2024/03/31 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」に影時さんが現れました。
■影時 > ――何の依頼も仕事も抱えず、請けずに出歩く。
他者もそうかどうかは分からない。個々人にもよるだろう。何かの事情を背負っているかどうかすらも。
だが、思い立ったが吉日という。心の起こりが背を押すなら、身支度は少なめに出かけてみるのもきっと悪くない。
「……そーゆー時に限って、面っ、倒ぅ、なのが居たりするモンなんだよなあ」
険しい山々が連なり、麓に通る街道。山賊街道と綽名される街道から外れた山の中に、声が響く。
寒さのゆるみに少しずつ緑が濃くなる中、その色に溶け込むような色合いを纏う男が嘯き、大きく肩を上下させる。
遠く遠く、聞こえてくる怒声や罵声は全力疾走で撒いてきた山賊たちのそれ。
何も守るものも運ぶものもなく、単身であれば逃走するのは実に容易い。殺さなかったのは単に。
「花でも見に行こうかと思ってたのに……殺生な気分じゃねェんだよ、今日はよう」
気分の問題でしかない。悪党は鏖殺してもいい風潮は否定する気にならないが、今日は良い天気だ。血の雨を降らせるのは憚られる。
空が晴れ、木々の合間から差し込む光は暖かく。心身を緩めるには程よい陽気が満ちてくる。
なァ?と相槌を求めるように肩の辺りに目を遣れば、もそもそと首に巻いた襟巻の中から出てくる獣がある。
茶黒の毛玉めいたシマリスとモモンガだ。襟巻の中か肩上、或いは頭上を定位置にした二匹が一声鳴くような仕草をして、身を伸ばす。
春先になってくれば、出歩きたくなる衝動は飼い主とどうやら同じらしい。
何の目的も用事もなく、出歩いているわけではない。
帰りには春先の山菜でも集めるつもりだが、言葉通りでもある。物騒な綽名がついた地域だが、風光明媚な処が無いわけではない。
この時期に、奇麗な花を咲かせる場所があるという。聞けば気にもなる。気になれば足を向けるのが流儀となれば尚の事。
■影時 > 訊いた噂話には特段裏取りも、下調べもしていない。ただ、勘に任せるだけだ。
見つからなかったら? その時は笑って王都に戻るだけ。
冒険の先に成功が確約されているものか。成否は賽の目に一喜一憂するようなもの。規模の大小に関係なく、志に関わりもない。
「沢があるな。……遡ってみるか」
周囲の植生に気を配りつつ、山の斜面を歩く。見かける葉に雫が溜まっているのは朝露が残っている訳ではあるまい。
恐らく、少し前に雨が通ったのだろう。足先に感じる緩んだ土の様子もそれが原因だろうか。
肩上の二匹に降りるなよ、と声を掛けながら進んでゆけば、耳朶を震わせる僅かな水の音がある。
辿り進めば見えてくる奇麗な水の流れを確かめ、進路を定める。
術を使って視点を適当な樹上やら空中に揚げても良いが、それでは趣がない。仕事ではないのだ。きっちりかっちり遣る必要はない。
ただ、在りそうな方角の目星をつけながら、山中を進む。進んでいるうちに見えてくるのは
「……おお」
泉だ。斜面の一角が陥没したのだろうか。窪んだ処に水が湧き、溜まって出来たのだろう。
先程見えた沢は、泉から零れたものか同じ水源を源にしているらしく、非常に澄んだ水が泉に湛えられている。
その水面にひとつ、ふたつ散るのは花の色。顔を挙げれば見えてくるのは、淡い桃色や紅色の花を咲かせた木々だ。
足を運んだのは少々気が早かったのだろう。満開と云うには慎ましい咲きぶりだが、腰を据えて眺めるには実に丁度いい。
■影時 > 「なるほど、多分――ここがそうかね」
噂話には尾ひれがつく。端折られることもあり得る。だが、恐らくはここで間違いはないのだろう。
少なくとも一休みできそうな地勢であり、奇麗な水が沸いている。花も咲いていれば気分も上がる、というものだ。
差し込む木漏れ日に水が照らされ、きらきらと輝く。
澄んだ水の清らかさは水中に沈み、埋没した枝や枯れ木が見えてくる。より目を凝らせば深そうにも思える。
水源と思われる地下水脈の辺りまで潜れるのだろうか? まさかね、と思いながら。
「……行けそうだったら行ってみたくなるのも、俺の悪い癖だろうが、と」
未発見の迷宮、洞窟の入口がもしかしたら在るのかもしれないが、本腰入れて調べるには準備が要る。
そういうつもりで来たワケじゃないだろうに、と。内心で苦笑しながら辺りを見回し、見出した手頃な岩の上に座す。
日差しのお陰で乾いている岩は、椅子代わりにするに程よい。そうして腰裏に手を遣り、羽織の下に隠れた雑嚢の蓋を開けよう。
にゅるり、という音が付くような勢いで取り出すのは、一抱えもある甕と柄杓、小さな盃だ。
コンパクトな雑嚢に収まるには大きく、重々しい甕の中身は他でもない。酒に他ならない。
「そんじゃ、一杯やるかね」
甕の蓋をずらし、柄杓で掬った透明な酒を盃に注ぎ、顔を挙げる。見えてくる花の色に目を細め、盃を掲げて口に運ぶ。
真昼間から呑む酒というのも、偶には悪くないものが。道連れが居れば尚善かったか。
否、とばかりに前足で頬をせっついてくる二匹を見れば、は、と笑って羽織の物入を漁ろう。
■影時 > 盃を膝上に置き、取り出す小袋の中身は既に殻を割っておいた胡桃だ。
小動物二匹から見れば、抱え持つ位の大きさのそれを渡してゆけば、つぶらな瞳を輝かせて受け取ってゆく。
直ぐに肩で上がり出す咀嚼音を間近で聞きつつ、盃に酒を注ぐ。
「もうちょっと咲いてたらとは思うが、贅沢だよなぁ。誰かやっぱり連れてくりゃ良かったか」
何が贅沢か。明媚な場所で呑むのがだ。持ち込んだ酒は安くないが、いい場所を独り占めするような心地は実に贅沢だ。
とはいえ、誰か連れてくれば良かったかという思いもある。
一人旅は気楽ではあるが、発見を共有できるような旅と言うのも決して悪くない。惜しさというのはあるものだ。そう思いながら杯を重ね――。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」から影時さんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」に天ツ鬼さんが現れました。
■天ツ鬼 >
九頭龍山脈にいくつか点在する自然洞窟。
そのうちの一つ、随分と長く、深く、地下にまで伸びているだろう洞穴から。
人のものではない、金切声のような悲鳴が響き、消える。
「呵々。なかなか良さげじゃな。今日から新しい我の塒とさせてもらうとするか♪」
尋常ならざる握力で首を締め折られた小鬼の遺骸を両手に、洞穴から顔を出し崖から放り投げる。
ゴブリンどもの巣穴となっていた穴ぐら。
やってきたのは討伐しにきた冒険者ではなく、良さげな洞窟であると目をつけた一匹の雌鬼。
先に住んでいた者共には申し訳ないがこれも弱肉強食である。
「さて…奥へと逃げた子鬼もいくらかおったか…」
なかなかに深そうな洞窟、更に先の住人どもを放逐すべく、鬼は再び洞穴に足を踏み入れ、子鬼どもが逃げ込んだだろう奥を目指す。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」に影時さんが現れました。
■影時 > ――好奇心が騒いだのだ。故に仕方がない。好奇心は抜け忍を殺す。
昼間に一人花見酒を重ね、好奇心と隣り合わせの冒険心に駆られ駆られて辿るは水脈。
この手の探索は嫌いではない。寧ろ得意なのが大変宜しくない。
水脈に繋がっていると思しい洞窟を探し当て、ほどほどに潜って戻るつもりでいたらそれが大変まずかった。
何よりも誤算は、一つ。思いのほかに深く、長かったのだ。
水脈が流れる経路の一部でもあった洞窟に行き着き、地上を目指して彷徨う中で――。
「……――ふむ?」
地上に向かっていると思われるルートを辿る先、前方に甲高い悲鳴めいた鳴き声を聞き取る。
ふと足を止め、闇に慣れた目を前方に遣れば見えてくるのは数体の子鬼たち。
明かりでも焚いて見るまでもない。鳴き声、足音、臭い、それらを統合すればゴブリンの類であろうというのは、直ぐに分かる。
そして、それらの対処もまたすぐに定まる。
「悪く思うな」
声の主の腰より奔る白刃が闇の中で数度閃き、微かな音と共に再び戻る。絶える悲鳴、倒れたような物音。そして血臭。
ゴブリンたちが逃げる要因が後門のなんたらとすれば、声の主は前門の虎ならぬニンジャだ。
冒険者の道理として屠るべきものを前とするなら、切って捨てるが道理でもあり合理でもある。
溜息交じりに言葉を零しつつ、先に進めば次第に見えてくるかもしれない。向こうには薄闇に紛れた男のような影が。
■天ツ鬼 >
「ぬ…?」
奥へ奥へと進めば、聞こえ来るはせせらぐ水の音…に混じった、子鬼達の鳴き声。
そしてそれらが絶えると……香るは連中の血の匂い。
さて、奥底は水脈だろう。
となれば奥は相当に深い、妙な怪物でも住まっていたか、と。
沸き立つ高揚を表情に滲ませ、碧色に洞窟を照らす鬼火をふわりと創り出す。
が…洞窟の闇、向かう側から現れたのは怪物の影、ではなく……。
「人か…?」
首を傾げる。子鬼の住まっていた洞窟の奥から人間らしきモノが現れるとは。
奥に逃げた連中の声が潰えたのは、アレがやったか…とも。
白髪を照り映えさせた雌鬼は爛々とした翠眼を向け、足を止める。
■影時 > この状況で幾つか思うことがある。
子鬼たちは己を見て、認識して向かってきていたのではない。感じ取った気配も総合すれば逃亡中だったのであろう。
隠形の技には慣れていても、不意の事態に万事隠れてやり過ごせるとは限らない。
まして、生かしておいたところで碌なことにもならない要因であるなら、斬って捨てるのは正しい。
何故ならば――子鬼が逃げるような何かがこの先にあると、したら。
そう考えれば、これもまた隠れてやり過ごすのは難しいと考えるべきであろう。
「!」
天井から滴った地下水や、水脈に潜っていたお陰で濡れたままの襟巻の中で居心地悪げにもぞつく気配と共にそれを見る。
碧色の火は油の灯火ではありえない。煤交じりの光よりは強く明瞭で、同時に幽玄でもある。
これはやはり、隠れてやり過ごすのは難しいであろうと。そう判断しよう。
「こいつはぁ、驚いたな。……鬼、か?お前さん」
明かりであろう鬼火の光の中、一歩、二歩と。進んでその姿を露そう。
そうすると左腰に刀を差し、羽織に袖を通した男の姿が光の中で明瞭となる。胴と袖から出た腕に見える鈍色は防具によるもの。
首に巻いた襟巻は水気を含んでいるお陰で重々しく垂れているが、その中から顔を出すものがある。
襟巻の中から、男の左右の肩で顔を出す二匹の小さな獣がおっかなびっくりに見る先は――人のように見えて、人ではない。
何よりも異形の証と云うべき双角をもつものとは、鬼と言わずして何と呼ぶべきか。
■天ツ鬼 >
眼の前に現れた人影。
あまり眼になじみのない装いである。
シェンヤンのものに似るが、どこか違う。
「ふむぅ、貴様の知る鬼と同じモノかは知らんが、まぁそう呼ばれるな」
応えながら、すんと鼻を鳴らす。
漂っていた血の匂いは、間違いなく男がやってきた方向からのもの。
「逃げた子鬼どもを追ってきたが、貴様が潰したか。
しかし、なぜ人の子がこのような洞穴の奥におる?
───此処は人喰い鬼の塒ぞ」
ちょっと前までは子鬼の巣だったが、先住民の壊滅を以って今しがたそういうことになった。
牙を覗かせ口角をあげてみせる雌鬼は、そうこともなげに口にして。
■影時 > 羽織の下は忍び装束と十把一絡げに呼ぶが、制式、正調と呼べるものは無い。
野良着同然のものを、戦えるように仕立たようなものであるから、他所の人間が知りようもない。
まして、マグメール王国のスタイルや魔族の国で見つけたものを寄せ集め、取り入れていれば尚のこと。
「――いやァ、こっちで見るとは思わなかった類と遭ったんでね。ちょっと驚いている」
襟巻に半身を突っ込んでいる毛玉のような小動物からすれば、初見には違いない。
もそもそと身を乗り出し、尾っぽまで身体を出して好奇心ありありに見る風情を横目にしつつ、肩を竦めよう。
故郷に居た頃、頻繁ではなかったにしても数度見かけたことはある。だが、積極的に交戦したわけではない。
忍者が相手取ってきたのは、同じ闇の住人でもあやかし、バケモノよりも同じ人間の方が多い。ずっと多かった。
「お前さんの獲物だったか?そうだったらすまんね。
花見酒に山に登ったのは良いんだが、興が乗り過ぎてな?
……見かけた泉の水源を探してたら、深く潜り過ぎたらしい。いい加減地上に戻ろうかとうろついてたら、ここに出ちまった」
最終的に行きついた先が子鬼の巣とは、まさか思うまい。
そういうこともあるかと溜息を吐きつつ、事情を掻い摘む。ただ、それを冗句と取るかどうかは分からないが気になるのは一つ。
「で。……人喰い。人喰いかぁ。俺も取って食うかね?」
喰えるのかねえ、と。顎を摩りつつしげしげと己の全身を見回す。
食えるの?と言わんばかりに肩上の二匹が、飼い主の顔をぢぃと見てくるさまには苦笑を強く滲ませて。
■天ツ鬼 >
「呵々。そうさな、我も此方で同胞にはとんと遭わん」
人が珍しがるのも無理はない。
鬼である自身ですら、酩酊の美鬼や剛力の巨鬼…片手で数えられる程度しか出逢っていない。
「まさか。子鬼が邪魔であった故に炙ったに過ぎぬ。
──しかし水源とな。ふむ…ますます塒に丁度よい」
わざわざ源泉まで移動せずとも水浴びぐらいは出来るか、と。
顎先を撫で、嘲笑う。
そして、続く言葉にはやや眼を丸くして。
「喰わん喰わん。貴様人間の男では良いトシじゃろう」
人喰いの鬼ではるが人しか喰えぬわけでもない。
野の獣や家畜のほうが脂がのり美味いのは事実であるからして、
壮年に至る人の肉が美味いかといえば…まぁ微妙だろう。
──その人喰らいの本能を刺激されるような事象に遭遇すれば、話はまた変わるのだろうが。
「よっぽど。お主の連れている二匹のほうが美味そうであるぞ♪」
■影時 > 「やはりそういうもんか。人間だと、意外に同郷の出に遇うことは多いンだが」
土地に根差したものだからか。それとも海を渡れないのか。
所以を考えだすと、駄目だ。それこそ夜を徹するまで長くなりそうだ。だが、ヒトではないことは矢張り一つの要因には違いなさそうだ。
あやかしやら化け物の類には、海を渡れない――という強迫観念のような癖、または縛りがあるものがあるとも聞く。
今話す女鬼がいずこの出は知らないが、遠くまで移動するという行為を行えるのもやはり人間だから、なのだろうか。
「だったら良いんだが。まぁ、山を下りてそのうち暴れそうと思えば、手間が省けたとも云えるか。
おう、奇麗な泉を沸かせるくらいに清涼な水源だ。飲み水には苦労しねえだろうよ」
洞窟の奥まで進めば、川のように水が流れる場所にも出た。そこならば水呑みにも水浴びにも困るまい。
そうでなくとも、濾過や煮沸するなど、手間をかけずに飲める水というのは野営にも丁度いいとも言える。
そんな場所をゴブリンの類が占領するのは、決していいことではない。
まだ、人喰い鬼と自称する何かがすまう方が大幅にマシとも言えるかもしれない。きっと、恐らく。
「……ははは、もうちょっと若ぇつもりなんだが、傷つくなぁ?!」
さて、実年齢を当てたかどうかはさておき、鬼も喰わぬというのは驚きでもあり、慨嘆したくもなる。
筋張った肉が美味いかは兎も角、食うならば柔らかい肉の方が――と考えるものもあり、老いたかぁ、と一抹の嘆きもある。
つられたように目を見開き、上体を丸めるように肩を落として嘆いて見せれば、肩上の二匹がてしてしと前足を動かす。
頬を叩くような仕草は慰めているのか、からかっているのか。だが、そんな仕草も。
「だと、よ。だが、喰われたら敵わんから捧げものでもしねぇといかんかねえ。……呑めるか?」
二匹――白い法被を着たシマリスとモモンガが揃いも揃って総毛立ち、ぶわわと尻尾を膨らませる。
人語が分かり、空気を読めるくらいに賢い二匹がまさか言葉が分からなかったとは言わせない。
戦いの空気ではあるまいと思えば、少しは考えるものもある。鬼と言えばと思うなら、右手を口元に運んで、くい、と傾けるような仕草をしよう。
■天ツ鬼 >
やはり喰らうならば赤子か、生娘か。
…という血腥い話が展開される前に、男からの提案。
その所作が何を意味する動作かは、なんとなし鬼にも伝わったようで──。
「kほうほうほう。
良い塒を見つけた上に引っ越し祝いの酒まで呑めるとは僥倖僥倖。
呵々、冗談じゃ、ちんまいの」
総毛立った小動物二匹を見て嗤う雌鬼。
で、あるならばと、ふわりと浮かべていた鬼火を手の平に浮かべるようにして──洞窟の壁へと投げつける。
壁に衝突した鬼火はそれで消えることはなく、壁に張り付き燃えるようにしてその場を照らし続けていた。
「せせらぎを聞きながらの一杯というのも乙なものよの」
どっこいせ、とその場に胡座をかいて座り込む雌鬼。
人の作る酒は美味いと相場が決まっている。
故にほんのちょっぴり、テンションがあがっていた。
■影時 > 血腥い事柄については、己が体験、経験に置き換えて解するにも限度がある。
強い相手には戦ってみたいという欲も無いわけではないが、時が悪い。
鬼を斬って誉れのどうこう、という趣味は元々持ち合わせていない。まして、下手な大技を打って落盤した場合の対処も厄介だ。
「いつまで居つくかどうかはお前さんの気分次第だろうが、意味も益もある。
愚かにも迷い込むものを除き、強いものが陣取っていれば水源が荒される憂いも少ないだろうよ。
――善かったな、お前ら。喰われずに済みそうだぞ?ン?」
この洞窟を根城にしかねないものと言えば、先程のようなゴブリンの類や山賊たちだろう。
良き塒となる箇所を占領し、一蹴できるものが暫く居つくことによる益は害をしばしば超えうる。
誉れは求めぬ己が刃を抜くとすれば、欲して戦うか、討伐の依頼を引き受けての事位だろう。
今は前者の時ではないと云わんばかりに、嗤う雌鬼の言葉に、はああ、とばかりに全身で力を抜く二匹が肩上で垂れる。
「好みの酒を纏めて買っておいたのは良いンだが、まさかこう使うとは思わなかったなぁ」
鬼火が投じられ、さながらランプのように壁に貼り付き、良き明かりに変じる。
便利なものだな、と思いつつ左腰に差した刀を鞘ごと引き抜き、羽織の下の雑嚢の蓋を開く。
雑嚢の蓋の下は闇。その闇の中に刀を押し込み、収まる筈もない長さのものを仕舞いつつ、座り込む雌鬼の前に歩く。
嘯きつつ雑嚢の中の闇に手を突っ込み、念じつつ探れば手に触れるものを出そう。
どっこいせ、と。引っ張り出し、抱え置くのはこれまた雑嚢に入りそうにない重量物。一抱えもある封がされた甕が合計で三つ。
最後に取り出す柄杓と盃を二つ。手近な甕の上に置き、雌鬼と相対するように座して胡坐を掻く。
手を伸ばし、紐で縛られた布の封を外せば、甘い匂いがする。鬼火に照らされる甕の中身は澄んだ水のような清酒だ。