2023/08/04 のログ
ご案内:「北方帝国シェンヤン「八卦山」」に天ツ鬼さんが現れました。
天ツ鬼 >  
久方振り
故郷とも言え様山に足を戻す
相も変わらず深霧に閉ざされた山道を、一匹の鬼は構う事無く歩み進んでゆく
封仙宮に足を踏み入れたことこそないものの、山間は足慣れた場所、迷うこともなく

程なくして、山林の拓けた場所へと出る
雲の切れ間から月光が、霧烟る山肌の大きな──真っ二つに割れた岩を照らし出していた

「呵呵。あの時の侭か」

大きな岩の前で歩みを止め、片手を伸ばしその岩に触れる───バチリ、と
周囲をも照らす稲光が触れた鬼の手から迸り、黒煙があがった

天ツ鬼 >  
割れてから随分経つというに、未だ此れ程の力が宿るか
フム、と感嘆の吐息を零し、一瞬で焼け焦げた自身の掌を見る
帝都の導士達の術を褒めるべきか
割れてから随分経つというのに強力無比な効力が岩に残っている

さて、鬼が八卦山に戻ってきたのにはいくつか理由があった
一つは湯治
矢張り故郷の山が一番傷を癒やすには良い
そしてもう一つは、この岩である
おそらくシェンヤンの導士達が何重にも仕掛けたのであろう封印の術…
未だ岩に残るその効果を持ち出すことだった

天ツ鬼 >  
「よっ…、と」

引き摺るようにして持ち運んできた、身の丈を軽く超える大鉈を肩へと担ぎ、振りかぶる

「憤ぬっ!」

そして、徐ろに割れた岩に向け叩きつける
夜の静けさを引き裂くような衝突音が轟き、砕けた岩の破片が辺りへと散らばって──

「──うむ」

掌ほどのサイズの岩の破片を大鉈の腹でキャッチし、満足気に嗤う
ころりと足元に転がしたそれに、かがんで指先をそっと触れれば…再び、バチリと火花が飛ぶ
鬼の妖力と反発する術…恐らくは呪詛に近い力が込められている封印の岩、その欠片

「呵呵、王国のまほーだとかまじゅつだとか、小細工を使う連中にも効くかもしれんの」

何度か煮え湯を飲まされたあの手の術師に上手く作用するのではないか、と

単細胞の鬼なりに珍しく考えた結果の末の行動であったらしい

天ツ鬼 >  
「手先の器用な者に加工させれば良い魔封じになるやもしれんぞ、フフフ」

その手の技術を持つ者には宛も在る
ここ帝都では八卦の鬼など街に入れもしないが、王国領となれば話は別である
うまいこと角を隠せば人の街に入ることなど容易い

「──しかし」

強力な導士を多く抱えているにも関わらず
未だにこの山の…封仙宮には手を出せていないと見える
仰ぐように、天に向かって伸びる八卦山の頂きを望む

思えばこの山で暴れた時期こそあったものの、あそこに立ち入ろうとは思わなかったと
単純に興味が沸かなかったのもあるが──おそらく力任せでは叶わぬであろう予感もあった
自分が離れている間にもその状況は変わっていないのだろうことに小さな笑みを浮かべ、さて目的は果たしたと