2023/11/30 のログ
■ヴィルヘルミナ > 「ふふ、意外に勝てるものね♪」
同じ頃、別の貴族少女もまたこの闘技場を訪れていた。
コクマー・ラジエル学院の生徒でありながら、ここに集う強者相手に腕試しに来たのだ。
勿論、普段の催しであればそのような理由で参加するのは、敗北時を考えれば躊躇する。
だが、今回は参加者の女性を抱くためには相手を魅了する必要があるらしい。
つまり生粋の同性愛者である彼女、ヴィルヘルミナにとってはノーリスクで戦いだけを行えるということ。
そして、彼女もまた既に4回戦を勝ち抜いていた。
「まぁ賞金はいらないけど…称賛されるのは悪くないわね」
これでも貴族、それも辺境伯という大貴族。金に困っているわけではない。
しかし全力を尽くしての勝利の味は、何物にも代えがたい。
「さて、と……ん?」
そろそろ休憩時間も終わり。いよいよ最後の試合。
ストレッチをしていたヴィルヘルミナのもとへ、係員が一人駆け寄ってくる。
そして耳打ちした内容は……。
「と、言う事で、予定変更で貴女の相手は私になったわ。よろしくね?」
闘技場で、対峙する少女にヴィルヘルミナは勝気に微笑む。
背丈はこちらの方が大きいが、年齢はほぼ変わらない。
本来のマッチング相手にトラブルが発生し、急遽試合が組み直されたという。
4戦勝ち抜いた女同士という異例のマッチ。
しかし……同性愛者の彼女にとってこちらの方が好ましいのは、言うまでもない。
■メルリンディア > 「わっ、あっちも大盛り上がり」
こちらの休憩中の合間も、闘技場の盛り上がりを下げるわけにはいかない。
表と裏といった感じに、お互いにインターバルを挟む間に試合を組まれていた。
そちらの戦いの様子は流れてこないものの、毎度試合が始まる度に沸き立つ歓声からどれだけ強い相手が戦っているのかが分かるというもの。
そちらも4回戦勝ち抜きという声と共に、強い女性だと褒め称える声も聞こえれば、すごいなぁなんて遠い世界のことの様に考えながらジュースをのんびり飲んでいた。
そろそろ準備時間も終わる、万が一に備えてお花摘みもちゃんとして、軽く準備運動。
程よく体に熱を宿して解していきながら、ぺたんと床に足を開いて座り込み、体を伏せていく。
柔軟さをきっちりと活かせるように関節を柔らかにすると、試合ですという声に合わせてその場で倒立回転。
元気よく返事をすると、鞭を片手に廊下へと抜けていった。
「最後の試合、予定が変わったんですか?」
なにやら対戦相手が、集まらないという異例の事態が発生したのだという。
大体は表と裏、どちらかには負けが発生するものだが、どちらも負け知らずの女が勝ち抜け。
流石の腕自慢達も尻込みし始めていたらしく、それならと最後の試合は勝ち続けた女同士の勝負となったらしい。
とはいえ、それではどちらでも勝ち進んだ勝者が損気味なので、勝ち負けに問わず5勝分の賞金は保証。
更にこのマッチアップに勝てば、上乗せがもらえるという大盤振る舞いときた。
逆に言えば、次から女性が参加する時の期待値を煽るためのボーナスと言ったところなのだろうが、説明される当人はすごいなぐらいな感じで子供っぽいよくわからない顔をしている。
そうして闘技場へと抜け出れば、歓声が沸き立つのだが、先程の四試合目以上。
向かいに対峙するのは金髪赤目の気の強そうな同い年程度の少女。
ブレストプレートらしき防具とベレー帽よりも、波打つ両手剣から感じる威圧感に少しばかり息を呑む。
「みたいだね、ちょっと予想外でびっくりしちゃったよ。うん、よろしくね?」
こちらはお友達との顔合わせのような柔和な微笑みを浮かべてご挨拶。
少し見上げるような感じになると、自分のほうが年下みたいな気分になる不思議。
客たちの方では賭け事でもしているのだろう、自分や彼女に勝利を願う声がいくつも飛び交う。
明日の生活がかかってるんだからななんて言われると、あははと苦笑しながらも、審判が軽く試合前の解説。
といっても、既に何度も訊いたルールに過ぎず、それが終わると両者離れてと手で示されていく。
それに従いとてとてとあるきながらお互いに距離を離す、大凡20m前後の距離感だろう。
構えてと言うように片手を振り上げる審判、それに合わせて鞭のグリップを握り込み、わずかに爪先立ちになる新体操めいた構え。
ほんわかとしていた表情がほんの少しだけ引き締まると、実年齢に近い面持ちになるだろうか。
後はヴィルヘルミナの構えを確かめれば、開始のゴングと共に手が振り下ろされ開幕となるだろう。
■ヴィルヘルミナ > 見た目は少女同士とはいえ、その装いは対極的。
片や普段着ベースであろう冒険者の装いに、鞭という変則的な武器。
そしてヴィルヘルミナの方は、黒と赤の実戦的でありながら華美な戦闘衣装の上に胸甲、
そして手には彼女の身長に合わせてなお長大な、傭兵のよく使う両手剣。
(あんまり戦ったことのない武器ね……)
戦場を視野に入れ実戦的な鍛錬を積んだヴィルヘルミナにとっては、
剣や槍に比べ使い勝手の悪い武器に思える。
それでもここまで勝ち進んでいるのだ。油断はできない。
ヴィルヘルミナは両手剣を上段に構えながら、身体強化の魔法をいくつか口にする。
そして、開始のゴングが鳴り響く。
「痛かったらごめんなさいね!」
審判の手が振り下ろされるやいなや、ヴィルヘルミナは離れた距離を一気に踏み込む。
身体強化されたその走りは、少女でありながらまるで軍馬の突進のよう。
そしてその手に持つ両手剣。致命傷や身体の欠損等は与えられぬよう魔術がかけられているが、
それでも当たれば鋼鉄の棍棒で殴られるようなもの。
重量もあろうそれを軽々振り回しながら、ヴィルヘルミナは斬りかかる。
■メルリンディア > 敢えて普段着の様な軽装で身動きを遮らず、思った通りの動きをするための格好。
鞭というのも、結果として自分の体にあったからという選択ではあるが、彼女のようなオーソドックスな装備のほうが安定して強いのは間違いない。
それでも尚独自路線を行くのは、4回戦勝ち抜いたことで力のほどは示せている。
相手も同じ力量を持つ相手、雰囲気から油断が見えないと気を引き締めていく。
「サンドヴェール、ガイアパワーっ!」
大地の魔法を唱え、砂の幕を体にまとっていけば、魔法や物理攻撃に対して少々耐久力が高まる。
それでも岩の様な硬さとまではいかず、あくまで直撃時の一撃ダウンを避けるような、か細い命綱だ。
そしてもう一つの魔法は逆に魔力を消費して身体能力を高める強化魔法だが、がっつりと強化を入れていく。
抑え気味に行く理由はラストというのもあってないと言えばそうだが、全身全霊で戦わねば勝てないとこちらも察し付いていた。
「早っ!?」
まさに騎馬吶喊の如き踏み込みは、あっという間に迫らんとしていた。
それに合わせてこちらは、まるで足元に落とし穴でもあったかのように、ぺたんと体操の如く両足を開くようにして体を沈めながら斜め前へと抜けていく。
間違いなくあんなので一撃食らったらアウトなのは目に見えており、完全に回避に振り切りながら一閃をかいくぐると、両手をついて倒立回転で起き上がりつつ、片手を上げる。
手首のスナップだけで鞭を操ると、通り抜けた彼女の方へと鞭を振るい、足元の地面を叩いてからバウンドするように手の甲を狙った一撃で反撃を試みる。
ダメージこそこちらも鞭が怪我させないように防護魔法を掛けられているので、大怪我はさせない。
けれど皮膚の痛覚を攻撃する武器なので、柔らかい防具越しでもその痛みは貫通してくるはず。
当たれば痛みで体力を削る攻撃を仕掛けながら、すとんと着地して立ち上がり、二人の距離は5m程というところか。
(でもまた懐に来るよね)
相手からすればこちらの得物はゼロ距離に弱いと見えるだろう。
それもあって、身構えはするが、相手の手札も未知数。
ぎゅっと唇を噛み締めながら、幼い顔は緊張に満ち溢れる。
■ヴィルヘルミナ > 見た目通りというべきか、目の前の少女の動きは柔軟で素早い。
ヴィルヘルミナの一閃を掻い潜ると、手にした鞭で反撃を試みながら距離を取ってくる。
「期待外れじゃないみたいね!」
最初の試合など相手は相当に油断していたのか、初めの一撃でノックアウトされてしまったものだ。
それ以外の相手も、そう長くはもたなかった。果たしてこの少女はどうだろうか?
砂埃を上げながら静止したヴィルヘルミナは素早く振り向くと、己の両手剣を素早く構え鞭の一撃を弾き返した。
それでもじん、と衝撃が腕に来る。
硬い剣と柔らかい鞭、向こうはいくら弾き返しても衝撃は感じまい。
そして身体に当たれば、全身甲冑というわけではないヴィルヘルミナにとっては十分脅威。
「なるほど、ね」
厄介な武器だ。そして彼女は鎧を着ていないが、魔法によりその身に防護を纏っている。
ヴィルヘルミナは己の手札の中から、それを何とかする方法をひねり出す。
片手を剣に沿わせると、呪文を唱えながら撫でていく。
「……風よ!」
瞬間、ごう、と音を立て、両手剣の周囲を猛烈な風が取り巻く。
ヴィルヘルミナはそれを構えると、にい、と笑いながら鋭い視線をメルリンディアに向けた。
「さぁ、これはどうかしら!」
再度、一気に踏み込む。そして両手剣を今度は槍めいて突き出す。
砂の幕に当たれば通常の一撃より派手に吹き飛ばし、鞭を防げばあらぬ方向に弾き飛ばす。
そして、軽々しく動けばその風圧により体制を崩しかねないだろう。
■メルリンディア > 「そ、それはどうもぉっ!?」
どうにか回避しての反撃を入れると、相手からは何処か嬉しげな声が響く。
戦うの大好きっ子だと心中独白を入れながらも、放った鞭は刃に遮られてしまう。
しかし、その衝撃と武器と防具の相性は戦いを好む彼女からすれば、直ぐに相性の具合がわかった様子。
それは防御した顔から、気配から、そして何より呟いた一言の重たさが物語る。
そしてこちらも、相手の一撃の破壊力に慄くのをどうにか抑え込んでいるような状況。
多分魔法で防御力を上げていたとしても、一撃でアウトといえる破壊力。
それに対してこちらは体力を削っていく戦いをしなければならず、その合間スタミナを削ることになる。
スタミナが尽きれば、もちろん回避の精度は下がっていくので、その一閃に潰される確率は上がっていく。
即ち、早く勝負をつけねば、こちらも不利であるという状況でもあった。
「ぁ……!!」
不味い、あれはとてもまずいと直ぐに企み笑みと共に携えた魔法を察する。
変幻自在の鞭は裏を返せば風に振り回されやすいという問題があるが、それを得物にまとわれると一振りするだけであらぬ方向へ逃されてしまう。
魔法をかき消すには、あれを鞭で覆わねばならないが、そんな隙を見せるような相手ではないのは、対峙する自分がよく分かる。
半笑いに冷や汗をかきながらも、こちらも次の手立てを打つしかない。
「お察しがよくて、手強いよ……っ!!」
吶喊からの強烈な刺突は、騎馬の突撃と大差ない迫力を感じさせられる。
それに渦巻く風をまとうなら、もはや暴風雨の突撃とも言えようか。
身を捩って彼女の右手側へと回避するものの、ザリっと切っ先が脇腹をかすめていき、ねじれる感触に苦悶の表情を浮かべながら、爪先立ちの体幹が崩れる。
ぐらりと揺れて、体が倒れ込みそうに鳴りながらくるりと周り、右足を大きく振り上げていく。
柔軟性を武器にから全体を撓らせながらのフルパワースイングの力がが、つま先に一点集中。
全身が鞭となってギュルンとうねりながら、捨て身気味の上段回し蹴りを放てば、スカートはもはやひっくり返る勢い。
嗚呼、絶対見られてると頭の片隅で真っ白なレースショーツを憂いながらも、実際に引き締まった鼠径部から上、股間を包み込む白生地のショーツは丸見えになっていた。
その状態で鞭脚の蹴りが、ギュンと振り抜かれていくが、これが外れればその勢いと風の効果で自身が倒れて転がり、仰向けになるのは必至。
最後の賭けといった一閃が決まるかどうか、終幕の駆け引きが始まる。
■ヴィルヘルミナ > 「それは光栄だわ!」
砂煙をごう、と巻き上げながら、ヴィルヘルミナが迫る。
その気迫は思わず観客達すら息を呑むほど。
掠めただけでその切っ先は、メルリンディアの体力を削り取る。
そして、かわされたにも関わらず、ヴィルヘルミナの視線は彼女を捉え続ける。
砂嵐めいて回り迫る、メルリンディアの片脚を。そして、
ガンッ!!
打ち付ける激しい音。巻き上がる砂埃。
それが徐々に、徐々に晴れていけば、そこには…。
「……トドメにはまだ早いんじゃないかしら?」
己の剣を捨て、頭狙いの一撃を構えた右腕でガードし切ったヴィルヘルミナの姿。
大重量の両手剣を自在に振り回すことを可能にする体幹は、メルリンディアの蹴りでもビクともしなかった。
そして間髪入れず左腕が彼女の足を掴むと、そのまま思い切り振り上げる。
…そう、彼女の身体を、己の剣のように。
「ごめん、あそばせッ!!」
そして、メルリンディアの身体はそのままヴィルヘルミナの腕力で、地面へと。
砂埃を巻き上げながら激しく叩きつけられる。
ダメージに耐え起き上がろうとしても、直後にずしりと自身の身体に乗る重みをメルリンディアは感じるだろう。
直後、紅の瞳がメルリンディアの眼前に現れ…。
「はい、詰みよ?」
至近距離で彼女を見据えながら、ヴィルヘルミナは笑う。
同時に首筋にひやりと冷たいものが押し当てられるだろう。
武器かも怪しい、小さなナイフ。しかし首を掻き斬るには十分なもの。
■メルリンディア > 全身全霊の蹴りが振り下ろされ、鈍い音が響き渡る。
後一撃もらったら、おそらく体を捻る痛みで自分がやられてしまう。
それぐらいに追い詰められての上段回し蹴りは、小さいながらも鬼気迫るものがあったのかもしれない。
エロスに上がる歓声よりも、戦いに息を呑む観客たちは静まり返り、砂塵のうねりだけが響く。
そして、それが消えていくとこちらにもはっきりと見えていた。
「う、うそっ!?」
蹴りの速度、それだけについては他の誰にも負けない自信があった。
体の靭やかさを利用した、神速とちょっと思っちゃう様な風切り音を響かす蹴り。
それが刈り取った意識は数え切れなかったが、今日、その一撃が防がれていた。
右腕に掛かったダメージは間違いなく大きいと思われるが、それでも頭部に届かなければ意識は刈り取れない。
牽制をと思い、足を引っ込めようとするが、それより先に掴まれてしまえば、不安定な片足立ち。
「きゃんっ!?」
膂力任せの剛の大技とでもいえようか、人体素振りな振り落とし。
体を振り上げられ、世界がぐるぐると回る中背中から地面に激突すれば、目を白黒させながら肺の空気を吐き出す。
舌が伸び切って、背中が痛みに仰け反りながらバウンドするも、直ぐ様体の上に感じる重みに沈む。
マウントポジションを取られたと察してから、片腕を盾に反対の手で拳を握るのだが、ピタリと首筋に感じる冷たい感覚。
詰みと言われ、押し当てられたそれは刃物のようにも感じる。
違うならまだ対応の方法はあるが、仮に動けたとして勝ち目が今あるだろうか?
体力は削がれ、背中にダメージを受けた体、マウントポジションと不利が3つも重なると、うぅと悔しげに眉をひそめる。
「負けました……」
両手を上げてホールドアップ、敗北を認める合図に審判が手を挙げる。
それを合図に試合終了のゴングがなれば、歓声は一気に爆発するように溢れるだろう。
今日、ヴィルヘルミナに賭けた男たちは明日も楽しい日々が、メアに賭けた方は辛酸を嘗めて椅子を叩いてそうだ。
はーと深く溜息を吐き出しながらも、握手の手を伸ばしながらニコリと微笑みかけていく。
「完敗だよ、弱点思いっきり突かれちゃった。そう言えば名前とかまだだったね、私はメルリンディア、長いからメアってよんでね? それにしても……最後の相手、貴方でよかったよ。負けちゃったら大変だったもん」
もしかした体を求められていたかもしれないわけだから、と。
まさか相手が同性愛者だとは知る由もなく、安心しきった声で語っていた。
■ヴィルヘルミナ > 彼女が両手を上げ、審判が手を挙げたのを見届けてから、ようやくヴィルヘルミナは首筋のナイフを腰のベルトに戻した。
そして上体を起こせば、四方八方から鳴り響く歓声と拍手。
ヴィルヘルミナは誇らしげに立ち上がり、ベレー帽を取って観客に一礼。
そして、立ち上がったメルリンディアに改めて向き直った。
「そういえばそうだったわね…実況が名前を言ってた気もするけれど。
私はゾルドナー辺境伯家のヴィルヘルミナよ。よろしく、メア」
そして握手を返そうとしたところで、メルリンディアの些細な呟きがヴィルヘルミナの耳に入る。
それを聞いた彼女は…悪戯気な笑みを浮かべた。
「ふぅん……?」
メルリンディアが握手の為に伸ばした右手に、左手の指先を絡ませると己の方へと引き寄せる。
そして右腕で彼女の腰を抱き寄せ、彼女の瞳をじっ、と見る。
「貴女さえ良ければ、私は貴女との一晩が欲しいのだけれど?」
■メルリンディア > 腰に収めたナイフを見やれば、やはり投了して正解だったと安堵の吐息。
上体を引き起こしてもらうと、歓声と拍手に呆然としていたが、一礼をする彼女を見れば慌てて立ち上がる。
彼女に倣ってペコリと頭を下げると、改めて彼女と向かい合う。
「えへへ、名前はちゃんと言い合って知りたいなって。って、えぇっ!? 伯爵家のお嬢様だったの!? え、えっと……よろしくね? 私も一応、セルヴァイン男爵家の娘、だよ」
握手の後、少々申し訳無さそうに眉を顰めて笑いながらも、より安堵していく。
伯爵家の娘さんなら、そんな悪いことするはずもないし、きっと自らの武勇を示すために戦ったんだろうと想像。
キリッとしたいい子なのかななんて想像しながら、ぽやぽやとした平和ボケのほほ笑みを浮かべていると、悪戯な微笑みに、キョトンとしたまま瞳が瞬いた。
「ん? へっ、あっ、えぇっ!?」
片手を恋人繋ぎのように絡めては、引き寄せられる掌。
驚きのままたたらを踏んでいると、気付けば彼女の腕の中である。
そうして腰を抱き寄せるなら、靭やかな蹴りの源となるそこは少し厚みがあり、柔らかな女性らしさに満ちる。
狼狽しながら右に左にと視線が逃げ惑う中、見詰め込まれる視線に捕まるように赤色と緑色を交差させた。
「……えっ、えぇっ!? わ、私みたいなお子様とか……!? ミナちゃんはそっちの方、だったの!?」
勝手に愛称が生まれるぐらいには取り乱しており、ちゃん付けしながら目を白黒させる。
拒むつもりはないが、まさか同性愛者だとは思わず慌てふためきつつも、すんなりとあと一歩の頷きが出来ないところ。
■ヴィルヘルミナ > 「辺境伯は普通の伯爵よりちょっと上よ。セルヴァイン……あぁ、最近爵位を貰った?」
辺境とは即ち他国との境目であり、戦争になれば最前線となる場所。
そこを任せられる貴族は、王からの信頼を得た選ばれし貴族達だ。
住まいこそ王都からも離れているが、十分に名家と言える。
だが、そうは言いつつもヴィルヘルミナは、メルリンディア相手に偉ぶるつもりはないようだ。
「そっちの方…まぁそうね。だからこの催し、安心して出られたわ。
まぁ、そもそも私に勝てる男が居なかったけど」
お互い四勝。まず勝たねば交渉の権利も得られない以上、魅了する以前の問題だったと言える。
その点、ヴィルヘルミナはしっかりとメルリンディアに勝った上で交渉している。
主催からしてみれば想定外だろうが、ルールは破っていない。
「子供なんて…私と変わらない歳じゃない。すっごく可愛いわ…」
絡めていた指先を解き、左手がすっ、とメルリンディアの頬を撫で、
首筋まで降りた指先は、今度はすすす、と顎へと向かって行く。
そして、くっ、とメルリンディアを上向かせれば、じい、と瞳を見据えて。
「それとも、私じゃ嫌?」
戦闘時とは別の意味で、捕食者の瞳である。
少し動けば口付けてしまいそうな近さで、ヴィルヘルミナは問う。
■メルリンディア > 「そうなの? 危ない危ない……今度から気をつけるね? そう、お父さんとお母さんが魔具で貰ったの」
辺境伯と伯爵との違いなど、普段の生活だと訊かない……というよりは、夜会にもあまり顔を出さないタイプの放蕩娘状態なので、知識の浅さがモロに出てしまう。
申し訳無さそうに苦笑しつつ、軽く頬を掻いて誤魔化そうとしつつ、続く言葉には子供のような笑顔を浮かべた。
自分のことのように嬉しそうに微笑むと、いい人だななんてすっかり心を赦しつつあった。
「そ、そっか、負けてもヤダって断れるし、理由も女の子同士じゃないと……だから嘘はついてない。あはは、凄く強かったもん、勝てる男の人なんて、そうそういないよ」
女性とは思えぬ剛の戦い方は、今思い出しても軽く身震いしそうな気迫。
その圧倒的な気概と戦闘力の前に、どんな男も成すすべなく倒されてきたのだろう。
ルールの裏をかいた話に賢いなぁなんて感心しながらも、こちらを求める掌が頬に触れるとピクリと肩が跳ねていく。
「ひゃっ……そ、そうだけど……ち、ちっちゃいし、お胸だって、こんなだし……か、可愛いっていってくれるのは、うれしい、けど」
背丈の差もあり、顎を引っ掛けられた指先に促され、上目遣いになって見つめ合う。
こうして間近に迫り、胸元が重なっても薄い胸元の感触は、彼女に比べれば未発達といえようか。
真逆に臀部はそれなりの膨らみがあるのが少々コンプレックスだったりするのだが、それは今は問題ではなく。
問いかける言葉に、みるみる間に頬を赤らめていくと、あわあわと視線を右に左に逃がしていく。
狼狽える最中、唇も間近となり、ほんのりと汗に混じって白桃めいた香りを届けつつ、瞳を伏せながら羞恥の声を響かせた。
「わ、私……女の子と、したこと……ない、から……上手じゃ、ないと思うけど」
それでもいいのなら、構わない。
そういう様に困り顔の微笑みを浮かべながら承諾していく。
その後の二人が何処へと向かっていくかは今はしれず、きっと万雷の拍手の中で闘技場を後にすることだけは間違いない……。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からヴィルヘルミナさんが去りました。
ご案内:「」にヴィルヘルミナさんが現れました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からメルリンディアさんが去りました。