2025/01/08 のログ
ご案内:「タナール砦」にエーディトさんが現れました。
■エーディト > 竜として命滾る処は何処だろう。
洞窟?基本中の基本である。
火山?洞窟と被っているけれど、これもこれで良い。基本には相違ない。
迷宮?うーん、誰かに召喚されて狭い玄室の中というのは戦い辛くないか?
――まあ、そんな竜のあるあるを踏まえて、間違いなく言える共通項がひとつある。それは戦場である、ということ。
さて、ここに頻繁に戦場になりうる場所が在る。タナール砦という。
魔族に奪われて、奪い返して、また奪われて。その連鎖が早いか遅いがということはあっても、稼ぎ場所には違いないフィールドである。
そんな場所に命を放り投げ、心滾るかを試す姿がまた一人。ここに一人。
――夕刻のタナール砦。
血のようなと喩えるに誂え向きな落陽に照らされる中、押し寄せる波とその波と向かい合う勢力がある。
押し寄せる波が来る方は、魔族の国と呼ばれる土地の側。向かい合うのは王国の騎士、兵士、招集された傭兵という有象無象の群れを組み込んだヒトと。
波が岩壁にぶつかり、はじけ合う様に鮮血が舞い、悲鳴が上がり、怒声が響く。叫喚が恐慌を生み、背を向けた者から真っ先にばっさり。
其れを為すものは魔族の国側から押し寄せる側にも、ヒトの側にもある。その片方の例が声を挙げる。
「――――おおおおらあああああああ!!!」
赤く染まった光を浴び、黒銀色の装甲を輝かせる鎧姿だ。切り伏せるオーガが溢れさせる濁血を浴び、さらに赤に染まる姿は物々しく。
だが、ただそれだけでは脅威には足りない。一味足りない。
高揚を表すように揺れる白い鱗に包まれた、鎧姿の尻から出ている尻尾?ヒトにはないものは、まあ良いとしよう。
魔族の国側から来ていない者であれば、敵の反対側、味方である――と割り切れなくもない。
もっと物々しいのは、叫びをあげる鎧姿が持つ得物だ。
泣き女が喚くようにも似た、金切り声の如き唸りを上げ、鮫の刃めいた刃の列が魔力を引き摺りつつ廻る大剣のようなもの。
それが大柄なオーガを両断し、扉を開くように分断せしめた得物だ。それを持つ姿が、次のエモノを求めて走る。
■エーディト > 遺跡をはじめとして、発掘される魔導機械と呼ばれる物品群にはそれこそ多岐に渡る種類がある。
見て直ぐに用途を知れるものから、使うことでその有難みを知れるもの、どれだけ使っても製作者の精神を疑うしかないもの等。
鎧姿が今、両手で持って振り回すものは、一番最後にカテゴライズされるしかない代物であろう。
鎖のような刃が、仕掛けで廻って、触れたものを挽き削る。それは分かった。それはいい。
だが、どうしてそんなものを剣にしようとした?と製作者の精神を疑う。疑い続けるしかない。
起動すると、回転したり、のたうったりするものは、どのような思考で創造するに至ったのか。後世の者には推し量り難い。
武器に分類される魔導機械の中で、時折その手のゲテモノが生じ、或るものは死蔵される。或るものは解体される。
またあるものは幸運なことに修復され、いじくり回されたうえで活用される。運用される。
「次ぃ! 次だ! ……お前かぁ!!!」
兜の下、呼吸も兼ねて複数バイザーに開けられた穴、覗き穴になる位置で二つの光が燃える。
青と黄金色。色違いのその二つが眼光であると誰が気づこう。
睥睨する様な眼差しが、丁度直ぐに見かけた大きなエモノを見つける。こうした獲物はこの廻転する刃を持つ剣向きだ。
身の丈と同じかそれ以下の小物には、真っ当な剣で良い。それで大体事足りる。
大きすぎるものを分かつには、この剣には丁度良い。
何せ、強化魔法を掛けた無数の刃で押し切られるようなものだ。魔力をひたすらに喰らいに来るが、それに見合う快絶がある。
「引き寄せて、引き寄せてっ……どっ、こい、せっー……っ!!」
見回す戦域は、魔族の国側に面した砦の門の近く。
鎧姿の鉄靴が泥濘と化した地面を蹴立て、門という瓶の首となる狭隘を抜けて、突入してくる群れの頭を見つめる。
兜の下で嗤った顔が見えたか、見えないか。
唸りを上げる異形の剣を振り翳し、力を貯めた姿が突入してくる狼に騎乗したゴブリンを乗り物ごと斬断する。
まだだ。後続も二度三度と振り回して斃し、足を止めた後続を見れば、左右に展開していた兵士や傭兵が、思い思いの武器で倒し、掃討してゆく。
■エーディト > 防衛線に於いて、開けた門扉の前に兵を集め、固める戦術はそう珍しくはない。
年代にもこそよるが、城塞は考えて普請されていればそれが出来る構造をしている。
敵を一か所に集め、矢玉や魔法の釣る瓶打ちで掃討するのは、自軍の兵への負担を減らす意味でも有用だ。
ただ、幾つか前提もある。引き寄せた場所から、誰も通さないという徹底的な固めがないと出来ない。
まずは砦の防壁の上に弓兵や魔法使いを多く配し、粗雑な造りでも攻城兵器となる移動櫓や梯子を吹っ飛ばす。
そうして、兎に角数が多く怒涛となって押し寄せるものを、わざと門を開け放ってみせて誘導して出来る手立て。
――補充が難しい魔法使い等を極力温存しつつ、十把一絡げ的に傭兵を多く集められたから取られた手、というのか。
そんな策略で最前線に押し出される者にとっては溜まったものではないが、今日ばかりは上手く行く手だったらしい。
傭兵に何人もベテラン、経験者が交じり、盾役回復役、その他諸々が揃って、攻撃手が多く居るからこそ上手く行く。
「そっちをブッ喰らうのは任せたぜ! オレは次に寄ってくる奴を貰う!!」
動きを止めた騎兵なぞ、物の数でもない。そう言わんとばかりに数分程度で怒涛をしのぎ切り、一息。
それでもまだまだ、来る。おかわりが来る。息をつきたいのに全く。
一先ず剣の廻転を止め、兜のバイザーを思いっきり押し開ける。
目を爛々と輝かせ、高揚の赤に染まった女の顔を晒し、腰の後ろの鞄から一本、二本と小瓶を掴み出す。
中身はポーション。硝子瓶の中で揺蕩う薬の色は強壮、体力回復に関する類であろう。気休めでも活力を入れ直すのは大事だ。
ずっと振るい続ける剣は大喰らいだ。魔術鉱石を組み込めない、そもそも組み込める構造ではない其れは、使い手の魔力を喰う。
尻尾と兜の装飾に隠れるながらも在る角が示すように、半分竜の者でも、気付け程度には補給しておきたくなる程に。
「――っ、しゃあ! さぁ来やがれ!」
飲み干したガラス瓶はその場に放り出し、片手に提げた異形の大剣を構え直そう。
敵は多い。まだまだ尽きることがない。夜半に至るまでに趨勢が決まるのか、夜を超えてもまだ終わらないのかは定かではないが。
だが、敵があるのはいいことだ。
何も考えなくても良い――訳ではなくとも、一つの目的のために心身を極限に研ぎ澄ます。
その感覚が、人の血も竜の血も、総身を震わせて止まない。
――その日の戦いは、月が中天に登る頃、死屍累々を踏みしだくヒトの勝利で終わったという。