2024/04/19 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にメルさんが現れました。
メル > 久しぶりの本業
それもご近所に請求書を届けるなんていうお遣いではなく、れっきとしたお仕事の手紙
まぁ、その内容までは関知しないけれど、いわゆる真っ黒な内容であることは間違いない。
仮にそうであったとしても、どうということもない。

短い船旅を終えて、降り立ったのは港湾都市
王都とはまた違う空気を吸い込んで。

『くぅー……』

潮風に混じる美味しそうな匂いに釣られて、お腹の虫が騒ぎ立てる。
匂いのもとを辿ると、船乗り場近くにいくつもの屋台が出ているのが見える。
どうやら船乗りや荷運び人を目当てにした店らしい。
ふらふらと誘われるように、そちらの方へと脚を向け。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にレイヴンさんが現れました。
レイヴン > ふらり。
その日立ち寄ったのは、港湾都市と名高いダイラスだった。

なにか用事があって立ち寄ったのではない、文字通りに風の向くまま気の向くまま。気楽な旅人だからこそ。
王国からぐるり、海沿いに旅をしてきたら辿り着いただけでもあるし、何なら帰りは船旅と洒落込むのも良いかもしれない。
辿り着いた今だからこそぼんやりと、そんな風に思いこそすれど。やはり、根っこの所は『なんとなく』に収支する。

――さて。折角辿り着いたのだから、その土地の名物なんかにはやはり舌鼓を打っておくべきだろうと。
手近な市民に声を掛け、この辺りでのおすすめは、と問うてみれば。
帰ってきた答えは様々で。基本的には海の幸がおすすめとして挙がっていた。

その中でも男が興味を惹かれたのは、船着き場付近にある屋台通り、というコメントだった。
ちゃんとした料理、なんて食べようと思えば、大きな街であればどこででも食べられるのだから。
こういう場所でしか食べられない屋台の品、という響きに惹かれてしまうのは、致し方のないことだろう。

「あらぁ。壮観ねぇ」

辿り着いた波止場の港付近、船乗りや作業者の邪魔にはならない、少し離れたその場所で。
幾つもの屋台が立ち並び、それぞれが芳しい香りを立てているのを見れば、思わず上機嫌に笑みを浮かべながら独り言ち。

『くぅー……』という可愛らしい音が聞こえたのは、その瞬間だった。

「……あら?」

何の音だろう、と。きょろり、周囲を見回せば。どうやら目的を同じく屋台に定めたらしい、小柄な少女の姿が目に入り。
ふらふらとそちらに向かう様子に、思わず小さく笑みを浮かべて。

「――ふふ、こんにちはお嬢さん。美味しそうな香りよね」

なんて、その背中に声を掛けつつ自分もまた、屋台の方へと歩き出し。
強い否定を受けなければ、少女の歩幅に合わせて行ってみようか。

メル > 屋台の前には、人が列を成している。
どこのお店を見ても、閑古鳥が鳴いているようなことはなく。
そういう意味では、どこも繁盛していて。

「はい?」

不意に掛けられた声に、首を傾げつつ振り返る。
知り合いなんていない街だから、なおのこと。
視線の先には、中性的な雰囲気を持った誰か。
やっぱり知り合いではなかったことに頷きをひとつ。

「美味しそうなのには賛成だよ。
 どれにするか悩むところだけれど、何かおススメってあるのかな?」

海に面した街だけあって、魚や貝の串焼きが香ばしい匂いをさせている。
他にも一夜干しなどが目につく。
それらをぐるりと見遣ってから、声を掛けてきた相手へと問いかけて。

レイヴン > 「こんにちは。ちょうど辿り着いたところで、可愛らしい虫の声がしたものだからつい、話しかけてしまったの。
 気に障ったならごめんなさいね?」

声掛けに、不思議そうな様子でこちらを見やる少女に、穏やかな笑みを浮かべながら謝罪と声を掛けてみた理由を話して。
そう語る男の口調こそ女性的だが、その声音は若干高いとは言え、疑いなく男性のものだ。

続けて尋ねられた問いには、顎に手を当てて少し考えて。

「私も、この都市に来るのは初めてなのよね。だから、確実なオススメっていうのはないのだけれども。
 こういうとき、自分なり選ぶ方針みたいなのならあるわね。

 ずばり、『他の街では見たことのない、食べたことのないものを選ぶ』ね。それがないなら、素直に美味しそうだと思ったモノを選ぶわ」

なによりもまず優先すべきは、未知だと胸を張って主張した。
旅先、初めての土地という未知の場所なのだから、食べるべきものも未知を選ぶべきであるという、ある種の信念のようなもので。
それがない、満たされないのであれば己が食欲に従うのが良いというのもまた、間違いなく。

「例えば……そうね、アレなんかはどうかしら?」

そう言って見回し、男が示したのは屋台の一角、少し開けた場所で。
延焼しないように区切られた空間の中で、度数の強いアルコールらしき液体を掛けられた蛤に炎の魔法で着火して焼き上げるという豪快な、料理と呼ぶべきかショーと呼ぶべきか判断に迷う屋台の一つで。

メル > 「虫って、え? 嘘、まさか聞こえちゃってた?」

声を掛けた理由が明かされると、それは思ってもみないものだった。
恥ずかしそうに顔を赤くして。
恐る恐る確認のために問いかける。

「なんだ、初めてさんだったんだ。
 『食べたことのないもの』ね。
 うん、せっかく違う街に来てるんだし、それはありだよね。」

相手の言う方針
それに大きく頷きを返し。
そうした視点で改めて屋台を見回した。

「わぉ、なんていうかすごく派手だね!」

言われて、向けた視線の先。
大きく燃え上がる炎が周囲の視線を集める中、
香ばしい匂いが立ち込める。
大粒の貝は食べ応えのありそうなもので。

「あっちもすごくない? あんなの見たことないんだけど。」

そう言って指を向けたのは、幾つもの足を持つ、細長い何か。
それが網の上で炙られている。
見るからに魔物の一種かと思える出で立ちだけれど、チリチリと炙られる香りは堪らないもので。

レイヴン > 「さぁ、ご想像におまかせしておきましょうか。
 女の子に、恥をかかせるのも悪いものね」

聞こえていたかと問われれば、くすくすと笑いながら返して。
恥を、と言っている時点で答えているようなものなのだけれども、明言を避けることで最低限の矜持を守ってあげましょうと。

「パフォーマンスとしても中々よね。それに美味しそう」

ちょうど焼き上がった瞬間らしく、火の手が途絶えて。
購入した人々が渡された貝殻の中身を見れば、みずみずしくぷりぷりの身が大きな貝殻にみっちりと詰まっているのが見て取れて。
どうやらそれに一差し、ボトルに入った調味料を垂らして頂くらしい。

「どれどれ……あら、デビルフィッシュ(イカ)じゃない。あんなのまで食べちゃうなんて、逞しいのね」

少女が指差し示した方を確認してみれば、網の上で炙られているのはイカの姿か。
場合によっては巨大で船を襲うと言われている魔物の一種のはずだが、どうやらああして調理されているものは幼体か、或いは近縁の別種か、二の腕程度のサイズしかないようで。

「どっちも捨てがたいわねぇ……。よかったら、シェアして食べていかない?
 こうして知り合ったのも縁でしょうし。この調子なら、きっと他にも美味し(面白)そうな出店もありそうだわ」

気になった店で、一人前ずつ食べて行けばすぐに腹が膨れてしまう、と。1人前を分け合って食べていけば、その分様々な品を味わっていけるだろうと。

メル > 大振りの貝殻の中には、ぐつぐつと煮立つ貝汁
そこに調味料をひと差しすれば、ジュッと香ばしい香りが立ち昇る。
短い竹串でプリッとしたそれをいただく様は見ているだけで唾が湧いてくるもの。

「デビル…? やっぱり魔物なんだ?
 そんなのまで食べちゃうなんて、凄いんだね。どんな味なんだろ。」

どうやら丸焼きに齧り付くわけではなく、焼けたそれをぶつ切りにするらしい。
細長い胴体の中は空洞らしく、輪切りにされたソレは、魔物の威厳など露ほどもなく。

「あ、うん。ソレが良いかも。賛成だよ。」

見ず知らずの相手だけれど、シェアの申し出には快諾する。
それなりに食べる方だとは思うけれど、それでも限度というものはある。
色んなものを食べてみたければ、相手の申し出はまさにうってつけで。

「じゃあ、あっちのも良いんじゃないかな。」

片っ端から、美味しそうなもの、気になるものを注文していけば、
重ね持ったとしても両手が埋まるのはあっという間のこと。
屋台で買い食いする客用に備え付けられたテーブルに、ずらりと並べられたそれは圧巻で。
並んだ皿の量だけで言えば、ちょっとした晩餐会かと思えるほど。
それをあーでもない、こーでもないと味の批評をしながらの食事会は始まったばかりで―――

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からメルさんが去りました。
レイヴン > 「魔物と言うか、魔物もいるというか。……ほら、イノシシなんかだって大型化すれば魔物扱いだったりするじゃない?」

少女の疑問に、例えを出したりしながらコメントをしたり。
輪切りにされていく様子を見れば、すっかりあれは料理だと認識されていく自分の感覚に、苦笑を浮かべたりなんだり。
それはそれとして、やはりあれは賞味してみるしかないな、と頷いて。

「そう? それじゃあ、一緒に回りましょうか、お嬢さん。
 私は、レイヴン。渡り鳥のようなものよ」

旅人ね、と。抽象的な自己紹介に、わかりやすい説明を付け加えて。
食べ道楽に快諾を受ければ、にこり、嬉しそうに笑みを浮かべて。

あれはこれは、と次々と興味のままに動き回る少女を、やや後方から見守りつつ。ちょっかいを出そうとする荒くれなんかに睨みも効かせたりしながら。
やがて出揃った料理の群れは、予想以上の顔触れで。
結局粗方網羅してしまったのではないか、と考えつつも。自分も、またこの少女も楽しめたのであれば、細かいことは気にする必要もないかと結論付けて。

そうして始まった食事会は、男の旅の思い出の一つとして刻まれていくのだった。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からレイヴンさんが去りました。