2024/02/26 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」にノイさんが現れました。
ノイ > 「んー…………」

その少女は酷く思案気に。目の前の機械に向いていた。

――カジノ。昼夜問わず数多の客が、運と金とを天秤に掛け、己が命や運を賭ける場所。
其処には必然欲望が渦を巻いている事だろう…だから。前々から興味は有ったのだ。
里帰り序で、親元の目を盗み、こうして繰り出してみてから――問題に気付いてしまった。

どうやら。人間相手でギャンブルが難しいのである。
複雑なルールを覚える気が無い、というのもさる事ながら。
負けられない、本気で勝たねば、などと考えると…無自覚に。相手の意識にちょっかいを掛けてしまうのだ。
その気がないのに手加減されてしまうと。運に任せられなくなると。途端、面白くなくなるのだと理解して…

冒頭に戻る。
今少女が首を捻り捻り向いているのは、魔導仕掛けの機械である。
コインを入れ、レバーを引き…そうすると。三つの絵柄を揃えれば、大当たり、であるらしい。
機械ならば大丈夫。偶然を愉しむ事が出来る。そう考えた結果――

気が付くと。珍しく真剣な顔で勝負に挑む少女の懐からは。
着実にお小遣いが目減りしつつあった。

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」にエーゼルさんが現れました。
エーゼル > 「うーん」

 カジノのフロアを歩く長身の女は、悩まし気な吐息を漏らす。
 カジノに届け物をしたあと、見知った顔の黒服──中堅程度の立場らしい──から、ちょっとした配達仕事を頼まれて、サービスで引き受けたつもりがチップとしてコインを幾らか頂戴してしまった。
 たかがコインと侮るなかれ、酒や飲食にも使えるし、併設されたホテルの宿泊にも使える格調高いコインである。
 釣銭は出ないため純粋な利益とは言えないが、高級ホテルでディナーだってできてしまう……
 と、考えると使い道に悩みもするというもので。

 博打は、基本、最終的に胴元が勝つ仕組みになっているのと、博打に頼らねばならないほうど困窮していないので、簡単なカードやサイコロ遊びをしたことくらいしかない。
 メダル払いにされた駄賃の入った、グラス上のコイン入れを手に手持無沙汰で歩いていると、機械仕掛けの絵札合わせに興じている少女が目に入った。
 カジノでどちらかというと場違いな恰好をしているのは仕事で立ち寄った自分のほうで、彼女のほうが場にフィットしている。
 それでも眼をひかれたのは、随分と真剣な表情で遊戯に興じているからだ。
 欲望に目を輝かせるでもなく、ある種の病のように取りつかれたようになっているわけでもない様子が、逆に印象的で。
 機械仕掛けの本格的なゲームは未体験だが、そんなに面白いのだろうか、と気まぐれに近づく。
 彼女の真後ろに立つと邪魔だろうから、とりあえず斜め後ろで彼女のゲームを見守る。
 調子はどうですか、というような声をかけて邪魔するのもなにか、と思って、とりあえず沈黙を保ちつつ。
 

ノイ > 機械の奏でる音楽は。どうしても一周が短い物の繰り返し。其処に性能を割く代物ではないので、当然と言えば当然だろう。
だが寧ろそのせいで。絵柄リールが回る間、同じフレーズが幾度も奏でられるのは。ちょっとしたドラムロールを思わせる盛り上げぶり。
……縦横三段ずつの中、中段に二つ止まった絵柄はどうやら果物。数字が並ぶ大当たりには程遠いが、それでも、当たりは当たりである。
残り一個が揃うか否か――固唾を呑んで見守る少女。今ばかりは周囲で飛び交う悲喜交々の声音も、けたたましいメダルの金属音も、まるで耳に入らない様子。
これが、配当大当たりの掛かった大一番であったなら。思わず足を止め覗き込む客も多いのかもしれないが…其処まででもないからか。
少し逸れた背後に足を止めた、女性。それ以外に注視している者は居なさそうである。

回る。回る。次第ゆっくりと速度を落とし、視認出来る程になってきたかと思えば、目当ての赤い果実の絵柄が――

 ……一段、手前で。止まってしまった。

「――――ぁー……ざん、ねん。難しいんだね、相手が何を考えているでもない、機械になると。こんなに――」

首を竦める少女。その声音は、差程興奮した度合いは無いのだが…それでも。些か残念気ではあるか。
勝ち負けをシンプルに愉しむ事が出来るなら、寧ろそれこそが目的と言って良いのだが。だからこそ、ある程度は勝ってみたくもある訳で。
筐体の端、手の届く所に、少女は積み重ねたメダルを置いたまま。直ぐに投入出来るように…ではあるのだろうが。
それはそれで、勝負に熱中している間に、横合いから掠め取っていく不届き者が居るかもしれない――という不用心具合。
そんなメダルを一枚掬い取ろうとしたものの。偶々指先から滑り、転げ――その一枚を追い掛けて振り返る目線が。
いつしか背後に立っていた、背の高い女性に気が付いた。

「ぁ。 …此処の人? …という訳でもなさそうだ…ね。 もしかして。順番待ち、してる…?」

エーゼル > 人の真剣さというのは、伝染するものだという。
掛け金も払い戻しも巨額の機械というわけではないようだが、それでも真剣さにつられて固唾を飲んで見守ってしまう。
さくらんぼうだろうか、果物の柄が二つそろった。
残りひとつの絵柄がゆっくりと確定に向かい……あと一歩、というところで停止してしまう。
あー、と内心で落胆の声を漏らす。

カジノの絢爛たる毒にどっぷり浸った者は、自分以外のすべての人間が落ちることを望むとかいうが、
女は健全な配達人稼業で、そういう毒とは無縁な生活である。
他者が外れを引けば、同様に残念に思う一般市民的思考回路である。

「あ」

と、相手が自分の気配に気づいて振り向いた。
他人のゲームを見物というのは、カジノでは珍しい風景ではない。
しかし、少し相手に近づき過ぎていたかも知れない。
彼女の真剣さにつられてしまった。
自分のゲームにもくもくと集中するタイプの博打である、鬱陶しいという顔をされてもおかしくないが、
どうやらさほど気を悪くした様子はないようだった。
ただ邪魔をしてしまったか、と思って慌てて応える、

「ううん、違うよ。単なるギャラリー……邪魔しちゃったならごめんね。私、こういうところは仕事で寄る程度だから、色々ものめずらしくって」

カジノの様々なゲームも、その雰囲気も、ゲームに興じる者も。
とりあえず、それで言葉を終えては相手も困るかな、と思って、カジノの定型句を付け加えることにした。

「調子はどう? 楽しんでる?」

ノイ > 運を天に任せたいのなら。正直カジノという場所は。人の思惑が絡み過ぎて、到底お勧め出来る物ではない。
もしかすればこの機械だって。何処までも偶然を装うかのようでいて…予め。当たるも当たらぬも最初から、順番で決まっているかもしれないのだ。
とはいえ意思や感情を持つ事のない、機械での運試し。そう認識している少女からすれば。愉しめているらしい。
どちらかと言えば儲けたいというよりも。当たる当たらぬでドキドキしたい。其方が目的なのだろう――配当の低さも含め。

残念ながら、後方に視線を迎えての一戦は。惜しい所で止まった、というべきか。
次に入れようとしたコインが転げ落ちた事で、背後の人物に気が付き、声を掛けてみたのなら。
当の女性はやはり従業員では無い様子。
――それはまぁ、見ての通り、ではあるか。小洒落た黒服という訳でもないし…お約束の、兎の擬人化めいた格好でもないのだし。
どうやら此方と同様物見遊山か、言葉を借りれば仕事帰り、という奴か。それを聞かされ、ふむ、と頷いてから。
一度身を折り手を伸ばし。彼女の靴先辺りで止まったメダルを拾い上げ。

「勝つ事こそが好調だっていうのなら…残念。何回か不調が続いてるかな―― でも、楽しい。
うまく行くか分からない。何が起きるか読み取れない。…好きに動いてなんて、くれない。それが私には楽しく思えるから……  ぁ、っ」

掬い上げたコインを指先で弾き、上へと投じ。きらきらと光りながら落ちてくるそれを受け止め――ようとして。
上手く行かず、再度落とし掛けては両手でどうにか受け止める。運動神経という奴はあまり宜しくないのだろう、似非お嬢様。
それから思い付いたと言わんばかり。今度は落とさずに済んだそれを――彼女の前へと突き出した。

「珍しい?気になる?だったら、一度――試してみない…?
この辺で、わたしもそろそろ……誰かの運を。借りてみるのも良いかな…って思うから」

エーゼル > カジノを金儲けの場と考えるタイプの少女ではないようだ。
ギャンブラーという存在の是非など考えたことはないが、鉄火場に住まう彼らとは価値観が違い過ぎて話が合うかどうか不安なので、それは助かる。
盛大に着飾ってもめかしこんでもいないが、そこはかとない育ちの良さみたいなものを感じさせるあたり、文字通りの意味でゲームを楽しみに来た富裕層の息女かなにかだろうか?
初対面のあいての素性をまじまじ、しげしげ探るタチでもないので、そこで彼女のバックボーンについて考えることはやめた。

実際、彼女が取り落としたメダルのせいで自分のほうに振り向いた、と気づいたのはそんな遅いタイミングのこと。
彼女がメダルを拾い上げる動作を見て、気づいた。
あ、ごめん──と呟いて少し身を引いたところで、相手は弾き挙げたコインを取り落としそうになったので、高度は体を前に倒して、あわあわ、というありさま。
どうにかキャッチしたのを見て、ふう、と額を手の甲で拭う。
彼女の言葉は何やら大自然的というか、巨視的というか、自分を俯瞰しているようで、返事に悩む内容だったが、本人が楽しいならそれが一番だ──と言おうとしたところで、ずいっとキャッチしたコインを突き出される。
それをのけぞり気味に受け取り、

「いいの? じゃあ、試してみよっか」

と、特に迷うでもなく乗っかり。
視線で、試すというのはあなたのやっていた絵札合わせの機械で? と、視線をそちらに向けて、少女に戻す。

「先に言っておくけど、私、運は普通だよ。びっくりするくらい」

良くもなければ悪くもない……良いよりも悪いよりもコメントに困る運量。