2024/04/13 のログ
天ツ鬼 >  
「ッッ…ぐぬ…ッッ」

ギリギリと鎖が軋む。
やはりまだ満足に力が籠められぬことに歯噛みし、口惜しさをその表情へと滲ませる。

──、と。

眼前に迫った鎧姿から発せられる言葉…と仕草。
何よりその忘れぬであろう匂いが、その者が兵士でないことを鬼に悟らせる。

「──狐ェ!!!」

雌鬼が怨嗟を叫び、再び鎖がギリギリと音を立て、その肉体を静止させる。

「何者がやってきたかと思えば……呵々、丁度よい…貴様を頭から喰らって腹の足しにしてくれるぞ…!!」

──しかし狐の見通した通り。
雌鬼は未だ傷付いた肉体の回復の途中であった。
故に、全身に力を漲らせれば開く傷すらもあり、ただいたずらに鎖に大きな音を立てさせるだけに留まってしまう──。

タマモ > 「………おっと、しまった」

これはいけない、と口元に手を添えながら、洩らした言葉も加われば。
鬼からすれば、わざとやっている、との色が深まるか。
その傷だらけの鬼の姿は、見ていて少々痛々しいが、これだけ元気があれば心配不要。
怨嗟の叫びを身に受けながらも、ぽんっ、と軽々しい音と共に煙が舞い。
それが収まった頃には、見覚えのある、九尾の少女の姿が現れる。

「おやおや、それはそれは…とっても怖い事じゃのぅ。
そんな風に脅されてしまっては、妾も、少し行動を考えねばならん…そうじゃろう?ん?」

その声と共に、更に力を込めようとする鬼ではあるが、残る傷口が開いたりしているだけで、何も出来ない。
そんな鬼を前にして、軽く肩を竦めてみせた後。
すぅっと瞳を細め、向けられるのは、ゆっくりと、言い聞かせるような言葉。
それと共に、見せ付けるように浮かべる笑みは、何を意図するものか。
どう受け取るのかは、鬼次第だろう。

天ツ鬼 >  
こんな場所で出会うとは想像もしていなかったが。
目の前の狐に対しこの雌鬼が抱くものは、屈辱の報復以外にはなかった。

手さえ、爪さえ届けば安絹が如く引き裂けそうなその矮躯を現せば、より雌鬼の眉間に皺が寄る。

鎖を断ち切ることも、石壁から楔を引き抜くことも叶わぬままに力を込め続ける様子は雌鬼が本気であることを現している…が。
目の前の狐の少女と言えばそんな雌鬼の様子なぞどこ吹く風。
浮かべた笑みは果たして底意地の悪いものか、良い玩具が牢屋に在ったとでも思っているのか。

「知ったことか! その生皮を剥ぎ、骨肉臓腑余さず喰らってやる…!!」

可愛らしい見目の狐さんに向けるような言葉とはとても思える程、し物々しく荒々しい。
どちらにせよ生殺与奪、その権が委ねられているに等しい鬼が牙を剥き吼えることしか出来ないのは、目の前の狐にも理解っていること──。

タマモ > まぁ、正直、己もこんな場所での再会なんて、思いもよらなかった。
前回の怒りようは、己としては理解も納得も出来るもの、ではなかったのだが。
今回は…うん、前の事を考えれば、鬼の性格を考えれば、それもあると思えるものだろう。

相も変らぬ、己の鬼の温度差の中。
今もなお、襲い掛からんと勢い付く鬼に、はふん、とわざとらしく、軽く溜息を吐いてみせる。

「ふむ、なるほど、そう考えておるか。
…それならば、妾はそれに相応した考えを、お主に抱くべきなんじゃろうなぁ?」

楽しげに、鬼を見詰めていた、赤味帯びた金色の瞳。
それが、その言葉を言い終えた後に、笑みは浮かべたままであるも、その瞳から笑みが消える。
鬼自身が今言った、己へと向けた言葉の内容。
それに対する、それ相応の考え…前回の己のした事を考えれば、沸騰した頭でも思い出せるか。

天ツ鬼 >  
「ッ、………」

ギリ、と歯噛みする鬼の眼前で、狐の纏う雰囲気が変わる。
淡々とした言葉は冷たさすらも感じさせるもの。

「──鎖を断ち切れぬと知っての余裕か?
 はっ……何をしようが、貴様に対する報復の念が増えるだけぞ──」

僅か、底冷えのするものを感じた。
しかしそれは以前、前回の邂逅よりも前に感じたものに比べれば比肩すべくもない。
…あるいは、アレは別者だったのかという考えも鬼の脳裏には過ぎったが……。
どちらにせよ、目の前の狐にも恨みがあることには変わらないが。

手が、爪が届かぬまでもギラリと鋭い翠眼を狐に向け続ける。
ある種威嚇のようでもあるが、目の前の狐にそれが通じるかどうかと言えば…通じぬだろうことは明白である。

タマモ > 「妾の前で強気になるのは、万全の時であるべきじゃろう。
こんな鎖程度も千切れん状態で、妾に喧嘩を吹っ掛けるとは、負け戦を望んでおるとしか思えんぞ?
…あぁ、いや、実際にそうなのやもしれんな?
あれだけ、妾の前で可愛らしい姿を見せてしまってはなぁ?」

真っ直ぐに鬼を見詰めたまま、淡々と語るような口調。
そして、言葉も末まで語り終えれば、すっと片手を鬼へと翳す。
そんな事をすれば、その手を鬼に取られそうな、そんな距離にまで近付かせるものなのだが。

次の瞬間、ばぎんっ!と金属の割れる音と共に、鬼を拘束する枷がすべて砕かれた。

「………ゆえに、妾はそう受け取り、お主をたっぷりと嬲ってやろう。
先日のような、ただ嬲られるだけと思わぬ事じゃ」

そして、それと共に起こるのは、目に見えない何者かに抱えられるように、浮き上がる鬼の体。
それを確かめた後、くるりと踵を返せば、牢の外へと歩み始める。
もちろん、その浮かせた鬼の体は、それに続くように、その後を浮かされたまま、連れて行かれるのだ。

ご案内:「タナール砦・牢獄」から天ツ鬼さんが去りました。
ご案内:「タナール砦・牢獄」からタマモさんが去りました。