2024/05/03 のログ
ご案内:「無名遺跡」にモルガナさんが現れました。
モルガナ > 「貴族ともあろう者が、全く愚かですこと……。」

 たまにいる、貴族の三男坊、四女辺りが才能と環境に恵まれて、
 しかし嫡男、才女への不満を抱いて出奔する。

 そんな中の、まだ親に目をかけられている貴族の”ままごと”の果ての失踪。
 そういうものの捜索もミナスジェイラスは秘密裏に行うこともある。

 代々才能に恵まれた才女たるミナスジェイラスの長女。
 幾度かの実戦を経て、少数精鋭の露払いに足を踏み入れる。

 貴族の嗜み、義務を掲げる者として、道楽が過ぎた末に家へ迷惑をかける行為に
 嘆息しながら奥へと進む。

 並の冒険者より家の資産と技術を投入して仕上げられた一点物の装備をまとい、
 光波を放つサーベルを携えれば、敵はないだろうと。

 ……そう言った腕利きが、幾人も吞まれた遺跡であることを弁えた上での振舞い。
 無策ではないが、無謀であるとも考えず。

ご案内:「無名遺跡」に”徒花”ジョーさんが現れました。
”徒花”ジョー >  
何時の時代がどの時代か。人の歴史に時にそれはすれ違う。
幾人の冒険者を人々を飲み込んだ遺跡。トラップか、或いは魔物にやられたか。
帰ってこない理由こそ幾星霜だ。こんな場所に来るのは仕事は、命知らずのどちらかだ。
少数精鋭の騎士たちが踏み込んだ淀んだ空気の中、こつん、こつんと音が近づいてくる。

それは、"遺跡の奥"から徐々に近づいてくる。
白髪を揺らし、ローブを翻す青年の人影。
全体的に血の気の無い風体の顔は、人の形をしているが生気を感じさせない。
魔物と言うには邪気がなく、人と言うには活気が無い。そんな男だ。
翠の双眸が騎士たちの姿が映れば、青年は静かに足を止めた。

「……こんな場所に何か用か?」

青年は静かに問いかける。
敵意は感じさせないが、遺跡の奥地から出てきた存在。
警戒をするには十分な存在ではあるだろう。

モルガナ > 人とは異なる気配。中庸である。そう表現すべき振れ幅を感じさせない雰囲気。
出てきた方角と、気配。それだけで警戒するには充分。なのだが、

「あら、わざわざ誰かの許可を得て足を踏み入れる必要がありまして?」

などと、腹の探り合い、というよりこちらに大義ありとでも言わんばかりに
サーベルの柄へ手をかけながら相手を見据える。

その気配の正体を悟るほどの勘所が未だ育まれておらず、
奥から出てきた。ならば敵。ならば首級であるという風体。

「この遺跡にいるかもしれない冒険者の捜索ではありましてよ。
 生きているかはわかりませんけれど。

 それとも、案内でもしてくださるのかしら?」

”徒花”ジョー >  
その言葉に、男は静かに首を振る。

「……いりはしない。何が起きても"自己責任"だ。
 それがわかっているからこそ、お前は此処に来たのだろう?」

仕事といえど、それを選ぶのは当人自身だ。
此処がどういう場所かなんて、それこそ事前に知っているはずだ。
ならば、誰かの許可なんて必要すらないだろう。
彼女の覚悟が如何程かは興味ないが、相応の覚悟はあるはずだ。
何処となく憂鬱そうな表情したまま、男はため息を吐いた。

「捜索か。余程、人使いの荒い連中に言われているようだな。
 人探しでこんな場所に来るなんて、少しは同情する。」

自らの背中に広がる一切の宵闇を一瞥し、視線を戻す。

「生憎俺は俺の用事で此処にいる。今日は人探しではない。
 ……が、"地理にはそれなりに詳しい"。道案内くらいならしてやるが……。」

用事でそれなりに、ここいら一体は出入りする。
それに、"年の功"もある。望むなら露払い位はしてやる。
勿論、それは彼女次第ではあるが、男はそれなりにお節介ではあるようだ。

モルガナ > 「……まあ、そうですわね。」

 挑発。それを単騎でいわば敵陣で見せる安さ。
 ……まるでそれをたしなめられたかのような静かな物言い。
 是とも否とも言わない在り方に、半身に構えていた体からわずかに力を抜く。

 自己責任。その言葉が少し、心に重たくのしかかる気がして、
 僅かに眉を顰めもするが。

「あら、同情だなどと。けれど、そうですわね。
 探しに来たのは、それなりの家柄の方が屋敷を飛び出し粗相をした結果、
 ではありますし、
 その後始末と言われればそうかもしれませんわね。

 けれど、貴族たるもの、常に流麗に、穏やかにあってこそ。
 私を使っているつもりの者達は惰弱で行動しないものばかり。

 同情されるほど、みじめな身分ではありませんわ?」

 憂鬱な表情に気づいているのか否か、同情と言う言葉に高らかに在り方を示して。

「物好きですわね。あなたが何者か分かりませんが、それでもエスコートしてくださるなんて。
 ……先に名乗らせていただきましょうか。
 私はモルガナ。ミナスジェイラス家の者ですわ。
 ……もっとも、多分貴方のような方はご存じないのでしょうけれど」

 魔族とは戦場で相対するか、国内で掃討するか。
 ……多分、人ではない。少なくとも尋常のとは別。
 だが、落ち着いた振舞いには少し羨望を抱きもする。

 流麗に、穏やかに。己が今しがた紡いだ言葉を体現してるように思えて。

”徒花”ジョー >  
「……その在り方をお前自身が望むならそうだろうが
 敷かれた道であるならば、果たしてそう言えるかはわからんな……。」

人であったからこそ、立場や在り方の拘りには一応の理解はある。
但し、与えられた形は傍から見れば滑稽そのものだ。
翠の眼にはまだ、何方に映るとはなんとも言えない。
ただ、小間使いとして顎で使われるのはなんとも物悲しさあるだろう。
何時の時代も、こういった頭でっかちに使われる現場職の図式は存在するようだ。

「……うんざりするな、社会というものは。」

彼女の示したものは肯定はせず、やはり男はため息まじりに憐れみを示した。
歯車自体を否定するわけではない。ただ、今の時代の人間社会。
その在り方の一旦としては、彼女に同情するのも致し方なかった。

「名前や家督などは所詮形でしかない。大事なのは、それを表せる行動力のみ。」

勿論興味はなくご存知ではないが
そういうのであればそれに相応しい人物であると、彼女には自信があるのだろう。
だから敢えて、プレッシャーを掛ける形で言葉を掛け、ローブを翻し背を向ける。
名を名乗られた以上は、一応名乗るのが礼儀。

「……俺はジョー。”徒花”(バレンフラワー)ジョー。」

自分自身以外最早意味を知るものはいない、古い名を名乗った。

「付いてこい。罠や魔物避け位にはなる。
 ……お前が蛮勇か無知でなければ、二の足で踏むことは無いと思うが……。」

そういうと男は先んじて歩みだす。
お節介ではあるが、一言多いタイプでもあった。

モルガナ > 「私が自らの意志で動いてないと?
 愚問ですわね。無力な者に手を差し伸べる、守るべき民に道を示す。
 それが高貴なる者の務め(ノブリス・オブ・リージュ)というもの。

 それが子供の躾一つ出来ぬ愚かな貴族の願いだとしても、ですわ。」

 自らの意志で選び、自らの意志で貢献する。
 そう思っている。事実、人間の国からすれば危険域を踏破できるだけの”実力だけ”はある。
 ……自ら貢献している、その考え方に、不意に脳裏に僅かなもやがかかりもするが。

「貴方はその、そう、いわゆる世捨て人か何かでして?
 まるで流浪し、彷徨い、宛てもなく思えますわね。

 その果てのうんざり、だとしたらそれこそ無用な心配というものですわ。

 いずれ、ミナスジェイラスの者として国を動かす側になるのですから。
 ならば、現場の個人単位の気苦労と言うものも知ってこそ。
 ……盤面でもあるまいに、数字を動かし人を動かしたつもりになるのは愚鈍というものでしょう。」

 対照的に、いずれ自ら歯車を動かす側になるのだと誇らしげに語って見せる。
 駒ではなく兵である、消耗品でなく民である。
 だから、行動しているのだと。

「行動と結果。それを得る為の血と家と名前ですわ。
 最初からより広範囲で、効率的に成果を挙げられる。
 その為に日々行動する。毎日無粋な夜会を開いてるだけの方々のようになりたくありませんもの」

 その後ろを、少し後から追うように歩きつつ言葉を返す。

「ジョーね。覚えておきますわ。貴方は優秀そうですもの。
 あら、蛮勇はともあれ、無知ではありませんことよ。

 道案内さえしていただければ、この程度の遺跡どうということありませんもの」

 一言多い相手に、一言二言返しながら気にする様子もなく。

 ……いざ奥へと進み、魔物へと対処していれば、己へ向かう牙も凶器も、
 まず腕を切り落とし、機動力を削ぐ。その為の手数を稼ぐためのサーベル。
 そこから放たれる光波も距離を取ってぶつけるだけでなく、
 斬撃に合わせて打ち据え強固な敵も引き裂いていく。

 少なくとも、真正面からの戦いにだけは自信はあるようだが、
 罠に対しては慎重なのか、貴方が罠を解除するようなことがあれば大人しく従いもするし、解除の様子を観察して技術を理解しようとする。

 ……生まれを口にするわりには、現場での行動に意味と価値を感じているようで

”徒花”ジョー >  
「そうやって啖呵を切れるなら、何も問題はなさそうだな。ただのじゃじゃ馬かもしれんが……。」

下手に謙遜するよりは余程気持ちはいい。
それをどれだけ実現できるか、などと敢えて野暮なことは言うまい。
ふ、と僅かに緩んだ口元はどことなく楽しげだ。

先に進むにおいて、男はただ前に進むだけ。
その言葉を聞いたからこそ、下手に手助けは無用と感じた。
そして、その実力も下手に手助けをする必要はなかった。
迫りくる魔物を切り倒し、難なく道を進んでいく。
自ら高貴なる者の努め(ノブレス・オブ・リージュ)を謡う言動は備わっているらしい。
内心、感心を覚えながら歪な石畳を進んでいく。
一方で、男の方には魔物は襲っては来ない。
魔物避けの魔術。魔物には自分を極端に視認しづらくするものだ。
無用な争いを避けるためのものであり、ある意味対象的な歩みがすぐ隣にはあった。

「……人間(おまえたち)の世という意味では、そうかも知れないな。
 馴染む努力はしているが、宛はない。ただ、流浪の身ではない。」

「理由があって、此の地に暮らしている。」

一定の所在は持っている。それが今、この世にいる最もな理由。
さて、ある程度進んだ後、同時に軽くローブを広げて、足を止めるように示そう。

「俺が優秀かはさておき、少し待て。罠がある。
 ……作動の形跡はないから、お前の探し人が掛かったわけではない。」

「……所で探し人がいなくなって、どれだけ経ったんだ?」

男の目前は、一見何の変哲もない遺跡の道が一本続いている。
その言葉を信じて止まるもよし、進むもよしだ。男は止めはしないが、仕事はする。
手元に携えた杖を翳し、ただその場でじっとする。詠唱はない。
ただ、少しでも魔法に詳しいのであれば、繊細な魔力の流れが激流のように行き交っているのはわかるかもしれない。
とは言え、目的を忘れたわけではない。経過日数によっては、生存は絶望的だ。
せめて、奥地に行けるほど経ってなければまだ楽だが…。

モルガナ > 「これはじゃじゃ馬ではなくこれは家の代々の責務というものですわ。
 家は代々長女から領主、騎士、学者になるもの。
 妹が私より優秀過ぎるので家督を譲りましたの。伝統を破壊して。

 なので、妹がふがいない騎士を控えさせていると言われないよう、
 騎士として正しく気高くあらねばなりませんのよ」

 優秀な妹。そこに陰惨な家督争いという雰囲気はなく、
 ただでさえ溺愛している妹が己より優秀なことを鼻にかけているという
 姉妹愛に満ちた物言いで。

 その最中に、緩んだ口元を目敏く見据えて、あら、笑うんですのね貴方、などと嬉しそうに指摘もする。

 人型だけでなく、獣や不定形にも的確に対処していく。
 それは魔物を兵種に当てはめての対応。よく学び、実践に活かし、結果を出す。

 口だけではないことだけは証明できただろうかと、知らず相手を上に見ている自覚などなく。
 だからだろうか、連れ立つ者に魔物が行かぬことは、己が上手く引き付けているのだと慢心もするだろうか。

「やはり人外の類ですのね。人に馴染む努力、ね……。」

無銘遺跡に魔族が住み着いている話は聞き及んでいる。
そこに暮らしている、とは、属するコミュニティとしては違うのだろう。

……気配を、探りもする。大地に根差す家柄として雄大ではなく、
地を介し伝わるものを読み取る。
相手の出どころ……、いわゆる不死の魔物の類かと伺っていれば止まるよう促されて。

「伝聞では消息を絶ってから四日ですわね。行方が知れぬとなって三日目に
 我が家に要請があり、それから今日着きましたの。

 罠、と言っても……。」

 確かにわなを仕掛けるには都合の良い一本道。個々のどこに、などと考えていれば、
 身が総毛立つ自覚を持つ。

 大きな流れ。それを構成する微細な流れ。
 まるで一つ二つを解除するのではない、一斉に、全て、同時に罠へ
 羽毛へ触れるかの如きはかなさを帯びて。

 それは、視覚出来たわけではない。だが、美しいと思った。
 壮大に機織る光景を見ているような感覚に囚われる。
 少なくとも強い躍動と盤石さをまず身に備えた己では出来ぬ境地。

 しばし、任務のことを忘れてその光景を感じ取って。

”徒花”ジョー >  
流水のように流れる魔力が全面へと流れていく。
物理的な殺傷力を持つものは封じられ、同じく魔術由来の罠は対抗魔術で相殺する。
何処までも先へ、先へ。自らを此の遺跡に馴染ませるように意識を分散させ、浸透させる感覚。
単に支配に近いものではあるが、膨大な情報量を即座に処理し、繊細に複数の魔力を行使する繊細さが必要だ。
長い年月を生きた。それこそ悠久の刻を生きたからこそ力を手にした。
瞬き一つすらしない翠の瞳は、傍から見れば何も見えない。
だが、今男には無数の情報が消えては流れる景色の濁流だ。

「……俺が人かどうかなど、些細なことだ。」

此の世界には人間以外の種族が多数いる。
種族間の差別、区別、どれもくだらないことだ。
カツン、と杖先で石畳を叩けばふぅ、と一息。

「一通りは終わった。矢が飛ぶ典型的な罠から
 "遺跡の一部"になる下卑たものまで色々あったが……見たことあるものばかりで助かった。」

知らないものであれば、もう少し時間は掛かった。
蓄えた知識の中にあり、似たようなものには応用も効いたから短時間で済ませたのは幸運だ。
彼女の伝えた時間を考えれば、生存を考えれば時間は早いほどいい。
何処となく険しい顔をしているのは、生存の可能性が高いとは言えない時間だったからだ。
有り体に言えば、顔も名前も知らない人間の生命を心配するような男である証左であった。

直近で起動した形跡は無いものの、魔物だっている。
どれほどの実力者かは知らないが、ただの人間が飲まず食わずで戦い続けられるとか考えにくい。

「……解除のついでに、伸ばした魔力で探知も掛けた。
 先に人らしい気配もある。お前の仕事でもあるんだ、少し急ぐぞ。」

そう言うと男は少し早足に先へと進み始めた。

モルガナ > それを支配、というのは出来る者、全てを見据えた先の者の言えることだろう。
女騎士からすれば、才能から見える光景からすればそれは調和であった。

異物たる個が浸透し、繋がり、場を乱すことなく収められていく、
まるで乱れる群衆を一様にひとまとめに統率するかの光景。

静謐。
ただ、静かに、大きなうねりはあれど、それは微細な集合故に生まれる大きな動きで、
清め流れていく大河のようにも思えて。

それを、そんなものを美しいと思うのは、退廃の美なのだろうか。

「些細ではありませんわ。貴方という存在の一部ですもの。」

知ることが大事だと言う。相対する”存在”が如何なる者か。
今こうして一時的にとはいえ、同じ方向に並んで歩いているのならば尚更と。

「色々なものを見ているんですのね、ジョーは」

下卑たもの。結末の中では、彼女が享受する羽目になるかもしれないものが取り払われていく。
そうとも知らず、全てを知っているとはいえ、膨大な数の罠を鎮めて道を開いたことは確かで。

「貴方、静かではありますけど強いものをお持ちですのね」

最初の抑揚のない表情から見せるその感情に、そんなことを呟く。
……彼には話していないが、お世辞にも腕が立つとはいえない、貴族の四女。
だからこそ功を焦ったのだろう。

……そしてもっと言えば、探知には、もう一つ気配がある。
深く人の気配と重なった”下卑た気配”が。

共に奥へ進み、探知した先へ進めば、そこには陰惨な光景が広がっていた。

壁から溢れた蔦に絡め取られ持ち上げられた女の下半身。女の裸身。
それは時折ひくり、ひくりと跳ねながら生きていることを示していて。

だが、目の前で、大きく痙攣したかと思えば両足を伸ばし、
ごぶりと、野太い蔦が”生み落とされ”る光景に出くわす。

「一応、生きてるみたいですわね……。」

蔦が蠢く部屋の片隅に転がる杖を一瞥する。
それは、豪奢な装飾が施された効能の高い杖。

貴族でなければ手が出せないようなものが無残にも体液を浴びて光沢を湛えていて。

”徒花”ジョー >  
彼女の言葉に、男は静かに首を振った。

「些細なことだ。此処であったことも、俺という存在もたまたまの通りすがりに過ぎん。
 それこそ、お前の言う世捨て人だ。古いものは、何れ忘れ去られる。」

それこそもう、当時の此の名を知る存在さえいない。
東の国には"諸行無常"なんて言葉もある。
どんな存在でも、何時か刻の流れとともに風化していく。
此れも所詮は、そんな一期一会の一端に過ぎない。
彼女の人生の些細な1ページ。たまに思い出すような、本当に些細な人生の一幕だ。
寧ろ、そうであるべきと望むからこそ男はそれを口にする。
寂しさなど無い。いつも遠巻きに何かを見る視線は、そういったものを見据えているのかもしれない。

「……誰にでも持てるし、誰にでも見れるものだ。
 漠然に生きるのではなく、年月をかけて学び、生きていけば、な。」

何かの達人になるのに30年かかるとしよう。
それをただ複数回繰り返せば、誰だって自分と同じになれる。
定命を外れて尚慢心もせず、ひたすらに研鑽と学びを繰り返している。
そうして、生きていく内に何もかもが自然と身についている。
不死であるの強みではあるが、至らずとも人も同じことができる。
しれっと語るのは、特別なことをしない"当たり前"だからこそ言っているのだろう。

さて、そうこうしている内に広がった空間へと出てきた。
無数の蔦が広がり、さながら"苗床"が幾つも絡まっている。
そのうちの一人である女性の下半身。あれが探し人らしい。
口にはいい難い状態であり、産み落とされる蔦を静かに男は見据える。

「食料にされてないだけ"運が良い"。母体にされているなら、生命の保証はされるからな。
 ……まぁ、生きているなら連れて帰るとしよう。体の方は薬でどうにか出来るだろう。」

「精神に関しては……本人次第だな。」

こうした遺跡、ダンジョンに迷い込んだ人間を助けることは幾つも経験している。
その大抵は体の欠損や損傷は生きていればどうとでもなるものだったりする。
問題は、こうした快楽や精神性につきまとう問題だ。
此ればかりは、当人の意思が"堕落"仕切らないことを祈るばかりだ。
こうした人間が堕落し、娼婦や奴隷に堕ちるのもまた、よくある話なのだろう。
とは言え、命あっての物種。一息吐く男は、何処か安心したように見える。

モルガナ > 「なら私は私の周りに貴方の名前を刻んで記しておきますわ。」

 ふと、そんなことを言う。ありていに言えば、気に入らない。
 己から見れば思慮深く、穏やかで、術の構築一つとっても流麗で。
 こう言う”人間”がいれば貴族になるべきなのだ。

 ……あの術の構築を見れば、長い年月を生きていることは想像の一つにあった。
 だから召し抱えることも、取り立てることもない。

 だが、有能である。
 だが、名が刻まれていない。

 古今東西あらゆる種族、あらゆる存在。あらゆる倫理観。
 どんなものであれ有能な存在が”名が記録に遺る”のが人の世の摂理なのだと。

 世を捨てたのは貴方だが、世が貴方を摂理から排するのは道理ではないのだと。

「年月と意志が両立するのはそれだけで中々難しいことですわよ。」

 道理ではないと思わせたのは、その光景を見たからなのだと。
 自分も出来たから誰にでも出来る。は傲慢であるのだ。

 やがて、目的地に至り、多くいる苗床の一つに近づく。
 その中でも、蔦は伸びて来る。苗床にするには上質な胎なのだろう。

 だが、隣に貴方がいるのもあってか、女騎士は音もなくサーベルを抜き、
 避けた蔦へ刃を突き立て縫い付ける。

 ……縫い付けた刃から、結晶が蔦に伝わり呑み込んでいく。
 それは半ばまで至り、砕けることもなく蔦を戒める。

 周辺の大地から精霊の力を吸い上げて行使する精霊魔術。
 貴族らしい簒奪、徴収を帯びる術で蔦を次々と釘づけにして。

 だが、それ以上の追撃はしない。
 無為に刺激しては相手の領域で不利になるだけ。
 あくまで自衛に留めながら、苗床に近づいていく。

 その内に、女騎士にも、蔦が向かなくなっていく。
 ……まるで、何かを模倣して気配を絶ったように。

「本人からすればたまったものではないのでしょうけれどね。
 せいぜい”巣に帰らないように”家の方には口止めしなくてはなりませんわね。」

 ゆっくりと、蔦を解いて、切断することなく苗床を引きずり出していく。
 ……見れば、女騎士も初心というわけではない。
 周囲の光景に充てられたように、落ち着かない様子ではあるが。

「……後は、出口まで向かうだけですわね。
 ジョー、貴方は来ませんの?」

 要救助者を外套で包み、抱き抱える。
 そのまま分かれても、今の気配遮断を見れば無事に外に出られるとは判断できるだろうか。

”徒花”ジョー >  
「…………。」

気にかけるというよりは、ああ言えばこう言う気概を感じる。
負けん気、というべきか。ただ静かに目を瞑り、自然と口元は緩んだ。

「……好きにしろ。俺に止める権利はない。」

彼女の行いに口を出すなんて、それこそおこがましい。
世捨て人である以上、今を生きる人々の行いこそ尊重すべきだ。
悪行であろうと善行であろうと、世を作るのは当人たちの他ならない。
時代の流浪者はただ、見守るのみ。
その負けん気に嬉しさと楽しさを覚えたから、男は自然と笑みをこぼしたのだろう。

「積み重ねる事は誰にでも出来る。
 ……それを続ける意志こそ、当人の努力次第だ。」

傲慢と思われようと、特別なことはしていない。
その過程で人を捨てる必要があったから捨てた。
その過程で学ぶ必要があったから相応の年月を掛けた。
彼女の言うことにも一理あるが、そこに特別な作法は何も無いのだ。
才覚による時短はあっても、進むべき道は同じなのだから。

さて、開いた翠に映るのは伸びた蔦を刈り取る姿。
何か事前に反応とか警戒とかはしないのか、と内心少し呆れた。
とは言え、精霊魔術に彼女の技量。必要最低限の損傷のみで苗床を救出した。
問題の蔦の方は……本体らしい気配が感じられない。遮断の術か。
周辺に気配探知の魔力を巡らせるも引っかからない。此方とことを荒立てる気はないようだ。
まぁ、そのほうが此方も安心はできる。とりあえずは一息だ。カンカン、と杖で地鳴らし。

「……本体が大人しく退いたようだが、思ったよりお前は考えなしだな。」

一応苦言は呈しておこう。
全力で蔦が"自衛"したらどうなっていたかわかっていたものじゃない。
やれやれ、とため息を付けば救出された彼女を一瞥する。
憶測通り、外傷はない。あとは彼女の意志次第だが、さて。

「意思を捻じ曲げる形でもいいなら、多少暗示・催眠の心得はあるが……。」

あまり褒められた施術ではない。最終手段だ。
切り取られた蔦の一部を拾い上げると、ローブの裏に回収する。
一応のサンプルだ。今後何かあった時、また来る時に研究しておけば役に立つ。
小さなことでも研究心は唆られるものだ。結局は、それの積み重ねが自身の力に繋がるのだから。
周辺を一瞥すれば、もう一度杖でかつん、と地を叩く。
"マーキング"、転送魔法の目印だ。

「出口まではついていくさ。帰り道に何かあったら、寝覚めが悪い。」

モルガナ >  敬意は示している。優れているのだから。
 だが世を捨てたのは貴方で、今の世を生きているのは自分。

 ならば今の世はどう選択するのか見せもする。若さ故なのかもしれないが当人に自覚もなく。

「それでは家に貴方の特徴から描きだした肖像画でも飾ることにしましょう。
 止める権利はないのでしょう?」

 煽っている、というより、そうしたいからそうする。悪意も意趣返しもない。
 あるがままに我がままに、今日の出会いを形に残すのだと。

 人は、知る権利がある。知る義務があるのだから。

「その誰でもできる努力をせず、あいつは天才だ、優れている、恵まれていると
 疎むのが人間と言うものですわ。
 高貴なる者の義務とは、結局のところ目を向けること、己を磨くこと、気高くあることを常に行い続ける。

 ……そう言う意味では、この国の貴族の大半は”誰でも続ける意志さえあればできる”ことを行わない惰弱ということですわ。」

 誰でもできる、そのことを否定はしない。困難だと言っても行えないとは言わない。
 ……貴族であるから、優秀な妹を抱えているから、当たり前のことをしている。
 だからこそ、他者を惰弱と切って捨てるのだと。

「あら、そんな無策に見えまして? 貴方よりよほど小さくはありますが、
 相応に探知はしていましてよ?」

 そう言うとコツコツと、足元を踏みしめる。
 探知をすれば、立ち回る際に踏みしめる度、微弱ながら地面にだけ魔力を伝播している。
 どうやらそれで事前に蔦の行動を、大地に根差すものの行動を掌握しているらしく。

 だがそれでも、蔦が一斉に動けば、苗床の仲間入りもありえただろう。

「本体は遠くの階層にいるみたいですわね。……繋がっている蔦の中に、
 もっと太く強いものの気配が奥にいますけど、いくら蔦を攻めても動きませんもの。

 多分、これ以上大元に近づかない限り、この苗床そのものを台無しにしなければ、
 動かないのかしら。」

 蔦への干渉を行って、ある程度の把握をしながら。
 だから、他の苗床は、平民は助けない。それでは元の木阿弥になる。
 場所だけは把握しているから、後々救助を向かわせることもできるが。

「それをすれば、また来ますわよこの人。懲りる必要もありますわ。
 それに、国を支える家柄の者に、これ以上対価なく頼るのも、ですわ。」

 蔦を回収して研究すれば、本来はヒュージアントの巣に根付き、
 攫わせた人を苗床にして孕ませる類。
 深層に本体が潜み、複数の部屋に苗床を分けて形成することで増殖もする生態も見えてくるだろうか。

「それで……、対価はいかがいたします? 持ち合わせはありますけれど、
 貴族の娘一人救出に関与していて、宝石をいくつかはあまりにも割に合わないでしょうに」

 出口へと向かいながら、そんなことを問うてみて。
 ……求められれば、胎で払うのも、と思ってしまっていて。

”徒花”ジョー >  
「……!?……誰と知らぬ人間の肖像画を飾った所で、意味があるとは思えないがな……。」

静かな表情も流石に驚きを見せた。
何?肖像画?随分とスケールの大きいことをいう。
冗談…ではない、本気の目だ。なんてことだ。
とは言え、事実止める権利はない。好きにすればいい。
とりあえず咳払いを軽くして気を取り直した。負けん気にも程があるだろう、全く。

「そういうものだと知っている。
 他人にどう思われようと興味はない。出来る奴は続けている。」

「……全てと愚かと断じるには早計だが、今の世を作ったのはそこにいる者達ではあるな。」

それこそ他人をどうこう気にするより、自らの研鑽に時間をかけるほうが有意義だ。
妬み、嫉み。感情として理解している。そういう人間もいることを知っている。
理解はしても、相手にするはずもない。だから此処に至っている。
結局はそういう人間は、それを尻目に登り続けたものなのだから。
浅ましいとは思うが、全てが愚かとは言わない。ただ、うんざりする世の中だ。
世直しに興味はないが、憂鬱な表情のまま、溜息を吐いた。

「それは失礼した。……まぁ、無事ならそれで良い。」

何かあれば助ける気だが、何か無いに越したことはない。
変に苗床が増えなければ十分だ。

「……そうか。まぁ、お前の目的が果たしたなら深追いする必要はないな。
 確かに大元を叩けば終わるかもしれないが、今はすべきことではない。」

特に最深部となれば、一筋縄では行くまい。
翠の両目が覗く足元の底の底。……誰かが望むのなら、何時か手を下す必要はあるかもしれない。

「その場合は断っておく。どうしようもなければ多少は応じるが……
 ……対価を求めるほど、懐に困っていない。ただの行きずりだ。」

「お前はお前の仕事を果たした、それだけのこと。」

金に困る生活をしているわけでもないし、女に飢えているわけもない。
此処であったことは始めに行った通り、なんでもない通りすがりだ。
表情一つ変えないまましれっと答えていれば、何れ出口へとたどり着くだろう。
後は彼女たちを見送り、気づけば男はいなくなっていた。

……後日、そこにいた数名の苗床が救出されたようだが、それはまた別の話だ。

ご案内:「無名遺跡」から”徒花”ジョーさんが去りました。
ご案内:「無名遺跡」からモルガナさんが去りました。