2023/10/29 のログ
ご案内:「無名遺跡 入り口周辺」に”徒花”ジョーさんが現れました。
”徒花”ジョー >  
無名遺跡。
誰もその遺跡の存在も、名前も覚えてはいない。
ただ、迷宮(ダンジョン)となった今そこに挑む冒険者は後を絶たない。
腕試し、一攫千金、そこに迷宮(ダンジョン)があるから。行く理由など人それぞれだ。
成功と栄光を掴むものの裏に、失敗と転落に堕ちるものもいる。
そんな後者の連中の末路は言うまでもないだろう。死か、死ぬまで凌辱を受けるか。

ただ、時折運のいい連中もいる。
余程のお人好ししか自信家しか受けないような仕事。"救助"である。
二匹目のミイラに好き好んでなる連中はいない。全く持って割に合わない仕事ではある。

「……うんざりするな」

そんな仕事をわざわざ引き受けた男は、帰還と共にぼやいた。
目深に被ったローブに全身赤色に汚れた肌と服。
漂う生臭さが何があったかの凄惨さを物語る。
全て返り血ではあるが、一張羅が台無しだ。気分も憂鬱になるというもの。
その背には、一糸まとわぬ姿の男女が二人。

入り口で待機していた他の救護班の連中は"まさか戻ってくるとは"と言ってくる有様だ。
信頼できる傭兵団の連中に融通を効かせ、人員を割いてもらった連中だ。
やや乱暴に男女を地面へと転がした。女の方からは、全身の穴という穴からどろりと白濁とした体液が漏れた。

「悪いな、待たせた。女の方は随分と辱められたらしい。多分"いるぞ"。
 後で卵くだしでもなんでも飲ませてやるんだな。……男の方は……」

「……なんとか一命を取りとめた。俺の治癒魔法でどうにかしておいた。後の処置は頼んでいいか?」

おう!と、傭兵団の連中は気のいい返事をし、数人が容態を確認する。
自然のせせらぎに静かな入口周辺は、あっという間に人の喧騒に包まれた。

”徒花”ジョー >  
ふぅ、と一息。元々荒らす気はなかったが、相応に暴れてしまった。
改めて服に締め込んだぬめりとした感覚に眉をひそめた。

「臭いが残らなければいいがな……」

特にデスワームの体液は特別悪臭だ。
目深に被ったローブを下ろし、白髪を軽く揺らして救出した二人を見下ろす。
女の方は救出当時は魔物に犯されていた。それ以前にも散々ヤられた後だろう。
快楽に蕩け切り、焦点も定まらない瞳。前を後ろも痙攣し、体液を垂れ流すばかり。
随分と開発され、精神も摩耗しきっている。

「(体が元に戻っても、精神が戻るかは本人次第だな)」

なんでも、そういった後に日常生活に戻れず娼婦に堕ちる者も珍しくないらしい。
対象的に男の方は、気こそ失っていて綺麗なものだ。
不思議の傷ひとつもない。流石にこれには、傭兵連中も不思議そうにしていた。

「……俺はもう行く。後は任せた」

男の方を一瞥すれば、振り返ることなく歩き出す。
かつ、かつ。杖をついて再び進むは岩肌。整備されない砂利がからからと音を立てていく。

”徒花”ジョー >  
かつん、かつん。
岩道を踏み鳴らし、険しい山道を登り、下り。
ようやくと開けた場所に辿り着いたのは何かの跡地。
石畳…のようなものやへし折れた石柱。
確かにそこには何かがあった。九頭龍山脈の無数にある古代遺産の名残。
それらを包み隠し生い茂る植物と苔で、そこに何があったのかはわからない自然の平地。

「──────……。」

だが、ジョーにはつい昨日のように覚えている。
大きく積み上げられた石の"工房"。そこで引きこもる友人の一人。
人嫌いな男だったが、自然と馬があった。
昨日のことのように作業台に向かい、黙々と作業する彼の後ろ姿が幻視できる。

「…………」

そう、過去の話だ。
瞬きすれば寂れてしまった。
唯一そこに住み着いたような、苔むしたゴーレムを見上げていた。
最早完全に昨日を停止した過去の遺物だ。

”徒花”ジョー >  
「……友人の遺作。先に君に謝っておかなくてはいけない」

独白だ。それを聞くものは今の所誰もいない。

「君を直すつもりだったが、もう君のパーツはあそこにはない。
 ……正確には、俺が使ってしまった。人命を優先した」

「君の原動力は、もう二度と確保出来ない」

今は迷宮(ダンジョン)の奥地に存在する生命の石。
奇跡を起こす石と言われ、命を宿す希少な魔法石(マジックストーン)
このゴーレムにも使われていた過去の遺物だ。既にゴーレムの物は使い古されて機能はしない。

そう、ジョーは古い友人の遺作を治すつもりだった。
だが、迷宮(ダンジョン)で消えゆく命に優先して使った。
本来ならば魔物に食い散らかされ、絶命仕掛けていたあの男に。

「俺の自己満足かもしれないが、謝っておかねばならない。すまない」

返事なんて誰も返してくれるはずもない。
差っていってしまった者達が、答えてくれるはずもない。
ただただ、吹き抜ける風が生臭いローブと白髪を靡かせた。

”徒花”ジョー >  
「……またな」

また何時か、訪れるかはわからない。
かつての思い出がまた現代(いま)にとは夢見も良い所だ。
夢は何時か覚めるもの。例え恒久の刻を歩み続けることになっても
一度決めた以上、生きる(あゆみ)を止める事はしない。

静かに踵を返し、かつん、かつん、と、杖の音は遠ざかる。


……後日届いた、二人の冒険者は日常生活に復帰できた知らせがせめてもの手向けになるといいのだが……。

ご案内:「無名遺跡 入り口周辺」から”徒花”ジョーさんが去りました。