2023/10/13 のログ
影時 > 音は、ある。声は、ない。気配はおそらく、ない。
五感に加え、己は氣の動きに聡い。生命の動きによって生じるものを逃しはしない。
五感、並びに諸々の要素のうち一つ加えた第六感。それらが告げる認識は、この先に敵は恐らくないという判断。
故に行動する。ぬるり、と闇の中から僅かな光の下へ身を晒す。

「…………――――」

灯はなく、僅かに光を放つ天井の下、落ちる影と同じく生じた人影は近しい色合いを纏って立つ。
身の輪郭を曖昧にする柿渋色の羽織とその下に黒色の装束を纏う男の姿は、知るものが居れば忍びの者と呼んだだろうか。
そんな男が腰に差した刀の柄に左手を乗せつつ、顎を摩って先程まで潜んでいた場所を肩越しに見やる。
切り取ったかのように黒々としたものが、蟠る。
縦長の四角に石組で象りつつ、まるで扉のように闇が嵌まる光景は成る程。異様ではある。

「……ここは、成る程。小さくとも戦いはあった――か」

首に巻いた襟巻で口元を隠すように引き上げつつ、天井からの微光に照らされる中を見回す。
石壁で囲まれた部屋は如何にもな広間であり、其処に拡がる石畳に痕跡を見つけることが出来る。
あからさまな骨や武具の破片、などではない。例えば濃い色合いの液体を派手にぶちまけ、火で焙ったりすればこのようになるだろう。
詰まりは、何かがそこで何かが高熱で焼かれ、焼き付いた陰めいた跡を残した。
石畳のそこかしこに残る窪みや、斬撃が為したと思われる鋭い溝めいた傷跡を見れば、戦闘の可能性がさらに増す。

影時 > 見えた痕跡のそれぞれを辿り見るが、遺留品の類は見当たらない。
奥の方を見れば、どうやら次のフロアへの経路なのだろう。通路の入口と思しいものが見えてくる。

「……さっきの暗黒領域から出た直後の者を留め、または待ち受けられるようにする寸法かねこりゃ」

この場所の運用、設計思想をそう考え、そのように捉える。
もちろん、設計者は己が考えとは意図、違う意図を主張するかもしれない。
だが、光もない闇を長く歩かせたあとの解放感等は、ついつい浸りたくなる気持ちは光の有難みを知るものならでは、だろう。
そうとなれば、巡回が訪れる可能性もあり得る。
故に先に進む前に、通路の入口にちょっとした罠やら仕込みをしよう。
暫し待ち、引っ掛かれば仕留める。そうでなければ残したうえで先に進むとしよう。

羽織の下、腰裏の雑嚢に手を伸ばし、ロープや鉤、小槌を取り出しながら作業に掛かる。事が済めば、暗がりに紛れるように気配を滅して――。

ご案内:「無名遺跡」から影時さんが去りました。