2024/08/20 のログ
■影時 > 鍛冶師の工房に忍び込む――と云われて思うと、そうやることも多くないことに気づく。
精々が完成品を奪っていく程度であろうが、そもそもカタナという武器自体がこの国では珍しい部類だ。
売り捌くにしても直ぐに足が付きかねない。さらに言えば、この工房に辿り着くまでが難行と言ってもいい。
散歩のようにとは言い過ぎでも、道程を苦もなくこなせるのは、男が旅慣れているからに他ならない。
「昔教えを乞うた法師が説くにゃ、西瓜自体がそもそも西方からの渡来物らしいがね。何せ、西の瓜と書くからなぁ」
嘘か真かは知らないが、そんなことを聞いたことがある、と。そう述べつつまん丸いスイカを見遣る。
叩きつければ人の頭も割れそうなくらいに重いそれは、たっぷりの水分と甘みを蓄えているに違いない。
氷水でよく冷えた頃合い、と見たか。丸い果実を持ち上げ、台所に持っていく姿を見遣ろう。
暫くすれば、戻ってくる姿に「かたじけない」と声を返す。
意外だったのは、小動物二匹たちにも分けてくれる有様だ。それもたっぷり。
「こんなに」「いいのー?」とばかりに二匹が、ぱぁとつぶらな瞳を輝かせ、二匹でハイタッチして小躍りなぞしてみせる。
果汁もたっぷりの赤々とした果肉に、羽織を脱いで畳む。草履も脱いで座敷に上がれば、毛玉たちも上がってくる。
「試斬に鉄の塊出すのも、お前さン位ぇだよ。
とは言え……ここじゃア、身を固める奴は何処までも徹底して鋼で固めるからなあ」
あながち間違い、でもないのか。試斬のエモノに鉄柱を示すさまに呆れめいた表情を浮かべ、そっと息を零す。
故国では、将によっては祈祷で加護した鎧甲冑を纏うのものも少なくない。
其れを斬れるよう技に加え、為し得る得物に血眼になる武者、侍は少なくなかった。斬鉄の技もまた、その延長の結果と云える。
だからこそ、鉄を斬れてナンボというのも、間違いとは言い切れない。ただの人間よりも間違いなく硬いのだから。
「そりゃそうだ。どっかの商会やら何やらに卸す、タチでもないなら猶更商売っ気も少しは勘案しなきゃなンねえか。
……さっきの? あー、えーと。まだ熱が残ってる、これかね?」
木材を放り込めば、炭にしてくれる魔導機械の類も――ないわけではないだろうが、さて。
そんなトンデモ頼みにするよりも、良質な木炭の方が実績がある分、信用が置ける。
砂鉄から精錬された鉄材も、ここでは舶来頼みになるが、手に入れられないわけではない。値が張る分、成果を望みやすい。
先程見かけた刀も、そんな成果の一つには違いない。樽に無造作に放り込まれても、雑な造りであるものか。
これか、と。完成後の熱が残っていそうな一本を掴み出し、口を噤みながら刃を抜き出す。
銘を入れるまでもないとされた無銘でも、相応の使い手が使うならば――どうなるか。
(……悪くねえとは思うが、ねえ?)
内心で思いつつ、は、と息を零し、氣を練り、注ぎ、振る。
ひょう、と鳴く刃が生む風は静かに大気を割る。氣の通りの良さは屠龍の太刀には、確かに劣る。
だが、決して不足とは言えない。この位できるなら、特性の云々は考えずとも、誰かに稽古を付ける時などに困らない。
■布都 >
「へぇ……?」
知らないことなど、沢山あるモノだ、鍛冶師は、確かに農民として、鍛冶師としての知識はあるが。
それだって、あまり広いわけでは無い、農民としては、米とか豆とかは作るが、西瓜などは作った事は無い。
だからこそ、慣れ親しんだものが西方―――つまり、此方由来と言う事は、彼の言葉で初めて知る。
目を丸くして、そうなのか、と西瓜をまじまじと見てしまうのであった。
西瓜に関しては、小動物に関しては、気にしたとか以前だ。
斬るのに1/4がやりやすい、それ以上が面倒、それだけの話でもある。
「鉄を鍛えて玉鋼にして作る刀だぞ。
鉄を斬れなくてどうするンだ、そんな軟な武器を作る気もねぇさ。
元より強い物が付くれンで、鍛える意味ねぇだろ。」
そう、鍛冶と言うのは鍛えるという事は、そういう事だ、と鍛冶師は考えている。
元の物よりも強く、良い物を。
だからこそ、試斬に鉄柱を、良い武器ならそれを使うのも、それなりの技術も必要だと。
それに、この国には様々な存在が居る、鉄よりも硬い存在とか。
矢張り、この程度は出来て当然、そう考える。
「商売をしたくて来たンじゃねぇし。
鍛冶をしてぇンだ。
まあ、その為に、色々してンだけど、よ。」
金は必要なのだ、そして、その為に冒険者を続けなけりゃならない。
唯々、日がな炉に向かい、唯々、刀を打ち続けたいが、それもままならない。
舌打ちしたいが、其処は未だ、無理なのだ、残念ながら。
その口惜しさを言葉にできないでいれば、彼が刀を選別する。
「ああ、一応それなりの出来さ。
銘を入れるほどじゃねぇけどな。
最低限の合格ラインは通ってる、其処に有るのは全てな。
だから、気に入りのを持って行くと良いさ。」
その樽に有るのは、全て同じ程度の刀だ。
そうなれば、後は、重量バランスとか、長さ、とか。
小さな違いがあるので、その中から、自分の手に、技術に有ったものを持って行けばいい、と。
貰った西瓜をしゃくり、と齧りながら言う。
種はぷ、と炉に。燃えてなくなるので便利だ。
■影時 > 「赤くねぇ果肉のスイカも、見かけたような気がするが……いや、どうだったけか」
黄色かったような、そうでないような。妖しい記憶に首を傾げる。
スイカはなまじ水分をを多く含むだけに、乾燥地での水分補給の手段に成り得るが、旅人が頼るには何分嵩張る。
熟れたものをカットして店先で売っているのを恐らく見たのではないだろうか、きっと、恐らく。
畳の上で胡坐に座り、己の分と毛玉たちの分を卓の上に置く。
頂きまーす、と二匹が手を合わせるような仕草をした後、むしゃむしゃと自分たちの体躯より大きい果肉に齧りついてゆく。
帰る前に水浴びさせるか、と思う程に果汁でべたべたになる姿に顔を歪めて。
「道理じゃあるが、そう思うのは心得がある奴らのみらしいぞ?
まぁ、お陰で俺は不自由なく斬りてえモンを斬れている」
鋼が幾分硬さが劣る鉄を斬るなら兎も角、鋼が鋼を斬るという。
刃を損ないかねない行為に二の足を踏み、尻込みする気持ちも、一応理解は出来なくもない。
如何なる利刀とて、真っ直ぐに標的に斬り込めてこそ。そこまで至れていないと思うなら、斯様な怯懦もむべなるかな。
手段と経緯はどうあれ、技に覚えがある故に、己は納得できる得物を求める。
お陰で現状、不自由はなく斬りたいものを斬れる。有り難いことだ。
「根っからの鍛冶師だよなぁ、お前さん。まぁ、良い。とやかく云うより物を持ってくる方がもっと、身になるもんだ。
成る程――そんじゃま、手に取ったのも何かの縁だろう。
見たところ、屠龍よりちょい短そうだが、良さそうだ。こいつを貰ってく。拵えを整えればいい具合に成るだろうよ」
金策のための鍛冶ではなく、それこそ死ぬまで鍛冶に打ち込みたいかのよう。大袈裟だがそう遠くは無いだろうか。
刀を打つには材料が要る。だが、それ以前か同時の問題として、生計を立てなければ生活を支えられない。
そこまでの補助、支援というのも、限度がある。手出しが過ぎるのもこの鍛冶師は嫌がるだろう。
取り敢えず、今くらいの塩梅を続けておけば大丈夫だろうか。そう思いつつ、一人と二匹の様子をそれぞれ見遣り、刀を選別する。
他の刀もあるだろうが、口ぶりから察するに先刻の“外道國”には劣る質、出来栄えのものが放り込まれている。
そう見立てる。つまり品質は、どれもこれもほぼ同じ。あとは、馴染む長さとバランスがあるかどうか、といった具合か。
今触れる触れた刀の具合は、今の愛刀と変わりはない。切れ味に直結する氣の馴染みと特質以外は、及第点と云える。これにしよう。
そう定めて、その刀を手に座敷に戻ろう。
畳の上に計三本の刀を放り出し、胡坐に座せば漸くスイカと向かい合う。
皮を両手で掴み、一口。もう一口。種を避けるように齧りつつ、口の中に広がる甘みに、おぉと小さく息を吐く、
■布都 >
「ふぅん……?」
紅くない果肉の西瓜、黄色の西瓜とかあるらしい。
知らない情報に知らない物体にしては、ふぅんとしか言えなくて。
そもそも、冒険の保存食にできない西瓜などは、其処迄詳しくなろうとも思わなかった。
取り合えず、確りと切って、皆で食べるのが良いのだろう。
と言うか、獣はもう全身を使って食べているのだ、勢いよく食べてるな、と。
「此処に来るのはあンタ位だろう?
なら、これで好いだろう、切りまくればいいのさ。」
此処にくる存在に関しては、彼しかいないのだから、気にする必要はない。
そして、武器に関しては、作った後に自分が作るならば、自分で試し切りをする。
それを考えれば、矢張りこのままでいいだろう。
良い物を作り、確りと作ればいいのだ、と言う事だ。
その結果が、樽に有る刀の山になるという事だ。
「元から、さ。
だからこそ、追い出されたンだ。」
根っからの鍛冶師が、追い出されるというのは、世も末である。
と言うか、男共の底意地が悪いというのも有るのだろう。
け、と唾棄してしまいそうなものでもあるが。
取り合えず、彼が刀を選んでいる間に、西瓜を食べ終わり。
彼が西瓜を食べている間に、彼に合わせての微調整。
ある意味彼の専属であるからこそ、彼の癖に合わせた調整など慣れたものである。
食べ終わった後の西瓜は、炉にくべて燃やしてしまおう。
「後は?」
他の武器、彼の道具で調整が必要な部分はあるのか、と。
有るならするし、無いなら、帰れという、何時もの鍛冶師だ。
■影時 > 「……次見かけたら、一応食っとくか。考えると味が気になってきたぞ……」
食道楽ではないが、食べられると思うと味を確かめておきたくなるのは不思議なものだ。
抵抗が少ないのは恐らくゲテモノ喰いの類ではないはず、と思うからかもしれない。
冒険者として旅を続けていると、携行食や保存食以外のものを試したくなる、或いは食料が尽きた場合の備えもしたい。
そうとなれば、その場その場である植物に食指を伸ばすのも、別段違和感のある行為ではない。
シマリスとモモンガのコンビが、しゃくしゃくしゃく……と咀嚼音を続ける。甘い分、食いつきが良いのだろう。
「そりゃそうなンだろうがよう。もそっと客増やす努力位は、してもいいンじゃねぇかね?ン?
切れ味についちゃあ、握るだけで察しえるなら其れで事足りる。
……それができない、難しい手合いなら、斬って試すほか無ぇがな」
己位しか無い、というのも、商売としてはどうなのだろう。全くと肩を竦める。
かと言って商売っ気を出し始めるのも、相手らしくないのもある。
ただ、この出来ならあと数人くらいはそれなりに固定客が生じても可笑しくないと思うのも贔屓目だろうか。
出来の大半は鈍らではない。銘なしでも必要十分足り得る利刀というのは、それだけでも凄いこととも思える。
「つくづく、ほっぽり出す方がどうかしてンだよ、ったくよう。
あと? そりゃお前、荷物引き渡しと、預かってるのがもあってな。諸々終わったら帰るさ」
自分とは違い、向こうの事情は了見の狭さに加え、面倒と厄介が絡む。そういう社会だ、と言えばそれまでだが。
流れ流れ着いた先もまた、と思えば何とも言い難いが、どちらがマシかどうか。
そこまでは言わない。言ったところで何が変わるものか。
否、それ以前に余分な言葉は向こうから断ち切られかねない、と思えば、口に出すのも野暮の極みだろう。
最終的に刀装は己好みに誂え直す、調整するにしても、所持者が定まればそれに合わせた微調整をしてくれるのは有り難い。
屠龍とは違い、過酷な扱いはせずとも、違和感を感じるのは少なければ少ないほど良い。
少し遅れてスイカを食べ終えれば、己も工房の主に倣って、皮は炉に投じよう。
種はとっておけば、この家の畑でも栽培できないか?と。そう思い、懐紙に少しを包み、置いておこう。
立ち上がり、タライの中の氷水で手を洗い、べたつく毛並みを繕いだす二匹を小さな器の中に入れる。
その器を溶けた氷が浮かべ、もっと適温に成るまで待とう。なれば二匹が水浴びをし始めることだろう。
それまでの間に、雑嚢から用意しておいた山盛りの補給物、差し入れをこの工房の倉庫に積み上げる。
そして預かってきた品をひとつ、渡して幾つかの確認とやり取りを交わすことになるか。
そうしたことを始め、諸々が済めば、手に入れたものを仕舞って帰途に就く――。
ご案内:「布都の工房」から布都さんが去りました。
ご案内:「布都の工房」から影時さんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 洞窟」にグリーンバグさんが現れました。
■グリーンバグ > メグメール(喜びヶ原)に点在する洞窟のひとつ。
冒険者や薬師や狩人などが急な雨よけや一時の休憩に立寄る事が多い所為で、天然の洞窟なのに簡単に休めるモノが持ち込まれている。
今宵は星々煌めき月が眩く輝く夜である。
空を見上げれば雲一つなく、月や星の輝きを覆うものはない。
広く浅い洞窟。
緊急の避難場所や急な雨から逃れるために利用される比較的知られた洞窟。
この洞窟内の気温はほんのりと涼しく、避暑に適した環境となっているが、誰か以前利用した者が魔物除けの薬草の追加を忘れたか、結界の魔法を張り忘れたか、1匹(?)の魔物が巣食っていた。
ギルドで呼称されている名前は『グリーンバグ』
スライムに近しい姿と生態をしているが別の生物であり、どこがどう違うか、は接触してみるまでは判別は難しいだろう。
――…人間やミレー族などの人型の雌はスライムとの違い、このグリーンバグの恐ろしさに気が付いた時には色々な意味で手遅れかもしれないが。
■グリーンバグ > 見た目通りスライムとは別種族であるが、戦闘力に関しては正面から戦うならスライムと同程度であるが、今グリーンバグは天井に張り付いて息をひそめ、洞窟に雨宿りをしにくるであろう獲物を待ち構えている。
エメラルドよりも透き通る緑色のゼリー状のモンスター。
適度な湿度、適度な気温、それは彼の生物が繁殖するに適した状況であった……つまりは侵入者はそのスライムとグリーンバグの違いを体感することになるだろう。
ぬと…ずるり…ずるり、ずる、ずるずる……
天井に張り付いた状態でグリーンバグは蠢く。
より奇襲に適した場所へと前進をくねらせて蠢く。
時折ぽたり、ぽたり、と雨音似て非なる音が洞窟の響くのはグリーンバグの表皮から垂れる粘液が地面に落ちる音。
雨音が静かにやみ始めるとグリーンバグも活動を停止する。
静かに、生き延びることに力を注ぎ次なる時を待つのだ。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 洞窟」からグリーンバグさんが去りました。