2025/02/09 のログ
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アマーリエ > 王都郊外の本拠に詰め、緊急出撃(スクランブル)が可能な竜騎士と騎竜のペアは二人と二体。
師団長を除く基本構成としては最低単位、といったところか。他は遠方への偵察と国境巡回に出ている。
頭数としては少なくとも、竜を従える武威と力量を持つものたちは、即応部隊の先触れ、先鋒とするに十分過ぎる。
兵力が足りない? ならば、最大兵力の第一師団や魔族専門の第七師団にもお出で願えばいい。
空行く竜と随伴する騎兵の足の速さとは、誰よりも早く戦場に到達し、引っかき回すためにこそある。

――炎を落とす。火の手を上げる。

自由自在に上空を周回し、俯瞰しながら狙い澄ました閃光の如き吐息を白い竜が吹き付ける。
こんなものは窄めた口から息を吹き出し、蝋燭を吹き消すかのよう。
だが、竜の大いなる肺活量で高熱高温の吐息を吐き出し続けるとしたら、どうなるだろうか。そんなものは想像に難くない。
それこそが竜の恐ろしさの最たるもの。
何の工夫もなく盾を構えたら、怒涛の如く押し寄せる炎は盾を融かすよりも先に敵を灼く。

「ン、上出来。次は門の外から出る奴を狙って。逃げ足になってる奴から先に狩ってしまいたいわ」

生残者の存在を考えれば、砦を火の海にする選択は避けたい。必要な犠牲とするのは嫌でも気が引ける。
上空から狙われることの恐ろしさを実演しつつ、指示を受けた竜が首を巡らせて翼をはためかせる。
向かう先は魔族の国側に面した砦の門、その上空。浮足立つものより真っ先に頭数を減らす。
それで踏鞴を踏むなら、女騎士と竜で挟み込むように攻め手を進める。その心づもりである中、阻むのは。

「だって、ねぇ。――少なくとも生きてくれてる以上は救わないと、ね?
 此れでも一軍を預かってる者なの。さっと見捨てたら、色々と面倒なの。お分か、り、っ、と……!」
 
黒剣を振るう魔族の女である。チカラを帯びた白銀の槍と剣が打ち合い、火花を散らす。
一瞬の均衡状態ののち、向こうが距離を取る。間合いを取るような素振りを見せる。
これは、嗚呼、成る程。竜を狙うのか。
そう見立てながら混沌の坩堝のような中庭に着地し、ぐっと身を伏せる。

「さっきのコトバを返すわね。あっまいわよ――“ドラッヘ・フェアトラーク”!」

そうしながらチカラを引き出す。契約を交わした竜より、見えざる経路を通じてその威力を借り受ける。
その五体に赤い魔力光を迸らせて、見開く瞳は先程までの青色ではない。黄金の竜の眼だ。
大きく広がったマントは二つに分かれ、蝙蝠の皮膜と似て非なる、大きな翼を形成する。

まるで、竜が人に変じたかのよう。
女騎士が独自に開眼した術技の行使を持って得た翼で、虚空を打つ――飛び上がる。
竜の背後を取らんとする敵将の頭上目掛けて放物線を描いて飛び上がり、振り被った槍を叩き付けにかかろうと。

ヴィロサ > 人質と地の利を有していてもなお、決定打を持たない以上は依然として脅威となる竜。
そそくさと逃げ去った兵たちを無理に呼び止めても無意味に焼かれて死ねというようなもの。

同胞を数多く骨も残さず焼き焦がし、虫を殺すようにして蹂躙した暴威の化身はただそこにいるだけで恐怖が溢れ返る。

「連れていけっ!!絶対取り戻させるなっ!!!」

女の鬼気迫る叫び声が木霊する。
数名の魔族が、辱めを受けていた虜囚を複数人で担げば翼を羽ばたかせて何処かへ去っていく。
手足をじたばたさせ、助けを乞う声は少しずつ小さくなっていく。

向こうはこちらの戦利品を大切に持ち帰りたいらしい。
中には問答無用で切り捨てる者もいたが、人質としての利用価値が高い相手と分かれば余裕が戻る。

「仲間思いだな、この間の上っ面だけの男とは大違いだ……っ!!?」

力でのせめぎ合いは分が悪い。
機動力でかく乱しようと画策するが、女騎士が呪文のような言葉を発すれば魔術を行使する自身にはあまりに膨大に感じ取れる程の魔力が。
単なる恰好だけと思われていたマントはまるで、自身らに生えているそれを思わせるような翼へと変化。
人間の魔術はここまで発展しているのかと驚愕する。


「が……ッ!!!」

生身でも戦慄する膂力を誇った女騎士は人ならざる力を得て、魔に属する女を容易く叩き落とす。
一直線に叩き落とされ、砦の岩壁に直撃すれば爆音と共に穴をあけ、そのまま砦を貫通して屋内に墜落した。

「ゲホ……ッ。クソ、乗り手まで化け物だなんて聞いてないぞ」

明かりのない屋内を、開いた大穴が照らしつけ、埃や傷で汚れた女の姿をハッキリと映し出す。
流石に魔族ゆえの強靭さから、骨の一本すら折れた様子はなく、忌々しそうに空を睨んで起き上がる。

アマーリエ > 空を飛べるというのは、ただそれだけでも大きなアドバンテージがある。
だが、そんな駒が単なる一矢で墜ちてしまっては意味がない。
その点、竜は理想的に近い。速度だけを言えば、鳥型の魔獣に目を向けるとより速いものも居るかもしれない。
竜であれば、下手なへろへろ矢は容易くは鱗で弾き返す。
低位な魔法は無力化し、さらに魔法すらも操ってみせる大いなるものが、戦場の天空を抑える恐ろしさ。

「……聞いたわね? 敵は殺して良いけど、生き残りは可能な限りお願いね」

聞こえた言葉を意識を結ぶ竜に流し、伝えて指示を出す。
ヒトと接し続けた竜は察しが良い。それに何より、この国と魔族との戦いにおける虜囚がどういう扱いかを知っている。
だから、戦利品=捕虜が大事であるというのは、両軍共通の認識となるだろう。
自分たちとてそう。見眼麗しい魔族は奴隷として価値が高い。政治的な利用価値がある。

「それ、どんな男? それはそれで気になるけど――」

どの師団、どの隊のものか。それとも何らかの名のある傭兵か冒険者であるか。
上っ面というのは、どれだけ性質が悪い類なのかどうか。気になる事が増えるのは良くもあり、悪くもある。
傭兵か冒険者であるなら、採用段階で弾いておきたい。軍を差配するものとして嫌でも気を付けないといけない。
いやいや、其れは後だ。今は集中せねば。
可能な限り速やかに生残者の安全を確保し、敵を退けるか。此れもまたあわよくば、か。

「……興味深いわね。――老練と呼ぶには真逆。若くて青くて荒い。あなた、名前は?」

敵兵の頭を押さえなければならない。そうすれば統率を乱し、より一層目論見を達成し易くなる。
偶々老朽化していたのか。それとも度重なる襲撃で脆くなっていたのか。
槍でぶん殴られた敵将が砦をぶち抜いて、屋内に墜落してゆく。それを見届け、追ってゆく。
マントを依り代に形成した竜翼をはばたかせて、飛行してみせる姿は乱れない。熟練を積んでいる証だ。
大きく空いた穴に飛び込み、見えてくるのは大きなホール状の空間。かつんと靴音を鳴らし、翼の術を解いて相手を見る。

槍を振り回すには――困らないか。

兵を集めるに丁度良い空間を確かめ、その名を問おう。ひゅうと振り回す槍の穂先を持ち上げ、構えるのは次撃で押さえる心積もりか。

ヴィロサ > 多くの者がイメージする竜の吐息は、たった一度で焦土と変えてしまう程に強大で無差別的なものだろう。

しかし、対峙する神々しき竜のそれは随分と異なった。
的確に排除すべき標的のみを灼き、救うべき者を選別する器用な芸当。
大いなる力にはえてして付き物となる、制御できない危うさというものが全く感じられない。

敵ながら恐ろしい以上に感心すら覚えてしまうほどだ。味方の一部に、爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

「せっかく生かしてやったのに、わたし達もろとも丸焼きにしたろくでなしさ!!」

忌々しそうに吐き捨てるのは、既に自身たちが毒牙にかけて今頃理性など残っていないであろう王国騎士だった者。
名前を知る気すらなかった者だが、同じく王国に籍を置くこの女なら相対してはじめて誰なのか分かるかもしれない。

……もっとも、そんな男の話に花を咲かせている暇はなく。
人の身なれど、魔族を遥かに凌駕する力とそれを持て余さない技量の持ち主には呆気なく力で退けられてしまう。

埃だらけになり、咳込んだまま空を睨んでいればあの人とも魔ともつかぬ姿をとっていた女がすぐに迫る。

「確かに強いな。……わたしはヴィロサ。
 お前達の仲間を大勢、殺す事なく”大切に”してやるとびきり慈悲深い魔の将さ」

槍の間合いに入り、状況を悟れば持ってた剣を棄てて両手をあげる。
気丈に笑みを浮かべたまま、ただじっと眺める魔族の女は翼や角さえなければ、年頃の魅力的な生娘に映るかもしれない。
その魅力は柔らかさのある華奢な身体つきだけではなく、全身から放つ淫魔の妖気と催淫の呪力も手伝っているのだが。

「わたしの部下は優秀だ。あまり侮ってると後が怖いぞ?」

追い詰められた側なのに、生意気さに事欠かない魔将。
散り散りになった同胞の存在を仄めかしながらも、呼びかけには応じて言葉を介するのだった。

アマーリエ > 力を力のままに垂れ流すことは愚かしいこと。だが、強い力を精妙に御せるなら、それはより強い力となりうる。
長く生き、老いて知恵を深めた竜ならば、自ずとそれを悟るかもしれない。
しかし、竜騎師団たる第十師団の麾下に収まった竜たちは違う。
元々は災害指定、害竜として荒ぶっていた(もの)たちも少なくない。
それを変えたのは従える騎士であり、竜と騎士たちが繰り返し続ける連動、連携の訓練だ。人の軍略を浸透させることだ。

「わぁ最悪だわそれ。……追求したくなるけど、そうするにはちょっと今は余裕が無いわね」

どんな類の騎士、悪漢やら。
騎士といっても一口に色々だ。物語から出てきたからのような清廉な騎士が居れば、その真逆も居る。寧ろそちらも多いか。
悪逆を為してそれを包み隠すことに長ける者ばかりだが、そうしなければ色々と上手く回らない世の中でもある。
面倒なものだ。もう少し情報があるのならば、調べが付けられることだろう。そんな歓談に更け込むには、それどころではないが。

「ふふ、どうも。――私はアマーリエ。
 王国軍第十師団の長よ。そんなにとっても慈悲深いなんて、最近の魔族は色々と毛色が変わったわね」
 
世代交代、ともいうのか。魔族の年齢は見た目だけでは測れない。にしては、見た目に近いような若さというべきものを感じる。
“慈悲深さ”が言わんとするところは、さて、どう言う点か。
ふっと相手を見遣る中で感じる、ひたひたと這い寄り、染み込むような妖しさの気配に覚えがある。
恐らくという枕詞を前置きにするにしても、淫魔の類、と言ったところか。だとしたら、か。

「あら、私の部下だってとても優秀よ。
 ……ほら、そろそろ聞こえてこない? 
 大事に抱えているものを置いて行ってくれるなら、あなたの部下は逃がしてあげる。どう?」
 
剣を捨て、両手を挙げてみせる仕草に小首を傾げ、構えを解く。石床に槍の石突を叩きつけながら、耳を澄ませる。
竜の咆哮が遠く遠く、遠雷の如く響く。それは女騎士と共に先に現れた白い竜のものではない。
新たに二騎分、近づいてくる。逃げ去り行く敵兵たちが、荷物を抱えている限りはそうそう容易く逃げられまい。

ヴィロサ > 実物を目にすることで、災害以上の脅威という事が身に染みて理解できた。
正直なところ、直に目にしていなかったために甘く見ていた部分があるのは確かだ。

自身らが生身の人間より強靭というだけでは、到底覆せない存在。

「見直したか?お前達人間はわたし達が怖くて殺さずにはいられないみたいだが。
 いかにあのデカブツを従えても、人間そのものは何も変わらん」

追い詰められていながらも、武装しかり竜しかり。自身以外の何かを失えば雑魚だと言わんばかりに悪態をつく。
戦況としてはほぼ敗北と言って差し支えない。戦場を離れた同胞たちが戦利品を無事に持ち帰れたか、
そして離脱した同胞がこの女と竜の知らぬ場で新たな”悪さ”をして戦況を乱すかが鍵となる。

「…………うーん。交渉の余地があるなら……そうだな」

上から目線の提示には、多少鼻につくが力で圧せられた相手だ。
変に楯突いて隙を潰されるよりは巧みに、狡く機会をうかがうことにする。

そして、強いようだがそれ以上に麗しい女だ。多少どころか大いに関心を抱いている。

あわよくば なんてくだらない劣情はたとえ魔族や敵軍でなくとも湧いて出るのも不思議ではない。
顔立ちだけで戦場に出て傷を負うのが勿体ない程だ。

「ほう、それはありがたいな。アマーリエ……だったな?……せっかくだから、気を利かせて」

じぃ とつり目気味の両目で貴方を見つめながらにやりと笑い

「”すぐそこ”に用意してやったぞ。後ろを見てみろ」

そうして貴方の背後を指差せば、そこには誇り高き王国騎士……だった者たちの成れの果ての姿が。
汚液にまみれ、乳房と腹は妊婦のように膨らんで散々弄ばれ尽くした若い女たちがひたひたと素裸で押し寄せていた。
れろ……と舌を出して、淫気の増してきた空間で貴方が一瞬でも意識を自身から反らせば一気に唇を奪いに飛びつこうと。

アマーリエ > 動く災害という形容は大仰でも、中らずと雖も遠からず。
それを軍勢として編成する人の力の凄まじさと、維持してみせる国の豊かさが、この軍団を支えている。
泣きどころがあるとするなら、一度失うと取り戻しが難しい人材と竜材。この両面だ。
かつては粒ぞろいではなくとも、より多く兵と竜の数を揃えていたと聞けば――敵将はどんな顔をするのだろう?

「見直すという言葉は、どうかしらね。
 それよりもまず私が言っておきたいコトがあるの。聞いてくれる?嫌でも聞かせるけど。
 私個人としては別にコロシタイから殺したい、じゃないよね。
 ――そっちがそうやって来るから、止むを得ずそうしてる。私は単にそれだけ」
 
――魔族の地への侵入、進出なんて、自分たちだけではできない。
強さを自負する第十師団の最大の泣き所。それは、強さを養い保つための兵站だ。
竜も個体ごとに違うが、概して大飯喰いの嫌いがある。兵は勿論、荷馬も軍馬にだって餌が要る。
竜の餌となれば、人化できる竜は兎も角として、例えば人化できない若い竜なら、牛一頭をぺろりと平らげる。
牛一頭から得られる食肉は何人前と考えてしまえば、つくづく食料確保面での負担が多すぎる。
その問題に、向こうは気づいているだろうかどうか。否、気づくよりも恐らくは違う目線、視点の考えが今は進んでいる。

「交渉というか、取引? 部下が大事なら、将一人と引き換えに我が身を捧げるなんて、よくある話でしょ。
 ……あんまり手間はかけさせないで欲しいわね。
 必要な犠牲だったと割り切るのは好きではないけれど、決断するにあたってそう躊躇いはしないわよ?」
 
交渉とするには荒く。力任せすらも辞さない。その選択肢は心の中で用意している。
女騎士が強いのは竜を従え、その力を使えるだけではない。
徳の類ではなく、竜を屈従させるだけの能力、技量が将としての武力を成立させる根幹。
身の回りと武具は考えられる限りの最上であっても、それが失くして戦えない――でもない。
何のつもりか。向こうの言葉、出方に微かな疑念と僅かな苛立ちを抱きつつ、判断を促すように告げていれば。

「…………、舐めてくれるわね、――っ、上等、じゃあないのよ」

気配が背後で騒ぐ。魔法の気配か?それよりも続いて生じる気配こそがもっと明確で明瞭。
哀れにも犠牲になった者達の成れの果てという酸鼻さは、一瞥するだけでお腹いっぱいになれる。
それが生きた死体よろしく這い寄るのは、死体だからか。それとも操られているのか。
槍を握り、脳裏に浄化の術法を思い浮かべたところに、唇を奪ってくる姿が――見えて、重なる。
口づけというには荒く、さながら噛み千切るようにも似た重なり合いの合間に、目を細める。

(――指揮を、任せるわ。帰って来なかったらよろしく、ね)

修羅に入る、というのか。指揮よりも専念しなければならない事象の発生に、白き竜に念を送る。
その念はリレーよろしく、飛来する竜騎士たちにも伝達されるだろう。

確かに、成る程。一筋縄ではいかなそうだ――。

ヴィロサ > 侵略者である魔族に対して、殺気立ったり仇討ちに燃える者は数多い。
しかし、どうにも己を追い詰めた女騎士はそのような情に振り回された訳ではなさそうだ。

……単に、決して揺るがない盤石な優勢に微塵も動じる必要がないだけかもしれないが。

「それは、わたし達に言われても難しいな。
 生憎こんな血生臭い場所に飛ばされてるのは、わたしより偉い”らしい”ふんぞり返った連中の命令だ。
 似た者同士 そうだろう?」

止むを得ずそうしている そう告げる貴方には、反省や後ろめたさなどまるでない。
自分達とてただ命令として、責務としてこなしてるだけだ とけろっとした表情のまま。
しかし、生かしたまま蹂躙し弄ぶ仕打ちを好む彼女たちが戦場を駆ける戦人としてどこまで真面目に職務を遂行しているかは疑問符がつく。

それは王国騎士の者だけではなく同僚の魔族たちからも、きっとそのように映っている。

「なあ、想像したことはないか?……犯され、慰み者にされた奴がいつまでも泣き叫び羞恥に悶えている訳ではなく、
 ……奴等は”望んで”わたし達と交わり、獣の如く腰を振るんだ」

ぶちゅ と風情に欠けた荒々しい接吻。
大胆にさらした胸元を見せつけるようにして身体を寄せ、そっと静かに囁く言葉は底なしの快楽への誘い。

淫魔にとって催淫の手段は数多くあれど、最も強い効果を発揮するのは肉体的接触だ。
まだ年頃で幼さすら残す魔将は純粋な淫魔には劣るが、それでも散々王国軍をかき乱しただけはある。

理性を失うまではいかずとも、戦場でくすぶり続けた情念に火をともし、動物的本能をざわめかせるには充分すぎる力がある。

「お前は、強くて美しい。……仲良くしようじゃないか。なあ?アマーリエ」

対峙する敵将の名を、艶やかな声で呼べばそのまま唇の間に無理矢理舌をねじ込もうと。
密着しているだけで、まるで実体のない鎖が貴方を縛り付けるように身の自由を奪っていく。

強固な信念でそれを跳ねのけるのか、内に眠る”本能”に従うかは貴方次第だ。
底なしの甘い闇の向こうで待っているのは……地獄かもしれないが、楽園かもしれない。

アマーリエ > 「ああ、そう。……似た者同士と思うのは早計じゃないかしら。
 私を従えられるのは、この私自身か王の言葉のみよ。
 ……どれだけ、そっちの土地への侵攻計画が挙がって消えているとか、想像できてる?」

まあ、そういうものか。職務に忠実である。それは結構。種を問わず褒めるべき美徳だ。
しかしながら、他者を弄ぶことに悦を抱く類の種であるのは、どう足掻いても否定し難い現実であるらしい。
自分を獲物にした個人的な接触なら、まだ如何様にもなる。その手の経験は初めてではない。
今言葉を交わす相手が、軍略や政治的に思慮深い――気がしない。
詰まりはやはり若い。その素振りは、我が身に照らして思うなら、こそばゆさを覚えずにいられない。

「想像よりも――報告書で読む方が、想像以上の実例として嫌でも聞くわねー……。
 ナマの経験談もないわけではないけど、ね。
 なぁに? 腕っぷしよりも、そっちの方が自分が強い、上回れると言いたいワケ?」
 
人間、苦痛よりも快楽にこそ抗いがたいとはまことしやかに言われる事柄だ。
愛し合うというには、余りに風情がない押し付け合うような接吻を経て、身を寄せてくる姿に――成る程、と覚える。
寄らば斬る。その選択肢が薄れているのは、向こうの出方を愉しむ、確かめる以前の欲を喚起する何かがある。
その何かとは、考えるまでもないだろう。この向こう、青く若い魔将が誇るチカラの証だろう。
こういうのもまた、戦いではあるのだろう。口元に苦笑を滲ませ、右手に握る槍をくるりと持ち換える。

長く鋭い切先を石畳に突き立て、口の中で呪を紡ぎ、魔力を走らせて威力と成す。
槍を楔とした大きなドーム状の結界を形成する。
侵入口も真っ当な経路となるドアも塞ぎ、使わせないとする淡い光の天蓋を巡らせて、息を吐く。

「……しっ、かたないわね。“なかよく”してあげようじゃないの、ヴィロサ。出られなかった方が負けね?」

胸元を緩め、鎧の留め金を外し、腰のものを落とす。下ろす。
武装解除ではない。今からの戦いには邪魔になるものだ。
改めて唇の間より割りいる舌を迎え撃つように退き込み、啜り上げながら向こうの背に手を回す。
翼の付け根をまさぐるような手つきをやりながら、腰裏まで撫でおろしつつ、意気を保つことで見えざる鎖への抗いと成す。
建前の如き理性、気概を抱きつつ、情欲を愉しむ本能と釣りあいを取り、最後まで楽しめるかどうか。

今からの戦いはきっと――そういう戦いになるだろう。

ヴィロサ > 【継続します】
ご案内:「タナール砦」からヴィロサさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からアマーリエさんが去りました。