2024/02/03 のログ
ご案内:「タナール砦」にサウロさんが現れました。
■サウロ > (突き抜ける晴天、くっきりと青い空に浮かぶ白い雲。
冷たい風が魔族領、はるか北の方より流れてくる。
ふ、と吐く息も白く染まる中、連日魔族との激しい攻防があったというタナール砦への物資支援の輜重部隊の護衛。
自由騎士団で受けた任務、砦に詰める部隊と情報交換を行う為に向かっている。
無事輸送を完了し、それらが配備されていくのを眺めながら、砦内を歩いてここ暫く砦に詰めている相棒の姿を探す。)
「……損傷が激しいな」
(損傷の酷い部分は、手直しされるのだろう。
負傷者も多くそこまでは回っていないを見るが、ここに来るまでに聞いた話では
どうやらミレーの里などから攫われたものを奴隷として修繕や治療や慰安などにも使うと言う。
それだけを聞けば、あまり気持ちのいい話でもないなと眉を寄せた。
姿を探しているその相棒がミレー族だからということもあるかもしれないが。
戦死者の欄に名は記されていなかった。
どこをほっつき歩いているのか、砦内の兵に尋ねれば哨戒任務中だと言うので、
砦から外へと出て哨戒ルートを辿って歩き出す。)
ご案内:「タナール砦」にタルフさんが現れました。
■タルフ > 哨戒ルートを沿って向かう最中、連日の激戦を物語るように
幾多の亡骸が敵味方問わず、文字通り死屍累々と横たわっていた。
いずれ、この亡骸も、人間側はミレー族を酷使して回収、もしくは埋葬されていくのだろう。
凄惨な光景さえも、人の意図さえ関係ないように、穏やかな陽光が一帯を照らしていた。
そんな中、視界の端で、貴方以外は生きている者などいないはずが、
明らかに何かが動く。
そちらを見れば、死体であったはずの魔族が、両手を使わずに足の力だけで、
上半身は未だ動かぬようにだらりと垂れ下がったまま起き上がる。
同様に、一体、また一体と起き上がっていく。
それも魔族、人間問わず次々と。
「……おや。まだ砦の哨戒には時間があると思っていましたが」
声がする。頭上を見上げれば、巨大な鉱石……、飛行石がゆっくりと降りて来る。
声の主はその上から。降下してくるにつれて、白衣を纏った人間、否、人型が貴方を見下していた。
周囲の”死体”同様に生物の気配がない存在が、値踏みするように貴方を見据える。
「砦への干渉は判断しかねていましたが丁度いいですね。
貴方に恨みはありませんが、捕らえて”種”を植え付けて私の操り人形になっていただきましょうか」
その言葉から、周囲の死体はアンデッドではなく何かを植え付けられて動き出した”人形”なのだろう。
一様に、貴方を取り囲むように距離を詰め始める。
■サウロ > 「……────!」
(未だ回収されていない激戦を思わせる死体の数々。
一人で彼ら全てを拾い、埋葬するというだけの時間はなく、無残な姿に心を痛め黙祷を捧げる。
そんな矢先に、不意に動き出すものを視界の端に納めれば、即座に反転しながら剣を抜き、盾を構える。
夜半に出る死霊が死体を乗っ取ったり、死体に魔素が溜まって腐敗した魔物に転じるということはあるが、
日没も近づく頃合いとは言えまだ明るい日中。
怪訝に思っていれば不意に頭上からさす影と人の声。
白衣を纏う人の形をした何か、と称するのが妥当か、巨大な鉱石の上に乗り、浮遊する姿に見目の良い表情を険しくする。
起き上がった死体の数々を見るに、どうやらあの男が動かしているのだろう。
数が多い、が、動きは緩慢。視線を鋭く巡らせながら、見下ろす男を見上げる形で睨み据えた。)
「何者かは知らないが、遠慮させて貰おう」
(距離を詰める遺体の人形の内、間合いに入った者から片足を狙って膝から下を切り落としていく。
季節柄まだ腐敗とまではいかないが、片足の機動を落とすことで無力化を狙う動きだ。
しかし数が数、己の立ち位置を変え、距離を取り、囲まれないように立ち回るように、周囲の状況把握を欠かさない。
対複数戦に慣れている。或いは、知見があるといった印象を抱かせるだろうか。)
■タルフ > 「ご心配には及びません。貴方の意志は問わずの行動。
伺ったのは礼儀作法の一つ、程度に考えていただければ幸いです。」
貴方の返答に頷いて、しかし返ってくる言葉はそれ。逃がすつもりはないのだと。
首があらぬ方向に向きながら、得手であろう武器を握り締めたまま引きずりながら
死体の群れは徐々に距離を詰めるように包囲していく。
アンデッドであれば生前の記憶、経験を活かすように動くことはあるが、
周囲の死体にはそれらしい動きが伺えなかった。
その代わり皆一様に、異様なほどに統制が取れている。
「ほう」
即座にトドメを刺すのではなく、まずは機動力を奪い脅威を減らす。
見た目は騎士。見目も良い。おそらくは人間の身分ある者だと思っていたが、
なるほど、随分と”泥臭い”と判断する。
陣頭の指揮を執り己は高みの見物をするのではなく、時には大勢を相手にしたことで判断する優先順位の差に
白衣の”なにか”は目を細める仕草をする。
「初手で聖光でも放っていただければ詰みでしたが、上手くいかないものですね。」
膝から下を切り落とされた死体が表情を変えることなく倒れ込み、
しかしジタバタと動く。それは切り落とされた足も同様で。
一瞥する暇があれば、既に流血しなくなった足から細く白いナニカが何本も
切断面のそれぞれから伸びて合わさろうとしているのが伺えるだろう。
同時に、対複数戦では経験がないであろう”雑兵達の異様な統制”は
まるで視覚を共有しているかのようにお互いを補い合い、
襲い掛かってかわされて、背後を狙われそうになった者をかばうように
別の死体が武器を振り回して牽制する。
種。寄生。昼中での活動。その言葉の意味するものが戦いの中で垣間見えて。
■サウロ > 「その形だけの礼節に、応える義理はないな。お帰り願おう」
(こちらの意思如何など問わず逃がすつもりがないと伺える言葉に、思う通りにはさせないという鋼の意志。
お帰り願おうと言いながら、どうすればアレを落とせるかとも思案する。
浮遊するそこは間合いも遠い。何らかの守りもあって不思議ではないが。
手立てを考えながら、まるで人形劇かのように規則的に、統率された動きを見せている。
死体を操る魔術師かと思ったが、脚を切断し、倒れたそれが分断された足から伸びる寄生虫めいたなにかで再び結合しようとするのが一瞬見えた。)
「……っ、(このままだとジリ貧か)」
(声や表情には出さぬようにしているが、すでに息を止めている死体たちだ。
殆どが操られていると見て良い。剣を振るっている内に見えてくるのは、異様なまでの連携と統率力。
霊魂であるとか、魔力で動かしているとか、そういうものではなく。
もっと原始的な、体内に根を張って操作されているというほうがしっくりくる。
汗を滲ませ、剣を振るい、盾で防ぎながら一進一退の攻防を繰り返す。
動けぬようにしようとしても、他の個体が邪魔をする。
腕を切り落として武器を払おうと、他の個体を相手取るうちに繋がって戻るのならば、まさしくジリ貧だ。
こちらの体力が先に尽きるだろう。
浮かぶ手段はすべてを焼き払う魔術。あるいは術者──この場合は高みの見物をしている男の無力化だが。)
「(どちらにせよ俺一人では対処しきれない)」
(剣を引いて盾を構える防御陣形で統率して動く敵から距離と間合いを置くように後退していく。
木々の下に入り浮かんでいる男の視線を切りながら、同時に詠唱するのは基礎魔術。
魔術師ではないサウロだが、ここ最近で学んだ魔術の基礎たる光弾。
それを剣に纏わせて、下から突き上げた。
浮遊する彼よりも高く、砦の内部にまで見えるだろう、基礎魔術は高い頭上で弾ける。
救援のための信号、異変を感じ取った哨戒部隊がここへ訪れる、その為の行為。
後は彼らが駆けつけるまでの時間稼ぎとしての耐久戦に切り替わるだろう。)
■タルフ > 「形だけの礼節など、人の世では通例でしょう。」
皮肉とも思える言葉を紡ぐその表情にはいささかの感情も伺えず、
ただじと、貴方の戦いを見下す。
(……気のせいか。この戦いぶり。どこかで……)
男の姿をしたそれにとって貴方との面識はない。それは自分自身が何より理解している。
しかし言葉に出来ぬ感情が少しずつ、しかし際限なく湧いてくる。
統率を以て攻めて来る死体達は猛攻とは言えないがそれでも徐々に体力を削ぐ持久戦を強いてくる。
己の戦型の特性を生かし、相手の戦型、おそらくは防衛戦に持ち込んでしまえば、勝てる。
この、どこかで見た守りの型を奮う相手に。
根でも張っていればという予測に準じたそれらは、死体を操っているだけでその実生命体。
植物である以上痛覚もないが消耗はある。
徐々にだが、死体の動きも鈍っているところから決して無駄ではないのだと悟られもするが、
それ以上に消耗が激しいことはこちらから見ても明らかではある、が、
「愚策ですね」
魔術をまとう剣。その気配が周囲から上方へ、己へ向けられる。
防衛魔術は張っていない。それは”邪魔”だから。
ねばりつくような持久戦、長い闘い、膠着状態。
それ等は布石。緩慢な意識を植え付ける伏線。
それが信号弾の意図を持つことは別として、突き上げる仕草に合わせるように、
男が飛行石の上で身を縮め、前に倒れ込む。
飛行石から転がり落ちるようにして、その足が空中で石の底を踏みしめ、
放たれる。
痛みはない。だから、己の身を打ち放ち地面に叩きつけられようが構わない。
嚆矢の如く上空から男の姿が風を切って地面を穿ち、肉薄する。
「王手」
細腕に似合わぬ鞭の如き”しなり”が右拳を盾に打ち据えて抑え込もうとし、
直後、左の手刀を喉笛目掛けて放とうと見上げた時、
「……アレグリア……?」
何故か、己の口から、かつて知る者の名が零れ落ちていた。
■サウロ > (信号は上げた、魔力の色を見る相棒なら気付くだろうという確信。
同時に体を傾いだ男が浮遊する飛行石を蹴り、まるで弾丸のように此方へと肉薄するのを見れば双眸を大きく見開いた。
衝突を盾で受け止める。
彼が奇しくも、似たようなことをかつて、およそ百年ほど前にもしたのであれば。
そのなびく光のような髪色に、霹靂の青空を映したような双眸にも記憶を震わすものがあったかもしれない。
血縁たるが故に感じられるサウロがもつ魔力。
その魂と精神を守る、加護の力もまた"彼女"のもの。
かつて同じように盾を構えて受け止めただろう女の英雄は、サウロとは似つかぬ獰猛な眼差しで笑っていた筈だ。)
「"愚策"はどちらかな────!」
(かつての英傑と一言一句変わらぬ言葉を吐いた。違いは性別と、笑ってるか笑ってないかぐらいなもの。
サウロに先祖の意志や記憶があるわけではないが、わざわざ降りてきたのであれば好都合。
男がサウロの喉笛を狙った左手が止まったのは奇跡に近しく、僅かな隙に盾を押し返しながら、
袈裟懸けに男の体を狙って剣を振り下ろす。
魔族を倒す。その強い意思を宿した眼差しと視線、その剣が受け止められようと、交わされようと、
追撃の連撃を振るうつもりでカウンター攻撃を繰り出す。)
■タルフ > 百年前は、動くことはなかった。
森の奥深く、神樹として聳えていた頃。
近隣の村々に崇められていた頃。
あの日見た光景は、その村の一つを、魔族の落人が隠れ住む里を
人間の兵隊が襲撃していた時のこと。
その兵隊を、戦う意志のない者達をつるし上げて戦功とする者達を
たった一人で食い止めて隠れ里を守り抜いたある女性。
遠目に、しかし同じ森の植物が見届けたその戦い。その顔。
その気高さを現したかのような髪を、純粋さを映したかのような双眸を
忘れることはない。
美しいと思った。
自然の一部にあって、弱者が淘汰されることが必定にあって、
あの生き方は貴いと感じた。
だから、覚えていた。隠れ里の者達が呼んだその名を。
戦っていたのは己ではなく人の兵隊。
だが数に任せる兵隊達へ向けたあの言葉が、あの時の光景を去来させる。
手刀が寸でで止まる。己の意志で止めたと分かるだろうか。
その身が、袈裟懸けに一閃される。
だが、男は眉一つ動かさず、一歩大きく後ろへ跳ぶ。
「……二つ質問があります」
白衣ごと大きく切り裂かれた傷跡で無数に蠢く白いなにか。
血の一滴も流さず傷口が塞がっていきながら、貴方の瞳を見据える。
「アレグリア。この名に覚えはありますか?
貴方と同じ髪色、同じ瞳、顔立ちは似ていませんが同じような戦い方をする。
同じ闘気を有する女性。およそ百年前の女性です。
……二つ目の質問は、貴方が子孫か否か。
否であるなら、貴方が術かなにかの類でアレグリアの力と意志を簒奪した者であるならば……」
アレグリアの名はあれから聞いていない。恩を売る為に戦ったのではないのだと
隠れ里を見守っていて知った。
損得をないがしろに出来る人間がいるのだと、その時知った。
だから、
「かの無銘の英雄。貴方がその在り方を穢す行いをしていたのならば、
私はここで貴方を殺します。あの砦にいる者も皆殺しにします。
言葉を選んで答えなさい。
貴方はいったい何者です。」
答えを待つように、周囲の死体達も動きを止める、否、襲おうとしていた動きが、構えが、
棒立ちになって、貴方の答えを待つように見つめていて。
■サウロ > 「……!」
(消えた戦意に振るいかけた剣が止まる。
大きく跳躍して下がった対象は袈裟懸けに切りつけても出血することはなく、痛みで頽れることもなかった。
最後の大戦まで魔族と戦い抜いていたアレグリアは、行方知らずのまま。
彼女が彼の知るような行いをしたのは後か先かもわからない。
現在人間の社会、英傑や英雄と呼ばれる偉人の記録から、アレグリアの名は消されている。
時の為政者の利己的な支援や使役を拒み、己自身の目と耳、そして直感で善悪を定め、戦い抜いた女傑。
人間に非があるのであれば、魔族に恩義が出来ていたなら、自然が見届けたようなそうした戦いもしただろう。
故に疎まれ、英雄として未来に名を遺すことはなかった。
言葉を紡ぐ男に追撃をしなかったのは、先祖の名が出たからだ。
今まさに、サウロは先祖の足取りを追って旅をしている。
その名を知る者は、そう多くはなかったが。)
「……百年前に、マグメール王国各地の戦場を駆けたアレグリア・ツェデックは、僕の祖先だ」
(孤児であり実の両親の顔もしらないサウロにとって、アレグリアという先祖は遠い存在だ。
ただ一度。窮地にあって救ってくれた存在でもある。
好戦的かつ、しかし物事の善悪を自己の判断で突き進む豪傑。
人の身でありながら、天上の何某かの加護やら祝福やらを与えられ寵愛された娘。
そんな先祖に、"もっと強くなれ"と言われているのが、今のサウロだ。)
「────自由騎士、サウロ・ツェデック。
我が剣は正義のために悪しきを斬り、我が盾は弱きを守るためにある」
(動きを止めたまま此方の返答を待つ男と操られる死体を前に、頑として視線はそらさぬままに言い放つ。
それが果たして答えとなったかのかは分からないが、警戒は緩めずに構えを取ったまま。
次に目の前で対峙する男がどう行動するか、それを見極める為に。)
■タルフ > 落人の隠れ里は、その代の者が罪を重ねたわけではなかった。
それでも残された掟に従い、子は、孫は、自然の中で穏やかに過ごしていた。
そこに罪はないと、かの英雄は見たのだろう。
それは裁くべきではないと、守り抜いたのだろう。
ただ一夜の宿と、傷の手当と、食事へ報いる為に。
たとえ人の世から消されようとも、その誇りは、成したことは消えることはなく、
そして、ここに伝わっていて。
「……ツェデックの名を知っているということは、そうですか。
貴方は……。」
先祖の名を口にしても、家名は口にしなかった。だが目の前の末裔はそれを口にした。
示された答えに、男の姿をした者は、先ほど形だけと揶揄した礼節を以て、
刻まれた傷跡に、心臓があるべき場所に手を当ててこうべを深く垂れる。
「私の名はタルフ。魔族の国、欲望の街ナグアルの第十二区画を統治する序列十二位。
種族はデモンズルート。己の身を焼いた人間達への怨嗟により、
自らを憎悪で焼き込がす魔性に堕ちた根の残滓。
……焼ける前は、根差していた森にすむ人々からは、神樹として信奉されていました。
その剣と盾に掲げし意志はまさしくかの無銘の英雄のそれ。
……敵味方と分かれど、貴殿への非礼。どうかご容赦を」
静かに、周囲の死体も片膝を突いて貴方へ向けてこうべを垂れる。
■サウロ > (胸に手を当て、頭を垂れる男の様を見て、戦意も敵愾心も感じられない。
百年前に彼女が何を思いながら、彼が神樹として崇められていた土地を守ったのかは知る由もない。
この剣と盾に掲げた自身の想いが、かつてまだ激動であっただろう時代を生きた祖先と重なるのであれば。
少しでも近づけているのだろうかと、自身の胸中に問いたくもなる。
相手の身の上、所属するところを聞いて、気になるところもあったが、今は追求するのはやめておく。
ともあれ、祖先の名を掲げて刃を収めた者にこれ以上剣を向けることは祖先の名を穢すことと思い、切っ先を降ろした。)
「──相対する者の名を交わすことはそう多くはない。
タルフ卿、我が先祖の名の元、その言葉を受け入れます。
……それと、これは此方の要望ではありますが…彼らをきちんと弔いたい。返してはいただけないか?」
(百年も前の英雄の義によって矛先を収めたのであれば、と彼の背後に立つ操られた遺体を見る。
魔族の遺体に関しては彼の一存で決めてもらっていいが、戦いで亡くなった者達の遺品を回収して、砦から離れたところに弔いの場があると聞いた。
それはそれ、これはこれ、とされてしまうのは困るが、引くというのなら救援が来る前に引いて欲しい。
欲望の街、という点も引っかかるが、魔族の国に在る以上、そう簡単にはいけない土地だ。
もしかすれば、先祖の足跡はそちらへと続いているかもしれないが。)
■タルフ > 己の身は刃で割かれたとて死ぬことはない。
炎で焼かれても過去の憎悪から尚燃え盛るだけ。
植物の魔性を凌駕する怨嗟の体現。故に、この首を以て非礼を詫びるは困難だろう。
人間に対してそう思えるのはいつぶりだろうか。
そも、かの美しい生き様の英雄の名を聞けると、その血が残されていたと知ることが出来ると思えなかっただけに、
何を以て償えばいいのか。
「弔う、ですか……。
……このようなことをした手前、信じていただけるかは定かではありませんが、
この度のこの戦場の死体は、全て魔族側の兵力が持ち去ったことになるそうです。
……城塞都市アスピダ。かの地で猛威を振るうエイコーン。
その対抗策として、フレッシュゴーレムの製造を検討している貴族が人間側におり、根回しをしていると。
……おそらくはそちらの砦にいる墓守かカタコンベの番人かは分かりませんが、
締め上げれば証言するかと思います。
……弔うのであれば、それが貴殿の所望であるならば、
私が”彼等”に頼み、各々の生家へと送り届けた方が良いかもしれません」
彼等と、男が視線を巡らせた死体達が一様に頷く。
元は、人間達の思惑で奪われる亡骸。であればこちらが”材料”もしくは”棲家”としても良いだろうと思ったが、
償いにはちょうどいいだろうと。
ただそれでも、こちらを信用できぬというのであれば、人間側の亡骸は返却する所存で。
■サウロ > 「……! ……成程、そういうことか」
(語られる事情が真実か否かは定かではないにしろ、アスピダの対抗策については様々な情報が飛んでいる。
貴族だけではなく王族すらも率先して、非人道的行為に手を染めているとも。
その真偽がいかなものにしても、空位となっている王座、その指針をまとめ上げる者がいない王国の状態では、
王位継承権を持つ王族たちを掲げた貴族たちが思うままに邪道を進んでいる。
その貴族が人間だけとは限らないと言うのもまた、頭の痛い話である。)
「……いや、遺体が歩いて都市や王都に戻ったりすればそれはそれでパニックになる。
遺品だけを受け取らせて欲しい。後は此方で処理をする。
──遺体の扱いについて、僕には権限がない。一先ず、状況を伝え、差配して貰うことになる。」
(そう伝えてから、改めて目の前の彼を見る。
遠くから足音が近づいてくるのが聞こえるかもしれない。
サウロが飛ばした救援信号を見て、巡回兵が近づいてきているのだ。
彼の目的は果たされたのか、そうでないのかはわからないが、このままでは第二戦の始まりだ。
祖先のことも聞きたいところではあったが、その猶予もない。)
「……この場は引いて貰えるだろうか?」
■タルフ > 「この度の攻防も、近日と比較しても被害は彼我問わずことさらに大きかったかと。
……采配を確認したならば、どの貴族が目論んでいたかも一応は辿れるでしょう。」
意図的な損害であったのだと、魔族は語る。
戦いの怨嗟を帯びた遺体だけを意図的に厳選したフレッシュゴーレムは、
戦場ではさぞ猛威を振るうことだろう。
「サウロ殿に損益が被るのはこちらの本意ではありません。
一端こちらは引くことにいたしましょう。」
足音を地面の振動から聞き取る。
おそらくは先ほどの信号弾で近づいてくる何者か。
その言葉を示すように、人間の亡骸がゆっくりとその場に倒れ込み、
それぞれの口から根のような細長いナニカが這い出してきて、
魔族の亡骸に入り込んで格納されていく。
話をしておきたくもある。かの英雄の系譜を追っていなかったわけではないが、
それでも足取りが掴めなさ過ぎた。
それが唐突に戦場に舞い降りた。
おそらくは、かの英雄は人間にとって都合が悪い存在だったのだろう。
「そろそろ、失礼させていただきますがその前に……、こちらをお持ちください。」
そう言って一枚の折り畳まれた書状を差し出す。
「ナグアルは魔族の街ですが、きちんとした手続きと相応の手数料を支払えば
人間でも街に滞在することは可能です。
ですがその書状があれば、我が名の元に手続きも対価も一度だけ免除されます。
もし御用向きがあれば、お越しいただければ力になりましょう。
……ナグアルへの行き方は、タピオカという冒険者の娘か、
コルボという情報屋の男にその書状を見せて話をしていただければ
案内してくれるはずです。」
そう言うと、魔族の亡骸達が立ち上がり、ゆっくりと魔族の国の方角へと歩き始める中、
男は再び深く頭を下げる。
「私は生物の血に誇り等の感情が宿るとは考えておりません。
だが、貴方の刃には、盾には、戦い方こそ違えど、確かにかの英雄の、
一夜の宿を通して心を通わせた者を守るために槍を奮った女性の気高さを感じました。
……どうか、その身が健やかにあられますよう祈っております。
それでは、失礼いたします」
そう言うや、音もなく跳躍し、頭上の飛行石に飛び乗ると、
再び軽く頭を下げてからその場を後にする。
断たれたはずの血、人の中に残る誇りを認めながら。
■サウロ > (彼の言葉に、少しの沈黙の後、剣を収め盾を戻す。
あくまでもこの邂逅は偶然ではあったが、必然でもあったのかもしれない。
先祖の名を知るもの、軌跡を知る存在。人間の社会ではほとんど記憶は薄れていた名を追うならば、
やはり魔族の国に足を運ぶべきなのかもしれない。
そう考えていた矢先に差し出されたのは、折り畳まれた書状。
それを受け取れば、魔族の国の中で多くの魔族が集うとされる欲望の街ナグアルに滞在する為の紹介状みたいなものだろうか。
この国では失われたものも含めれば、そこには大きな手掛かりもあるだろう。)
「……わかりました。ご厚意に感謝します。タルフ卿」
(いずれこれを使う時も来るかもしれない。
すぐに行動に移すのは難しいが、雪が溶けて春の息吹を感じる頃には、動けるようになるはずだ。
崩れ落ちていく遺体と、魔族の遺体だけを引き連れて戻る姿と、最後に視線が合う。
告げられる言葉。この血に宿る英傑の誇りと意志。
きっと彼にとっては、祖先たるアレグリアの意志に、思うものがあったのかもしれない。
祖先の足跡を追って旅をする意味を今一度考えながら、飛行石に乗って立ち去っていくのを見届けた後、駆け付けた相棒と合流することになる。
諸々の後処理なども含め報告の為に踵を返し、砦の中へと立ち去っていっただろう──。)
ご案内:「タナール砦」からタルフさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からサウロさんが去りました。