2023/08/16 のログ
ヨハン > 今日の依頼はバフートにおける奴隷の護衛。
とはいっても、その仕事は既に終わった、オークションが終わり、奴隷の護衛をする必要がなくなったのだ。
だからこうして、あまり来ないバフートを見学して見れば。
たくさんいる、いや見つかる。なんとも自分よりも高位だったはずの魔族や貴族らしき美しい者たち。
その誰もが目に光をともさずに、安く売られているのが見えて。
頑張れば自分でも手が届きそうなのもいる辺り、なんというか、この都市なんだなぁと感じて。

「へぇ、じゃあキミはこの空気が好きなのかい?」

と、眺めていれば聞こえてきた女の声に振り向く。
そこにいた、非常に扇情的なドレスに身を包んだ美しい女性の姿。
ここにいる奴隷と違って、どこか光り輝くような目をしている彼女を見て。

「ここにいる奴隷の一人かい?それとも襲われ願望の痴女?
ふふ、どっちにしろ。そんな恰好で出歩くと危ないよ?僕みたいな暴漢に攫われ、裏で犯されるかもしれない」

メルト > やさぐれた精神に、人の不幸は蜜の味。
悪徳に満ちた退廃と快楽に、堕とされた者の悲哀を隠し味とした空気は実に心地が良い。
さすがに、同族相手だと同情や慈悲の心が湧く部分もあるが。それは、それ。
街の空気に浸りながら、このような淫紋もあるのかなどと展示されてる奴隷の淫紋へと視線を送っていたところにかけられ声。

「うん? 堕とされる側としてはともかく。そうでないなら、この都市の空気は悪いものではないと思うわよ」

堕とされる側であれば、望んで堕ちるような被虐嗜好持ちは別として。個々の悲劇なり悲哀があるとして。
堕ちた者で快楽を味わい。富を得る者達にとっては、この都市の空気はむしろ好ましいものなのでは。そんな、言外の意を込めて、声をかけてきたまだ若い男へと向き直り。
問いかけるように、小さく首を傾げてみせ。

「あら、奴隷に見える? 少なくとも、まだ奴隷ではないわね。
襲われ願望は、有るかもしれないわね。そんな欲望を向けられる程に、わたしが魅力的だという事でしょう。
裏路地にでも引きずり込んで犯したいというのなら、実行してみたらいいわ。自衛は、するけど」

続く相手の台詞に、首輪は嵌めてないわよと己の細く白い首筋を撫でてみせ。
挑発的で、悪戯めいた笑みを向け。豊かな己の乳房を強調するように、己の身を抱きしめて、乳肉を寄せて集めて盛り上げる。
男へと向ける瞳は、相手の態度や程度を見定めるように、どこか冷たいが同時に侮りも宿っていて。自身への自負が窺える。

ヨハン > 「まぁ、やられる側じゃないのならここは確かにそうかもしれないねぇ」

彼女の言葉に頷きながら、となれば彼女は今はその堕とされる側ではなく、堕とす側にいるのだろうか。
身なりは美しい。そして強い自信があり、だからこそ自分へとそんな視線を向けているのだろう。
だが同時に、その挑戦的な態度は決して単純な侮りだけではないとも感じる。
それに、こうして自信がある上にここまで扇情的な身体を見せつける意図は。
やはり襲われたいと感じる。それは無論、性的な意味だけではないとも感じて。
なら。

「まだ奴隷じゃない、ねぇ。じゃあ今から奴隷にでもなってみるかい?
引きずり込んで犯すのもいいが、そんな軽い気持ちでキミを見てたんじゃダメだろう。
キミを負かして奴隷にする。……そのぐらの気概がないと、キミの主人になるのに相応しくなさそうだ」

そう、獰猛な笑みと言葉で応えて。侮られたことへの怒りと、自尊心を傷つけられたという事実。
それは間違いない。だからこそ、ナメられたままでは自分は終われない。
彼女の挑発的な言葉と視線、それに堪えるのは簡単だが。
見定めるつもりなら、それに真っ向から立ち向かうのがこの青年の性根であった。
これが単純に彼女が遊ぶつもりとかだったのならともかく、自分の価値を軽んじられるのは我慢ならないのだ。

メルト > 「まあ、そういう事ね。ここに限らず、王国全土。世の中のありふれた話も気もするけど」

納得。あるいは、理解の様子をみせる台詞に、そういう事と頷く。
上に立つ者が、下にいるものから搾取を行うのは見慣れた光景。その程度や様式の違いがある程度。

「今から、わたしを奴隷に? 
確かに、単に犯してたいという程度の軽い気持ちよりは、奴隷堕ちするぐらい徹底的に犯してやるとかそういう気概があるほうが好きね。
でも、負かすというのはそういう意味だけじゃなさそうね」

男であるのなら。この胸とか、この雌穴の具合とか味わいたいのでしょうと、己の乳房を右手で持ち上げて揺さぶり。左手で、意味深に股間の当たりを指先でなぞって、妖艶な笑みで挑発し。視覚的に相手を揺さぶる色仕掛けで、相手の理性を揺さぶりにかかり。
単純に自尊心が強いのか、強力な隠し札を持つ相手なのか。じっと、観察の眼差しで目を細めて見つめ。
特に強力な魔力の気配も感じず。見た目からして、技量に自信のある戦士タイプと評価。

「わたしを奴隷にしたいのなら、好きな手段で屈服させてみなさいな」

そして、挑発的な物言いとともに、両手を広げて挑戦を受けると言わんばかりの態度。
相手がどのような手段を選ぶかはともかく、念の為に魔剣の投影準備だけは裏で済ませる。

ヨハン > 「悲しい話だね。まぁ、悲しいと言ってもそれはやられた側だけ。
それをする、行う側としてはむしろ歓迎なのかな?……それはキミも同じかもしれないけど」

上に立つものとしての心得があるような彼女の言葉。そしてその態度。
おそらくは、位としては決して低くはない。高い位置にいるからこその言葉と捉えて。

「そりゃあね。……そういうキミだって、自衛とは言うけど……」

少女の、その肉感的な肉体を使った蠱惑的な仕草に目を奪われる。
だがその視線は男として、欲望を刺激されたが故ではない、どちらかというと観察に近い。
理性的ではないのだろう。現にこうして挑発に引っ掛かっている。わかったうえで引っかかっているが。
強いかどうかも現時点ではまだわからない。だが決して、侮ってはいけない相手なのは間違いない。

「じゃあ、遠慮なくそうさせてもらおうかな」

そう言うと同時に相対する。彼女の挑発、そしてこちらの挑戦の承諾はもう済んだ。
受け入れる態度を取り、そして臨戦態勢を取る。ここから先は雄と雌を決める戦いだ。
周囲の眼など、虚ろな光を灯さない奴隷の瞳しかない。売り出す商人もいないからこその裏通り。
一歩、大きく、早く、人間としては非常に洗練され磨かれた踏み込みは瞬きと同時に目前にいるレベルの俊足で、
いつの間にか、目にも留まらず剣を抜いて彼女へと切りかかる。
人間としては、と答えたが……魔族としても、この若さで決して侮れぬ領域に入っている。
魔剣使いとして、剣の達人である彼女ならばそれは瞬時に理解できるだろうか。

メルト > 「あぁ、でも経験として語るのならば……尊厳ごと凌辱されるのほひとつの快感よ?」

薄く、どこまでも艶やかな笑みを浮かべてマゾ気質を物語る台詞を口に乗せ。
魅了するかのように、蕩けたまなざしを向ける姿からは嗜虐を誘う被虐の色香が濃厚に。
口にした言葉が、相手の心を惑わすための虚言か否かはともかく。そのマゾ雌としての気配は本物で。

「あら、思ったより冷静? でも、ここまでは想定の範囲内といったところかしら」

自分の仕掛けた誘惑にその剣の腕を乱される事も無く。
仕掛けると告げたと思えば、迷いなく素早い踏み込みと剣閃が襲ってくる。
仕掛けてくる事自体は読んでいたので、速やかに回避に入る。人外領域に踏み込んだ剣士が見せる飛ぶ斬撃や、伸びる間合い。
あるいは謎のビームなどを警戒して、後ろに下がって間合いから逃れるのでなく。サイドステップで横に避ける回避行動。
剣が斬り裂けたのは、回避動作でなびく髪の数本程度。
そして、お返しのように投影された魔剣が手元に現れ。矢のように射出されて、的の大きい胸元。心臓へと刃先を向けて迫る。
初撃を行うと同時に、次の投影体の展開準備を裏で済ませて、手数を増やしていく準備を始める。

ヨハン > 「へぇ~。キミ、結構な被虐癖もあるんだね。
そう言う経験があるって事は……負けたことも、一度や二度じゃないんじゃない?」

滲ませる、彼女の挑発の裏にある気配。それは決して勘違いではなさそうで。
それが彼女の術にハマらせるためのものかはわからない。だが、彼女は間違いない。
その本性はドMのマゾメス。しかもそれを上位者としての自分で無理矢理上書きしているような。

「冷静だよ。少なくとも―――負けた時の自分を想像しているドマゾなキミよりはね!」

そう吐き捨てながら、避けられた後にこちらの心臓へと伸びてくる刃先。
実力のまだ見えない相手なら、避けられるのは前提として考えるのは当然。
実戦では相手を侮ってはならない。何度も積み重ねたからこそ経験がモノを言う。
放たれたそれを、こちらも予測していたように返す刃で弾き。その場で足払いを仕掛ける。

「そんな扇情的で肌が見える格好をして、襲われたいのも本当だったんだろう?
実は負かされる自分を見たいんじゃないのかな?それも、こっぴどく負かされて、ここに並べられているような奴隷としての自分の姿を、さ!」

その足払いが成功しても失敗しても、その場で後ろに後転しながら距離を取る。
手数が相手が増えていくのなら、その手数をすべて防ぎきらなくては彼女のお眼鏡には敵わないだろう。
間違いなく、彼女は本来自分が挑んではならない相手。だからこそ挑みたい。
自分の目指す先に、人では届かない領域を見なければ、自分の剣は完成しないのだから。

メルト > 「さあ? 乙女の秘密を暴こうとするのは良くないわね」

くすくすと笑って言葉を返す態度にともなうのは、ねっとりと絡みつき雄を誘う雌の色香。
目を惹く美貌。視線を誘う豊かな胸元。嗜虐を誘う白い肌。犯されるためにある雌の肢体。
曖昧にして誤魔化そうとしてても、被虐の快楽を覚え込んでしまっているマゾの気配が滲み出ていて。同時に、隠す気も無くなったのか高位の魔の気配がそれを彩っている。

「あら、人の心を覗く能力でも持ってるの?
負けたら、わたしは奴隷になるのよね。どれいとして、どんな風に犯したいのかしら。
貴方のチンポに口で奉仕? マンコはもちろんそして、お尻もケツマンコとして使うのかしらね?」

負けた時の想像をしている事。己がマゾである事については、否定する事も無く。
むしろ、相手の性的妄想を引き出し。冷静さを奪ってやろうと、卑猥な言葉を投げかけ妄想を掻き立てようとし。

「足癖が悪いのね。お返し、よ。
そうよ。負かされて、惨めに犯されて……奴隷として調教されてみたいわね。できるものなら、ね?」

足払いに対して、その場で側転するアクロバットな対応と同時に。準備していた投影体を新たに射出。的として大きい胴を狙った刺突。
先に射出した投影魔剣は、弾かれた先で剣先を向け直し。見えない使い手がいるかのように、首筋へと横薙ぎの一撃。
次の魔剣を手元に呼び出して握りこみ。これで、本人を含めて手数はみっつ。
手数の優位性の確保はこの程度でいいだろうと、相手へと向き直り。凌辱願望を持っている事を、発情した雌の顔で認めて。
それで、この願望を叶えてくれるのかしらというように、目を細めて艶やかに微笑む。

ヨハン > 「乙女っていうような可愛らしさは、僕にとっちゃもう微塵も感じないけど、さっ!」

余裕がない。理性と本能の警報がずっと警告を鳴らし続けている。
普段の、平時の彼ならば、彼女の肢体に目が釘付けになり、ただナンパをしていただろう。
だが、最高位の魔の気配。これを感じた瞬間、青年はもうただの雄としては彼女を見れない。
今目前にいるのは、極上の教本。その動き、技術、それらすべてが青年の糧となる。
いくら彼女が卑猥な言葉を並べようと、いくら性的な仕草で惑わそうとしても。
青年にとっては余計なものは排除する。その動作に性的な感動を覚えることはない。
ただ学ぶ、その動作の意味、彼女の意志、その動きのすべてを見ていたい。
純粋に、剣士として。

搔き立てられる妄想にあるのは、性的に彼女を犯し、そして凌辱することではなく……。
ただただ、彼女を、戦士として、剣士として戦い、勝つためにどうすればいいかのシミュレーションだけだ。

「残念、心を覗くことは出来ないからこれは全部推理さ。
そうだね、負けたら奴隷と言わず、一生僕が死ぬまで家畜とでもしようかなっ!
全身に所有物の証を着けて、首輪とかピアスと着けて、永遠に僕には逆らえない淫紋でも刻んで、さっ!」

軽口を叩き、青年の言葉に興奮の色がある。だから青年の股間はそれに反応することはない。
彼女の見えない、剣を操る手。それらを見て、感じて、そして小手先でこちらを遊ぶつもりながらも殺しに来る無慈悲さ。
それが非常に―――楽しい。そこに青年は今強く興奮していた。
無論、勝てば言葉通りに彼女を弄ぶつもりなのは明白で、そのためにも全力を出している。

「(実質3対1!槍を相手にするために必要な技量差と一緒!燃えるじゃないか!
もっと、もっと僕は強くなれるってわかる!この経験は、間違いなく僕の剣を大きくレベルアップさせてくれる!)」

獰発した雌の顔に対して、青年が浮かべるのは獰猛な、狂戦士かと見紛う狂気的な笑み。
それこそ、雄にしか出来ないような表情を浮かべて、手数に対して正面から向かって。
まずは1つ目の刺突。これに対して、青年はロングソードを片手で持ち、左手のシールドで受け流す。
ほぼ同時に繰り出される横なぎの一本を、その片手で持ったロングソードで一瞬、受け、薙ぎ払われる方向を変える。
あくまで自分の目指す剣技は人の範囲。神業と言われようと、人外の領域と言われようと。
それでも人が目指せる場所を極めるのが自分の道。故にこそ、真っ向勝負の技量。
何よりも、目前にいる破滅願望にも等しい凌辱願望を持つ彼女の雌顔を、明確に自分という雄にときめいてほしい。
そんな、ちっぽけな雄としてのプライドがあり。

「でぇい!」

強く気合の入った声と共にもう一度踏み込んで、彼女の魔剣を打ち払おう。
力では負ける。技量でも本気になった彼女には勝てないかもしれない。
だけど、心だけは、剣士としては負けたくはないのだ。

メルト > 「さすがに、そういう物言いをされると傷つくわね」

乙女のような可愛らしさが微塵も無いと言われているようで、相手の台詞に対してすっと表情が真面目な物になる。
淫蕩なようでいても、少女の姿をしているだけあって乙女心的な物は持ち合わせていた様子。
勝って、屈服させるとか言ってきたのだし。もう一段階、本気度を上げていくかと遊び心を少し削る。
心理戦もかねて誘惑を仕掛けていたが、ここまでに見せた相手の技量も評価して一芸を披露する気持ちにもなり。

「そんな推理ができるくらいに、わかりやすかったかしら。
首輪を嵌めて、家畜の焼き印を押して、乳首にも淫核にもピアスして、淫紋まで刻む。そこまでされたら、雌畜になるしかないわね?」

カマをかけられたにしても、そんなにマゾっぽかったかしらと自己を振り返り。
わかりやすいほどにマゾっぽい台詞を吐いていた気がしないでもないと、相手の洞察力よりも自己の態度に問題があったかしらねと思い。
そこまで徹底的にされたら、堕ちるかもしれないけど。できるのかしらと、挑発的に言い返しながらも。脳裏にちらりと被虐的な妄想を思い浮かべてしまって、じわりと媚肉が潤むのを自覚する。
見えざる使い手が振るうかのごとく、先に投影された二振りの魔剣が見舞う攻撃。
実に雄らしい獰猛な笑みを浮かべて、見事に別方向からの二撃に対処してみせるのを目にとめて素直な称賛を胸に抱き。相手への評価を腕が立つから、凄く腕が立つへと上方修正。
その見事な腕前と、それ以上に雄らしさ全開な表情に雌として意識を奪われてしまって、手にした魔剣を打ち払われてしまう。

「お見事。でも、油断大敵。避けなさいね?」

ここで素直に負けてあげてもいいが、勝ったと思った瞬間こそ最大の隙だと教えてあげよう。
そう思って、相手に艶やかな笑みを向けながら無手の腕を一振り。その仕草にあわせて、振り払われた魔剣が振り払われた先で誰の手にもよらずに、虚空を斬り払う。
手に持たずとも剣を振るうのは、既に見せている手札。わかりやすいアクションと言葉を警告に放たれたのは、斬撃を飛ばす超常の業。
自分諸共に相手を袈裟切りにする無形の刃の一撃は、自己の防御力や回復力込みで無視できる程度の威力。とはいえ、常人であれば普通に斬られるのと変わりはしない。

ヨハン > 「それはごめんね!可愛いよりも、美しいって言葉の方が似合うかなって、さっ!」

彼女が本気を出し始めているのを感じ取り、しかし本当に傷つけてしまったようで素直に謝る。
真面目な方がこちらとしても技が見れて助かるが、完全に殺すつもりの、遊び心が亡くなっても困る。
彼女の手札をもっと見たいのなら、もっと彼女を遊ばせるつもりで、かつその遊び心を少しずつ削らなければならない。
要は、ギア全開だとこちらが一方的何もできず終わるのはわかっている。
ギアを下から少しずつ上げてもらわないと、こちらも学ぶことが出来ないのだ。

「さぁね。分かりやすいというより、こんな場所に来るぐらいならそういう事されても当たり前だよね、ってことさ。
でも、そうやってノッてくれる辺り、ほぼほぼ当たってたみたいで何よりだよ」

ニッ、と笑う青年の笑みは、少しでも悪辣になっていくかもしれない。
自分が勝つとは信じ切れていない。それでも勝つ気概は捨てない。
そんな心の持ちようが、人心を調教することを仕事としている彼女には見破れるかもしれないが。

「ふぅ、ふぅっ!勿論、まだまだこんなところで終わらせるつもりはない―――!?」

言葉が止まる。油断はしていたつもりはない。全くのゼロにも等しい。
次の彼女の手札に、いったい何が来るかと思った。無手の彼女の手指の意味。
振り払って、流したはずの魔剣が勝手に動き出す。それは先ほども見た、問題はそれじゃあない。
感じるのは僅かな空気の淀み。何かの歪みらしきそれが、視界に映って。
青年は咄嗟に、半月を描くように足を動かして、無茶な姿勢を強靭な体幹で支えて歪みから身体を必死に逸らす。
同時に目前を通り過ぎていく何かは、青年の背後にあった店看板を真っ二つに切り裂いた。

「風圧……いや違う。斬撃が、飛んできた!?」

ぶるり、と震わせる体。ほんの少しだけ本能の警報と視界の歪みに気づくのが遅ければ、間違いなくやられていた。
隔絶しているともいえる技の差。いったいどう剣を磨けばこんな真似ができるのか。
あるいは、これは魔力が必要な行為である可能性も高い。だが、しかし。

「く、はははっ!」

嗤う。恐怖はある、勝てない可能性の方が高くなったのを感じる。
だがそれでいい。もしこれが魔力に寄らぬ……魔族による鍛錬の賜物だったとしたら。
モノにしたい。人間の年月じゃたどり着かない領域だとしても、記したい。
恐怖と、負けという二文字を、楽しさと期待の嗤いで打ち消し合う。
自分を奮い立たせて、剣を握る手の力を籠め直して。無茶な姿勢から一気に元に戻して、間近にいるはずの彼女へと柄で殴りつけよう。

「ふぅ、はぁっ!さすがにキモが冷えた。でも、でも……イイ、イイよ!
剣士としても、魔法使いとしても、魔族としても!僕は最高に満たされている気がするよ!」

メルト > 「なるほど、それならば許してもいいわね」

弁解なのか、本気の台詞なのか。どちらにせよ、こちらとしても本気で怒ったわけでもない。
相手の謝罪の言葉に、それならば良しと許す事にして。
それはそれとして、一度上げた本気度を下げる様子も別に無く。

「まあ、それはそうね。こんな恰好でもあるし……
大当たり、当たりかはともかく。外れてはいないわね」

相手を見つめる瞳には慢心はあるが、悪意は無い。
剣士として挑んできている相手に魔術の類でなく、剣でもって応えているぐらいには相手を認めてもいる。
自分の勝利を確信している身の程知らずでは無いが、勝利を諦めている負け犬でもない。人間性の輝きみたいなものを目にしているようで、心地良く。
まだ伸びしろの残っている原石でもあるわねと評して。元より殺す気は無かったが、剣士としても死なせる気は失せる。
致命傷レベルでも、その気になれば癒せる。事が終えれば放置でなく、無傷レベルまで癒してやろうなどと事後に意識を裂く余裕があるのは、現状での評価。

「正解。世の中には、真空を刃として飛ばす剣技もあるけどそれとは違うわね。
剣の間合いの内だけで、剣で斬れる物だけを斬る。それが人間の剣術で、その先の領域の業」

今の一撃から、それなりに情報を汲み取った様子。それならばと、情報を開示する。
同時にそれは、お前は既に三本の剣全ての間合いの内であるという警句。

「剣に狂い、剣に生きる……ではないわね。魔法使いとしても? ならば、この障壁は攻略できるかしら」

披露された実力と脅威に対して、怯えるのではなく笑って奮い立つ。
その姿に、うっとりと目を細め。本当に、殺すには惜しい人間だと評価してお気に入りに分類する。剣の腕だけでなく、魔法も使えるような台詞にその手札の多様性をプラス評価。
元から一歩とずれてない位置取りのまま、殴りつけてくる攻撃との間に挟んだのは単なる物理障壁。厚みの無い透明な壁でしかないが、1mの鋼板と同等の防御力。
言葉を変えれば、厚さ1mの鋼板を斬れる斬撃。あるいはその他の突破できる攻撃手段があるか、障壁そのものを解呪するのか。
お手並み拝見と、佇みながら観察の目を向け。ほんの少しずつタイミングをずらした、飛ぶ斬撃の三連撃が首、胴、足首と上から順に見舞う。

ヨハン > 最初こそ侮りはあれど、間違いなく彼女はこちらをどうあれ本気で相手してくれている。
こちらは本気で彼女に勝とうとしているが、彼女は本気で自分の事を見定めている。
その差は大きい。彼女はまだ、腕は認めても、価値は認めても―――倒すべき、殺すべき相手としては評価していない。
まだまだ自分は彼女にとって、遊び相手であることを痛感する。
元より剣の道はまだまだ長く、そして自分は全く至っていないことは分かっていた。
だからこそ、”至る”道の中に彼女が立っているのはなんとなくわかって。
それが”分かる”ようになった自分の成長に、嬉しさを感じてしまう。
こんな状況で、ほんの少し彼女が殺そうと思えれば殺せる自分だが、この笑みを自分で消すことが出来ない。

「そっか。そっか!やっぱり、”コレ”は人間でもできるんだ!
ならば感じよう。学ぼう。僕にもできるって、そう信じよう!」

勿論、研鑽は当然として、そこに至るには年月と、才能がいるだろう。
努力だけで、何もかもを得られる訳ではない。どうしても才能という壁は大きく立ちはだかる。
努力だけですべてを超えられるほど、この世界は甘くない。ならば才能という言葉が重要視されるはずもないのだ。
自分の才能と努力、それがどこまで伸ばせて、それをどこまで他者に伝えられるのか。
何より自分は、3つの飛ぶ斬撃を捌ききれるのだろうか。
分からない。勝てない。でも負けたくはない。青年の中の意地が強く、彼女に勝てと命じていた。

「おっとごめんね!僕は、剣士として剣士と戦うのは当然として好きだけど。
剣士として、魔法使いや魔族と、それとの戦い方が知りたいのさ!
キミの魔の気配、それは剣士だけじゃなく、魔法もずっと格段に上だとわかった!
だから、それを見たい!剣に生きて、剣に殉じる為に、あらゆる一流と僕は戦いたいのさ!」

自分の剣に生きる理由を、こうして叫んだのは初めてだ。
叫ばなければこんな状況で笑えない。もっと笑え、そして奮い立たせろ。
もっとも、青年が魔法を使えないわけではないのはその通りだが。その分の時間と努力をすべて剣に費やしているだけで。
魔法使いとしての才能も、人並みにはある、もしかしたら魔法剣士にもなれたのやもしれない程度には。
ただ、選んだのは剣の道に生きる事だった。それだけのはなしだ。
―――別に、魔法の一切が使えないとは言っていないが。

「おっ!いいね!もうこれは僕は試されてるって事かな!?」

飛んでくる3つの斬撃に加え、彼女に剣を届かせるにはこの薄くも硬い障壁を破らねばならない。
ある種の試験。あるいは試練。だがこれが出来なければ、真に彼女をに届くことなど出来はしない。
さて、さすがに真っすぐにこの1mの鋼鉄の壁を切り裂くのは自分には出来ない。
だが、どんなものも自分一人の力だけでどうにか出来るわけでもない。
出来るようになるのがいいが……出来ないのなら、それ以外で補うだけだ。
飛ぶ斬撃、しかし斬撃であれば、方向性を持って飛ぶのであれば上手く行けば軌道を逸らすことも可能だ。
質量でなくても衝撃はある。不可能かどうかではない。可能と信じてやることがまず最初の一歩。であれば。

「ま、上手く行くかはわからないけど、ねっ!」

飛んでくる斬撃に対して、取った行動。質量を切ることが出来るのなら……横から何かをぶつけることも出来るはず。
そう考えた行動は……斬撃を、方向を変える事。剣から振るわれているのならば、ロングソードで首に飛んでくる斬撃の横合いに、殴るように1つ軸をずらして、胴に飛んでくるものとぶつけ合わせる。
明らかに金属がぶつかり合う音が響くが、実際は見えない斬撃同士がぶつかり合う音でしかなく相殺。
足首に飛んでくる方もまた、殴りつけた勢いのままもう一度、今度は体全体を使って向きを変える。
ここまでやっていることだけでも人外ともいえるが、発想と技量がなせる業、と言っていいかもしれない。
足首へと飛んできたその斬撃を、自らの剣の先で方向を変え―――鋼鉄の障壁。
斬撃が全く同時に、2つ分突かれれば……今はまだこれしか出来ないが、それが出来るとしたら。

「上手く行ってくれよ……!」

全く同時に斬りさく刃が放たれるのなら、全く同時に突く刃先もまた可能なのではないだろうか。
自分の力、技によるものではないとはいえ、その障壁に対して、その答えを以って放てば。
少なくとも、障壁は剣が半ばまで突き刺さるような結果になり得る……かもしれない、

メルト > 「才能だけでも、努力だけでも届かない領域ではあるけど……
貴方なら、届いてしまいそうな気はするわね。手本まで見せたわけだし」

口にした台詞は、建前や強がりではないと。内心を反映した表情が物語っている。
相手が今までに見せた技量は才能を窺わせ。本気で全力で研鑽を積めば、届いてしまいそうではある。
そうなれば、魔族への脅威が増える事になるが。とはいえ、今日明日に身に着けてしまうほどの化物じみた才では無いだろうし。緊急の問題では無い。
今は、本気で向かってきている相手に相応の誠実さを以って対応してやろう。相手の熱気に感化されている自覚はありながら、それを良しとして流され。

「そこまで言うのなら、先達として刃にて斬れぬものは無しと添えてあげましょう。
幽霊だの魂だのから、因果の糸。極めれば、そういう物にだって刃は届くわよ?
そういった領域に届く前に死なないように気をつけなさいね」

実力が伴わぬ前に、格上と戦い続ければどこかで命が終わる。そうでなくとも、剣を振るえぬ身になるかもしれぬ。
相手の熱意と本気を認めればこそ、真顔になって本気の忠告を送る。この魔王にしては、割と珍しい善意百パーセントの忠告を。
そして、相手の試しているという言葉は当たり。どこまでできるのか。どのようにできるのか。そういう所を見たいと、相手の性能を引き出して、観賞したいという気持ちが今は強く。叩きのめすとか、弄ぶとかそういう意識は無いとは言わないレベルに薄い。

「ふぅん?」

飛来する斬撃に対して、披露される見事な対応。常識的な相手には、ほぼ初見殺しの業に短時間でここまで適応してきているのは素晴らしいと称賛に口元が緩む。
凡俗では、初撃で沈むか。対応しきれずにどこかで落ちる。大言壮語に見合う素質と才能は有ると評価して、今後に期待を障壁への対応を期待して見つめ。

「お見事。素敵……ね。でも、まだ実力が足りない。魔王たるこの身を打ち倒すには届かない。
ごめんなさいね? この程度では、貴方の雌畜肉便器にはなってあげられないかしら」

障壁を抜けた刃。その剣先は、少女の肌には触れてはいたが傷を刻むことはできていない。
人外の魔。その最高峰の肉体。それも戦闘タイプであり元々防御性能が高いのに加えて、単純な物理攻撃は実質無効。剣の業にてその防御を貫くには、まだ技術が足りない。
それでも、厚さ1mの鋼板に匹敵する障壁を貫く業は本物。将来的には、傷をつけるには至るだろうと確信し。
申し訳なさそうに、自分を力で屈服させるには足りないとの宣告を突きつけ。

「それでは、さようなら。次に会う時に期待かしら」

障壁を構成していた魔力を、衝撃波へと転換。回避の難しい面の攻撃だが、単なる衝撃波で直接的な殺傷性は低く。殺意の無さが窺える一撃。
それを機に、くるりと向きを変えて立ち去る歩みを数歩。そのまま、姿が消えたのは空間転移か次元遷移か。なにかしらの魔法的な移動手段だろう。

ヨハン > 「―――!!」

届いた、そう口に出そうとして……刃が、彼女の薄皮一枚にとまっていることに気づく。
なんてことだ。見た目に寄らない相手がいるのは分かっていた。だがここまでも技量と魔法に加えて……。
肉体の皮膚まで、人外として相応しすぎるほどまで硬いとは、さすがに予想は出来なかった。
ここまでやってなお届かない領域。―――心が、魂が燃える。
青年の頭は冷えていない。むしろ油をかけられたかのような熱が全身を広がる。

「魔王……。そうか、あなたが魔王なのか……!」

ようやく見えた。この世の最上位かもしれない存在。
あるいは彼女よりも上がいるかもしれない。だが、だからこそ今は彼女が一番の目標となった。
例え彼女がどれほど汚されようと、どれほどまで貶められようと、今目前にいる存在は間違いなく強く。
そして自分に”先”を教えてくれたのだ。
打ち負かしたい。剣士として。雄として。無謀だと、身の程知らずにも程がある。
だが、その壁を乗り越えたいと思うのは、男として生まれたからには当然だ。
彼女がマゾメスとしてのサガを抱えているのなら、青年もそういうサガを以って生まれてしまったのだから。

「僕はヨハン!どうか次ぎあう時に、キミの名前を教えてほしい!
そして、僕の名前を、このヨハンという名前を絶対にキミに刻ませる!
人生で僕だけの名前を憶えて欲しい!だから―――首を洗って待っていてくれ!」

その首は、僕が絶対に傷をつけてやる。そう、吹き飛ばされながらも叫び。

気が付けば、戦闘の跡はあれど彼女の姿はなく。
剣を収めて。ヨハンは天を仰ぐ。淀んだバフートの空気に、爽やかさすら今は感じる。
激烈な、熱烈な出会いだった。そして彼女は自分に道を示してくれた。
これから、もっと自分は強くなれると。明確な目標が生まれてしまった。

「さて……修行のし直しだ!」

嬉しそうな顔をしながら、宿へと戻り、次の仕事を探すだろう。
果たして、次に彼らが出会うのはいつになるのか……神のみぞ知る。

ご案内:「奴隷市場都市バフート」からメルトさんが去りました。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からヨハンさんが去りました。