2024/11/10 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にナランさんが現れました。
■ナラン > 昼間の賑わいが嘘のように人の出入りがなくなった夜の船着き場。
埠頭に押し寄せる穏やかな波音が響いて、渡っていく潮風は陸の空気よりもほんのすこしだけ温かい。
そんな中船着き場の隅、積み荷用の空き樽やら空き箱が並べられている辺りから賑やかに騒ぐ声。
夜に務めが終わった海の男たち相手の夜店がいくつかあって、今はそこに数人の客があった。
手っ取り早く腹を満たしたり喉を潤したりして、それだけだった筈が久しぶりの陸だという船員仲間の無事を寿いでいたりしたらいつの間にか長尻。いつもの風景。
(…いつみても、楽しそう)
その相手をする屋台のひとつで店番をしている女は、ふと手元から目を上げた拍子に目に入る光景に微笑をこぼす。
■ナラン > ここの本当の店主は子供が熱をだしたとかで、商品―――塩胡椒の効いた挽肉をバンズに挟んだ、片手で食べられる軽食―――の作り方の手順と機材の使い方を女に伝えると大急ぎで帰っていった。
昼間にも店を出していた彼女に料理の作り方を尋ねていたところに、丁度子供についての話を聞いてしまったものだから
(―――つい、引き受けてしまいましたけど)
明後日はタナール砦の戦線に加わる予定だ。準備を入念にするなら、本当は今日は塒に帰っていなければならなかった。
でも多分、彼女の頼みを聞いていなかったら何となく気になって後悔をしたはずだ。
子どもの様子が落ち着いたら戻ってきてくれると言っていたが、この時分となっても来ないのならば容易ではない事態なのかもしれない。
それはそれで落ち付かない気持ちになるが、女にできることはここで大人しく店番をすることだけだ。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にヒューさんが現れました。
■ナラン > 誰ぞ、楽器を持ってきたものがいたらしい。波音を縫って弦を弾く音が聞こえてくる。空き樽やら木箱を簡易テーブルと椅子にして、ちょっとした宴会が始まりつつあった。
女は少し驚いたように目を見開いてからまた笑みをこぼして、彼女に書いてもらった、仕込みからの手順も含めた料理のレシピに目をおとす。
同じものを再現するのは少し難しそうだけれど、似たようなものなら作れるだろう。
どれを何に置き換えて―――と思考を巡らしているとその手元に影が落ちる。明りは客が集まるほうにある。どうやらそのうちの一人がこっちに向かっているようだ。
女は手元のレシピを丁寧にたたんでしまうと、逆光で見えない客の顔の方を眩しそうに見ながら商いの準備のために立ち上がる―――
■ヒュー > 船に乗り込んでの長い仕事を終え、ふらりと戻ってきた男。
身体は陽に焼け、新たな傷痕も増えてはいるが五体満足。
未だ揺れているように持感じるのは長い船旅での揺れに体が順応したせいであろう。
其れは龍の身体では味わえぬどこか不思議な感覚。
何はともあれ小腹が空いたと思えば、何か飯でもつまもうと賑わう人波の中ぶらりと歩いていると、馴染みの相手が何故か屋台の中で何かをのぞき込んでいる様子。
「なんだ?飯屋を開くことにでもしたのか?」
等と夜の露店を照らし出す明かりを背に響いたのは男の低い声。
暗い中でそんな明りを背負っている男の顔は直には判別できぬであろうが─。声やそれ以外の部分で気付くか─。
■ナラン > 「――――……」
驚いて声を上げたことはあれど、すぎると声が出なくなるらしい。
何度も聞いたその声を、女は聞き違えようもない。
海の男たちは揃って体格がいいから、たとえ彼と体格が似ていることがあっても驚きはしない。
――――と、思っていた相手が、本人とは。
女は暫し、まん丸に見開いた目で逆光で見えない相手の表情を見上げながら、唇を幾度かあけて、とじかけて、ひらいて。
「―――いえ、ちょっと 知り合いに店番を頼まれたんです。
…ヒューさんは?どうしてここに?」
声は平静を保っているけれど手は商いの準備をしていいのやら他の事をすべきやら。最終的には、女の手はとりあえず鉄板の温度を上げに掛かった。
■ヒュー > なにやら、驚いている様子の相手。
最初は男の体を見て何やら小さな反応をするも、声をかけたことによって気付いたようで、目を丸くして、パクパクと動く口。
紡がれぬ言葉を待ち小首を傾げ。
向けられた言葉はどうしてここにいるのかという問い。
「海の向こうでの仕事を終わえて帰ってきたところだ。」
本人はお気楽かつ愉し気に言葉をかけて、因みに出る時には面白い仕事を見つけた。ちと長くなるかもしれんが行って来る。 だけで─。
「で、船を降りて減った腹を満たそうとしてぶらぶらしていたらよぉく知っている女の匂いが混じっていてな。 それを辿ってきただけだ。」
等と言葉を返しながら逡巡しながらも最終的に鉄板の温度を上げ始める。そんな動きを楽しげに眺めていて。
■ナラン > 「…そうですか」
初めて女の塒に彼が来た時の事を覚えている。その時も脈絡もなく突然だった。
だから帰ってこなくなったあとも―――いなくなってしまったときも、そんなものかと 納得 したのだ。
見上げていたら塩辛いものがこみ上げてきたのに気づき、慌てて手元に集中するふりをして視線を落とす。
「他の屋台からも美味しい匂いがすると思うんですけれど。―――お酒とか。
…楽しいお仕事だったんですね?」
成型してある肉種を、十分鉄板が熱くなったことを確かめてからその上に置く。―――ふたつ。
彼女のレシピによると本当は、1個にひとつなのだけど。
■ヒュー > 「うむ。」
男は短く小さく頷き応えながら男は女の手元をどこか楽しそうに眺めていて。
「あぁ。楽しかったぞ。酒は海向こうの酒を持っているからな。 それよりもナランの匂いを確かめる方が先だっただけだ。」
焼けた鉄板の上に敷かれた成型してある肉種がじゅぅと音を立てて二人の言葉の間に響き渡る。
久しぶりに嗅ぐ香ばしい肉の香りに男はついついナランの手元に釘付けになる。
「ふむふむ。こっちに返ってきたばっかりでナランのめしにありつけるとはツイてるな」
等と男は無邪気に喜んでいて。
■ナラン > 脳裏にごちゃごちゃと勝手に言葉が浮かぶ。
すごく心配したのだとか連絡がなくて不安だったとか無事でよかったとか
その間にも手はなめらかに動く。油がはじける音と焼き色を確かめるとひっくり返して、少しのスライス玉ねぎとともに置いて蓋をかぶせる。
女はうつむいたまま唇を少し噛んで、その間に浮かんだ涙は頬を伝うことなく落ちていった。
「それは… どうも。ヒューさんにお酒よりも気にしてもらえるとは思っていませんでした。
……お客さん、で いいんですよね?」
只ではあげませんよ、と
顔を上げた女は、悪戯っぽい笑みを浮かべて彼を見上げた。多少瞳は湿っているかもしれないが、向こうの明りが反射しているだけだと思えるだろう。
■ヒュー > じーっと焼き色がつき始める肉種に視線を注ぎながらも、視野も広く動体視力も良い男は何やら落ちた雫の姿を捕え小さくぎょっとするも、まさか自分を思っての涙とは思い至らずに、玉葱に向けて悪い奴だな、等と感想を抱いたり。
「当り前だろう? それに、ナランを抱いているときに飲む酒や注いでもらう鮭の方が美味しいしな。
ふふん。それも当然だ。 俺も学んでいる。雇われ店主の悲哀、えいぎょーせーせきというやつで有ろう。 何だったら買い占めても良いぞ?」
等と豪快に笑いながらこちらを見上げた相手の目は湿り反射が強くキラキラと光って見え、ついついじっと見つめてしまう。
「やはり玉葱か? 悪い奴め。」
等と呟きながらカウンター越しに手を伸ばし女の頬に触れ軽く目尻を撫でようとする。
どうも玉葱、下処理、人は涙を流すなんていう状況を思っているようで。
まさか幾度か出した手紙は不安定な航路やらによって届いていないなど露とも気づいておらず。
■ナラン > 「!っ―――こういう所で言わないでください…!」
宴会は続いていて、彼の背後からは音楽と今や歌声も聞こえてくる。聞いていたとしてもおこぼれを狙う猫くらいだったろうが、女は息を飲んで顔を額まで真っ赤に染めて彼を睨み上げる。
―――が、呑み込んだ息はため息のようにうすく、ほそく漏れて
しまいには困ったような表情で微笑った。
「…変なところに 変な知識があるんですから…
玉ねぎじゃありません。 お買い上げ、ありがとうございます」
火傷しますよ、と伸ばされた手を押し戻す。鉄板越しだ、肉だねの上に置いたふたを取れば熱と蒸気とともに肉汁と香辛料の香りがふわりと広がる。
『営業』らしく慇懃に言葉を紡いでまた笑って、女の今夜の仕事はこれで仕舞いになるのだろう―――
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からナランさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からヒューさんが去りました。