2024/02/27 のログ
■ノイ > それはもう。一番愉しんでいるのは、雰囲気である。――問い詰められるでもないので、此方から口にする事もないのだが。
淫魔という生物種である以上。人の欲を感じられる場所というのは、それだけで格好の餌場であり――棲息に適した場所というか。
些か大袈裟な物言いも、もしかすれば。空気酔い…場酔い、という代物が。過分に含まれているのかもしれない。
格好付けている気がしないでもない言動を。メダルの二度落としで台無しにする事なく――済んだかどうかは怪しいが。
ともあれそれを彼女へと押し付けて。
「そうそう、これで宜しく――何と言うか。普通でも良いと思うの――此処で違う流れが生じたら、それだけで。
どう転ぶか分からなくなって……それを見守るのも。わたしにとっては楽しそうだから……ね?」
此方から見て彼女の方も。賭け事にのめり込む、というタイプには見えない。
こういう言い方をしてしまうと失礼かもしれないが……絢爛でありながら陰鬱さの滲み、けたたましさの中に悲喜の混ぜ込まれた、カジノという場所は似合っていない。
もっと例えば陽の下だとか。草いきれの立ち籠める街道だとか。そうした雰囲気の方が。彼女の纏う気配には合っていそうである。
…もう一つ少女の視点からすると、とても…健康的な物に充ち満ちた、性よりも生を感じさせる。
いや決して。メダルを拾い上げる際に気が付き、見上げた第一種接近遭遇の際。相貌を認識する事が物理的に不可能であった程の、豊かさ――からの印象ではなく。
兎も角。少女と彼女とを比較すれば。似ても似付かず、まるで別のタイプに見えるという認識。
だからこそ。運という物に一定の方向性が、もしくは勢いという物が存在し。その侭流れる方向が定まってしまうのを…
彼女という別のベクトルが。違う向きへと傾けてくれる事に期待する。
筐体前の椅子を、彼女へ譲る為に立ち上がり――改めて。それでも尚見上げなければいけない身長差に。ほぅ、と何処か感歎じみた息を吐きつつ。
「良いのじゃない?普通でも―― だからこそ、もし珍しい大当たりなんて出てきたら。とっても驚きで…その驚きが嬉しいんだろうから」
分かりきった勝負なんてつまらない。確定必中大当たりにこうご期待――などと言われるより余程言い、そう付け足して微笑んだ。
…勿論、絶対無理勝てっこない、明日は二人揃って素寒貧――等と言われても困るので。何事も程々、なのだ。
斯くして彼女がメダルを入れたなら、さて――
■エーゼル > 自分の肢体が女性的魅力をそなえているか、どう見られているか、ということには思考を割いたことがあまりない。
何故なら、一番長い時間を過ごした故郷では身の丈にしてもその他の部分にしても、同種族間では平均的の部類だったからだ。
なので、隣の少女が地分に比べればかなり背が小さかったりすることに対しても、特に意識することもなく、外見的な年齢差を意識することもなく、つまり人見知りする様子など微塵もなく。
「いいこと言うね。やっぱり世の中、サプライズがないと」
勝ち負けが見えているゲームなど面白くもない──が、今回使うメダルは他人のものだ。
それが程よい緊張感になっている。
本日の運勢を占うつもりで、機械仕掛けの絵札合わせにメダルを投入する。
そして、回転三連絵札を動かすためのレバーを、えいっと気合を入れて動かす。
めまぐるしく絵札が回転し始める。
単純に動体視力があれば勝ててしまう仕組みではないと聞いたことがあるが、かといって自力で絵を合わせられないと。それはそれで駄目らしい。
この手の遊戯にはコツといわれるものが浜辺の砂の数ほど存在し、そしてほとんどが眉唾物だと聞いたことがある。
そう教えてくれたのは食堂で相席になった冒険者たちの一人だった。
つまり素人は深く考えるだけ無駄ということ。
すーっと、息を吸い込み、
「────はっ!」
大きく吐き出しながら、たんっ、たんっ、たんっ、と回転を止める三つのボタンを右手から順にリズミカルに押していく!
樽(酒場)。
果物。
宝石。
「……ふう……」
絵柄は綺麗に全て外れた。
──それだけのこと、に一見見える。
しかし実は、全ての回転絵札が七から一番遠い位置にある絵柄で止まっている。
回転絵札は三列あるが、絵は必ずしも同じ絵柄が順番に描かれているわけではない……つまり、見えない範囲、この機会のちょうど裏側では7が揃っていることになる。
ある意味強運だが、七から一番遠い絵柄が揃っていることから、それが揃うと何者かに異次元に連れ去られるとか、死神がやってくるとか、光の柱に吸い込まれて空を飛ぶ船に飲み込まれるとか噂がある、大凶の絵柄だ。
先述通り本日の運勢を占う結果がこれだとすると、なかなか悲惨だが、リールの絵柄を記憶してないとそのことに気付かないという性質のものであり、女にとってはただのハズレ。
「駄目かあ。7を揃える気でいったんだけど」
悔しさを押し殺しつつ、腕組みする女。思ったより悔しい。やるからには勝つという気概があったが、気概で勝てるようにはなっていたらカジノは一日でつぶれる。
■ノイ > 勿論、性別で獲物を選ばないだけでなく。個人個人、身体だって精神だって…個性だって性癖だってバラバラであり。それぞれに良い所が有る、と。少女は思う。
思うのだが――それはそれとして。やはり、魅力を感じるというべきか。無い物は強請りたくなるというべきか。
ただ、女性的な豊満さだけでなく。成人めいた、プラスもう一声、な彼女の背丈についても。同じく少女に無い物であり、羨ましく思える物だ。
…此処まで考えると、相手は紛う事無く目上の存在である、という事を。今更思い出さないでもないのだが――
だからといってあからさまに態度を変える事も、改める事もない。同時に、お客様面する事も、お嬢様として振る舞う事もない。
此方も此方で、良くも悪くも…遠慮や人見知りする事はない、というべきか。
「その為に遊んでるからね……と、はい。それじゃぁ今度はわたしが見物で―― ……む、 ぉぉ…?」
席を譲れば丁度、先程彼女が立っていた辺り…斜め後方へ移動した。
真後ろからだと件の身長差もあって。上手い事リール面を覗き込む事が出来ないのである。
メダルを提供した、スポンサーでございと言わんばかりに腕を組み、彼女の手元へ目を向けた辺りで…つい、声が出た。
絵面を追い、息を吸い、そして…気合いの入った彼女の声音に。つい圧倒されたのかもしれない。
勿論ボタンを押す力の強弱で、結果が左右される事はないのだろうが…なんだって。真剣なのは良い事だ。
とはいえ。決してペースを崩す事のない魔導機械は、残念ながら空気や、個々人の気合いに忖度はしてくれない。
でなければ緩いお登りさんである少女のような例外を除き。大半の目を血走らせた客達が、大喜びしているのだろうから。
結果として。並ぶ絵札は一枚たりとて共通していなかった。力を抜き、へにゃりと笑って…これはこれで。
なまじ後一個、等であれば悔しさも増すのかもしれないが。これだけ大きく外れていれば寧ろ清々しいという物である。
――勿論。少女の動体視力で追い掛けられる訳でもなく、全て絵柄を覚えてやる、という真剣味もなく。だから気が付けている筈もない。
目に見えない場所でこそ。奇跡が起きていたのだ、という事には。
「―― …残、念。けど、見てるのもドキドキして…良い物だなぁ、って。少しでも言葉を交わした人なら尚更に――
――ねぇ」
とす。腕組みした彼女、その肩へ。後方から少女が顎を乗せる。
そのまま耳元へ囁き掛ける――には。彼女の耳が頭の上方に在る事と。唯でさえやかましいカジノの中なので。
潜める事なく普通の声量、だがそうしないと聞こえない、といった声音にて。
「折角だから、会話だけでなく―― お名前、知りたいな……? 残念会しても。良いと思うから」
さて。大当たりの正反対。その絵柄を揃えた者に、大凶の運勢が待っているというのは…もしかすると。強ち与太話ではないのかもしれない。
何故なら、興味の対象が目の前の機械と賭け事とから…彼女へ移りつつあるらしい、その少女は。
異次元からの来訪者でも三途の川の死神でも、勿論空の彼方より飛来し古代文明に技術を伝えた某でもないが…その代わり。
もっと具体的に、この王国のお偉いさん達から大っぴらに敵視されているといっても良い、魔性の者――なのだから。
■エーゼル > 絵柄合わせは大外れだが、目に見えない機械の内側では7が揃っている……
もしそれを知っていたら、人はこうして、日常の中でさりげない運に活かされているのだなあ、などとしみじみ思ったかもしれない。
これまでの人生で、空から小さな星が落ちてきて脳天に激突していないのも、立派な幸運と言えるのだろう。
空飛ぶ船から降りてくる光に吸い込まれて星の海を旅する羽目にならなかったことも──
「ちょっと待って……うん?」
自分のメダルに手をつけるか真剣に考えかけていたが、ねえ、と声をかけられれば自分の思考を一時中断。
もしかしたら自分はギャンブルをしてはいけないタイプの人間なのかもしれない、と思い直す間を作れたのも幸運か……というのはさておき。
とす、と顎に重みを感じる。
その囁き声に、背中にゾクっとしたものが一瞬走り抜ける。
悪い感触では決してなかったが、言葉で説明できない妖しさがあるような、ないような。
ネコ科イヌ科の獣人と違って、人間と同じ位置についているが、頭蓋に沿って上に向かって伸びている耳は、驢馬のそれだ。
この耳の形は人間とは集音性が異なり……といった差異はともかく、確かに囁き声を拾った証拠にピクッっと大きく動いてしまう。
なんだか一瞬で違う表情の仮面につけかえたような、魔術師めいた印象にどきっとしてしまいつつも、特に警戒することなく名前を名乗る。
異次元の怪奇や、死神や、星の海を航行する者などとは出会うことはなかったが、ある意味それらより現実的で、実在する魔性の存在と身を触れ合わせていることに女は気づかず。
「わ、わたしはエーゼルだよ」
■ノイ > 獣の耳。犬でも猫でも兎でも、勿論驢馬でも。どうしてこうも可愛さを感じるのだろうか…それもまた。持たざる物への好奇心、なのかもしれない。
ともあれ、そんな彼女の耳が。此方の声音に反応する様も。何だか可愛らしく思えるものだ。体格差を意識せずには居られない分、ギャップを感じるのも有る…かもしれない。
変わらず後ろから顎を乗せる、彼女の肩口。半袖から伸びる腕もまた、少女のそれとは違い細さだけで作られたような物ではなく。確かに肉の乗った健康的な物。
するりと軽く撫で下ろし、そのまま指先を彼女の手元まで滑らせて。
「ぅふ。ありがとう、エーゼル。 …わたしは――ノイって、呼んで。
…それでね?この侭此処で愉しんでも良いんだけど、一人じゃなく二人なら――これには。違う使い方も有るらしいから。
ね――ぇ、エーゼル、あなたって…お酒は飲める?」
使うべきか使わざるべきか。中断された彼女の悩みを、更に押し留める如く。彼女の指をそっと、筐体から離させる。
同時に反対側の手を、脇から通すように彼女の眼前へと差し出せば。
元有った分よりは大分目減りしてしまったのだが…それでも。彼女がチップ代わりに受け取った分よりは些か多い、此方のメダル。それが入った器を見せ付ける。
「二人でこれだけ有れば。結構美味しい物も注文出来ると思うし……わたし自身、其方にも興味有ったんだけど。
…食べたり飲んだり、それもやっぱり…一人だけだと、味気ないから……… ね…?」
それは既に、彼女の方も。此処の黒服から聞き及んでいる話。
カジノの中であれば、カウンターで酒でも軽食でも注文出来るし、難なら、泊まる事だって出来るのだと――このメダルさえ有れば。
魔性にとって欲望という代物、性欲が主に糧となる事は確かだが。食欲だって等しく欲であるし…そうでなくとも。
美味しい物を食べたいし、どうせ食べるなら良い雰囲気で、と考えるのは。ヒトであってもヒトデナシであっても変わらないらしい。
尤も――食後のデザートになるかもしれない、そんな危険性は決して皆無ではないのだから。
今はこの場にほろよい気味な、少女淫魔からの誘いを。受けるも断るも彼女次第――なのだろう。
■エーゼル > 人間とは寒さに対する強度が異なる種族であり、どちらかというと暑さのほうが弱い……よって、都市部では一年中同じ季節感の服装している。
ほとんど夏の服といっても変わらず、この時期、人間が見れば寒そうにも見える半袖から伸びる自分の腕。
その腕を、繊細そうな、きめ細かい肌質の薄く色づいた手が伝っていく。
悪意めいたものは感じないが、何か……女の語彙には無い艶美さがそこにはあった。
真剣な暇つぶしに興じるどこぞのお嬢様にしか見えなかった相手が、不定形めいた存在感を帯びていく。
しかし。
その言動はシルクのようななめらかで、危険性を感じるようなものではなく、むしろ惹かれる部分すらあった。
都会での暮らしが長くなったせいか、得体のしれない存在が跋扈する都で暮らしているせいか、察知力というかセンサーというか、そういうものが鈍くなっているのかもしれない。
本当に目的を遂げる力とは、相手を身構えさせないことに尽きるという事実に考えがいたらない。
身構えない相手は、力を振るえないのだからどれだけ強大であろうが無力だ。
武力を用いる戦では、その状況を無理やり作るために夜襲といった戦術が選択される。
ともあれ、女はメダルが入った器をまばたきを繰り返し、見やる。
元は金銭であり、このメダルを配する施設の関連施設では、金銭としても機能する。
「ノイ……。そう、だね。私のメダルはちょっとしたお仕事のお駄賃として貰ったものなんだけど、丁度使い道を探してうろうろしてたところだから」
実際、普段カジノと併設されているようなホテルはVIPの利用を前提としており。一流のサービスが約束されているため、レストランでは普段決して口にしない料理にありつけるだろう。
メダルの使い道のひとつして、ほんのりと考えていた。
元から考えていた使い道だったことは、選択に気軽さを与えてしまった。
女は、カジノのフロアで出会った人の形をした魔性と、共に行くことを選んだ。
魔性の者は恐らく、あえて強引に牙を剥くほど不調法ではなかったのだろうが……デザートが無警戒に皿の上に載ってくるような事態になれば、話は変わってくる。
女は彼女のとともに向かうことになる、本日の運勢を占う絵柄合わせの機会が、見えない所でさだめた凶なる結果へと。
■ノイ > それを言うとこの少女も――肌を、特に背中の白さを。うっかりすれば腰骨の辺りも覗き込める位に晒す黒衣ではあるが。
あくまで種族の性…時に翼を拡げる為。或いはカジノでの遊興に勤しむお嬢様、を演じる為。
彼女程環境への耐性など持たないので。もしこの侭外へと連れ添う事にでもなれば。たちまち風邪でも引きそうである。
勿論、腕っぷし、腕力や膂力という意味でも。彼女にも――普通の人間にも敵わない。
撫で摩るような手付きは、ひょっとすれば本当に。これ以上の力を籠められないだけ、でも。おかしくない。
だから何処までも穏やかだ。彼女へと接し、誘う、その言動は。
身構えられてしまえば、たちまち勝敗が決してしまうのだから。身構えさせない事こそが、魔性にとっては捕食手段に他ならない。
――その気になればもっと容易ではある。囁きながら撫でながら。淫の気を滑り込ませ。男でも女でも内側から骨抜きにしてしまえば良い。
或いは理性を以て抗えない程の興奮を強制し、襲い掛からせる――獲物のフリをして、その実真逆、という状況を作っても良い。
だが今そういう手段に到っていないのは。機械相手でなければカジノを愉しめない、そう思ったのと同じ理屈。
折角違う形で出会ったのだ。端から獲物と定め籠絡した相手ではない。極短い会話が、それでも愉しめたから。違う形でも興味が湧いた。
だったら酒や言葉を交わす所から始めて、上手い事やればこの後の夜も共に出来る、そんな過程についても愉しむべきだろう。
…その第一歩で、性欲ではなく食欲方面から誘いを掛けるというのは。あまり淫魔らしからぬ気もするが。まぁ良いだろう。
「リスクを気にせず還元出来るとしたら――そうだね、使い道として良いと思う。
ね、ね、さっき少しだけ覗いて見たの、そうしたら――びっくりした。こんなに大きな冬苺、丸々使ったケーキが有って…」
等といった会話を重ねつつ。同意してくれた彼女の手を引くようにして、ホテルエリア、そのビュッフェを目指そうか。
傍から見れば女性と少女。配達人と令嬢。昼の者と夜の者。あまりにちぐはぐで、どういう取り合わせか、すれ違う者達は首を傾げそうな二人。
彼女自身へも、今はまだ、何ら危うい物を気取らせる事なく…今は一先ず。こういう所でしか味わえない料理を目指す。
…腹がくちく、酒も入り、その後で良い。少女が――本当の顔を、彼女へと見せるのは。
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」からノイさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」からエーゼルさんが去りました。