2024/05/20 のログ
ご案内:「無名遺跡」にアストラさんが現れました。
■アストラ > こつ、こつ、こつ。
無名遺跡の石造りの廊下に反響するヒールの音は不気味なほどに遠くの闇まで溶けていった。
暗がりの中でランタンを片手に進むのは女魔術師の冒険者。
長い蒼銀の波打つ髪を腰辺りまで伸ばし、好奇心を隠さない金の瞳が周囲を見渡している。
整った顔立ちに、白くきめ細かな肌。豊満な胸元を惜しげもなく晒し、辛うじて恥部が隠れる程度のいかがわしい魔術師ローブを纏い、深いスリットの入った裾からも脚線美を露わにしている。
今いる場所がダンジョンではなく娼館であれば人気の娼婦と見られてもおかしくないような、雄を欲情させる雌の恰好。当人が好んで着用し、下着すら身に着けないのだから、淫蕩な性根は生涯治らないだろう。
そんなことも気にせずに、アストラはダンジョンの奥へと進んでいった。
特に依頼を受けたわけでもなく、しばらく籠らなくていいように、売れる素材や財宝を求めて探索している。
「ん~~~…、ここから先は、もう誰か行っちゃったかしら」
冒険者は当然自分だけじゃない。自分だけじゃないから、先んじたものがお宝を手にしている可能性はある。
罠にかかって帰らぬ人になってる可能性もあるけれど、そんなのよくある話。
ま、そんなこと言ってたら冒険者なんてやってられない。
鼻歌でも歌いながら、女冒険者は危険も顧みずに未探索の奥地を目指して進んでいく。
ご案内:「無名遺跡」にキュリアスさんが現れました。
■キュリアス > ヒールを響かせながら歩く女魔術師は、しかしどんどん闇は深くなる。
ランタンの光だけでは心もとないほどの暗い空間へと、しかしこの冒険者は恐れなく向かうのだろう。
しかし……パリン、という何かが割れる音が聞こえる。それは足元から響いたように感じた。
ランタンをそこに照らしてみれば輝く宝石のような石ころが転がっている。
ヒールで踏み抜いた際に砕けたのであろう石ころは、前述のように光に照らせば宝石のように煌めく。
周囲をまたランタンで照らせば……同じような宝石の原石らしきものが埋まっていた。
財宝、というには少々物足りないかもしれないが、収入源としては十分だろう。
掘りだせれば、の話だが。
「んにゃあ?」
そんな暗闇の中で声が聞こえる。猫のような、甲高い鳴き声。
そちらにランタンを照らせば、この遺跡の中では場違いなほど整った衣装に身を包んだ青年がいた。
整った顔立ちに、白を基調にした高価そうな衣類。その頭にはミレーなのであろう猫の耳が備わっており。
透き通った青い瞳が、暗闇野中、ランタンに照らされずとも光っていた。
「こっちには誰も来てないにゃよ~。いるのは僕ちゃんとこの原石だけにゃあ」
適当な、青い宝石が埋まってる部分を片手で握ると、ボコリといとも簡単に抜いて。
それをランタンに照らすように見せつけて、その青年はただ、妖しく微笑みを浮かべていた。
■アストラ > 次第に闇は深くなって、ランタンで照らしても数メートル先すら真っ暗になったところで足を止める。
流石にそろそろ広範囲の光源魔術に切り替えないと、罠を踏み抜く恐れもあると考えたアストラの足元で、何かが響いた。
ガラスか陶器か、ともかく何かが割れる音。
何かと思ってランタンの明かりを足元へと向ければ、自然と中腰くらいになるだろうか?
胸の谷間が深く強調されるような姿勢。後ろから見たなら大きな尻が突き出されている恰好。
「あら、これは原石かしら? こんな廊下に埋まってるなんてどういうこと?」
怪訝そうに首を傾げたが、ふいに暗闇の向こうから声が聞こえてくる。
猫の鳴き声のような。魔物化と思ったが、それにしてはずいぶんと人の声帯から発せられた声めいている。
立ち上がって腕を上げれば、ランタンの明かりに人影が移った。
冒険者、というにはあまりにも場違いな格好。しかしその頭部から生える耳を見れば、なんとなく察せられる。
「ふうん。そうなの? それで、貴方は誰なのかしら? 貴方が採掘中だというのなら、別の場所へ行くけれど」
掘り返す為に魔術を行使するのはたやすいけれど、素手で引っこ抜ける相手がいるのならここは独占したいのではないかと考えて問いかけてみる。
どっからどう見ても怪しさしかないその笑みに、にこりと微笑んで返しておく。
■キュリアス > 微笑みを返す彼女に、その青年は近づくわけでもなく目を細める。
金色の瞳をした肉感的な彼女を見つめながら、手に持った原石を見て。
「僕ちゃんはキュリアスにゃー。採掘なんて、僕ちゃんは興味ないにゃ。
ただ、お姉さんはこういうのが興味あるのかにゃ?」
この原石がある場所もそうだが、いささか違和感がある青年。
これが魔物、あるいは魔族の可能性はゼロではないし、罠の可能性だってある。
青年は手出しなどはせず、その位置から歩き出すが、距離を詰めるわけでもなく別の壁に近づき。
「僕ちゃんは誰かのお手伝いさんにゃ。みんなが欲しいものを手伝って上げるにゃ。
お姉さんがむしろここにあるのが欲しいなら、僕ちゃんは手伝いたいにゃ。
その代わり……」
ずいっ、と距離があったのにもかかわらず、一瞬で姿が掻き消え。
後ろの、それもほとんど髪に息がつくくらいの距離から囁きが聞こえる。
「ちょっと楽しいこと、させてもらえたら万々歳にゃ。
ま……一人でやれるっていうなら別にいいんだけどにゃ」
そう告げると、ヒールによって身長が少し上がっている彼女を。
より長身な青年は高い位置から見下すように耳元から上半身を上げて。
近場で見れば、そんな青年の首に黒い首輪があることも見えるだろうか。
■アストラ > 「ふぅん、そう」
暗がりの中から聞こえてくる声、言葉に抱くイメージは道化師。
本性を隠して笑みを携えて、しかし見世物の道化師と違うのは笑い者にされる側ではなく嗤う側だと思わせる底知れない強かさ。
普通のミレーでもなさそう。魔族と言われれば納得もする。
そんな人物が何を企み、目論んでいるのかは定かではないが、少なくともアストラが手放しに笑顔で歓迎できる相手ではないというのが第一印象。
そんな青年が一瞬で闇に掻き消えて、すぐ背後からその声が聞こえてきた。
瞬間移動――?
振り向いて見上げれば、至近距離から見下ろす青年の首輪も見える。
魔族の眷属か、あるいは奴隷、それが一番しっくりきた。
事実はどうあれ、ふぅ、と肩をすくませればアストラは反対の手で青年の顎をつつ、と指先でなぞり、軽く弾く。
「申し出は嬉しいけれど、私、よくわからないモノと遊ぶ気はないの」
こんな場所でなければもう少しまともに話もできたかもしれないし、愉しいこととやらにも応じたかもしれないけれど。
アストラの冒険者としての結論が出したのは、今はやめとこ、である。
単純にキュリアスと名乗った青年の顔はとてもいいし、体躯だっていい男だなあとは思うのだけど、残念ねえ、と笑みを零すだけ。
■キュリアス > 「釣れないにゃあ」
弾かれて、嫌がる相手にはわざわざそれ以上を要求するわけでもなく。
別に完全に嫌われたわけでもなさそうならそれでいい。
まぁ、タイミングと場所が悪かった。そう考えるようにしよう。
顎を弾かれれば、両手を頭の後ろに組んで伸びをして。
「んん~」っと体をほぐすように伸ばした後。
「ま、それぐらい用心があるならお仲間さんとさっさと合流してあげるべきにゃあ。
さっきあっちで見かけたし、ついでに僕ちゃんは別に要らないからこれも上げるにゃ」
と、先ほど壁から抜いた青い宝石の原石を彼女へと投げ渡して。
どうやら本物のようで、研磨すればしっかりと値が張るものになるのは間違いなさそうだ。
尻尾を軽く左右に揺らしながら、彼女に背を向けて廊下を歩きだして。
「次に会ったら名前を教えてくれにゃあ、お姉さん」
そうひらひらと手を振りながら、その場を歩いて去っていく。
「ふわぁ」と、眠そうな声と欠伸を出した後その後ろ姿は暗闇の中に消えて行った。
ご案内:「無名遺跡」からキュリアスさんが去りました。
■アストラ > 「お仲間……?」
立ち去った青年に投げ渡された原石はしっかりとキャッチする。
好きな色の青。研磨したらいい輝きを放ちそう。これで魔術具を作るのもいいかも、なんて考えながらも、一人で来たアストラには関係ない誰かが向こうにいるのかもしれない。
まあなんにせよ縁があればきっとまた会えるだろうから、アストラは再びランタンを手に廊下を歩きだす。
しっかり原石は空間収納魔術の中にしまい込んで。
ここで石を掘り返すのもいいかもしれないけれど、罠だった時が面倒。
青年とは反対の方向へと歩き出す女冒険者は、すでに次のことを考え始めていた。
こつこつ、ヒールの音を立てて、もう少し深部まで歩みを進めていく。
その先で何かあればいいけれど、何もなければ大人しく帰るだろう。