2024/04/01 のログ
■天ツ鬼 >
思わぬ酒の席との巡り合わせ。
人の子と酒を囲むことも別段忌避感もない。
実際にはそれは種も何も、強者と弱者という区分しかないという見方なだけであるが。
「ふふ、良いのか?こんな鬼にそれを開けてしまって」
鼻孔を悦ばせる、甘い香り。
それだけでそのあたりの安酒との違いがよくわかるというもの。
「ところで手品か?魔法か、術か。便利なモノじゃの
子鬼を一蹴した程度では理解らぬであったがさてさて、それなりに腕に覚えもあろう」
ま、この国でなんやら生業にしようと思えば結果そうなる。
それはそれとして、刀を仕舞ったり酒を取り出して見せた様子を見逃しもしない。
酒だけでなく、強者に対する嗅覚も雌鬼は抜群である。
酒と、今宵出会った相手その双方に興味がふつふつと湧いてくる。
■影時 > 「逆だ、逆。
良い酒こそ誰かに振る舞うもんだ。鬼に振る舞い酒というのは初めてで少々心許ないがね」
酒肴は持ち合わせがないが、良いと思った酒は都度買い求めて雑嚢の中に放り込んでいる。
正しくは、雑嚢の先に繋がっている倉庫兼二匹の隠れ家の中に、だ。
竜が寝転べるほどの内容積は清貧を心掛けている身ではなくとも、多く余る。余ったスペースに酒瓶や甕を放り込んでもなお余る。
一晩で全部飲み干せる気はしないが、どうだろうか。呑ん兵衛同士がここに二人いたとする場合、心許なさはあるが。
「ン?ああ。俺の雇い主に、鞄に魔法をかけてもらっててな。宛がって貰った倉庫に繋がっている。
……そうだなあ。色々やっているし、やってきた。居場所にも持て余し過ぎる位に」
鞄にかけられた仕掛けと手妻は、魔法の一言で十分に説明できる。仕掛けのロジックはその産物に他ならない。
大掛かりとも云えるものを預けられる位には信用があり、信頼の所以となる力量もある。
それは、鬼相手に長物を仕舞っても平然としていられる位とも云えるだろう。肩上の二匹が降りずとも、怯えすぎないのもそのためか。
云いつつ、甕の中身を白い焼き物の盃に注ぐ。二杯注げば、そのうちの片方を相手の前に置こう。
「俺は影時。で、こっちはスクナマル、あっちはヒテンマルと云う。お前さんは?」
名乗りつつ、肩上の二匹を指さしては自分の分の盃を取り上げよう。相互に名乗り終えれば盃を掲げる心づもりで。
■天ツ鬼 >
「振る舞い酒、か…」
確かに旨い酒は飲む相手が欲しくなるものではある。
以前出会った酔いどれた美鬼のことを思い出しつつ、前に置かれた盃を拾い上げて。
そして問いかけの言葉を聞けばなんともまぁ便利なものと感嘆する。
「なんとそのような魔法が、何かと物が集まり嵩張る人の子には持って来いではないか」
以前踏み入った山賊の塒などにも倉庫のようなものがあった。
ああいった物置からいくらもどこでも物が調達できるとは。
その分野にとんと縁のない雌鬼から見ればとんでもない魔法である。
「影時、ふむ。で、スクナマルにヒテンマル…か。
呵々、上等な名をもらっておるのだのう。
───我は、そうじゃな。天ツ鬼とでも呼ぶが良い。
かつてシェンヤンの山におった頃には里の人間からそう呼ばれておったわ」
名乗りを返すと、どれ…とあわせるように盃を掲げて。
■影時 > 「振る舞える相手が少ねぇのが、玉に瑕――でもねぇか。玉と云えるツラじゃねえわな、我ながら」
花見酒、月見酒も決して悪くないが、誰かと酒を酌み交わすのも楽しい。
何故なら、明媚な事物を肴とするのとは違う味わいがあるからだ。
だが、付き合わせる知己が少ないのは致し方ない。受け持ちの生徒、弟子に無理に呑ませるわけにもいかない。
冗談めかして言えば、肩上の二匹がようやく人心地ついたのだろうか。何か強請るように見上げてくる。
「それもあるが、こいつらを連れて歩く時の隠れ家も欲しかったのもあってな?
瘴気が満ちた中とかに遭ったら、ぽいと放り込んでおくのさ。危なくねえように」
火薬やら毒薬など、忍者らしく扱う品々をいい加減宿に置いておくには危なかったのも要因だが、他にもある。
魔法的な保護をされているとはいえ、現実の倉庫と繋がっているのは生物の出入りもあるからだ。
無限に物が入る魔法の鞄ではないのは、収容できるのは無生物のみ――等と言った縛りがしばしば課されるからだろう。
雑嚢に手を突っ込み、一枚の深皿と水入りの瓶を続けざまに取り出す。地面に置いた皿に水を貯めれば、二匹が降りて皿に寄る。
「俺の子分だからなァ。名無しのままにしておくのも困る。
アマツキ、か。――ってことはお前さん、シェンヤンの出か。そりゃあ俺も知らねえわなあ」
上等だってさ、と。二匹に声を掛ければ、我がことのように耳と髭を揺らし、嬉し気に尻尾を立ててみせる。
名と生まれの地を聞けば、まだ未踏の国に興味深そうに言葉を返しながら盃を掲げよう。
そのうえで口に運べば、一気にくいとやってしまえる。舌をくすぐる味わいは甘く、喉を灼く強さが胃の腑まで落ちる。
酒を呑めない二匹は喉が渇いていたのだろう。酒の代わりに、飼い主が注いだ水をぴちゃちゃちゃと舐める。
■天ツ鬼 >
「ふぅむ。そちの二匹が旅の連れ、と。子分、のう」
特に非常用の食料というわけでもなかったか、と嗤い、酒を煽る。
喉越し強く、熱を飲み込むような感覚。ちびりちびりと呑むのも良いが、グッと往くのも乙なものか。
「くは…、んん、甘露じゃ~。
思いつきで洞窟なぞ入ってみるもんじゃな~。
こんなにも旨い酒が呑める」
肴といえるものことないが、それはそれで話を肴にすれば良い。
戦狂いの雌鬼であるが、別に言葉を交わすことを嫌うわけでもない。
面倒な、と思った時には…まぁ、身体が動いたりはするのだが。
「うむ。昨今は此方の国のほうが色々と騒がせておるようじゃからな。
物見遊山というようなものでもないが、まぁふらりとやってきて遊んでおるわ。
我を負かすようなツワモノもあちらこちらにおるしな」
酒の旨さも手伝ってか、上機嫌に語る雌鬼。
己の負けを愉しげに語るなぞは、あまり鬼らしくもないかもしれないが。
■影時 > 「……取って食うやり方を知らねえワケじゃないが、よう。
故郷の森から俺に引っ付いて出てきた、冒険心ある奴らだぞ? 喰うわけにもいかねぇだろうよ」
そんな料理あったな、と。ぽつと零せば、あるの!?とばかりに水を飲む二匹が顔を起こす。
それを見下ろし、しねぇよと首を振るのまでは日常的なやり取りとも云える。
自分の盃が空になれば柄杓を取って注ぎ、向こうの盃が乾いたと見れば都度注いでやろう。
酒の呑み方は色々だが、今回用意した酒は大振りのジョッキで呷り呑むにはきっと向かない。惜しむように呑むのが程よい。
「それを言っちゃあ、俺もだ。
何か迷宮でも見つかれば面白いとは思ってたが、まっさかこんな風に呑めるとは思ってなかった。
鬼は鬼でも、美鬼――か。美女と呑めるというのはさらに良い」
言葉は選んだつもりだが、気を悪くしたらすまんな、と。そう断りながら改めてしげしげと相手を見遣る。
襤褸姿こそ玉に瑕と思えるくらいに、色々整っているのは惜しさを覚える程に良い。
酒席の戯言と流してくれれば良い。美しく、なおかつ戦えるであろうというのは、人目しただけで直ぐに感じられる。
気が合えば、直ぐにでも牙刃を合わせることになるかもしれない。一触即発じみた危うさもまた、酒を進めるに足る。
「ここに足を止めて気づけば長いが、どうやらそうらしい。
……嗚呼、ここらの街道を荒してるとか何とかってのは、アマツキ。お前さんかよ。
負かすような、ねぇ。気になるところではあるな」
負けを楽しげに語る所以は、何だろうか。敗北を糧に再起を図る、復讐を計るのかどうか。或いはか。
その内心を計りつつ、盃を傾ける。そうしながら思い出すのは冒険者ギルドで聞く、賞金首の噂だ。
街道に出没する賊が襲われ、生き残りつつも捕縛された者たちが嘯く話を統合するに、ヒトガタの何かに襲われたといった証言がある。
下手人は恐らく、今酒を酌み交わす相手だろう。
そうと考えれば、気になるものはある。己は勝ちうるか否か。その際に賞金云々は考えない。余分が過ぎる。
■天ツ鬼 >
「呵々。それでは子分というよりも仲間じゃな」
誂い過ぎであったならすまんな、と小さく笑みを零し。再び酒を煽る。
美味、喉から直接出るような呼気を零し、感嘆。
人里の酒造りはやはり素晴らしい。
「美女か。呵々、別にそう言われるのが厭ではないがな。
くく、美しいという言葉よりはやはり強いと評されるほうが心躍る。
……ふむ。街道荒らしか」
続いたのは、やや胡乱な言葉。
しかし特段、空気が締まるというようなこともない。
眼の前の雌鬼は、ただただ話を肴に酒を楽しんでいるように見えることだろう。
街道にて商団などを襲った賊を更に遅い、利を得る。
肉や菜などは自然から得られるが酒など嗜好品はそうもいかない故の、鬼の行動の一つ。
逆に言えば、それが成り立っていたからこそ、人里まで人間を喰らいに降りていないとも言えるのだが。
「あの辺り、元々賊だのなんだのが跋扈しておるからの、酒などを手に入れるには丁度良いんじゃ。
我が荒らしとるように言われるのはやや心外じゃが、まぁそれもよかろう」
人里から疎まれるのもまた鬼らしく在りて良い、と。
言葉を続け、残った酒をぐっと一気に煽り飲み干して。
「くふぅ…、まぁ…世は広いということよ。
悪仙、魔王だけでなく只人にしか見えぬような者ですら、鬼を屠り龍を殺す。
どのような出逢いがあるから理解らぬ故に、面白い。
今日も影時、お主に出逢い美味な酒をこうしていただけておるしな~♪」
酒には強く底なしである、ただの酔いはする。
■影時 > 「仲間、ねぇ。……そういう言い方もありか。
流石に戦えとは云えねェから、小間使いみてぇなコトさせたりするから子分と呼んでンだよなあ」
こいつらが気が向いたときにだが、と。いいや、と首を振りながら言葉を挟み、考えるように二匹を見る。
どう呼ぶかは自分次第だが、慕っている様な素振りは子分のようであり、旅の道連れ的には仲間のようでもある。
下僕とは呼ばないのは外面の面もあるが、人間のようにできないことが余りにも多い。
だが、それでも愛嬌を振りまく以外に、手紙を運んだり癒し役をやってみせるのはただの人間や動物には出来ない。
凄い?凄い?と水を飲む動きを止め、顔を挙げて胸を張ってみせる二匹に肩を竦めて。
「こう云うと、あれか。
お近づきになりたいどころか、一丁戦り合ってみたいと思う美女っていうのもかなり稀有と思うぞ?」
醜女という形容は明らかに合うまい。美的センスを問われると我ながら胡乱だが、今話す雌鬼は美しい方に入るだろう。
鬼というのも色々あり、その全てを知悉しているわけではない。
だが、美しさと暴力というのは並び立つものである。鬼の中に貴人、尊い血筋があるのなら、その類の出か?とも思う程に。
そんな出であると仮定して、続く言葉が語る通りの行い、在り方というのは――やはり人間と違うのだろう。
「やっぱりお前さんの仕業かよ。いやまぁ、そうやって得んのは否定はしねぇがな。
俺もここに来てから、素寒貧な時はそうやってたもんだ。
悪党に対する悪党というのも、おかしな話だがね。討伐の依頼なんぞ出てた気がするが、どうせ戦るなら考えなしにやる方が良い」
どうやら噂は間違いではない、と。言質というには心許ないが証言としては大きい。
一先ずは心の中に留めておこう。自分から他者に漏らさなければ、其れで済む。また、この雌鬼と先に戦った誰かから出ている可能性もある。
何せ、行動を咎め立てする所以が己が心中には薄い。忌避が薄くなるくらいに悪党はつくづく人権がない。
翻って言うなら、反撃どころか逆に殺される可能性も勿論ある。其れでみっともなく死んだ場合は?仕方がない。それまでの人生だ。
「全くもってそうだな。
……魔王は聞いたが、仙人が向こうには居るのかよ。こんな処でこういう話をするのだって、想像しなかったくらいだ。
ほら、盃乾いてンぞ。この酒は一度封を開けたら、日が立つにつれて悪くなっちまう」
龍を殺すと聞けば、先に雑嚢に仕舞った刀の銘を思い出す。あれもまた屠龍の業を持つ刀である。
が、それ以上に仙人という句に気になるものがある。ほう、と興味の息を零しつつ酒を進め、薦めよう。
底なしはこちらも同じだが、酔いはどうだろう。悪酔いする類ではないが、過ぎればまだ余裕があるが己とて酔いはする。
未開封の甕は残しておいて良いにしても、一度開けたものはせめて飲み切りたい。
■天ツ鬼 >
──淡い亜麻色の頭髪、整った顔立ち。
美女である…と認識されることも少ないわけではない、が。
それ以上に、女性としての肢体のシルエットこそ残し、豊満に実る部位もあれど…。
折り重ねられた鎧のような腹、一薙ぎで大木をへし折る蹴りすら放ちそうな脚と。
つまり膂力の要となる部分は完全なる戦闘特化の様相であり、十二分に美女というイメージを打ち消すことが出来る。
儚さとか、恥じらいとか、可愛げとかが要するにない。
戰場で見れば無論闘う女性としての美しさは際立つだろうが、それも立ち姿のみである。
眼の前の男、影時がまだ見ぬ雌鬼の姿。
血風を吹き曝し、獰猛な巨獣の如き破壊を己が肉体のみで繰り返す様は…美と呼べるのか否か。
無論、前述の通り言われて悪い気まではしないのであるが。
どうしても、どうしても鬼はその後に続いた言葉の方に惹かれてしまうのだ…!
「ほう、戦り合うとな?」
うずっ…。
一目見てわかるくらいの勢いで食いつきそうになっている…。
乗り出した、その手にもった盃に酒が注がれてゆく……。
…闘争も無論、しかしこの美酒はまことに味合わねば勿体がない……悩む鬼である。
「呵々、討伐依頼?それは良い!
王国の強者達が我を征伐しに現れてくれるのじゃろう?
…ああ、まぁそのためにわざわざ不要な行いまではせぬがな?うむ…」
ちょっとテンションがあがってしまった自分を収めるように、酒をちびり。美味ッッ。
「おるぞおるぞ、よくわからん術など使う者どもがの。一度行ってみるがええ。
…なんと、この旨さは一過性のものか…では飲み切ってしまわねばいかんのう…。
今日のところは一つ飲み勝負とするか!」
男の考える、人間さながら、されど忍の有り様が見る鬼の行いとその評判。
その心中を察することなど、頭の悪いこの雌鬼にはさっぱりできぬことではあったが。
■影時 > 美しき顔と亜麻色の髪。鬼らしい双角を抜きにしても、いずれも美女と呼ぶに足りるもの。
さて、そんな顔から下はどうだろうか。
ついつい目が向く豊満な双実は、その下の剣呑さを抜きにしても、むしゃぶりつきたくなる欲を湧き立たせてくれる。
そう。剣呑だ。襤褸の合間から見える腹筋と脚のありようは、魔法の鎧を纏っていても圧し折りそうとも思える。
鬼と聞けば醜い悪鬼を連想する。イメージする。しかし、暴力にこんな奇麗な貌や肉が付いてていいものか?
――良いのだ。
それもまた、暴力である。美と暴力が並び立つものがあるなら、一戦交えてみるのは実に興がそそる。
「然り」
お、興味があるか。あからさまなくらいの喰い付きぶりに、にぃと唇を釣り上げつつ酒を注ぐ。
酒を取るか。闘争を取るか。分かり易い懊悩を見遣るのは愉しい。
呑むのも良い。戦えるのも良い。成る程、これは得難いものである。
愉しそうしてるなぁ、と喉を潤し、もさもさと毛繕いを始める小動物が我関せずとばかりに息を吐く。
「街道の安全を図りたい……なンてお題目だったか、確か。
まぁ、今まで通りに賊を狩ってりゃいいだろうよ。
どうしてもとなら、商人の隊商を襲えば直ぐだろうが、あンまり勧めはしねえな。俺と戦る前にどうにかなっちまいそうだ」
額は覚えていないが、討伐依頼の内容はそんな題目であったか。
湧き立つような雌鬼が酒を呷り、心を鎮める。そういう気にさせる酒は意外と儚いものだ。
「そうしてみるか。幸い、向こうの人種は俺みてぇな見た目らしい。なら、紛れるにも困らんだろう。
良いとも。――そうだな。置いた甕、全部干してみるか? なンてな!」
旅の候補に入れよう。気になれば気ままに足を向けるのが己の流儀、やり方だ。
さて、そんな言葉を聞けば面白い、とばかりに破顔し、注げとばかりに盃を向こうに向けよう。
妙なやる気を見せだした親分を見れば、二匹がふわわと欠伸をして、もそもそと身震いする。
雌鬼に挨拶するように前足を揃え、尻尾をそれぞれ立てて見せて、親分の羽織の中へと潜り込んでゆく。
雑嚢の向こうの隠れ家に入りたいのだろう。鞄の蓋を開いて遣れば、潜ってゆく動きを感じる。
■天ツ鬼 >
互い、比武に興じるに吝かではない。
そんな空気はおそらく互いに感じ取っている、筈。
されど本日の闘争の場は、余りにも旨い酒。
この酒を放り出し殴り合うては罰が当たろう。
「ふむぅ、商人どもはのぉ…我に向かってこぬからなぁ……。
そこはほれ、賊どもは一丁前に武装もしておるし気性も荒い。
逃げる背を穿つばかりでは楽しみも何もないではないか」
ただの狩り、と言ってしまえばそれまでだが…。
この雌鬼は肉を得るにも強力な魔獣を選ぶ筋金入り。
それで飢えれば……いよいよ人喰いに奔るのやもしれないが。
「お…よぉし!言うたな?!
呵々々…我は並の蟒蛇ではないぞ♪」
快い返事、まさに快諾。
飲み勝負とあらば、負けられまい。
負けを楽しむこともできれど、勝つか負けるかで言えば当然勝ちを求める。
羽織の中へと去る、目の前の男の仲間を見送れば、互いに互いの盃をなみなみと満たす。
じっくり味わう酒にはじまり、さてさて残りの酒も楽しみだと嗤う。
そんな飲み比べ、果たして酒が尽きるが先か、どちらかがぶっ倒れるのが先か…。
結果を知るのは、倒れなかったどちらかか、あるいは…二匹のお供が結末を見ることになるのか。
なににせよ、鬼と忍の酒勝負は九頭龍山の奥深く、口火を切ったのだった───
■影時 > 殴り合い、力比べ含め、刃を抜くかどうかは最終的にその気になるか、にかかる。
興が乗ればお互いに“その気”となれるのは疑いない。確信がある。
が、今はその代わりとなるのは酒だ。出した酒は開封したら、日を経ると風味が落ちる。それを惜しむ。
「そりゃぁ歯向かっても金になるどころか、損なうと分かってりゃ一目散だろうよ。
まだ多少は歯応えがあるなら、賊の手合いだな。群れていると面倒だが、それはそれで遣りようもあるモンだ」
商人で歯向かう、抵抗するのは護衛がない限り相当稀有な類だろう。それこそ名の知れた元冒険者、でもない限りは。
楽しみを見出したいならまだ賊の方が良い、というのは理解も出来る。
訓練、鍛錬ばかりでは技量を保つ以外にならないと思えば、まだ実戦に興じる方が旨味がある。
糧を得るための方法論の違いとしても、悪党の活用法は通じるものがある――のかもしれない。
「おうよ、云った。云ったぞ。二言は無ぇとも。
――さあ注げ注げ。俺もそうそうはへたばらねェぞう」
そもそも、干せるだけ干すような心づもりで甕酒のストックを出したのだ。半端に死蔵するなら、呑み切るに限る。
死んで呑めるものが呑めないなら、生きているうちに呑み切ってこそ酒も本懐だろう。
眠気を催した子分を見送り終えれば、お互いに盃を満たす。
コトバを重ねながら呑むなら、きっと幾らでも飲めよう。今日はそんな日だろう。
一眠りして、外に出たげな二匹が親分に出してもらった時に見る顔は、勝利か敗北の顔か――それは明日の朝日のみぞ知る。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」から天ツ鬼さんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」から影時さんが去りました。