2024/04/22 のログ
■影時 > 「よもや既に死んでて……壁にめり込んでたら、嗤えねェや」
とりあえず清掃機能と呼ぶべきか。それとも清掃本能とでも称した方が良いのだろうか。
うーむと腕組み、少し考えて羽織の下の腰裏に右手を向ける。
腰裏に付いた雑嚢の右側から、短刀の柄が突き出している。紐巻が為されたその柄を掴み、刃を抜き出す。
白銀色をした肉厚片刃の短刀だ。だが、薄っすらと透けてみえる刃金は鋼鉄では成し得ない。
逆手で握る刃の効用は、触れることで速やかに表れる。こつん、と切先で壁を突いでみれば――、
「……うへぇ」
天井自体が僅かに光を持っているのが、今は災いした。僅かな光でも視界が通る我が身がちょっと恨めしい。
石壁に見えるのは、まさに擬態であると云わんばかりに壁面が戦慄し、たちまち肉色の生々しい色を呈し出す。
鎧の隙間を穿つに適したこの短刀は、触れた対象から魔力を急速に吸い上げ、循環を乱す働きを持つ。
水などが流れる複雑かつ精緻な流路に突き立てれば、そこに生じた陥没、穴の如く流動物を吸い上げ、不全に陥れる代物だ。
魔力や氣を吸い上げ、蓄える材質で作られた短刀の蓄積量の上限は試したことはない。
そんな刃が触れた一角以外、横目を遣って見える辺りの壁面や床、天井に変化がないのは――相当の魔力が全体に満ちているのだろう。
刃を引き戻せば、直ぐに肉色からつい先程までの表面に戻ってみせる辺りが、その証拠だろう。かなり手が込んでいそうだ。
例えば半端に死んでいて、目覚めたら壁に埋もれて尻だけ出していたとかだったら。実に笑えない。
■影時 > とは言え、何があるかどうかは――計り知れない。想像以上の危険地帯かもしれない。
壁面が生きている何かであった、という事例は暗記したギルドの資料を思い返す限り、皆無ではない。
隠し扉の類があるのかもしれないが、伝統的なともいうべき石壁よりも継ぎ目を探しづらいのが実に厄介である。
「下手に手で触れるより、金剛刃で引っかきつつ歩く方がまだマシそうだ。
あンましやる気があれだが、……生きてたら犯しても文句は云われねーよな……」
壁に手を付けながら歩くよりも、手にした得物で壁面を傷つけながら歩く方が恐らくは正しい。
そう判断するのは良いが、生物の臓腑の中にいるような心地と思えば――聊か物憂いのは否めない。
死体を見つけて持ち帰る方が良いのか。
それとも犯して文句を言われながら帰る方が、気が楽なのかどうか。
面倒臭さの性質が違いそうだ。そう思いながら探索を始めよう――。
ご案内:「無名遺跡」から影時さんが去りました。