2025/01/12 のログ
ご案内:「タナール砦」にナランさんが現れました。
■ナラン > 「―――……」
そっと吐く息が、黒い空に白く立ち上っていく。
砦の物見の塔のひとつでひとり、見張りとして蹲っている女はその煙を追いかけるように目を細めて空を見上げた。
今空に月は見当たらず、いくつか星が瞬いているのが見える。風はないが、しんと冷えた空気が上着越しでも感じ取れる。
今日は昼間に襲撃もなく、砦の雰囲気もどことなくのんびりしている。見張りの交代の相手に、寒いと魔族といえども襲撃の手を緩めるのだろうかとこぼしたら
寒気を逆手に取る相手がいるから気をつけろと、脅しとも本気とも取れない顔で言われてしまった。
(…気を抜くつもりは、ないですけど)
ふぅーっと長く吐息をはくと、また白く煙っていく。
女は交代時に手渡された、ほんのりと温かい丸い石を両手で転がす。魔法の産物なのだろう、黒くてつやのある、女の掌に丁度収まる大きさの石は大分時間の経った今も冷えていく気配はない。
ご案内:「タナール砦」にヒューさんが現れました。
■ナラン > こうしてじっとしているのは狩りのときに経験はある。
靴の底から背を預けた石壁から寒気が伝ってきそうなものだが、不思議とそんな気配はない。何か、雪が積もらないためとか、凍らないための仕掛けでもあるのだろう。
(…魔法)
ひとつ瞬きをして、見張りのために彷徨わせていた視線を掌の上の石に落とす。
自分が、ほんの小さな火をつけられるだけでもすることができたら、どんなだろう。
(今みたいな時には、役に立たないでしょうけど…)
料理をするとき、野営で暖を取ろうとするとき、便利だろうと益体もなく考えてみる。
考えながらしげしげとみていた石を空にかざす様に持ち上げると、女の視界に、ちらと降ってくるものが見えた。
それはふわふわと舞っていって、ひとつ、目で追っている間に別のものが。
「――――雪 !」
女が思わず小さく上げた声はどこか歓喜を含んでいた。
■ヒュー > 見張りの相棒の元へと戻ってきた矢先見張り塔の階段を上りひょっこりと顔を出したところで何やら換気を含んだ声を聴く。
「どうした?そんなに珍しかったのか?」
等と白い息を漏らしながら声を掛けながら差し入れのお茶が入れられたポットを揺らして見せながら隻眼の一つだけの目は愉し気な笑みが浮かんでいた。
■ナラン > 思わず声を出し、視線を更に上に向けると
いつの間にあらわれたのか、ふわふわと舞う白いものが黒い空から一斉に降ってくる様子が見えた。
消える幻でないかと確かめるように、女は思わず立ち上がって掌で受けようと手を伸ばしたところで、背後から聞き覚えのある声。
「ヒューさん! 雪ですよ、雪!
――― 珍しく、は ないのかもしれないですけど」
寒さのためか興奮のためか、紅潮した頬で彼を振り返って言葉を返して
すぐにまた空に向き直ってから、少しばつの悪そうな声を付け足した。すこし、子供っぽい所を見られてしまったかもしれない。
「… ヒューさんは、もうお酒は今日は済んだんですか?」
お茶の香りを捉えて、更にごまかす様に言葉を付け足しながらそおっと振り返る。
手は、相変わらず雪に触れようと伸ばしたままだけれど。
■ヒュー > ふわふわと舞い降りる雪はちらちらちかちかと星明りや砦から漏れる光を受けて輝いていた。
雪にはしゃぎ立ち上がり掌で受けようとしていた相手が振り返り、紅潮した頬で嬉しそうにする相手を見て男は楽しげに笑い。
「いや。 雪を見てうれしくなる気持ちも分かるぞ?」
言葉を返しながら完全に姿を現すと、相手の隣に腰を下ろし。
「いや 今日は飲まないぞ? それはさておき、そうだな、今度はまとまった休みを取って雪山の温泉宿にでも行くか?」
と、雪を捕まえようと手を伸ばしたナランの様子を楽し気に眺めながら持ってきた水筒を開けコップに温かいお茶を出し相手に差し出した。冷やし過ぎると風邪をひくぞと囁きを咥えて。
■ナラン > 雪をみてはしゃいだのが見透かされたようで、気持ちが分かるといわれると女は少し唇を噛んで視線を逸らした。寒気のせいで火照った頬に、ちらつく雪のひとひらが触れて溶けていく。
「… しばらくぶりだったので、つい。こちらで積もっているのも、見たことがなかったので」
彼が隣に腰を下ろすと、そこから温かさが漂ってくるように思える。
目を離した隙に掌の上に舞い降りた雪は、視線を戻す前に溶けて消えてしまった。
「… 飲んでないんですか? どうしたんですか?」
雪にはしゃいでも、温かさ―――――それは女が勝手に感じているだけで実際にぬくもりを放っているわけではなかったかもしれないけど―――――に惹かれるように身体は動く。腰を下ろした彼のごく傍に、ごく自然にストンと腰を下ろしてしまってから
女は掛けられた言葉を脳裏で反芻して、驚きで見開いた眼で彼を見上げた。
「どうしたんですか?」は、お酒のことか、温泉宿の事か
きっと、どちらの事も指していたんだろう。
差し出されたお茶のコップを、ありがとうございます、と感謝の言葉とともに受け取って
暖かい湯気を立てるそれを口にする前に、女はまたしげしげと彼を見上げている。
「…… どこか具合が、悪かったりしますか?」
随分前のような気がするけれど、調子の悪かった彼を見たことがある。女は眉根を寄せて、彼の片方の瞳を覗き込んだ。
■ヒュー > 何やら気恥ずかし気に沈黙する女を男は愉し気に眺めていて。
「ふむふむ。 積もっているふかふかの雪、温泉に入って酒を飲みながら眺めるのも良いぞ。」
等と続けながら隣に腰を下ろせば見張り塔の中に置かれた長椅子。
冷えたその座面にどことなく居心地が悪く尻を揺らして。
「ん? ふふ見張りだからな。 それに俺も偶には飲まずにならんと過ごすのもいいかと思っただけだが?」
等と楽しげに笑いながら隣に腰を下ろし、何やら驚いたとばかりに見開いた眼でこちらを見上げる相手のことを見下ろし。
相手が隣に座ればほんのりとそちらから感じるぬくもりに無意識に男の腕は持ちあがりナランの肩を抱き軽く引き寄せ男の方へと凭れかけさせようとして。
「いいや? いたって健康だ。」
くつくつと笑いながらナランの眉間の中央に指を置いて解すように軽く突いて。
「ナランと温泉でのんびりと過ごしたいと思ったのだが、それ以外になにかあるか?」
等と覗き込む瞳を見詰め返して。
■ナラン > 塔に暖を取るような設備は見当たらない。もともとはあったものが長い戦いで失われたのか、そもそもなかったのかは判別がつかない。
置かれた長椅子も『座れる』というだけの代物で、寒気で冷えているのはもちろん座り心地などは全く考慮されていない。女がひとり腰掛けたときはガタガタと音がしたはずだが、彼が座ったあとはみしと低い悲鳴を上げただけで沈黙した。頑丈さには長けているらしい。
「…やっぱり お酒じゃないですか」
彼の言葉に『酒』が入ってようやく少しほっとしたように女は微笑う。呼気でコップから漂う湯気が、少し乱れて黒い夜空に消えていった。
両手で捧げ持つように持ったそれに、ふうと息をふきかけているところで彼の腕が肩にかかって
女は重みに任せて彼に身体を預ける。肩が強張っているのは、きっと寒さのせいだろう。
「…… いえ あの …
…珍しいなと、思って」
戦いの場を好む方だという印象がある。なので、こんなことを――女が喜びそうなことを言われると、嬉しさよりも、戸惑いが強い。
女は見つめ返してくる視線から慌ててお茶に息を吹きかけるのに集中するふりをして
慎重にお茶をすすって、またちらりと彼を見上げる。
■ヒュー > 暇にかまけて見張りが時折手入れをしていたりもする椅子。
男が腰を下ろせば小さく悲鳴を上げるも、その重さを受けむしろ安定した様で。
「くく。酒と女と温泉と雪。 欲張りなセットだな。」
等と小さく笑い、雪を求め伸ばしていた冷たい指先は捧げ持つカップによってじんわりと温められていく。
肩に追いた手に感じる強張りを解す様に毛皮の上着の上から軽く撫でて。
「そうか? 偶には意外性に戸惑うナランも面白いが…。 で、どうだ? 」
等と、視線を外してからちらりとこちらを見上げる相手を男は見詰めたまま囁き、お茶で僅かに濡れたナランの唇を男は親指で拭い、顎の下に手を添え男を見上げさせたままゆっくりと顔を寄せていく。
■ナラン > 口に含んだお茶の香りは鼻腔に花のように香る。
ごくん、と飲み込んだそれはぬくもりとなって喉を通って、ふわりと胃が温かくなるのを感じる。
それから女がふうーっと零した吐息は、先ほどまでよりもいっそう白く煙って白いものが舞う空に雲となってまた消えていった。
「… 混浴なんですか?そこ…」
笑う彼の言葉に、折角ほぐされた女の眉間がまた困ったように寄せられる。それでも、肩を撫でられると女の身体からはこわばりが溶けて、寄せた身体は柔らかく彼に寄り添っていく。
「… 私は場所も解らないので…… 全部、ヒューさんにお任せすることになりますけど……」
面白い、と言われると困った顔から一転、むっとふてくされて女の唇がとがる。
そこに彼の指が触れると、自然と半ば、言葉を零そうと女の唇が開かれる。
その後女唇から紡がれた言葉の、音自体は、どこかに消えてしまったかもしれない。しかし彼の指には伝わったろう。
何れにせよ、許諾の言葉だったには違いない―――
ご案内:「タナール砦」からナランさんが去りました。
■ヒュー > そして二人はの影はゆっくりと一つになっていく。
どの様に過ごしたかはを見ていたのは空に瞬く星のみ。
ご案内:「タナール砦」からヒューさんが去りました。