2025/03/18 のログ
■ラッツィオ >
「傭兵の真似事をすることもあるが、俺は便利屋。言い換えりゃ、何でも屋だ。
名前はラッツィオ。
――といっても、200万の蛇を捕まえる仕事を頼まれても断るがね」
懸賞金と、そのあまりに目立ちすぎる風貌から、女を見つけたとき素性はすぐに思い当たった。
やはり噂話に聞くより、実物を目にするほうがいい。
美貌に魅入っているうちに首を切られたという噂も、大袈裟ではないのだろう。
幸運か不運か、今の時点では分からないが、偶然には感謝をしながら、悠然とした動作で酒瓶と一緒にぶら下げていた2つグラスに黄金色の液体を注いでいく。
「なら言い方を変えようじゃねェか。
金輪際、あの男の命を保証しろとは言わねェ、こっちも善人でやってねえからな。
仕事のカタがつくまで待ってくれ、あいつの握ってる情報がどうしても必要なんだ」
波々と注いだグラスの片方を女の前に押し出すと、乾杯も言わずに自分は先に口をつける。
半分ほどを一気に喉へ流し込み、それに毒や薬など入っていないと示して。
大袈裟な仕草で肩を竦め、周囲の殺気を受け止めながら困ったように笑えば。
「まさか、惜しいに決まってるだろ。
こっちもトチればどうなるか分からねェ仕事をしてるから、
こうしておっかねェ "蛇魅の女帝" と話し合いに来てるんじゃねえか」
■ザリアナ >
「何でも屋、ねぇ…」
男を値踏みするかのように向けられる紅眼。
僅かな時間の後、長い脚を組み替えながら、背凭れへとその体重を預けるように上背を凭れれば。
「この王国で何でも屋で喰っていけてる…。ってことは。
まぁ薄汚れた仕事も当然のようこなすんだろうねえ?」
細い顎に手をあて、お先にと言わんばかりにグラスに手をつける男を見据え、問いかける。
「──なら話は早い。
そっちの用件が済み次第、あの奴隷商の首をお前が獲ってきな。
一度助けてるんだ。信頼されてるだろ?簡単な話じゃないか」
注がれた酒には手をつけず、胸の下で腕を組み、女はそう持ちかける。
この"おっかない"現場から"命が惜しい"と言うならば、何でも屋の仕事して標的を殺せ──と。
「部下を探させに出したが、プロでやってるならどうせどこかに匿ってるんだろう?
それなら一々探す手間も省ける。丁度いいね」
■ラッツィオ >
「薄汚れた仕事、ねェ。
糞尿の詰まった肥溜めから、貴婦人殿の豆粒みてえなイヤリングを探すクソ仕事もしたが――
……おい、睨むなよ。冗談だ。
条件次第じゃ、どんな仕事でもやれるモンなら引き受けてると言いたいだけでな」
長い脚を組み替えるだけの仕草すら眼福なのだが、気づかれぬように視界の端の端で捉えることが今は限界。
椅子の背凭れに背を預けた上で、胸の下で腕を組む姿勢は、初心な男ならば誘惑されていると勘違いしかねないほど艶然とした所作。
その強烈な引力に屈しないタフな面を自身が持ち合わせていたことに、今は感謝をしながら、視線は女の顔に固定して。
「――なるほど。噂には聞いてたがキモの座った女だ。
その話を受けるとして、やり方は俺に任せてもらっていいんだな?
情報を絞るだけ絞ったので殺しました、ときたら、俺の評判に傷がつく。
殺されても仕方ねェ……殺るなら、そういう状況にアイツを追い込んでからだ」
グラスを口に運んでいた手が口元で止まり、金眼を鋭く尖らせて女の真意を図る。
とはいえ圧倒的に優位を握っているこの場で、架空の仕事の話をする意味が女にはないはず。
残りの酒を一気に喉へ流し込んで、音を立ててグラスをテーブルに置き。
「引き受けるから金をくれ、とは言わねェよ。
ここにいる野郎どもと乱痴気騒ぎにならなかったことと、
アンタみたいなおっかねえ美人と顔見知りになれただけで釣りがくる、今回はな」
■ザリアナ >
「殺り方は好きにしな。ただし口を封じるなら早いほうがいい…。
悠長にしてるとお前も一緒にその首を斬られることになるだろうねえ?」
物騒な言葉を吐きながら、口の端を歪める女。
とても堅気の女では出せない危険な雰囲気を纏う姿は、妖艶といえど近寄ることを躊躇させる。
「始末するにしても手垢が残らないほうが都合がいいからねえ。
成功報酬は、ひとまずお前の無事を保証してやろう。ヴィクターにも報復はさせない。それで構わないだろう?」
そうして言葉を終えても、女は酒へと手をつけない。
賞金首として、盗賊団の首領として、用心深さも兼ね揃えているのだろう。
男…ラッツィオへの信頼は、まずはその仕事を見てから判断する腹積もりであるらしい。
「ラッツィオ…だったか。
腕が良ければ別の要件で使ってやっても構わない。
少なくとも、無謀かどうかはおいといて、度胸は据わってそうだ」
■ラッツィオ >
「やれやれ。急いて仕損じたくはねェんだがな。
女帝に仕事の手際を見せるいい機会が転がり込んできたと、
前向きに考えるとするかね」
のらりくらりと自分の都合で仕事を進める腹積もりでいたが、それは見透かされていた様子。
だが悪びれた態度もなく、飲み干してしまった自分のグラスにだけ酒を注ぎ直し。
「ああ、構わねェとも。ついでに――……いや……」
綱渡り同然だった交渉に一応の結実が見えそうになると、思わず軽口が突いて出そうになるが。
テーブルを取り囲んでいる手下たちが、目立たぬよう武器に手をかけ、女頭首の号令を待っていることを危うく思い出す。
口から出かけた軟派な言葉を、酒と一緒に喉へと流し込んで有耶無耶にした。
「――5日。いや、3日だ。
3日以内にカタをつける。
ただ、そうだな……
贅沢を言わせてもらえるなら、アンタの手下に伝えてハイ終わりってンじゃなく、
アンタに直接会って報告させてもらいたんだが、どうだ?」
テーブルの上で腕を組み、やや乗り出すようにして女に提案する。
少なくとも度胸については、女の下した評価通りには持ち合わせているのだった。
■ザリアナ >
「うちの部下の仕事を邪魔したんだ。それくらいはやってもらわないとなあ?
そうそう、その意気だ。使えるようならまた使ってやったっていい」
一旦話がつき、男を取り囲んでいた盗賊達もその殺気を和らげてゆく。
女といえば、相変わらず。高圧的な姿勢は崩さず、淡々とした言葉を紡ぐ。
「3日。上等だね。 ──へえ、直接アタシに…?」
その提案には、女は薄ら笑いを浮かべる。
度胸は一級品。ガタイも良く、人の要素が強いが、見たところ亜人、あまり見かけないタイプだ。
「下心なら間に合ってるが…ふむ、お前みたいなのを一匹飼っておくのも便利ではあるかもねえ…」
「──ま、まずは仕事の手腕次第だ。
大体の仕事は盗賊団の内部で完結できるようにしてあるからねえ。
お前がいたほうが便利だと思わせられるように頑張ってみな?」
飽くまでも不敵に女は語り、癖の強い波打つ様な黒絹の髪を掻き上げ、その隙間からは紅眼が男を射抜くように見据えている──。
■ラッツィオ >
「分かってる。可愛いヴィクターにしても、ちょいと鼻血が多めに出ただけだとは思うが……
腹の虫が治まらねェってのなら、一発だけって条件でブン殴られてやってもいい」
この妖婦を中心に纏まっているだけのことはあり、女の殺気が和らぐと手下たちも武器から手を離したよう。
ようやく張り詰めていた糸が少しばかり緩み、フゥと小さく吐息をついた。
「単純な腕っぷしなら、アンタの仲間に敵わないヤツがいるかもしれねェけどな。
ざっと5人分ぐらいの働きが出来るつもりはあるぜ。
――色んな意味でな」
軽口にしても、今宵はこの程度で抑えておくのがよいだろうと。
女の獰猛そうな蛇紅眼に射抜かれても、男は鋭い犬歯を覗かせ、ニィと憎らしげに笑った。
二杯目のグラスも飲み終えると、椅子を引き、テーブルから立ち上がる。
酒瓶にはちょうど半分程度が残っており。
「握手――……ってガラでもねえし、最初に触るのが手ってのも面白くねェ。
それじゃあな、3日後に」
手下たちの耳に入れば聞き捨てならない言葉だったかもしれないが、通り過ぎる間際、女にだけ聞こえる声で。
別れを告げて店を出ていく間、背後を振り返ったりはせず。
それは狡猾で油断ならない相手ながらも、女を信頼しているからだった。
■ザリアナ >
笑みを見せ、酒場を去るラッツィオを盗賊達が見送る。
背後から襲いかかる者も、何かを仕掛ける者もいない。
それは男が、我らが首領の取引相手として成立し、長の命令なしで勝手に手を出せない待遇となったことを意味する。
「ヴィクターとでてったヤツら探して呼び戻して来な。あと3日は街に留まるよ」
いいのか、と周りの大柄な盗賊が眉を顰める。
「自分で始末をつけるって言ってるんだ。お手並み拝見と行こうじゃないか。
どういうタマかはまだわからないけどねえ、丁度町で動ける手駒も確保して起きたかったところさ」
すれ違いざまに聞こえた言葉は明らかに男の下心を伝える者。
その当たりも、実にいい度胸をしていると言える。
「上等な酒も置いていってくれたことだしねえ?
毒の類も入ってなさそうだ、お前らで分けな」
──さて、亜人の何でも屋とやらの手際はどの程度か。
一先ずお手並み拝見と、再び賑々しさを取りもしたバフートの酒場で、女は酒の注がれた目の前のグラスを眺めていた──。
ご案内:「奴隷市場都市バフート・裏酒場」からラッツィオさんが去りました。
ご案内:「奴隷市場都市バフート・裏酒場」からザリアナさんが去りました。