2023/11/29 のログ
天ツ鬼 >  
互いに吼える鬼と鬼
振り上げた右腕、その鋭い爪はその美しい白銀の髪を風に靡かせながら、細肩へと直撃する
しかし女鬼の手に返ってきた感触、骨が砕けるでも肉が裂けるでもない──不動だる巨石の如きもの
否、それが岩ならば、むしろ砕けたであろう

「(見眼同様に侮るなと思ってはいた筈じゃが)」

僅か、頬に伝うもの
その身が可憐な少女に見えようと同族、同類
理解っていても、それなりに驚きはある

「──ぐ、ぬッッ」

同時、揺らぐような動きから繰り出された一撃が女鬼の左肩を打ち抜く
大筒にでも狙われたかと錯覚する衝撃
自身が打ち込んだ際に得た感覚とはまた違った、限りなく圧縮された樹脂のような、ある種柔軟さと弾力を感じさせる肉の手応えを朧月の拳へと返しながら、その体は大きく後方へとズレた
僅か浮かされた脚を足踏むように大地を割りながら、着地する───

「っ、面構えに似合わぬ剛腕めが」

嗤いながらそう呟き、強烈な痺れが走る左腕を何度か振って見せる
元より遠慮は不要、だがこれで益々正面からは往きやすくなった──

「ならば…こいつはどう、じゃなッッ!!!」

一撃目同様地を蹴るが飛びはしない
痺れの残る腕は一先ず振らず、巨体の獣すら揺らぐだろう強烈な前蹴りを、朧月の胴めがけ打ち放つ──その一撃を皮切りに、距離を詰めての腕脚絡めた嵐のような乱撃を見舞おうと──

朧月 > 目の前の鬼が喧嘩相手でなかったならば、相手の初撃は守りを固めずとも防ぎ切ったものだろう。
叩き込んだ一撃で、綺麗に吹っ飛んでしまった事だろう。
まだ痺れの残る左肩をグルリと軽く回しながら、その衝撃を与えた彼女へと楽しそうに細められた真紅の瞳が向けられる。

「これこれ、これが良いのさ。
この、本当に喧嘩をしているって感じ、この昂ぶりが心地良いってものだ。
お前さんも、そう思うだろう?」

殴った右手をプラプラと軽く振るい、グッと拳を作り上げる。
結構思いっ切り殴ったつもりだったのだが、さすがは鬼か、その体は後方にズレたのみ。
次なる激突の合間にグイッと瓢箪の酒を一口呷り。

「お前さんも大概だろう?お互い様さ」

きっと自分と同じなのだろう、愉しそうに嗤う彼女を見遣り。
何度か回していた腕から、やっと痺れが少しは和らいだのを確かめる。

発する声と共に再び地を蹴るも、今度は地を滑る様な突進。
瓢箪から手を離し、再び彼女の一撃に合わせるように息を吐く。
次に放たれたのは前蹴り、しっかりと腰を落とし地に足を踏み締める、真正面から受け止める構え。
ドッ!と鈍く強い衝撃が腹部に走るも、力を込めてそれを受け切れば。

「ならば、こっちはこれでいくとするかぁ!」

腹を打ってくれたなら、こちらも腹を打ち抜いて返してやろう。
お互いに同じ攻撃でどこまで耐え切れるのか、まるでそれを試すかのように、次に振るう拳は彼女の腹部へと深く突き刺さる。
彼女が行うのは乱撃、そうであるならば、彼女の攻撃は止まらないだろう。
さすがに腕脚のリーチの差がある為か、同じ部位を使った攻撃では返せないが。
腕を打てば腕を、脚を打てば脚を、そうして彼女の乱撃にはこちらも乱撃で返し続けるのだ。

耐久力にも自信はある、だが、相手も鬼だ。
その直撃を受け続ければ、それだけ体力は削られてゆくだろう。
勿論、それは相手にも当て嵌まるのだろうが。

天ツ鬼 >  
久方ぶりに味わう、比武とすら呼べぬ力比べ。
試合と呼ぶにも泥臭い、まさに朧月の言葉通りの、喧嘩か。

反撃の拳が深々と腹に突き刺されば、流石の女鬼の口からも苦悶の声が漏れる。
並大抵の刀剣では貫くこと叶わぬ腹の筈だったが、それを超える拳であればそれも然り。
目の前の少女のような姿をした鬼の四肢は、並大抵と呼べぬ、刀剣よりも危険な代物ということ──

闘争の真っ最中に酒を呷る少女鬼を見やれば苦笑すらも漏れる。
あんなにふらふらと千鳥足で歩いていた者が、鬼に真正面から蹴る殴るの猛攻を受けても体幹を崩さぬ。

「───ッッ」

幾度の拳、蹴りを互いに叩き込み合う。
同族といえど避けもせず殴り合う相手などそうはいない。
少なくとも此処に来てからは、雄以外では初めての相手と言えるだろう。
昂る、昂る。より、燃える、高揚する───。

「呵呵ッ…互いに殴る避けぬ、では…埒が開かぬなあっ」

なんとも楽しい時間か。
互いに効いていないわけはない
現に、朧月の放った拳の一撃は鋼の如き天ツ鬼の腹筋を容易く貫く。
"鋼"と称したところで、相手の拳は鋼など容易く拉げさせるのだから。
痣を作り、血を散らしながらの応酬の最中、楔を一つ、捩じ込んでやろうと。

双角が電荷を帯び、碧の瞳がバチリと雷を走らせる。
大きく振りかぶる、その姿はそのままに。
その右腕には激しく夜闇を照らす蒼雷が迸り───

「──とっておき、じゃあッッ!!!」

荒々しい稲妻を纏う一撃が振り下ろされる。
落雷の如く威を思わせるその一撃は、女鬼の言葉通り、
肉体の硬度を高め、更に雷撃の破壊力を加えて繰り出される奥の手の一つ───!!

朧月 > この国に来て、ここまで一人の相手に打ち込んだ事があっただろうか。
喧嘩らしき喧嘩をしない生活が続き、宴で賑わうばかりの愉しい日々も悪くはないが…
こうして真っ向勝負を愉しめる相手を前にしてしまうと、やはりこれが一番なのだと再認識してしまう。

「っ痛ぅ…さすがに、これだけ続けると響いてくるねぇ。
だが、これが良い、この痛みを感じる瞬間こそ、これも私の生き甲斐なのだと強く感じさせてくれる…!」

痺れ迄に留められていた衝撃も、次第にそれが痛みを感じる程に耐久力は下がってゆく。
しかし、殴る蹴るを打ち込む事を止めたりはしない。
打ち込めば打ち込む程に、打ち込まれれば打ち込まれる程に、高揚感は限界まで高まってゆくのだ。

「あぁ…そうだねぇ、これじゃぁ確かに埒が明かないか。
ずっと愉しんでいるのも悪くはないが、そろそろ幕を下ろす頃合ってなもんかねぇ」

当然だが、彼女と同じで無傷でこの喧嘩を続けてはいられていない。
流石に頑丈さを自慢にしているだけに、見た目の程は彼女よりは多少マシと見えるのだろうと、その程度ではあるが。

そう交わす言葉の後に、彼女から感じる強い気配。
渾身の一撃が来る、それを思えば。

「よっし、こい、アマツキ。
私にゃこれといった大技はないが、代わりに…それを受け切ってやろうじゃないか!」

受け止めて打ち返す、そうしたさっきまでの形とは違う、両腕を交差させて受け止める構え。
彼女に伝える通り、搦め手として使う芸当は持ってはいるも、彼女の様に奥の手と呼べる手は持ってはいない。
代わりに、今まで見せたような自慢の頑丈さがあるのだ。

振り被った彼女の右腕に、稲妻が走り、それが宿る。
そして、その一撃を耐え切るのだという、真っ向勝負を挑んでみせた。

その右腕を両手で受け止める、高められた硬度に、纏う雷撃が受け止めた腕を這って体中へと駆け巡る。

「ぐ、っ…う、おおおおおおおぉっ!」

打ち付ける腕を通し全身に響く雷撃の衝撃、押しつ押されつと均衡を暫し保つも。
溜めていた力を一気に解放し、その一撃を受け切ってみせるのだ。
そうはいっても、雷撃はしっかりと回っているのだから、プスプスと衣が焦げてしまっていたりとしているのだが。

天ツ鬼 >  
落雷そのものかと思える程の轟音。
地響きが山を鳴動させ、夜闇に黒煙があがる───

その一撃を打ち込んだ女鬼は未だ帯電する腕から、振り払うように振って見せ。

「な…なんという奴…」

黒煙の中…咆哮をあげ、その装いこそ焼け焦げているものの、しっかりと量の脚でその場に立っている朧月の姿を見て驚愕する。

「…呆れた頑丈さじゃ。我の渾身でも打ち壊せぬ、と、は……」

嗤い散らす程の闘争の高揚でついぞ感じることのなかった疲労とダメージ。
まさに渾身の、必殺のつもりで放った一撃が故に、それが一気に湧いてきたか、打痕と擦傷に全身を彩られた女鬼はそのまま大の字にどさりと倒れて。

「ぐく、口惜しい…これでも我とて身体の強さには自信があったのじゃがなあ!」

寝そべたまま、恥も外聞もなくそう言って見せる女鬼。
一度も攻撃を避けずに朧月の攻撃を受けていた辺り、一歩上を同族に往かれたことが相当に悔しかったと見えて。

朧月 > 残り僅かに帯電していた雷撃もパチリと弾け、周囲を覆い隠す黒煙と共に消えてゆく。
確かに防ぎ切った、だがそれと共に強く漂っていた酒気は薄れ、その身も衣も焼け焦げていると、満身創痍と見える状態だ。

「さすがはご自慢の一発ってところだねぇ。
いやぁ、ここまで本気になったのって、どんだけぶりなんだろうか」

体が重い、それだけ今の一戦でかなり疲弊してしまっているのを感じる。
そんな時でさえ、その手に瓢箪を取れば一口呷り。

「今回は私の勝ちだ、まぁ、本気でやり合えて、限界近くまで…あ、これはいけない。
私ももう…」

そこまでの行動は、どこか余裕を見せているように感じさせるものだったのだが。
フラリと足元が大きく揺れると、そのままパタンと地面に倒れてしまう。
彼女のように疲労やダメージで動けなくなってしまっている、との程ではないものの。
いつものように酒に酔ったまま、余裕を持って立っている事は出来なくなってしまったようだ。

「いやぁ、参った参った。
私は私で、これは暫く動けそうもないようだ」

それでも勝てた事は勝てた、それは純粋に嬉しいようで。
地面の上に倒れながらも、カンラカンラと嗤ってみせた。

天ツ鬼 >  
闘争の最中からもそうだったことだが。
互いに投げかけ合う言葉はどれもこれも、自分自身が常々思っていることのようで。
全く不思議と、鬼が出逢うことも稀な此の地にてこのような出会いもある。

そのような奇縁、ぶっ倒れてしまってはいるものの笑わずにはいられない。

「唖々、また戦るぞ。次はその身を打ち砕いてみせる」

終わったばかりだというのに、満身創痍の身でそう嘯く。
闘争狂の女鬼からしても、心地よく負けを認められる喧嘩だったということだろう。

相手が勝ち名乗りの後に倒れた様子に、やれやれと漸く半身を起こし。

「それだけ酒をかっ喰らって殴り合えば鬼とてそうもなろうよ。…どれ、早速飲み勝負で惜敗を晴らさせてもらおうかのう、朧月」

よっこら立ち上がり、満足気に笑う朧月を抱えあげ、自らの塒である洞穴へ。
尽きることなく酒の溢るる瓢箪を不可思議に思う、そんな何となしの話なぞも交えながら再びはじまるだろう鬼二匹の酒宴。
賑やかしこそやや足りぬものの、互いに昂ぶった身体に酒をぶち込み大いに語らう鬼宴はやがて九頭龍山の空が白ぐまでも続いたやも知れず───

朧月 > お互いに、思っている事は同じであろうか。
この国に来て長い事となるが、こんな事もあるのだと。
力を殆ど使い果たし、久し振りに感じる地面の感触。
だが、こうなろうとも気分は晴れやかで、満ち足りている。

「こんな愉しい戦いならば、いくらでも付き合ってやるさ。
勿論、次はもっと完璧に耐え切ってみせようじゃないか」

今回は、勝ちは勝ちでも一歩の差だっただろう。
彼女の言葉に、倒れながらもそう返してみせる。
だが、倒れたままの自分に対し、立ち上がってみせ、自分を抱える余裕を見せられれば。

「おや、なんだ、まだまだ余裕そうじゃないか?
良いさ良いさ、どんな勝負だって受けて立つよ。
私との飲み勝負なんだ、トコトンやってやるから覚悟するんだねぇ」

大人しく抱えられたまま、手にした瓢箪をユラユラ揺らし。
洞穴へと戻れば、今度は交わす言葉を酒の肴に、夜が明けるまで飲み干す事だろう。

ご案内:「九頭龍山脈」から天ツ鬼さんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈」から朧月さんが去りました。