2023/09/14 のログ
■九音物 > 「――ね、ヴぇ、ど。ネヴェ、ド。ネヴェド。」
その声はぽつ、ぽつ、と。気狂い、隠密に近い様に、アクセントや音調、発音に至るまで。
【それをほぼ本物に近づけコピーされていく】
「悪いけど、うちの教派基本的にヒトゴロシとかダメなんだよね。
それが魔族でも。それに――100回奇襲しても99回は失敗する。ネヴェド相手だと。1回くらいは上手く行くかもしれないけど。
――強者だって認めてくれたなら提案。ウチの馬鹿巫女というか真面目な巫女の話、聞いてみない?
宗教に入れとかは流石に自由だけどね。」
ふざけた提案ここに極まれり。相手を魔族と知って、命の遣り取りをして尚お茶、というか話に誘った。
彼女が全力を出すと言うならこちらもこちらで――手札が揃った以上、引き時だろう。
宝玉でも足りぬ最上級の魔石の輝きにも見えた瞳が此方を見据えてくる。
場所が場所なら違う誘い方や話も出来ただろうけれど――今回こちらは任務を帯びた身分。それだけに惜しい。
「またね、綺麗な瞳をしたネヴェド。
もし話に興味があるなら。うちの馬鹿巫女の話に興味があるなら、タナール砦のてっぺんにでも、桜の旗を掲げて欲しい……なっ!」
魔力――異能の力。それが凝縮して増大していく。
それを察知すると共に。地面に打ち付けられた煙玉。煙幕。広範囲に広がり、普通の風では吹き飛ばない魔力的な質量を持った煙。
それと共に足音が1つ――2つ3つ4つ。
音を各関節で鳴らし、煙幕と共にまるで1人の人間が四方に散ったかのような足音を立てて欺瞞を狙う。
そもそも暗殺者が、暗殺に失敗した時点で何故引かなかったか。
一つ。目的は撃破ではない
一つ。そもそも負け戦は確定しているし、命令は勝利ではない
一つ。最終目的には彼女の声が必要だった。
――自分の声を相手そっくりに真似る。
音と声を媒介にする為、小細工は苦手ではない。
古典的だが、狙いは1つ。最終着地点はここだった。
煙幕の向こう側で声が響く。まるで、妖艶な、並の人間であれば何もせずとも魅了されそうな容姿の魔神と瓜二つの声。
『ネヴェドの名において命ずる、全軍我が元へ集合せよ!』
その声を大きく張り上げ。風に乗せて響かせる。
現在相手がいたのは後方だ。――つまり。中軍、前軍、突入軍。そのすべてを一度下げて脱出の契機をつくる。
これが最終目標であり、最初に決めた線引きだった。
その声に言霊を乗せて強制力を強め、ネヴェドの立場を利用した古典的な偽伝令。
そして砦に向かい離脱を試みる。
……ここまでの動きを、相手が何もせずに見逃してくれるならば、の話だが。
■ネヴェド >
「──? どういうつもりだ」
戦闘モード、と言っても相違ない禍々しい魔力を纏い始めたネヴェドは怪訝な表情を浮かべる
相当な手練であることは間違いなく、本丸に奇襲を仕掛けてきた実力もあり、我が障壁を切り裂く得物をも手にしている
にも関わらず…話をする?
こと、今の主に仕えてより戦いにおける価値観が変わっていたのもあるが、そうでなくてもやや呆気に取られるように
「っ…! 待て!逃げを打つのか!?」
爆煙に巻かれる内に見失う、音が反響するように聞こえ完全にその身を見失う
…であれば当然、二度目めの奇襲を警戒するところだが──
彼の者がとった行動は、声真似による軍勢の欺き
…さすがのネヴェドも、口元に笑みを浮かべて苦笑を漏らさざるを得ない
教義だかなんだと言っていたか、戯言の類と思っていたがよもや
「──このような策で人間の軍ごと窮地を脱しようとは…」
「いや、見事だ。鮮やかな手並みだな……勉強させてもらった」
クオンブツ、と言ったか、とその名を深く刻み込む
一本取られた、といって良いだろう
「──集結した隊からグレイゼルへ帰還しろ。此処までだ」
やれやれ…と肩を竦めて、薄らいだ煙幕の向こう…砦へ向かい離脱する彼の者へとその視線を向け──激昂することもなく、今宵はその背を見逃すのだった
■九音物 > それはもう全力で逃げる。逃げる際に煙幕に紛れ、その気になれば魔族の1人2人を斬り捨てるくらいは出来ただろうが。
――それをしなかったのは相手が堂々と名を名乗り、大将に恥じぬ実力と器量、気位を見せた事への敬意でもあった。
実際集合してきた軍勢に、先程の刀で斬られた傷を持った魔物はおらず、死体も無かった。
あくまでタナール砦の交戦で負った負傷、死者が関の山。
「――あ、でも僕の名前伏せてね。一応名前と顔が知られ過ぎるの困るから。巫女の話は本当。」
最後に残されたのはそんな声。人間側はこの間に撤退……と言うか総崩れ。見逃してくれた相手へ礼をしなくてはならないし、素直に軍を下げてくれた事にも感謝が必要だが――流石にそれは王国軍に任せよう、うん。
もしもう一度軍を押し込んできていたら負傷者が死者になっていた可能性も高かったのだから。
記録上はタナール砦はネヴェド軍が圧倒。砦を制圧した後、示威行為をせず速やかに撤退されたとなる。
それにしても妖艶すぎるお姉さんだった。夢に出てきたら色々な意味で困る位には。
こうして東方の宗派がひっそりと大規模戦に紛れ込んだ戦闘は幕を下ろす。
ご案内:「タナール砦」から九音物さんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からネヴェドさんが去りました。