2023/11/12 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にシェティさんが現れました。
シェティ > 人間の堕落と退廃を体現したかの如き街並みの中、通りの雑踏の中を侍女風貌の女が歩みを進めてゆく。
蒼銀の瞳が周囲を見回せば目に映るのは『売り物』として店先に並べられた奴隷達に、客引きの声を掛ける娼婦、
道行く人々の中にも首輪や枷で繋がれた人物を引き連れて練り歩く光景が数多く見て取れた。

鎖に繋がれ、檻に入れられた彼らの経緯を慮るつもりは女にとっては露程も無く、憐憫や同情といった感情も抱かない。
唯、時折救いを求める様に虚ろな視線を此方へと投げ掛けて来る様を見ているのは、余り心地の良い物でも無かった。

「――――………………?」

そんな彼らの視線を避ける様に足早に通りを進んでゆくと、少し開けた場所に人だかりが出来ているのに気が付いて。
興味が沸いた――と云うよりは、本来の目的である調査の役割を果たす為、侍女風貌の女は人だかりの中へと身を投じてゆく。

シェティ > 人だかりの中心部、小高く設けられた舞台上で繰り広げられて居たのは見世物の一種。
其処に繋ぎ留められた一人の女が、様々な道具を用いて責め立てられながら、整った眉目を苦悶と快楽に歪ませてゆく様が見て取れた。
如何やら、奴隷では無くそうした道具を扱った店舗による宣伝を兼ねた趣向の演目である様子で、
責め手側に回って居たのもまた妙齢の美女である事に侍女風貌の女は一瞬目を瞠ったものの、
周囲の観客達には其れも含めて好評の様子で、好奇と情欲に満ちた視線が二人へと一斉に注がれているのが判る。

「――――……全く、次から次へと妙な事を思い付くもので御座いますね。人間というものは………。」

誰に聞かせるでも無く、微かな声量で零れ出たのは嘆息混じりの独白。
行為に用いられていた道具の中には、女にとっても未知で得体の知れぬ物も幾つか見受けられたが、
其れを今回の『調査』の成果として態々主に報告するのも躊躇われた。
ともなればこれ以上この場に長居する理由も無く、舞台上の行為に目を奪われ続けた人だかりから抜け出そうと踵を返して―――。

ご案内:「奴隷市場都市バフート」にルーカスさんが現れました。
ルーカス >  
――醜悪な。
見上げた舞台上の光景を目の当たりにし、湧いた言葉はなんとか飲み込まれた。
此処はそういう場所で、求められてあるのがあの光景なのだ。
己はその醜悪と向き合う為にこの地に足を向けたのであるから。

様々な感情と熱が渦巻く視線。
周囲の者と肩がぶつかる事も厭わず前に前にと舞台に吸い寄せられる人の波。
その人の波は、一方に流れていた。
だからこそ――それに逆らい振り返る少女を、避け損ねた。

「……すまない、怪我は無いか」

満足に動ける程の隙間が無かったからでもあるが、この体格差だ。
身に纏う侍女服を見るからには他家の使い。怪我でもあれば揉め事にもなろう。
大樹を揺すったような、低く太い声を少女に差し向けた。

シェティ > されど数を増してゆく人だかりは、舞台上の光景をもっと近くで見ようと中心部へと流れてゆく一方。
其れに逆らおうとする侍女風貌の女の動きは思いの外に侭ならず、僅かな隙間を縫いながら進んでゆくのだけれども。

「―――……ッ………。」

その行く先へと不意に現れた大柄な体躯に衝突し、女の身体が僅かによろめく。
さりとて其処で盛大に転ぶ様な愚は犯さず、すぐさま姿勢を正しては今しがたぶつかった相手へと頭を垂れて見せ。

「………いいえ、此方こそ失礼致しました。怪我も御座いません。」

謝罪の句を紡ぐと同時、投げ掛けられた問い掛けに対する答えを返しながら、蒼銀の瞳が上目遣いに相手の姿を一瞥する。
この付近では余り見掛ける事の無い、騎士装束に身を包んだ大柄な男。
その装いはこの場所には少々不似合いにも思えたが、何れにしても必要以上に関わり合うのは避けた方が良いだろう―――。
そう判断を下した侍女風貌の女は、それでは――と一言を残し、何も無ければ彼の脇を擦り抜けて去り行こうとする。

ルーカス >  
「あぁ、それなら良い――こちらも不注意だった」

静かに腰を折り、少女の姿を一瞥する。
場に不似合い、と言えば己も大概ではあるがこの街を一人で歩くのには不用心とも言えよう。
そこに抱くのは僅かな引っ掛かり。
しかし魔術を看破する手段があるわけでもない故に、彼女の種族が視覚的に判別がつくわけでもない。

「主人の姿が見えないが、一人か? 買い出しに出るには此処に用のある物な、ど……」

言って、視界の端に普段見かけぬ物々の山が映り、言葉が濁る。
あるか、此処にしかない物。

「……淑女に改まって問う物では、無かったか」

すまない。
改めて述べる謝辞は恥じ入るように掠れた物。
駆け出すその背を呼び止めかけた違和感、それを問い詰めようとした言葉は吹き飛んでいた。

シェティ > 本来在る筈の頭部の巻き角と背中の蝙蝠羽根は、魔法によって隠蔽してある。
時に優れた魔法の才や第六感の持ち主であれば看破する事も叶おうが、今の女は見た目の上では人間と何ら変わりない姿の筈だ。
それを差し置いても、その身に纏った侍女服が相手の騎士装束並に不似合いな装いである事を指摘されれば、否定は出来ないが。

「はい―――今は私一人、主の命にて赴いておりますが、此れでも身を守る術は心得ております故。」

不意に続く問い掛けが投げ掛けられたならば、去り行こうとする足を止めて男の方を見遣り、回答の後に一言付け加える。
其れは目の前の相手を安心させる為と云うよりは、見縊られぬ為の警戒の色を交えた言の葉。
さりとて、騎士装束に直剣を携えた目前の男と真っ向から打ち合って無事で済むかと言われれば怪しかったが―――。

「………?いいえ。そう言う貴方様は………彼方の見世物をご覧に?」

言葉を濁らせる相手の様子に小さく首を傾げながら掠れた謝辞に否定の句を返して、何気なく浮かんだ疑問を口にする。
此処が王都であるならば、目の前の男が巡回中の騎士である可能性を疑わなかったのだろうけれども、
この街の今の状況下ではその様な者が存在するとも考え難く、残るもうひとつの可能性を口にするのだった。