかもしれない。
誰もが価値を認めるものが金(キン)であり、国が保証する価値と代価をカタチにしたのが金(カネ)だ。
この場所で暮らし、過ごすとなれば、代価とするのは現物持ち込みが一番生活面に都合がいいのは分かるが、少しはわかるだろう、と。
腕があってこそとはいえ、偏屈にして面倒な気質の持ち主の言葉に肩を竦め、息を吐く。
持ち込んだ鉄屑に対するコメントについても、心得た、と頷きつつ思うのは腰に差した得物の一つの素材だ。
大地の魔王のカケラとされる特異素材の製錬時、向こうが言う念を除去する作業工程が多い、と分析したことを思い返して。
「米は意外と野菜扱いで売られてンだよ。小豆も手にはいりゃ良かったが、この土地じゃ難しいようだ。
……鉄のような硬木の類は知っていたが、打てるヤツとは思いもよらなんだ。
そうさな。鋼よりは疑いなく。偶に試す“みすりる”とかよりも、具合は良いな。何より錆びねぇのも良い」
小豆まで手に入れば場所を借りて、餡を仕込むことまで男はやってのける。だが、ないものねだりはできない。
土間の片隅で木の実を転がし合って遊ぶ小動物を横目に、貰ったものを腰裏の雑嚢の裏に押し込む。
其処には苦無サイズの得物を差し込めるスペースを設けている。先達の黒い刃の苦無と並べても、これは遜色ない。
あとは、茶でも淹れるか立てるか。そう思いながら周りを見遣ろう。茶器の類の在りかを思い出せば、茶の用意にかかる。
■布都 >
「ハ。金を塊にすれば、其れこそ強いゼ?融けねぇし燃えねぇし。
しかも、クソ重いときたもんだ。優秀な暴力になるんだぜぇ。
それに、回りモノなら、此処以外で回すんだな。必要な分だけ、向こうで用立てて、支払って去りゃぁ善い。
現に、アンタの屠龍は、女武者の念が残る、それが良い例じゃネェか。
長く使い込まれれば、情が沸けば湧くほど、な。
それで良い、それで頼まぁ。」
彼の言う事は、判る、判っている。
確かに金(カネ)は、天下の回りモノであり、お足と言うぐらいには、あちこちにある物だ。
ただし、世捨て人に成るなら、此処で完結するなら必要性が薄れる。必要な時に、必要なだけ。
町で、農具を売って、若しくは依頼を受けて稼いで、必要な物を買う、それで良いと思っているのだ。
なら、金の質量を武器にした武器を作ってしまった方が、売れると、鍛冶師は嗤う。
「その辺は、お国柄ってやつかね。
米屋なんて無いもンなこっちにゃ。
ねぇモンを嘆いても仕様がねぇ、有るモンでやるっきゃねぇさ。
ホント、打ってて楽しかった。
鉄よりも反応薄いし、硬ぇし、ンの癖、鍛えるだけ、硬くなって、強くなるときたもんだ。
久しぶりに燃えたね、打ち終わった後、焚火にくべても燃えねぇし、白い筈の木が、そんな色になるし。
あぁ、斬鉄も出来たから安心しとけ。」
斬鉄は、この鍛冶師の作る武器で最低限の品質。
鉄を鍛えて作る武器が、鉄を斬れないでどうする、と言う考えの鍛冶師だ。
一人前程度の剣士なら、苦も無く鉄を斬れる、それが、この鍛冶師の最低ライン。
これで鉄を斬れないというのは半人前以下と、鼻で笑うのがこの鍛冶師だ。
「っと、そうだ。
面白いもん作ったから忘れる所だった。
頼まれた方も出来上がってる。
銘は―――まぁ、陰陽とでも。
気に入らなきゃ、アンタが適当に付けてもいいさ、量産品だからな。」
小動物、リスとモモンガ。
そう言えば、なんかいたな、食い物だっけか、と胡乱な視線を送る。
直ぐに視線を外して、依頼品を収めたほうのつづらへ。
油紙に包んだそれは、煌めくような鈍色の苦無が10、逆に闇にさえ溶け込む様な漆黒の苦無が同じ形で10。
それぞれ、特注の―――量産品だ。
それを、茶を探している彼の目の前にあるちゃぶ台にそれぞれ置いた。
■影時 > 「いやぁ、鉄よりはもそっと融かしやすかったと思うが。
ともあれ燃えンのは確かだが……、回して転がす場は別だわなぁ、明らかに。
屠龍は、な。封護と揃えて、当の御仁を口寄せして祓っても良いが――その気が湧かねぇのが不思議なもんだ。
それがまた情であり、認められるようになンのが俺の弟子の成長にもなるだろうよ。
分かった分かった。とりあえず、使い慣れた鉄、または近しい手法で製錬した奴を仕入れるようにする」
ああ、金の得物は下手に溶かすと面倒と。その辺りで相対を忌避する者もいるかもしれない。そんな感想を覚える。
金張りの具足をこけおどしも含めて纏う者がないわけではないが、純金の武器は色々と相手取りたくない。
下手に魔法をかけて融かした後の始末やら何やら、別方向で躊躇う者も多いのではないか、とも思う。
そんな中、腰に差した刀を一瞥する。
外装を取り換えた中身は依然として、謂れのある刃だ。其処には元の使い手の念が今も色濃く宿っている。
元の骸を供養してもなお残るのは何故か。気になるが、敢えてどうこうしないのは、その刻ではないのかもしれない。
仮に万一、その刻が来れば、自ずと語り掛けてくる。そんな気がする。
「とは言え、な。無いものねだりをしたくなるンだよ最近はよ。
茶器の類は舶来してたから集めたがンだが、いざ菓子を拵えようと市場を巡ったらな。色々思い知らされたぞ。
米以上に、今は大豆や小豆を扱ってる奴の伝手が知りてぇ位だ」
最近は偶然貿易商の店を巡り歩いて見つけ、揃った道具で茶道モドキやその真似に勤しむ趣味に目覚めた。
その過程でちまきのように料理もやるが、記憶にあるものを作る際、材料がないことを思い知る。
例えば王城の宴会で供される機会があれば、その入手経路を知る努力に着手しないといけないか、とさえ思う。
「……聞くに、アレだな。本当に木材かと思う勢いだなァ。面白ぇ。
いつもの事ながら、鉄に切り込めンなら、出来はいよいよ以て間違いないだろうよ。
っと、悪いな。投具の大体は作るか安物を弄るが、どれも俺の本気には耐えねぇからなあ……。
是が日でもない時、渾身を込められる奴を任せられる奴が居てくれるのは、助かる」
切れ味を重視することが少ないにも拘らず、鉄を斬れてなお刃を損なわない仕上がりとは、ただの鉄具の域を超えている。
否、そもそも鉄ですらない時点で己が常識を超えている。
腰裏の所定の位置に押し込み、仕舞った代物のクオリティに喉奥で呻く。試しは?要るまい。最初に握った際の感覚で事足りる。
胡乱な視線を浴びて、オモチャ代わりの木の実を放り出し、己が背に飛びついてくる二匹を一瞥する。
初対面ではない筈だが、食べもの?!と慄いているのかどうか。
背にしがみつく二匹をそのままに腰のものを外し、板敷に置きつつ履物を脱ぐ。その足で上がりつつ、卓袱台に置かれるものを確かめる。
茶器より先に手が向くのは、職業柄か。使い捨て可能だが、それを惜しむ域の特注品をそれぞれ手に取り、氣を流す。
返る手応えはいずれも、己が満足がゆくレベルだ。氣の通し易さ、注ぎ込みやすさ――ともに申し分なし。
■布都 >
「酸とかそっちの方で言いたかったンだ、熱は……確かに、工夫が必要さね。
ハハ。鍛冶師としちゃ、正しいころがし方さ。
ま、気が向いたらって訳だ、ちゃあんと判ってるからな。
それは、アンタの心積り一つで好いさ、アンタと、弟子に対しての所有を認めたンだ。
刀も、念も全部アンタのもんさ、好きにすればいい。」
彼の懸念も理解しているから、金の棍棒を作らないことを明言して置こう。
鍛冶師としては、どのような物でも、金属であれば、素材だ。
金を武器にと言うのは重量的なもので、威力に富む、唯、柔らかかったりと問題はあるがそれをクリアは出来る。
と言って、金は富の象徴でもあるからこそ、武器に敬遠されるから、無理に薦める必要はない。
向こうから伝えてきた際に、応じる程度で良いのだろう。
彼の腰にある刀は、布都が鍛え、龍狩りの武者に渡した。
それを手にして、その女武者が果てた後巡り巡って彼らの手に渡った。
謂れのある武器と言うのは、様々な因果が巡る、彼の手に、彼の弟子の手に有るのも又、因果だ。
それに、彼の弟子は、普段刀を抜く事が敵わないと言うのも因縁で有るのだ。
「それはあれかい?
手に入りやすくなって来たからこそ、欲が沸く。
見えて居るからこそ……さ。
畑はあんぞ?」
まずは、豆だという事は確かだろう、個人的な所で作るなら、密輸などは無いのだろう。
小豆も、大豆も手に入るものではないが、種があれば育てる事が出来るはずだ、くつくつと喉の奥で笑いながら。
貸してやンよ?と。
「ああ、本当に。同じような木材見つけてきたら持ってきてくれ。
木刀とか、そうでなくても、柄や鞘に良いじゃねぇか。
その場合、礼は特別にさせて頂こう、之は依頼と取ってもらって構わん。
ハハハ、アンタの(里)は、大体、ジンガイ地味てンもんなぁ。
それに耐える武具を鍛えられるのは、本当に少なかった。」
彼の忍者の里の武器は、大体は鍛冶師の里が受け持っていた。
基本は里長や、実力者が受け持っていたのは覚えている、それを今は超えているが―――否。
過去を思い出し、チ、と一つ舌打ちし、思い浮かんだ過去を振り払う。
「まあ、良いもんくれるならその例として、アンタの武器を打つのは吝かじゃねぇ、数少ねぇ、馴染みだ。」
怯えて隠れる二匹。
全く持って覚えてない、そんなもん居たっけレベルだ。
寧ろ、携行食と認識する程度だった。
満足そうに苦無を扱う彼に、何かありゃ、調整するからよ、と。
■影時 > 「あぁ、そっちか。心得てンだったら敢えて言うことは無いな。ほっとした。
――無論好きにするとは言え、軽んじられる道具じゃねぇとも思ってる。
少なくとも最低限の義理は通さなきゃならん。それは剣士としての向き合いでもあるつもりだ」
なお、金の武具自体が成立するだけの所以は知る限り、あると言えばある。
神がかった鍛冶のアプローチとは別に、付与魔法の粋を集めた産物として、現存してもおかしくはない。
ただ、貨幣や装身具としての用途以外での成立するのが一筋縄ではいかない。そう考える。
貴族もそうだが、己と同格かそれ以上の高ランク冒険者ならば、或いはだが、間違いなく言える。
自分が使うべき武具ではない。使うべきものは、既に他にある。
一番の長物と云える寸法の刀が、その筆頭だ。
別の使い手のために作刀されたはずのものが、巡り巡って己が手に収まった。
切り詰め、削っての調整はせず、外装を使い易く改めた以外は入手時より大きな変動した事項はない。
抜くべき時に抜くが、それ以外は抜かずに事を済ませるのが太平の道と云われるが、さて。
「抹茶は流石に金を使わなきゃならンが、どーこーできるものがあると、あ。その手があった、か!
……収穫出来たら、半分はお前さんに譲る。だから、畑貸してくれ」
豆が手に入らないなら、栽培すればいい。勿論それは道理だ。だが、己には先立つものは多少はあっても土地がない。
撒く種もそうだが、土壌が合う合わないもまた、試行しなければならない。
現状の土地の主が貸してくれるというのなら、頭を下げることに何ら躊躇いはない。くつくつと笑う相手に迷うことなく深々と頭を下げ。
「分かった、覚えとこう。何処ぞの香木よろしく欠片しかなくとも、試しになるものが見つかりゃ持ってきてやる。
……そうかぁ、そんなに人間離れしてたかァ?
ウチよりも人間離れして、身体も弄ってた手合いなんぞごまん程居たろうによう」
帝やら何やらが秘蔵していた香木は、もはや削られ過ぎて欠片しかないと聞く。その例を喩えに出しつつ、請け負ったと頷く。
だが、続く言葉にはそうかぁ?と思いっきり首を傾げる。
ともすれば神格めいた扱いも含め、次代の里長ともなっていたかもしれない者が云う言葉ではない。
されども己以外でも、能力の受け皿となる武具が使い手に追いつかない事態が頻発していたのも、確かではあった。
その域の力量者は人体改造を重ね、人間離れした手合いとは別に人外めいていると囁かれていても、間違いはあるまい。
「ありがてえ限りだ。……さぁて、礼ついてに茶も淹れるか。薬缶か鍋借りるぞー」
あとで数度実際に投じ、微調整のために手を借りよう。後々再注文するにしても、力を借りた方が間違いない。
怯えて飼い主の背中に貼りつく二匹の反応に仕方がないな、と笑いつつ、のっそりと動き出そう。
喋っていれば小腹も空いたが、喉も乾き出す。水よりもちゃんと茶を淹れる方が、腹にも良い。
念のため主に声をかけて土間に降り、湯を沸かす用意に向かいだす。調整等含め、色々と話をを続けるために――。
■布都 >
「世を捨てたとして常識を捨てた覚えはないンでね。
なら、いいさ。上手く付き合いな。」
刀に関してはもうこれでいい、お互いに弁えているのだから、うだうだ言うのは無粋でしかない。
金と言うのは魔法への親愛性が多いらしい、だから宝剣だけではなく、魔剣も多いと聞く。
自分も作ろうと思えば、魂入して強化しやすいだろう、が、まあそれは其れとして。
あまり興味がわかないというのが、一番の理由だ、どうでもいいや、と。
彼の一番の獲物は既にある。
それを曲げるのは鍛冶師の仕事ではなく、調整と、打ち直し位だ。
自分で作った武器だ、今の所、最高傑作に近いひと振り、之が、普通と言えるようになるのが鍛冶の道。
変わらずにある、その刀を眺めやり、視線を直ぐに逸らし戻す。
「ククク。
頻繁に足を運ばれても面倒だ、種と肥料を寄こしてくれんなら。
半分くれるんだ、他の野菜と並行して面倒見てやンよ。」
貸すのは構わない、唯、彼も忙しいのだから頻繁に来ることも無かろう。
なら、トマトやキュウリ、他に育てている野菜と一緒に見れば良い。
頭を下げる彼に伝えよう。
此方も、豆は食いたいのだから。持ちつ持たれつだ。
「ああ、欠片でも十分だ。なんせ、訓練に成るし、その方が消費しやすいしな。
十分。
と言うか、そもそもアンタらは。
―――自覚が無いってやつか。」
忍者と言う時点で、並の人間をはるかに超えてるものだ。
侍と対等に切り結ぶ――つまり、他の修行をしつつ、刀だけを鍛錬している侍を圧倒できる。
それだけの技術と、肉体を、更に知識も詰め込んで、と言う物なのだ。
体を改造するという部族もいるだろうが――それをしてないだけでも驚嘆の一言。
全く、之だからくそジジィは。
楽し気に唇を綻ばせ、茶をしばく―――
ご案内:「布都の工房」から布都さんが去りました。
ご案内:「布都の工房」から影時さんが去りました。
ご案内:「海の庭 白昼」に軽薄そうな男達さんが現れました。
■軽薄そうな男達 >
「はー、食った食った。」
「思ったよりも美味かったな。」
「はぁあ? マジかよ、俺が食った麺料理はくっそマズかったんだが??」
本職の冒険者とは比ぶべくも無いがそれなりに鍛えられた身体を水着、もしくはそれに類する薄手の服から露出させ、真夏の日差しに焼かれるに任せた男達の一団が海水浴客で賑わう白浜を闊歩する。
だらしのない歩み、悪辣さの滲む双眸、下卑た笑みが響かせる馬鹿笑い。
彼らの名前や詳細な背景などは知らずとも、はっきりと伺い知れる暴力の臭い。
些細な理由からでも絡まれたなら、間違いなくトラブルへと発展するだろうゴロツキ、チンピラの類であった。
若い娘や家族連れはそそくさと彼らの進路から逃げ出して、大の男であろうと視線を逸してやり過ごす。
そうした周囲の反応でますます増長する男達が向かうのは、ビーチの端の方に立てられた大きめのテントだ。
その周囲にも似たような風体の男達が屯しており、剣呑な雰囲気で他者の接近を牽制していた。
そこからは時折汗に塗れた男が水着を直しつつ姿を現して、別の男が入れ替わる様に中へと入っていく。
その内部で一体どの様な行為が行われているのかは、引っ切り無しに漏れ聞こえてくる嬌声が物語ろう。
■軽薄そうな男達 >
「いよぉ、やってかぁ? お前らもそろそろ……うっへ、すんげぇ臭い。」
「あっぢぃぃい、ずっとこんな場所にいたらぶっ倒れんだろ、これ。」
「女にも何か飲ませてやれよ。流石に死なれんのは寝覚め悪ぃぜ。」
食事を終えて戻った男の幾人かが天幕の入り口をめくって中を覗いた。
途端、むわっと吹き付けてくるのはサウナめいて湿気を孕んだ熱と、潮風以上に肌に纏わりつく色濃い臭い。
汗と小便、アルコール、そして精液と愛液のぐちゃぐちゃに撹拌された濃厚極まる性臭が天幕内には充満していた。
ここではゴロツキのナンパに応じてしまったのか、はたまた無理矢理拉致されたのか、一人の娘が随分前から延々と犯されて続けているのだ。
天幕は中々に立派な物であり、安宿の一室などよりはマシな面積を備えてはいるものの、5~10人の半裸の男が常に群れている事を考えれば、その中央で滅茶苦茶に犯されている娘の存在が無かろうとも籠もる熱気は窺い知れよう。
帰り道の途中で購入してきた瓶詰めのドリンクを手渡す中、正常位で組み伏せられた娘の腹にバスバスバスッと力強いピストンで腰を打ち付けていた男が気の抜けた喘ぎと共に裸の尻をブルブル震わせ絶頂へと至る。
当然の様に中出し。
しばし余韻を楽しんだ後、ズルゥ…っと萎え始めた肉棒を引き抜いた男は手渡されたドリングを飲みながら手にした木炭で女の太腿に落書きを施す。
先の中出しが何度目かを記すマーキングは、凄まじい数を示している。
ご案内:「海の庭 白昼」から軽薄そうな男達さんが去りました。
ご案内:「セレネル・屋台エリア【海の庭】」にハクさんが現れました。
■ハク > 「はーい、海鮮焼きそば大盛りとバラ肉焼き盛り合わせできたよっ!」
景気のいい声をあげ、屋台の鉄板で作った料理を皿に盛り声を上げる。
その声を聞いて近くにいた女性がやってきて皿を両手に持ち、オーダーした客の所へ配膳する。
海の庭はレジャービーチに割りと近い屋台エリア。
屋根と柱だけで作られた少々大きめ(4人がけテーブルが20席あるので大きめといって差し支えないだろう)の建物のオープンキッチンで、今日は大人姿となったハクは料理の腕を振るっている。
大人姿になっている理由は単純に腕力・体力問題。子供姿では鍋一つ振るうだけでバテるので、今は大人姿で鉄板と対峙しているというわけだ。
「次は?」
『かき氷3つとつめたーーい水だって!』
「それは私じゃなくてミリィに頼むね!」
鉄ヘラを使い、鉄板に残ったものをこそぎ落としながら次のオーダーを確認したところ、兎耳のミレーであるラウラはメモを見てオーダーを口にした。
それを聞いたハクは、キッチンのすみっコの椅子に座って休憩中の猫耳ミレーのミリィに話をふり、タオルで汗を拭う。
元々水や氷系統の魔術素養は高くなく、更に大人化しているため魔法はほとんど使えない。
こんな暑い所で冷たい料理を出すとなれば氷の魔法を使わざるを得なく、となれば氷魔法を使えるミリィに話をふるのは当然で。
『ぇー、せっかく休んでたのにー……はー、ハクあとで魔力わけてねぇ』
「わかったから、頼むよっ」
とは言えミリィもそんなに魔力が充実しているわけではない。こんな暑い日ともなれば冷たい飲み物や食べ物のオーダーは多く、その度に氷魔法を発動させている彼女が疲れ気味なのはわかっている。
わかってはいるが、オーダーが入った以上仕方ないので働いてもらいながら、入り口としてあけられている一角に新しい人影を見かけて声をあげた。
すでにテーブルの7割りは埋まっているものの、まだ人が入るには余裕がある。
ここは海の家『トコワカ』。
サマーヴァケーション氏にマグメール娼館組合から依頼して借り上げた一角に開かれた夏の出店。
働くものは皆娼婦・男娼ではあるが……少なくともこの場所ではそういうサービスは行っていない。
今日は『びーすとろあ』で働く娼婦・男娼が店員当番の日だ。服装は全員水着姿。男性はスパッツタイプで女性はビキニタイプの上、どちらも海用のライフジャケットのようなものを身に付けている。
重ねて、この店内ではそういうサービスは行っていない。至って健全な海の家だ。
ただし客から希望があれば働いている店員の娼館でのプロフィールを取り寄せる事もできるし……
すぐ近くにあるコテージも同名義で借り上げられており、店員のうち何人かはそこに30分から2時間程度の時間、『デリバリー』していることもあるが。