2024/09/18 のログ
ご案内:「タナール砦」にナランさんが現れました。
ナラン > 戦場の夜。

空にすっかり夜の帳が下りて久しい今なお、奪取されたばかりの砦はあちこちに篝火が炊かれて姦しい。
どこかに隠れている魔族がいやしないか、罠がないか、または隠された宝などないかあちこちを探るものがあり、また素直に今日の勝利を寿いで飲み騒ぐものがあり。
未だに鎧を脱がない足音が響く中、物見の塔のひとつに女がひとり。奪還したばかりでまだ体制が整っていない今、新たな寄せ手が来るのは警戒しなくてはいけない。そう真面目に考えたものの一人だろう。

女は欠けが無いように見える月を見上げてから、月明りに照らされた丘を見渡す。昼間の騒動がなかったかのように、残っている叢から虫の音が聞こえてくる。
暫く耳を傾けてから小さく吐息を漏らすと、女は背負っていた弓を下ろして点検に掛かった。

ナラン > どんな弓であろうと大概使いこなす自信はあるが、馴染んだ一つは影替えの無いものだ。
指先で触れて軽く弾くと、弓弦が少し緩んでいるのが解る。あれだけ使ったのだ、当然だろう。
弓自体に力を込めてみるが、こちらには特に違和感を感じられない。今回もよく持ってくれたが、帰るころには補強を考えないといけないかもしれない。

――――帰れたら、の話。
益体もない思いが女の唇に苦笑いが浮かばせる。

弦を調節したら、矢の方を用意しよう。まだ使えるものはあるが、補充するか補充が出来る場所を見つけられたらそれに越したことは無い。

見張り番は仰せつかったわけではないから、気づいた他の誰かが来るまでは女の仕事だ。
階下から聞こえてくる騒がしさからすると、交代はまだまだ先かもしれない。

ゆるく吹く夜風が女の黒髪を揺らす。少し冷たいそれは昼の暑さを忘れさせる。
虫の音にすこし気が緩んだのか、小さく欠伸がこぼれる。

ナラン > (…気が削がれるようになったら、交代を探しにいかないと…)

霞みが掛かりそうな思考に嫌々をするように首を振って
改めて弓を取って、感触を確かめる。

聞こえてくるのは虫の音と時折丘を渡る風が草を揺らす音、それから砦内で陽気に騒ぐ声。昼間の暑さをねぎらう様な少し冷たい夜風が頬に心地よい。それは緊張の糸を切るのにとても、容易い。

女はなんとか、交代の相手を見つけて
空が白むころには床へ向かうことができたろう――――

ご案内:「タナール砦」からナランさんが去りました。