2024/09/16 のログ
モルガナ > 一人孤立してから、サーベルの柄に手をかけたまま気を抜くことなく、慎重に奥へと進む。

……一度は引き返すべきかと考えた。
だが貴族として、やがて玉座に至る王に仕えるに相応しい家臣として
不徳は赦せぬと再び奥へと歩みを進める。

それが、間違った選択だったと自覚することは決してなく、やがて、長い緊張の末に
大きく呼吸を吐く油断も見せるだろうか。

ご案内:「無名遺跡」にファルスィークさんが現れました。
ファルスィーク > あるスジから仕入れたのは無名の遺跡にて、結構な代物を掘り当てたが量が多く運搬が困難である…との情報であり、その精査として自ら足を運ぶことになり――今現在に至る状況。
その情報には大体の位置を記してはある遺跡内の地図も含まれていたが、いざ現地に来てみれば実に大雑把なもの。

「……買い取るのに少々、払いすぎたか
しかし、こう反応が多いと逆に、惑わされるな」

周囲を照らす光源として、青白い光を放つ水晶柱が空中をゆったりと舞い、手に持った羊皮紙を照らす。
あちこちからの魔力反応があるのは、まだ遺跡に多くの財宝と呼ばれる類のものが眠っている証拠なのだろうが、己にしてみれば面倒この上ない。
情報から大体の物は把握できているので、属性なりを絞り位置と方向から指し示す方向へと進んで行けば、照らす明かりの先に見えるものに眉根を寄せつつ、水晶柱を先行させる様に指で指し示せばその指示通りに移動し――照らし出すのは倒れている人物。
周囲に特に気配などはなく、行き倒れの冒険者か何かだろうか…と多少用心しつつ近寄っていった。
特に争った形跡は周りにはないのを確認し、跪いて倒れている人物の確認をしてみる。
探索へ遺跡に入った冒険者にしてみれば、身なりは良い女性のようで、呼吸はあるが意識は無いようよう。
そして、容姿は見目麗しい…となれば――それなりの身分の者なのだろう。

「とりあえず命に別状はないようだが……攫われて軟禁されたところを逃げ出したか、好奇心で足を踏み入れて転移罠にでもかかったのか」

此処で倒れている可能性としてはそんな所か。
そんな風に思案しつつ、身分を示すものなど持っているだろうかと、所持品などを調べようと抱きかかえたところ、不意に感じた何者かの気配に顔を上げ目線を向ける先はまだ闇の中。
光源である水晶柱は、視覚的にも己の存在を示す証拠となるので、消すかどうかは迷いはしたが…夜目が利く相手でであるならば、己の方が不利になる。
迷いはしたがそのままに、声をかけるのは現在は単独ではないからの判断。

ご案内:「無名遺跡」からモルガナさんが去りました。
ファルスィーク > 己の聞き違いだったか…と暫し沈黙の間はあるが無音のまま。
放置のままというわけにもいかず、何処の者かまでは分からないが取り合えずは地上へ運ぶことにするかと、来た道を逆戻りすることになり。

ご案内:「無名遺跡」からファルスィークさんが去りました。
ご案内:「無名遺跡」に影時さんが現れました。
ご案内:「無名遺跡」にラファルさんが現れました。
影時 > ――無名遺跡。

古くより存在すると云われるここは、古きはずなのに真新しく、今もなお数多の未踏破領域が見つかるという。
最近発見されたものもまたそのひとつ。
大雨による崩落で発見された侵入経路から、巣に戻る黒アリの如く無数の冒険者が這入り込み、蔓延る。
財宝や魔導機械を見つけられなくとも、戻って来れるだけまだマシだろう。
帰らぬものは生きているかどうかが怪しい。生きていても原形を留めていない、尊厳が無くなっていると嘯くのは噂かどうか。
だが、リスクを気にせずして冒険をしていられないことは確かである。

ありったけの水と食料を鞄に詰め込み。ポーションや毒消し等の準備を確かめ、白紙の地図を片手に今日も潜るものがある。
何せ、新たに発見された遺跡は広大であり、地下何層まで至るかどうかは明らかになっていない。
道程として三層。階層分の道程を白地図に記し、見つけた四層目に下る階段からおっかなびっくりと進んでゆけば、視界が広がる。
流れる水音を聞きながら、その階層に至る姿が二つある。否、正しくは二人と二匹。
その中でひときわ背の高い羽織姿の男が、肩上のシマリスとモモンガと共に見えてくる光景に目を瞬かせながら声を吐く。

「……――こりゃあまた凄いな。こンな造りしてる街は見たことがあるが、地の底で見るとは思わなんだ」

一見の印象は地底湖。薄っすらと光を放つ天蓋の下、迷路のように通路が張り巡らされ、通路の間を運河とするように水が流れる。
通路の交差点、結節点ごとに無機質な石造の建物があるのが、恐らくは魔物の類が詰めている広間や玄室に相違ない。
今まで見た洞窟や石造の迷路から、通路の岩盤や石壁を取り払い、その間に水を流したらこういう形にはなるだろう。
見通しはいい。だが、それは通路を巡回するような魔物から、自分たちの姿が丸見えになるつくりでもある。

(まさか、水路から魔物が船を漕いでやってきたりしねェだろうなあ……)

見通しの良さは彼我に関係なく善し悪しが生じる。通路の端に歩み寄り、しゃがみ込みながら水面に目を遣る。
底まで視線が通る位には、水の鮮明度は高い。飲み水にする気にはないが、水中に棲む魔物の到来も起こり得ると考えた方が良さそうだ。

ラファル > 「くんくん……うん。不思議不思議。」

 師匠と共に修行を行う、免許皆伝と言うのは、何も終了では無いのだ。
 教科書に載っている者は終わったよ、と言うだけであって、技術や訓練、思考、実戦はまた別の物だ。
 それに、弟子である少女は、まだ10を数える子供、まだまだ教えて貰える事は山の様に有る。
 と言う事で、師匠の冒険にどうこうすることも多々ある。
 と言うか、最近姪っ子の匂いがプンプンしているので、付いてきた、と言うのが正しいだろう。
 これはボクんだ、と言う奴である。とか何とか云いつつ、普段は一緒に出掛けるかと云えば、そうでもない。
 こう、難しいお年頃、と言う奴なのであった。

 匂いを嗅いでいるのは、当然匂いから調べられることはたくさんある。
 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。
 これらを駆使せねば、ダンジョンと言う物は容易に歯をむいてくるのだ、それは熟練の冒険者だろうが、同じ。
 ダンジョンは唯々口を開けて、唯々、獲物が来るのを待っているのだから。

 そして、人と比べ物にならない、人竜の、とりわけ野性味の強いラファルだから、そう言う調べ方には抵抗がない。
 必要なら、犬のように四つん這いで、可愛いお尻フリフリしつつ、床を嗅いだりすら、する。
 今は広くあるこの空間を軽くという事で臭いをかぎ取ってみたのだけども。

「苔の匂い、薄いね。」

 これもまた一つの情報。
 水場には苔が良くできるのだけども、それがない、人工的な建物であれども、整備点検しなければ苔がでるものだ。
 水の匂いは兎も角、苔の匂いがあまりしないという事は、未だに人の手があるのか。
 少なくとも、苔が生えないという何かしらの理由がある、と判別が出来る。

「……上から見る?」

 無機物な建物。
 そして、高く広い空間であれば、選択肢としても、取れる。
 即断即決のラファルが、敢えて問いかけるのは、こういう所だからこそ、対空の罠がある可能性を考えている。
 外なら既に飛んでいる。
 ナップザックから、鍵付きロープで物理的な登攀の方でも良いかも、との思考も並行。

影時 > この忍者、または抜け忍たる男が迷宮に潜るときは単独、若しくはパーティを組む。その相手で頻度と優先度が高いのは誰か?
それはやはり身内、または友人に他ならない。この幼女のように見える弟子は最たるものだろう。
一通りの教えを与え、要件を満たしたということで、忍者を名乗る許しを与えたが、それでお終いというわけでもない。
この国の政情やら情勢等を考えれば、師が重ねた経歴をなぞるようなことはあるまい。
忍びのものとしての技能を使うとすれば、恐らくは個人の裁量、判断に基づくことだろう。
誤ったことをしないように見守るのもまた、師の仕事だが、その点を抜きにしても、連れて行くことに大きなメリットがある。

「……運河というか水路というか。否、どっちも似たようなもんか。
 嗚呼、気づいたか。底に屍が堆積して、腐っている感じもしねェんだよなぁ……」
 
野生的な能力、センス。そして自分と鏡写しではなくとも、十分な力量を有した忍者がもう一人居るということ。
遭遇した魔物を隠れてやり過ごす場合、非常にやり易いのだ。追跡して巡回経路を割り出す、あるいは背後から刺すことも。
ただ、今回は声をかけたら常以上に積極的に思えたのは、気のせいではあるまい。
お尻ふりふり四つん這いで匂いを嗅ぐ姿に倣うように、肩上の二匹が鼻をひくひくさせ、尻尾を?のような形に揺らめかせる。
浄化の働きが強いのか。それとも、他の何かか? 一口に判断がし辛いが。

「ちょっと待て。先にこうやる――、と、駄目臭いなァおい」

天蓋と建物との間はかなり高い。飛ぼうと思えば、飛べないか?と思わせる。
真逆なぁ、と思いつつ腰裏の雑嚢を漁り、ごそごそと一枚の正方形をした漉き紙を出す。
紙の四方と中央に描き込まれた墨跡は、この紙が術符であると示す。氣と念を篭め、片手で印を組めば、ひとりでにぱたぱたと折れる。
折り畳まれて、鳥の形を取ったそれを放り上げると術が成り、一羽の鷹へと変化する。式紙の術だ。
片目を閉じ、視界を共有した鷹を上昇させると、建物の天井の高さで急に何かにぶつかったように阻まれる。

――まるで、不可視の壁やら結界があるかのよう。

行く手を阻む何かに二度三度、頭や嘴を突かせ、駄目かと判断すれば、紙が変じた鷹を呼び戻す。
上空を二度三度旋回して手に降り、術を解けば紙に戻ったものをまた雑嚢の向こうに仕舞い。

「……まずは大人しくあっちに進んでみるか。遠くは見えなかったが、奥の方の建物の陰になンか船っぽいのが見えた」

前方、目の前の通路を進んだ先にある御影石を積み上げたようなキューブ状の建物を指さす。
他に並ぶ建物も似たような印象だが、この階層の奥の建物の一つの陰に隠れるように、船の類が式紙の視界内で垣間見えた。
帆掛け船ではない。手漕ぎ式のゴンドラ、というべきか。乗り手は見えなかったが、ヒトガタの魔物に相違あるまい。
先ずは大人しく、先に進もう。
遭遇した魔物が厄介だったら、消耗次第で素直に帰る。そう割り切りながら、建物の前、固く閉ざされた扉の前まで進む。

ラファル > 「人工的……町のような整然さ、だね。
 でも、遺跡群の中で、長年放置されていたとは考えられない形。
 水の中も手入れされてる……?」

 昔居た存在は既に綺麗に流されていると考えるにしても。
 今来る冒険者達の死骸などが無いのは、清廉すぎる水の流れは、可笑しさを感じなくもない。
 ただ、そう言う機械方面に関しては興味が薄く、そんなものなのかなぁ、という思考程度聖水では無いのは、匂いでわかる。
 師匠で判断が付かない事、ラファルが判断付けられる場合があるが、今現状では、師匠の思考に補足を入れる程度しかできない。
 聖水か、と言う疑問に、聖水では無いよ、と。
 つまり、普通の清浄な水でしかないのだ、と。

「外じゃぁ無いもんね……、落盤対策に見えるよ。
 あと、空気の循環と、空気の浄化。」

 天井の方、鷹の式神が飛んでいく様を目で追いながら、伝える。
 ラファルの竜眼は、天井を覆う壁のような物がしっかりと見えて居る、此処が地下な事を考えると、それが大きな理由だろう。
 他にも、悪くなる空気を浄化し、循環させる力があるようにも見える。
 だからこその地下都市群なのだろう。
 地下に、植物が少なくて、呼吸が普通にできるという事は、空気が通っている証で。
 深くなれば深くなるほど、空気は薄くなる、それを改善するための機構なのだと、ラファルは考える。

「そだね。
 ……最悪の時は、あれしよっか。」

 あれというのは、ラファルだから出来る事であり。
 音の反響(エコーロケーション)だ。声を出す必要があり、どの周波数でも、モンスターを呼び寄せる恐れがある。
 一人の時は良くするが、師匠と一緒の時は控える。
 理由は単純に、モンスターが来る=面倒事が増える、なので。

 それに、今、まだ方策があるなら、其方に向かった方が良いし。

影時 > 「この作りと状況だけで見るだけなら、な。
 水底まで掃除しているとしたら、行き届き過ぎにも程があるぞ。
 ……あれだ。若しかしたら、浄化を行う“からくり”の類でもあンのかねえ」

たまたまこの階層に到達し、あえなく倒された同業者が居た可能性は勿論在り得る。
だが、その骸が今のこの辺りでは見当たらない。仮に骸を食べる何かが居た場合、付き物となるものも見当たらない。
生き物の道理だ。食べたら、出す。食べきれないものがあったら、放り出す。
それらが水路の底に堆積すると泥となり、腐敗すれば悪臭の要因となるが、コケも生えぬか薄いのは、何処かで一括で清めているのか。
遺跡から見つかるのは財宝だけではない。魔導機械もまた、遺跡で見つかるものである。
一階層分の水質浄化を果たすものが存在し、持ち帰られる規模であると仮定したら、価値は如何ほどか。

「地下なのを忘れそうになっちまう規模だが、あくまで地下だからなァ……。
 成る程成る程。であれば、魔物が出す毒気以外は心配せずに済みそうだ」
 
竜眼による見立て、実物を持った式紙でのダイレクトアタックで天井の状況を確かめ、現状の認識を確かなものにする。
未踏破領域の状況確認は、しっかりしておくに越したことはない。
腰帯に吊るしたポーチから地図と筆記具を取り出し、地図に式紙の目で見えた限りの周囲と但し書きの記載を行う。
財宝の類が見つからずとも、此れを持って生還することがこの冒険で、最低限行うべきコトである。
毒気が無ければ、肩上の二匹たちも安心だ。
ほっとしたような風情を見せる毛玉たちが顔をこしこし洗い、がんばってー、とサムズアップして飼い主の襟巻の中に潜る。

「行く手に迷った時は、頼まァ。存外、下への経路もこうした中にあるかもしれんが――、行くぞ」

アレの内容はよく心得ている。超広域の測位/測定となる代わりに、魔物を呼び寄せる呼び水になりかねない。
そんな大鉈を振るまではそうそうなるまい。先ずは押し入り、敵を倒して、足掛かりを作る。それだけだ。
腰に差した刀の柄を確かめ、呼吸を整え、襟巻を口元まで引き上げて覆面のようにして、動く。

扉の向こうの気配の動きを読みつつ、扉を――蹴破るのだ。

ラファル > 「かも……ね。
 水の中は、流石に覗かないと判らないなぁ。」

 泳ぐのは好きだし、水に入るのは、嫌いでは無いのだけども。
 流石に何かが居るのか判らない所に入る積りは無くて。
 それに、水の中では、それなりにではあるが、機動力などが下がってしまう。
 だからあまり今回に関しては入りたくは無いのだ。
 そんな状態で、水の中に居るのが魔導機械だった場合は、目も当てられないことになるのだろう。
 この水の状況を考えれば、矢張り水の中に有るのは、魔導機械に違いない。
 水の方をじっと見やって。

「うん、取り合えず……今、周囲には、何かが居るような気配は、ないね。
 ボクたちだけ、と言う状況……かな?」

 今度の感覚は聴覚だ。
 周囲に何かが居るかを探るが、直ぐ近くには居なさそうだ。
 不気味と取るか、安全安心と取るか。
 ラファルとしては……不気味、と取るのだ。
 魔物が居ないというのは、それ以上の危機があるという事に外ならない。
 それに、そもそも安全地帯ならば……冒険者達が休憩所として大量にいても可笑しくはない。
 何も、自分たちが最速という訳ではない筈だから、だ。
 安心している毛玉たち。
 彼らの野生の感も信じられるのだ、自分も同じ気分もあるから。
 ラファルは、それでも警戒をしておく必要があるのだ、と考えるから。

「あいっ。」

 危険を増やす必要もなく、魔物を呼ぶ事はしたくないのは、ラファルも。
 まあ、食事になるというのはラファルの感覚だからこそ。
 周囲を警戒しながらも、覆面をしている師匠に続き、ラファルも覆面をする。

 此方の役割は、何時でも動けるように両手をゆっくり構えて何時でも動けるように。
 蹴破る相手に彼のフォローに入れるように。

影時 > 「それもあるし、水底まで潜るのは、ちぃと避けときてぇなあ。
 息が続かねェわけじゃないが、取り外し等出来ねぇものだったら厄介だ。
 
 ――なら、鬼が居ぬ間の何とやらだ。今のうちに押し入るとするかね」
 
水練の類はしっかりと修めているし、水中で息を続かせるようにする類の手段は手持ちにある。
とはいえ、だからといって、この段階で不用意に水に入るというのは避けておきたい。
船底に貼りついてどこぞに忍び込んだり、水中で作業をしたりする際の隙は、余りに大き過ぎる。
聞き耳を立てて索敵を行う限り、今のところ周囲の通路上に存在するモノは自分たち位であろうと見立てる。
巡回中の魔物の類が遠いなら、余り長居するのも得策ではない。認識外からの攻撃程余りに理不尽で厄介なものはない。
扉の前に進み、蹴破る。その向こうで待ち構えているものは――何か。そこに居るものは、何か。
踏み入る先は縦横も広い広間のような石造の空間であった。しん、と染み入る様な冷えた大気が、震える。

「……何か前に見たな。“あだまんてぃす”とか云ったか?」

この空間にありて、大気を震わせるもの、鳴くものがある。
一口で言えば巨大。二口で言うなら、ヒトではない。三口で言えば、とてもうるさい。
青みがかった黒色の甲殻を持ち、半透明の大きな翅を震動させ、鋭く禍々しく輝く大きな鎌を打ち鳴らすそれは。
全高6メートルくらいはありそうな、巨大な蟷螂であった。
巨人族の首でも刎ねそうな巨鎌はそれだけでも脅威。顎のチカラも言うまでもく。
羽音が生み出す震動もまた、風を生むだけではなく感覚が優れたものにとっては、耳障りなことこの上あるまい。
希少金属の名を持つ堅牢かつ強靭な甲殻を持つ魔物は、魔法を使う程の知性はない。ただ、そのフィジカルこそが凄まじい。

「先手を打つぞ。ラファル、暫く前に教えたアレは忘れちゃあいないな?!」

扉を蹴り破った音を聞いてか、巨大な蟷螂が複眼で小さな侵入者を睥睨する。
羽音に顔を出し、直ぐに頭をまた隠す毛玉たちの仕草を感じつつ、腰の刀をずらり、と引き抜き、氣を巡らす。
同伴する弟子に声を放ち、片手で、ぱ、と印を結べば、羽織姿の男のそこかしこに小さな紫電が生じる。
いつぞや教えた術だ。雷迅の術と称する雷氣を行使する忍法。
生じた紫電は気息の運行に応じ、氣が導くままに白々と輝く刀の刃に宿り、一際強く大気を震わせる。

「――しゃ、ッ……!」

振り上げた刀を間合いに入らないうちに横薙ぎに振る。尋常な剣術では考えない。そもそも意味がない。
だが、生じる太刀風を斬圧を秘めた横薙ぎの衝撃刃として打ち放てるからこそ、意味がある。
会得した剣術で荒風、なる名を与えられた技だ。そこに忍術で生んだ雷氣を重ねることで、荒風・雷迅重ねと称する。
金属質にも見える甲殻ならば、堅牢さも考えることなく、少なからず身動きを止めることが出来るだろう。
その見立ては、正しい。大蟷螂が足元にざん!と双鎌を突き立て、殺到する衝撃波を受け止めながら、身を流れる電流に戦慄く。

だが、この程度ではまだ止まらない。異様な生態に相応しい生命力は削り切れない。ぶぅぉん、と。羽音が増す。

ラファル > 「うん……こういう時は、ルミスが居ればなぁ……。
 後は、オルテンシアかー。」

 居ない存在をぼやいても仕方がない。
 ルミスは、普通の人間並みの実力だが、あれでリヴァイアサンの血統、水の中では、地上と同じように動ける。
 オルテンシアは、東洋の八岐大蛇だったか、水の属性の竜であり、彼女も水の中の方が強い方だ。
 居ない物を考えても仕方がない、ラファルだったら、空気を身に纏って潜り、空と同じように泳ぐことはできるが……
 適正もちと比べると、と言う事でもある。
 今は、無理を考えるよりもできる事、すべきことに目を向けよう。
 師匠の言葉に、うんうんと頷いて―――。

「カマキリ、だね!」

 見た目はそのまま。
 キチキチしてるその存在は、無視で言えばカマキリ、その両手の鎌は其れこそ、鉄さえも切り裂きそうだ。
 しかし、此方に有る武器であれば、十分受ける事は出来そうだ。
 とは言え――。

「あいっ!」

 教わった術。
 雷を身に纏う術を、師匠は刀に。
 ラファルはどうするべきか、同じと言うのは純粋に火力の二倍。
 しかし、だ。
 忍びであるならば、同じよりも効率を考えよう。
 使用する術は同じ。しかし、対象はまた別。
 師匠が先を走り、斬撃と共にしかけるのであれば―――。

「雷縛!」

 ラファルはその小さな手のひらに、片手三本の棒手裏剣合計六つ。
 その一本一本に、濃密な氣で、雷撃を込めていく。
 かのカマキリが、希少金属の硬度があり飛檄は効果が薄かろうと思われるけれど。
 なれば、と、その足元に、陣を描くように、雷撃纏う棒手裏剣を、投げつける。
 人竜の膂力で投げられた棒手裏剣は地面に突き刺さる。
 自然の雷であれば地面に吸収されようものだが、氣で発生している雷撃は、手裏剣から発生する形無き鎖となり、蟷螂に向かう。
 全方位からの雷の爆鎖で、蟷螂の動きを更に鈍らせる意図。

影時 > 「ああ、あのお嬢様方か。連れてくるのは吝かでもないが、そのつもりがなけりゃァ流石になあ」

上げられた名前は憶えている。顔も記憶している。
今の役柄の兼ね合いもあるが、トゥルネソル家の新年の挨拶など、顔合わせする機会があれば覚えるものだ。
ただ、こんな危険地帯、危険領域だ。
いきなりこの深さまで付き合え、というのは経験蓄積含め、足元を固めなければ不安が過ぎる。
今まみえる魔物が良い例だ。個体的な厄介さ、面倒さ等含め、そこそこ歯応えがあること疑いあるまい。

「こういう手合いも居る、とは知っちゃァいたが、成る程。……聞きしに勝るとはよく云ったもんだ」

見た目だけはそのまま。だが、でかい。でかくて硬い。
その大鎌は、粗雑な盾や鎧は豆腐のように斬ってしまうことだろう。
見た目以上に目方があるかもしれないが、翅があるということは飛べる能力を保持し続けていることだろう。
食性は? 考えるまでもないだろう。何もないただの人間が遭えば、それだけで死ぬるのが魔物である。
鉄を斬れる得物なら、こちらにもある。鉄で鉄を斬れて当然とする鍛冶師の作なら、此れも斬らねばなるまい。

「下手に五行を回すより、雷氣を使う方が多分こいつには良さそうだ。
 ……刃を立てるなら、お前さんに貸した苦無か金剛刃を使え」
 
雷の使い方は人と竜、アプローチの違いはあっても、己が技法を弟子に伝授している。
そこから先の派生と練り上げは個々人次第だ。知識と見える範囲の対処、攻略の手立てを述べつつ、己が初撃に続く動きを見る。
棒手裏剣に雷氣を練り上げ、効果を上げるがために踏鞴を踏む蟷螂の足元に陣を描くように打ち込む。
雷光の爆鎖により、巨大な蟷螂がまた悶絶し、翅を喘ぐように震わせる。その羽音は衝撃破も交じるのか、天井や壁を叩き、石材を爆ぜさせる。
見切りは、難しくない。何か靄がかったものが目の前に来たと思えば、直ぐに飛びのく。其れで躱せる。

「……鎌も面倒だが、翅は早々に潰した方がいいな。この位置なら、こう、か……、ッ!」

雷氣のダメージが抜けないのか、その場で足踏みするような蟷螂の後方に回る。
大きな翅がついた胴はただ刀を振るうだけでは届かない。もう一度剣圧を放つか? 否、少しそれでは心許ない。
シュウゥゥゥ、と唇の合間より息を吸い、氣を練り上げつつ、抜き放った刀を一旦腰の鞘に納める。
巨大蟷螂の全体を見る。総体を見る。甲殻の表面は滑らかだが、棘状になった場所や足掛かりになりそうな箇所に事欠かない。
判断すれば動きは早い。息を詰め、身を低くして走り出す。
蟷螂が動きを止めている間に足を踏み越え、胴へと跳び上がって――抜刀。練り上げた氣が満たされた白刃が堅牢な翅の付け根を断つ。
斬音は二度。抜き打ちと引き戻し。その二撃で翅を落とし、飛び退く。
そのさなかで蟷螂が身を巡らせ、熱烈な接吻宜しく顎で突いてくる。それを身を捻りつつ、胴鎧の表面で掠らせ――着地して、一息。

ラファル > 「ま、ルミちゃんは、多分来ないだろうなー。
 オルちゃんは……来るとしても、おいちゃんのくろーがしのばれる。」

 ルミスは、実力的に普通の戦士と言って良い、人竜だが……、その筋力も、人間の範疇と言うレベルだ。
 だからか、トゥルネソルの家で警備をしている、自宅の警備員ではなく、ちゃんとした役職の方で、職場の方の。
 だから、彼女が来るという事はリスが来るという事でもある。まあ、来ないだろう。
 リスはそもそも危険に寄りたくない娘だし。
 オルテンシアは、呼べば来るだろうが、いつも酔ってるし、出来る事は前衛での格闘。
 性格的に、師匠の足を引っ張ること請け合い、ラファルも大概だが。それは、棚上げである。

「うーん……タンパク質……!」

 じゅるり。
 ドラゴンからすれば、大きな虫はタンパク質。
 美味しそうというのがラファルの感覚でもあった。
 きらりと輝くアダマンタイトの鎌等、色々危険がありそうな気もするが……心配はない。
 当たらなければどういうという事は無いのだ、と。
 彼らが自分たちを食べるならば、逆に食べられるのも、と言う弱肉強食なのだ。

「あいっ。
 前衛は師匠に任せるよー。」

 それが無難だろう。
 師匠のフォローに回れば、安定が大安定になる。
 虫だからこそ、戦術的な思考などはなく、本能と危険度からのヘイト位だ。
 それを無為に此方から仕掛けて、タイミングを外すのは、師匠の組み立てを壊す事にもなる。
 連携していくなら、師匠の組み立てをフォローするのが最上。

「あ。」

 羽根からの衝撃波だ。
 その辺りに関しては、ラファルの得意ではあるのだけど、師匠は、そうではない。
 そして、衝撃波を嫌い、速攻で翼を潰す。
 蟷螂は、カウンターよろしく、牙で攻撃しようとした。頭を振るというのは、隙が多くなるモノだ。
 師匠は難なく避けて、するりと、後部にラファルは移動する。
 頭を下げている蟷螂、回避している姿を見ながら。

「こんごーじん!」

 師匠から預かっていた、魔骸鋼石で作られた刃。
 魔力と、竜気をしっかり込めて、柔らかな腹部に上からずぶり、と突き立てる。
 虫と言うのは柔らかな腹部がある、本来は翅が甲殻の代わりだが、師匠がそれを切り裂いているから。

「もう一個、お・ま・け❤」

 上から、下へ、竜の筋力でのハンマーナックルで、ぐちゃり、と腹部を叩き潰す。
 バックステップで下がりながら、にっこり笑う。
 奴が振り向くころには攻撃範囲外まで下がるラファル。

影時 > 「だよなー。……いやまぁ、酔氣を強引に払ってやりゃぁ良いかもしれねぇが、張り合わられるとちと面倒だ」

一番弟子と二番弟子と異なり、かの家の姉妹には役柄持ちが居る。
息抜きに旅して見分を深める名目であっても、地の底の探索はどう考えても的外れだ。酔狂にも程がある。
仮にもし連れて行くとすれば、もう一人か。
立ち位置、想定するポジションは前衛だろうが、常時酔っ払っているのはこれも此れで問題がある。

「……喰う、よなぁ。その前に、あー。何か面白いモンでも採れたら良いんだがね。
 ああ、任された。だが、機に臨みて応じて変ずることは忘れるな」」

あれ喰うのか。こんな時ながらに目を点にする。弟子の生態は分かっているが、ついついぼやきたくもなるもの。
鎌刃や甲殻など、名の通りのアダマンタイト質だったら、此れは若しかすると有用だが、はてさて。
魔法を使わない生き物なら、その脅威は巨体含め外見にこそ真っ先に現れる
つくづく、当たらなければどうということもない、というのは至言だ。それを実現できるなら、という但し書きが付くが。
さて。今のポジションは打ち合わせるまでもなく定まる。前衛が己、後衛が弟子だ。
小賢しい攪乱戦術を取るまでもない。大物殺しをするときの手順、手筈通り、的確に部位を狙い、潰してゆけば良い。

「と、ッ。侮り過ぎたか」

翅の付け根は甲殻と同じか、それ以上に硬い。大きな翅を支え、翅を稼働させる筋肉の支点となるからだ。
並みの剣では刃が通らないものを切断出来るのは、屠龍の刃自体の性能とそれの担い手たりうる技の冴えがあってこそ。
攻撃を終え、すぐさま退避しようと空中に跳んだところを、大蟷螂の顎が追い縋る。
身を振り、胸当てで掠らせればぎぎぃぃ、と火花が散る。薄っすらと斬痕が生じるのは、顎の強度の凄まじさか。
氣を篭めれば、修復できるだろうかと材質の性質を思いつつ、着地。息を吸い、吐いて。気勢を整えつつ、見るのは弟子の動き。

「……――上出来だ。仕上げに掛かるぞ」

つくづく、抜かりない。弟子に与えた鎧通しの刃は、まさにこう言う相手を想定したもの。
超硬質の甲殻の隙間を抜くための剛き刃が、翅を取り払われた腹に深々と刺さり、生態エネルギーの循環経路を乱す。
そこにダメ押しのドラゴンパワーに漲ったハンマーナックル。ぶちゅっと爆ぜる臓物に戦慄く姿に、勝機を見る。
刀を再び鞘に戻し、氣を練る。練り上げた氣を流し、巡らせて再び雷氣を生み出し、雷の刺激を以て肉体をさらに活性化させ、走る。
ジグザグに走る疾走に、稲光がひらめき、追い縋る。
身動きを止めた蟷螂の首まで息をつかずに駆け上がり、再度の雷迅抜刀。雷氣が乗ったハガネが鋼鉄よりも硬く太い首を断ち、刎ねる。

切り落とされた翅に続き、巨大蟷螂の生首が転がれば、どう、と力が抜けた巨体が床に横たわる。

ラファル > 「気楽に動くのは、ボクと、シロナ、フィリちゃんだねー。
 後は良くわかんね。」

 取り合えず、オルテンシアは、その存在状飲んでいても、酔っ払っていても問題はないだろう。
 ただ、基本の性格に問題があり、なだけで。
 生まれの関係で、多分いう事は、聞いてくれる、と思うのだろう。

「あ、ちゃんとはぎとる間は、待つよー。」

 ラファルいい子。
 まあ、鉄だってご飯なので。余ったもので良いから、とにぱぁ、とにこやかにアピール。
 ぐぅぅ、とお腹の音が為るのは止められない、止まらない。
 至言に関しては、師匠なら楽勝、ラファルだって、出来る事である。
 それに、当たり方を決めれば、ダメージなんてどこまでも減らせるものだ。
 二人いれば、ダメージコントロールだってできる。
 それを考えれば、至言は、色々とできるはずだ、と。

「おー……。」

 そんな事を開設する前に、師匠が首をずばんと切り飛ばす。
 雷を身にまとい走る姿は、雷神と言うべきなのだろうか。
 ラファルは、それを見ながら―――。

 倒れ伏していく、蟷螂。
 カマキリは、頭を食われながら交尾するというだけあって、しぶといのだけども。
 矢張り、腹部を先に潰していたリ、全身を雷でこんがりしていたのも功を奏したのだろう。
 最後の一撃と言う物はなさそうだ。

 と、考え無いのはラファルであり、野生の恐ろしさと言うのは。
 昆虫のしぶとさは知っているからこそ、蟷螂の鎌の根元を、再度、魔力と氣力を込めた金剛刃で切り飛ばす。
 念には念を、と言う物だ、それから少し離れて、周囲の警戒を。
 これから師匠が、素材を採るから。
 終わったら、昆虫食事を食べられるだろう、と。ジュルリと涎。

影時 > 「なぁるほど。あとは、あれか。まだ顔合わせしてないお嬢様も居るんじゃねえかね。ン?」

弟子が挙げる名前は、分かり易い。確かに声をかけるとそれぞれ答えてくれそうである。
実際、連れてきた経験もある者達でもある。程度はどうあれ、経験の有無というのはとても大きい。
今挙がらなかった名前のうち数名含まれるのは、顔と名前は憶えていても、というものがある。
見た目は幼女でも、こんな危険地帯に連れてきて問題ないものはそれこそ一人しか居ない。
あと、一番新顔と思われる、最近稽古をつけているお嬢様はどうだろうか。興味があると良いのだが……。

「待てが出来て偉いなァ、ラファルは。
 出来たらついでに、宝箱も探してくれたら助かる。多分あると思うんだよな」
 
最後のトドメ、一撃として首を刎ね、着地。刃を振って血振りならぬ体液振りをしながら、言葉を返す。
近くに居たら撫でてやったりもしただろうが、残心はこの状況でも大事だ。
敵が死んだと認めるまで、注意を怠らない。完全に大蟷螂が死んだ――と認めて、漸く一息吐き出し、刀を鞘に納める。
戦闘終了を認めれば、襟巻の中に隠れていた二匹のシマリスとモモンガがぷはぁと顔を出し、肩上と頭上に登る。
先程からの大蟷螂の羽音が堪えていたらしい。顔をこしこししたり、耳を押さえる仕草などしてアピールに余念がない。
ご苦労さん、よく頑張ったな、とばかりに指先で撫でてやりつつ、件の死骸に向こう。

「……ああ、ラファル。預けてた苦無あるか?無けりゃこっちでやるが」

どう捌くか。解体するか。雷迅の術を教える際、早めの形見分けついでに預けていた苦無の有無を弟子に問う。
持っていなければ、世界樹の苦無を取り出し、甲殻や翅、大鎌等の強度を確かめ、解体する。
名の通りの金属材質を含んでいる様子ではあるが、どうやら程度がある、若しかしたら年齢や個体にもよるのか?
触れ、氣を流しながら一番反応が奇妙な処と顎と鎌であった。
より強靭かつ硬度が必要な処に、アダマンタイト質が集中しているのだろうか?
そう見立てつつ、苦無を部位の継ぎ目に打ち込み、ごりごりと内側の筋を断ち切り、解体する。
剥ぎ取った部位はそのまま、雑嚢の中に放り込む。収まりそうにない筈のものが吸い込まれ、倉庫に保管される。

残った部位は、弟子のごはんだ。
宝箱が見つかれば、弟子の食事中に罠など外し、鍵開けと洒落込もうか。

ラファル > 「うーん……?
 おいちゃん、皆に会ってなかったっけ?」

 この辺りは自由度が高く、会えば、声を掛ければやって来てくれる。
 ラファルを含めて、トゥルネソルの娘たちは子供である。
 おいちゃんから見れば、幼女たちである、だって、ラファルで最年長の10歳
 他の子は、皆1~5歳なのである、精神年齢は兎も角、だ。
 それでも、数が多くても皆に会っているような気がするのだけどどうなのだろう。
 こてんと首を傾ぐ。
 ただ、リスは今現在進行で、恋をして、愛し合い、子供を増やしてるので、そう言うのも有るのだろう。

「あいっ。」

 探索、調査、そう言うのはラファルは得意。
 匂いを嗅いだり、音を聞いたり、特に、金属とか違う匂いには敏感だからこそ、だ。
 残心している師匠を後目に、調査に動く。
 その間に毛玉たちが、師匠に何やら猛抗議してる。
 耳がちぎれるとか、騒いでいるのが聞ける、なんかそんがいばいしょーに美味いもの寄越せ、とか。

「苦無、持ってきてるよー。
 どぞーっ。」

 預かって居たくないに関しては、毎回持ち歩く。
 準備と言う事はそう言う事だし、ダンジョン探索なのだ、苦無は必須でもある。
 なので、鞄から取り出して、ひょーい、と投げる。
 軽く放るくらいなので弧を描き、師匠の手元に柄が収まる様に。

 部屋の中をゆっくり、一つ一つを確認する様に、歩き始める。

影時 > 「……とは思うんだがな、ラファル。
 雇い主殿が新たにこさえてたりしてたら、認識が追い付かねェよう」
 
少なくともトゥルネソル家の新年会には顔を出す関係上、新年には認識が最新にアップデートされる。
とはいえ、いつの間にか増えている、というのがあるのがこの家であるということを知っている。
産まれて直ぐに成長する、というのは竜の血が成せる不可思議である。
だから、自分が知らないうちにというのも大いに在り得る。あやかりたいがね、と冗談混じりに肩を竦めてみせて。

「わーった、わかったから、そう怒るな。戻ったら何か果物やるから、機嫌直せ。な?」

しかし、あの敵だと先に毛玉たちを雑嚢の中に避難させておく方が良かったのだろうか。
襟巻の生地のお陰で、大蟷螂の羽音を直で聞かずに済んだとはいえ、感覚が鋭い分色々辛かったのだろう。
尻尾をぼわっと膨らませて、何か抗議するような素振りで前足をぱたぱたさせる姿を見て、溜息を零す。
仕方がないなあ、と思う反面、そもそも帰ったら労うつもりで与えるつもりでもあった。
ちょっと奮発して、商会が商っている果物で高級な梨でも買おうか。
この季節には丁度良い。もちろん、ついてきてくれた弟子の分も忘れない。

「おお、悪いな。まだ使うか?それならもうちょっと貸してやるが」

投じられる刃をぱしっと手に取る。久方ぶりに手に戻る黒い刃の苦無は手に馴染む。
上位互換に近い性能が世界樹の苦無にあるが、屠龍の太刀を手にするまで使っていた刃でもある。
楔状の断面ではなく剣のように薄く鍛えられながら頑丈な刃は、近しい色合いの甲殻の隙間に滑り込む。
薄らと氣を流しつつ解体する作業を進めつつ問えば、後は食べやすいように部位ごとにバラして床に並べてゆく。
刃に着いた体液を羽織の裾で拭い、残る作業とシゴトに向かい合う。宝箱の確認だ。

――どうやら、見つけるのはこちらが早かったか。

蟷螂の生首が転がったあたりに歩めば、複眼が向いた先をふと見やる。壁の窪みにちょこんと宝箱が置かれていたのだ。
それに注意深く歩み寄り、鍵付きの箱の状態を確かめる。
罠の有無、仕掛けられた罠の予測を立てつつ、苦無を置き、雑嚢から布巻きの鍵開け道具を取り出す。
慎重に仕掛けを確かめ、ごそごそ、と開錠してゆく姿を肩上と頭上の毛玉たちが眺めてゆく。

影時 > 【次回継続】
ラファル > 中断しますっ!
ご案内:「無名遺跡」から影時さんが去りました。
ご案内:「無名遺跡」からラファルさんが去りました。