2025/02/03 のログ
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ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にホアジャオさんが現れました。
ホアジャオ > 曇天の空の下で波は穏やかだが、冷たい風は肌を掠めるだけでも刺すように痛い。
客船が寄港したばかりの港は、下船する人迎える人それらを相手にする露店とその露天目当ての人とで賑やかにごった返しているが、皆一様に早足で吐く息も白い。時折人々が見上げる空は灰色の分厚く低い雲で覆われていて、白いものがいつ落ちてきてもおかしくなかった。

そんな船着き場の片隅、港の労働者たちが屯している辺りは妙に熱気があった。
ドラム缶に焚かれた火があるからだけではない、肉体労働者が寄って集まるとよくある催し、『力比べ』をしているからだ。
場所により顔ぶれによりやり方は様々だが、今は腕相撲で盛り上がっている様で―――

「爽啦(やったね)!」

ワッ!と歓声と悲鳴が混じった声が上がる。その中心でガッツポーズをとるのはいかにもシェンヤン出身の女だ。
女と木箱を挟んで反対側、対戦相手だったらしい女の2倍は身体の厚みがありそうな男は、悔しげに顔を歪めて自分の手を眺めている。
その間に周囲でまた更に悲喜こもごもの感情の波が走って行く。当然のように賭けも同時に行われていて、敗者と勝者の感情が入り混じった声がざわめきとなって満ちていて小規模な闘技場のさながらの様相だ。

ホアジャオ > 「あと1回勝ったらアタシの優勝って事で帰るかンね。もう少ししたらバイトの時間だから」

賭けに勝ったほうの客と激励のハイタッチなど交わしたあと、女を含めてひとしきり周囲の興奮が去ったところで宣言する。
時計など持っていないし、太陽が見えない今は時間の感覚は大分曖昧だ。ほんとうは昼過ぎには戻ってこいと言われていたし昼食代わりの点心を平らげて大分経つ気もするが、あと1勝負くらいあっても構うまい。

―――というように心の内であと1勝負と付け足して行って今に至る。
何人抜いたかはよく覚えていないが、2回ぐらいは中々面白い勝負があった。
帰る、と宣言したのは一応、自分への戒めだ。あと、もし負けたらもう一勝負どころではないという言い訳の道も残してある。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にクレイさんが現れました。
クレイ >  
「おいおいなんだ、随分盛り上がってるじゃねぇの」

 片隅の熱狂を聞いてやってくる1人の男がいる。しかし周りの様子などを見てハハハと笑った。

「なるほど、大体察したわ。お前負けたのかよ力自慢してきたってのによ」

 先ほど負かされた大男をバシバシと叩いてケラケラ笑う。
 それから目線を向ける。

「後1回、勝ったら優勝だっけか? じゃ、言い換えればここでお前に勝てば優勝は貰いってわけだ」

 ポイッと腰から薬瓶を投げる。
 ポーションだ。

「飲めよシルバーメダル。負けてから連戦したから、なんて言い訳は聞きたくねぇぜ?」

 シルバーメダル。つまりは2位と挑発をしてから今までの挑戦者と同じ位置に立つ。

「ついでに利き腕じゃないもだ。好きな手でやりな。俺の得物はこれだ、同じように利き腕じゃない。なんて言い訳はしない」

 ポンポンと両方の剣を叩く。二刀流、つまりは両効きだと。

ホアジャオ > トーナメント戦でもなんでもなかったのでそもそも優勝も何も無いし、賞金も無いので『優勝』したところで得るのは自分の満足感だけである。
なので女としてもそんな優勝が貰われていってもとくに構わなかったが、相手のものの言い様に眉を吊り上げて、それからすっと下げた。

「…要らないよ、そンなの。そンな言い訳するヤツなんてここにはいないと思うよ」

それだけ言うと、女は先に使っていた方とは逆側―――左腕の肘を木箱に乗せる。
周囲では、早速賭けを募る声が広がって行くが
船着き場で働く常連と見えるものたちは、賭けには乗らず見守る様子だった。

クレイ >  
「そうかい、じゃ遠慮なく」

 相手の手を待ってからこちらも手を置く。
 体格で言うなら先ほどの男よりも一回り近く小さい事になるだろう。しかし自信を持ち続けている。

「おいおい、相手に賭ける声が意外と多いじゃねぇか。まぁあの筋肉馬鹿を仕留めたってのなら納得ではあるが」

 スッとと目を細める。
 レフェリーが双方の手を掴んだ事だろう。

「ただの筋肉の量だけで勝敗がつく訳じゃないから今があるって忘れちゃいねぇか」

 レフェリーが開始といった刹那。手が離れるか否か。それ程の速攻。
 即座に力を加える。テクニックと体重移動。それらを乗せた力……先ほどの大男よりも上の力を。

ホアジャオ > 早さを競うだけなら負けないだろう。現にその速さで負かしたこともある。
今回の女の動きは相手のカウンターとしてだったが、その反応速度は観戦者からはほぼ同時と感じられても相違ないものだったろう。

ただ加えた力の方向は違う。
相手が横倒しに掛かるのに対して、女のほうは引く力だ。
相手が反応すれば膠着することになるが、違うのなら肘が滑るか浮いて、隙が生じてしまうだろう。
そしてその隙を逃す女ではないことくらいは、相手も解っているだろう。

クレイ > 「随分と手の込んだ技使うじゃねぇか。反応し返してやってもいいが」

 ある意味でこれは余興。それはこちらもわかっている。
 つまりはお互いの強みを見せて初めて観客を沸かせられる。だったらこのまま膠着させるのが正解か? 否、そうは思わない。
 負けそうな場面から勝つ。それが観客の望む展開だ。

「ほら、乗ってやったぜ」

 一瞬肘が滑った。
 だが、最大の違和感を与えるのは男の態度。乗せられたではなく乗ってやったと言わんばかりの対応。不利なはずなのにその自信は開始前と何も変わらず。

ホアジャオ > 女はべつに周囲を沸かせるつもりはない。自分がやりたいようにするだけ。この力比べの最初からそうだ。

相手の態度は気に喰わなかったが、勝つことにこだわる気持ちは失せてしまった。無くなってしまったものはしょうがない。なのでこれ以上相手の思惑を読むこともなく、滑った相手の肘の角度から、ほぼ本能で力を込められない方向の逆へと押した。
きっと勝っても負けても、試合開始からの女の感情のなくなった表情は変わらなかったろう。

クレイ > 「……」

 相手を見ている。
 相手の思考を読める読めるからこそ。

「やめた」

 手を解く。感情がないような顔ならその程度は容易だろう。
 解いた後に軽く体を伸ばす。

「やっぱ疲れてんじゃねぇの? そんな状態の相手とやってもしゃあねぇよ」

 別の理由かもしれねぇけど。そんな言葉は言わず踵を返す。

「つまんねぇもん見せた謝礼だ。お前ら1杯奢ってやる」

 そう周りの客に告げる。

「お前も帰るならさっさと帰れよ。夜はあぶねぇからな」

 特に引き留めたりしないのならそのまま男は去って行くだろう。

ホアジャオ > 相手が解いた手を軽く振る。
木箱に屈み込んでいた体勢から背筋を伸ばすと相手に一礼をして女は踵を返し、どよめきはじめる人垣を掻き分けて去って行った。そろそろバイトの時間だし。

彼のお陰で、試合が無効となったことで荒れそうになった場所はきっと収まるだろう。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からホアジャオさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からクレイさんが去りました。