2024/04/13 のログ
ご案内:「北方帝国シェンヤン「八卦山」」に宿儺姫さんが現れました。
宿儺姫 >  
かつての記憶と力を取り戻した折、いくつか気になったことが在る。

取り戻す切欠を与えてくれたあの者にはいずれシェンヤンの酒の一つもくれてやらねばなるまいか。
そう思いつつ野山を早駆けに、自身が生まれそして封印されていた地へと戻ってきたのは一匹の雌鬼。
広大な八卦山のほんの一角にすぎない峠、かつては鬼と呼ばれる悪妖が跋扈していた一部エリアにて。

女鬼は大きく砕けた巨岩の前で訝しげに腕を組み、眉を顰めていた。

宿儺姫 >  
言われてみればなぜ突然に巨岩は砕けたのか。
落雷に打たれた、にしてもあたりには他に落雷の痕跡などないではないかと。

「何者かが作為的に我を覚醒めさせた、にしても誰が…という話になるしのう」

封印が解け、眠りから覚めた時には、古に鬼族が跋扈していた集落は既になく、同胞の姿もなかった。
深く考えず下山してしまったが、何処かへと移り住んだか、あるいは…。

「──シェンヤンの道士どもに滅ぼされたなら、言い伝えられておるか」

ううむ、と考えるのが苦手な鬼は不得意な思案の巡らせにガリガリと亜麻色の髪を引っ掻く。

ふとした切欠で戻った完全なる過去の記憶。
自身を封印していた巨大な碑石を砕いた者の存在が気になり、一路王国から帝国へ。
しかしその碑石の残骸を見てもいまいち、何かが他に残されているわけでもなく。

宿儺姫 >  
同胞、つまりは自分を鬼姫と祀り上げた同族の鬼やその子孫の仕業ならばあの場に誰も残っていないわけがない。
では悪仙や他の悪妖の仕業か。
それはそれで、ではなぜそうしたのか。
封印の効力が切れ自然に砕けたのではない。
故に封印の効力がなくなるまでに時間がかかり、過去の一部の記憶と最盛期の力を取り戻すのに時間がかかった。
…それで漸く、自身が意図的に封印から復活させられたのだということが理解ったのだ。

「道士ども…ではあるまいな。
 わざわざ我を起こす必要が何処にもあるまい」

数百年前の話が残っていたとて、人喰らいの鬼をわざわざ呼び起こし放置する必要はあるまいと。
足元に転がる砕けた碑石の大きな欠片を拾い上げ、眺める。
それには未だ封印の力が残されているのか、手にすると肉体に強力な重力がかかったような感覚を覚える──。

宿儺姫 >  
八卦山は広く、過去に鬼の集落があったこの峠はほんの一角である。
鬼などよりも遥かに狡猾で悪辣な邪仙どもはなんとかかんとかと呼ばれ、山の最高峰の仙窟や宮殿に住まうという、
ただ力ばかりの女鬼にとって正直上から見下されているようで連中のことは好かぬものであったが、
戯れに自分の封印を破れるような力を持つ者と考えると、どうあっても連中が頭を過る。

「…一度踏み込んでみるかのう。頂近くまで」

不透明ではあるがもし封印を破壊した者がそやつらであるならば…、
理由の善悪問わず、酒の一つもくれてやれねばなるまい。
そして改めて、悪しき理由であれば──。

「封仙宮の邪仙どもの仕業であれば、であるがな」

手にした巨岩の欠片にメキメキと力を籠め、強烈な音を立てそれを容易く砕く。
最盛期の肉体と力を取り戻した今であれば多少なりは連中の術にも抗えるか。
…こと剛力というという点だけに限ればこの山の鬼、雄も含め自分に勝てる者は当時はいなかった。

宿儺姫 >  
「…しっかしあれだけおった鬼どもは何処へいったのやら。
 たかだか数百年で絶えるでもあるまいに……。」

いざ記憶がしっかり戻ってみれば、同胞が誰一人残っていないというのは寂しいものである。
人里から奪った酒での酒宴、人を喰らうという悪徳が当然と在った…人から見れば忌むべき集落ではあったが。
女鬼からしてみれば悪い記憶ではない。

何処かへと移り住んだのであればそれはそれで良いのだが。
絶えてしまったとあれば、雌である自分がいなくなったせいか、とも思える。

砕けた巨岩の欠片をパラパラと足元に落とし、踵を返す。
向かう先は、かつて在った人喰い鬼の集落の中心部…八卦山の峠の奥である

宿儺姫 >  
大きな集落ではない。
当時にいた鬼の数も数十といったところ。

「ううむ。これは…」

かつて、といっても数百年前の記憶を頼りに足を進めていた女鬼が立ち止まる。
建物は朽ち果て、村という様相はとても成していない。

「完全に廃墟じゃな……」

当時は何やらを祀る社やら、でかい屋敷も在った気がするが、
最早そのどれもこれもがボロボロで原型を留めていない。

「打ち捨てられ、朽ちたか。それとも」

やはり、何者かに滅ぼされたか。
山頂を見やる。…見下ろし、集落の顛末を見ていた妖仙どももいるのだろうか。
…連中が戯れに滅ぼした…などという線も在るのが面白くないところではあるが。
しかしそれも弱肉強食なればこそ、劣る者は例え鬼であろうが喰われるのみ。そうだったとしてもそこに遺恨は生まれない。

宿儺姫 >  
「まぁ、こんなものじゃろうな……」

集落の中心…枯れ井戸にどっかりと腰を降ろし、一息を吐く。
考えてみてもわからぬものはわからぬし、もしかしたら誰ぞか同胞の一匹でも残っているかと期待したが。
人っ子一人、ではなく鬼っ子一人とていなさそうな廃墟に、女鬼は残念そうな表情を浮かべる。
力と闘争にしか興味がないといえど、記憶の中の村がこの有様では感傷がまるでないとはゆかず。
せめてこうなった顛末くらいは知りたかったものだが、と腰元に吊るした古徳利を掴みあげ、口元へと運ぶ。
中身は王国にて知り合った者から譲り受けた酒。
この場、帝国の山で呑むには些か味わいの違うものではあったが、
それも余計にこの場所の虚しさを強調する味に思えてしまう。
しかし、そこで気付くのだ。

ただ朽ちたにしては、石垣や石畳までもこうまで崩れ去るものかと。
思い立った鬼は立ち上がり、まだ僅かながらも原型を留めている集落の住居だったものへと足を踏み入れてゆく。

宿儺姫 >  
家屋は既に家屋としての機能を果たしていない程に崩れてしまっている。

「小難しいことはわからんが、どれだけ時間が建てばこうなる…?」

自分が封じられていた数百年の時間とはそれほど長い時間だったのか。
しかし、だとすればこれほど崩壊するのは…。

「──我がいなくなり、それほど時間が経たずに滅んだのか」

ぽつりとそう零す。
で、あるならば…自然の流れで絶えたということではあるまいと。
なれゔば自身を封じた道士達が、殺戮の限りを尽くしたか。
簡単に朽ちぬであろう石造りの階段や石壁、石畳までが崩壊しているのも人の手による破壊であると納得はできる。

道士達に滅ぼされたにしろ
雌がいなくなり絶えたにしろ
天頂に佇む邪仙どもの戯れに蹂躙されたにしろ…
自分がいなくなったために…と考えればさしもの雌鬼も厭な感情が沸きはじめる。

「当時を知る者。なぞもそうそうは出逢えぬか。それこそ…」

気に入らない連中、しかいるまい。
外に出ると、邪仙どもが住まう山頂を睨めあげる。