2024/03/02 のログ
■ニュア > 「てゆうかそっちはどうすんのさ…!? ちょ───………ああもう!!」
自分を隠そうとする少女の意図は察した。そして──少女自身は共に身を潜ませるつもりがないのも。
腕を用具の端で引っ掻いたりしつつ半ば強引に押し込まれるも、視野が完全に奪われた訳じゃない。
物陰の隙間より見遣るは─… 明らかにタチの悪いそうな悪漢共。薄汚い掃き溜めのゴミの類だ。────頭痛がした。
「いや。 何なの? ぇ。 コレ待ってればイイ系?? ──────… うッわァ…」
思わず独り言が増えるは致し方ないと言えるだろう。
眉間に皺寄せ双眼眇めて成り行きを見守るも、それにしても。── 思いの他、少女の動きが良い。
大柄なチンピラに、小躯は負けじと反旗を翻す。膂力を存分に発揮した威勢のよい蹴りは狙い通りだろう場所にキマり。
チンピラが一人二人と蹌踉めき、倒れるに到って、アッこれ見守ってれば無事終わるやつじゃね? なんて思うのだけども。
傍観していれば気付く事もある。───少女の奮戦に気圧されたかに出遅れていた三人目の動き。
屈み腰に空き瓶を拾った、その時に。─────ぁ、ダメだわ、と観念する。
「───… 、 ―――、 」
ぷ、つ。
ガラクタの鋭角に、指先を薄く圧し当て、皮を削り。
──────生じた血珠を指で弾く。ガラクタの間隙より、スリングでも弾くよに。
それは飛弾となって空き瓶を持つ手指を巧妙に弾く筈。多分。うまくいけば。──外れなければ。
■ティカ > 薄汚れた用具入れから漏れた呟きは、幸運にも男達の耳には届かなかった。ちんちくりんの暴力に晒されている今、そんな所にリソースを割く余裕が無かったのだ。
もちろん、やりすぎなくらいの暴力性にも理由はあって、ただでさえ地力に乏しいのに相手は3人。やれる時確実に戦意を奪わねば、程なく数に押し潰されて凌辱の憂き目に合うという経験則からなる過剰防衛。
それは思っていたよりうまくいき、『よし、なんとかなる!』と僅かばかりの油断を覗かせた時。
いきなりギャッと叫んだ男が手にした瓶を取り落とし、片腕を押さえて蹲った。
「――――っえ!? ……て、てめぇ! 女のガキ相手に背後から、しかも武器で殴りかかろうたぁどういう了見だこらあっ!」
背後から迫る気配にまるで気付いていなかったティカは、敗北がぎりぎりの所でひっくり返ったのだという安堵を再びの戦意に焚べて、卑怯者の顎先を思い切り蹴り上げた。
堪らずひっくり返った太鼓腹にどすんと飛び乗り、後はもうマウントからの小拳の雨あられ。返り血を小麦の肌のあちこちに付着させて立ち上がる頃には、その身体からオーラのように湯気が立ち上っていた。
フーッ、フーッと大いに荒ぶる呼気をゆっくりゆっくり収めつつ、完全に戦意を失った大男の指がへし折られているのを確認する。
そうして少し気怠げな歩調で用具入れへと歩み寄り、半開きの扉を開きながらぶっきらぼうに言い放つ。
「……もう出てきて平気だ」
■ニュア > 瓶が落ちたのは、見届けた。───あとは自分で倒しなよね、とばかり。無言の静観。
それ以上をどうする気も無いし、もうどうこうせずとも少女が勝利するだろうという確信があった。
案の定、後は少女の一人舞台。マウントポジションからの血の雨降る攻勢に、こちとら半眼にて見守るのみである。
「──────………ぅ、わ。えげつな…… 」
どちらかというと、波風を避けて生きたいダウナータイプである。
怒声に何時しかやんややんやと囃す野次馬も増えればこそ、湯気立ち上るヒートアップに──ドン引きするところがある訳で。
呼気荒ぶらせ肩で息をする少女が闘気を散らし、消沈の合図に歩みきたとき。
漸くに開かれた扉に。顰めた眉其の儘に、暗がりから眩しげに睫毛を瞬かせ。
「あざぁーす。 …… イタタ。てゆうか思いきり容赦なく押し込んだよね…。」
ヤル気のない礼と共に、土埃払いながらガラクタから蹈鞴踏みつつ身を引き抜いた。
「っと、ッと……」
■ティカ > 「――――う"っ。わ、悪ぃ。慌ててたから…………っと」
恐らく男の手指を撃ち抜いたのは彼女の手助け。まずはそれに対する礼を述べるべきなのだけれども、同性相手でも他者に貸しを作る事を忌避するチビは言い出せない。
そんなティカに先んじて、実にあっさりと礼の言葉を投げられて思わずたじろぐ。彼女が小さく文句を口にしながら狭苦しい用具入れから這い出すのをこちらも手伝って、最後に蹌踉めいたその身体を再びたわわな肉鞠のクッションで受け止めた。あちこちに返り血を浴び、汗の匂いも強まった状態では役得感は皆無だろう。
「あー……その、なんだ……。妙な事に巻き込んじまって悪かった……けど。ほ、本来ならあたしはあのまま逃げ切れてた。うん。あんな連中撒くのは訳ねぇし。むしろ、お前みたいのがこんなトコにいなけりゃあいつらとやり合う面倒も無かったわけだかんな。だから貸し借りなしっ!」
結局は雑な屁理屈で強引に貸し借りの清算を終わらせた。
発育良好な豊乳の前で細腕を組み、ぷいっと拗ねた童顔を背ける様をみれば下手な交渉は徒労に終わると分かるだろう。
―――とはいえ彼女に助けられた部分があることも事実であり、これにてじゃあなというのでは座りが悪い。
ということで
「おい、お前の宿、どっちだ。送ってやる」
仏頂面はそのままに、粗暴な態度で言い放つ。
確かに彼女の格好は少年のそれに見えなくもないのだけれど、その顔を見られてしまえば間違いなく絡まれる。なんだったら少年だろうと問題ない、むしろ興奮するなんて輩もいるのがこの界隈だ。帰路の護衛くらいはしてやろうという、一応は善意の申し出。
………まあ、彼女の隣にティカの様なちんちくりんが並んだ所で、どれほどの虫除けとなるかは定かではないけれども。
■ニュア > 「ウン。めちゃくちゃ痛かったよね。服引っ掛けた気するし───… なんか油臭くなったし。」
流石にバランスを崩しそうだったので、抜け出すのに手は借りつつ。
蹌踉けた身を相手の胸で受け止めて貰ったとあっては油臭さに返り血の汚れと汗の匂いも加味されて、表情にやさぐれ感が一層増したりもするのである。
クンクン。袖口の匂い嗅いで顰め面。なんか外套にヘンなシミまで付いた気する。
「なんか釈明されてもとばっちり感物凄いし色々釈然としな過ぎるんだけど。……まぁイイや。」
相手が素直になれない謝意を捻じ曲げてプラマイゼロの清算に持ち込みたがってるのは何となく理解した。
拗ねて横向く表情に漂う、先程迄の鋭気を若干霞ませる面差しの何処か憎めない幼さ。多分、自分に通じる捻くれっぷり。故に──…まあいいや、と諦める。
どうやら、───どうも、送ってくれるようだし。それならば。
「ン?送ってくれんの? ───ぁ、じゃあついでにあと3軒。付き合ってよ。別に付いてきてくれるだけでイイからさ。」
そんな勝手な提案を。
返り血を浴びた少女の姿は、此の娼館が軒を連ねる治安悪さに立派な用心棒になるだろう。
これくらいはされてもいい筈だ、と。相手の善意を逆手に取って利用。諾されるなら、暫しの行商巡りの共連れと相成ろうか。
多分、再度襲われるなんてことは無い筈だ。きっと。
賑やかとは言い難いだろうけど、道行き不安な道中からは暫し解放され───。
■ティカ > (………こ、こいつ、一言どころか三言四言多いな。こんな奴がさっきみたいな酔っぱらいに絡まれたら絶対むちゃくちゃにマワされんだろ……)
この少女が人形みたいに整った顔立ちに反して無闇矢鱈と口が悪いというのは気付いていたが、それにしても酷い――――と、彼女と大差なく生まれの悪さを露呈して回るチビは思った。
それでも貸し借り無しという暴論を深く追求することなく流してくれたのはありがたい。後はこの心のもやもやを解消すべく、帰り道の護衛を務め上げれば今夜もぐっすり眠れる事だろう。
「はあ? お、お前、口も悪けりゃ遠慮もねえなっ!? 良いのは顔だけじゃねーかっ!?」
彼女に負けじと暴言を吐くちんちくりん。
まあ、彼女には元々予定があってこんな場所に来ているのだろうし、その目的を果たさず帰る訳にも行かないのだろう。
「はぁ~……」とこれみよがしにため息を吐き、けれどもまあ、この口の悪い美少女とはもう少し言葉を交わしたいとも思っていたので
「しゃーねぇ。乗りかかった船ってやつだよな。いいよ。付き合ってやる。代わりに飯くらいは奢ってくれよな。あたし元々飯食いにきてあいつらに絡まれたから腹ペコなんだよ」
細身とチビの二人組は、それぞれ似たりよったりな減らず口を叩きながら歩き出す。
むしろ一人の方がマシだったのではと思えるくらい、カモネギに見える二人はあちこちで絡まれる事になるのだけれども、その波乱万丈な道中、互いの名前くらいは伝えあう事も出来ただろうか――――。
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール” 娼館通り」からティカさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール” 娼館通り」からニュアさんが去りました。