2024/11/18 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 温泉」に影時さんが現れました。
影時 > 秋を過ぎ、冬の気配がいよいよ濃くなってきた九頭龍山脈。
色づいて落ちた葉が落ちれば、寒々しさが増してくる。
だが、この時期だからこそはっきりわかるものがある、と。山歩きに慣れた狩人や冒険者たちが囁く。
息を吐けば白くなる時期となれば、湯気もまた同じように明瞭に分かるようになる。
地下から湧き出た温泉があるのなら、湯気は湯気でも、もうもうと立ち上るそれはもう狼煙のよう。
そうした場所は大概温泉宿として、整備されたりするものだが……。

「……――っ、はー。沁みるねェ。
 何だろうなあこりゃ。昔湧いて、枯れたけれども、また湧いたような感じかね此れ」

丸々とした月が煌々と下界を照らす、九頭龍山脈の夜。
かつては小さな湯治場として整備されていたらしいが、その名残を廃墟めいた小屋に残す場所が在る。
枯れて長く放置されれば人も通わない。ただ荒れるばかり。
辛うじて夜露を凌げるかどうか、の如きぼろぼろの小屋を脱衣場代わりとして荷物を置き、並々と湛えられた湯に身を浸す。
雨水が溜まり、それが地熱で温められたのだろうか。それとも、また湧き出したのだろうか。
恐らくは後者と見る。盛況な時は何人も同時に浸かっていたかもしれない広さを、独占できる心持ちは気楽で良い。
目隠しに木塀で囲われていたのだろうが、嵐か動物か何かで倒され、最早見る影も無く。

「手酌で……ああいいや、面倒臭ぇ」

見られて困る――かどうかは、考えない。股間のものまで隠さぬ裸を湯に沈めつつ、後ろ手でごそごそとやる。
指が掴むものをぐい、と引き寄せてくるのは紐を首に巻いた陶製の酒瓶。
湯に浸せば燗付け代わりには、なるだろう。そう思いつつ、きゅぽと栓を抜いて。

影時 > 「雨じゃなくて良かった。……空が見えるのは、悪くねェ」

一応手が入っている形跡は見て取れたが、そもそもの作りとして天蓋の類は無かった。
往時は雨が降ったらそもそも入れない、ないし雨を浴びつつ温泉に浸かる――という感じでもあったのだろう。
この場合、良し悪しがある。今列挙したのが悪しの要素なら、声に出しながら思うのは良しの要素だ。
空が見えるのは、良い。温泉を囲う岩に背を預けつつ空を仰げば、直ぐに見えてくるものがある。
見惚れる位に丸く、好い月だ。刻限として少しずつ欠けだすだろうが、肴代わりにするには悪くない。

「……――ン、旨い。月と酒ときて、嗚呼。良い女もとくりゃあ云うことは無ぇんだが」

湯に暫し漬けていた瓶を持ち上げ、一口。二口。
穀物を醸した甘さのある酒精が喉を焼き、臓腑に落ちる味わいがとても良い。変な後味もない。
思わぬ所で見つけた温泉だ。酒肴代わりにできそうなものも手持ちにはあるが、温泉に浸かりながらというには余り向かない。
どうせならと冗句めかして零すが、吹き抜ける風の音は嗤っているのか。はたまた呆れているように響く。