2024/05/12 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」に宿儺姫さんが現れました。
宿儺姫 >  
「ここいらの魔物は砦の向こうと裏べて随分と腑抜けておるな。ニ、三、小突いただけでケツを捲るとは」

夜の更けた喜びヶ原、
魔物が多く生息する自然地帯を駆ける影が一つ…。

最初に勘付いたのは所謂ラウンドウルフ。
群れを為し人間を襲う魔物である。
鼻がよく効き、夜眼も通る。
周囲を囲まれ先制を許したが、力任せに振り回した剛脚一閃、群れの内一匹を蹴り砕いてみせた。
頭は良いのだろう、それを視て数匹はすぐに逃げに転じた。
逃げなかったものは───。

今、駆けている牝鬼がその両手に、括られたように圧し折られた首を掴まれていた。

「──ふん、さすがに逃げ足の疾い」

しばし早駆けるが流石に狼、脚が速い。
やれやれと追撃を諦め、両手に掴んだままだったラウンドウルフの死体を目の前へと重ねるように放り捨てた。

「まぁ良いか。狼二匹、腹の足しにはなろう」

無造作に近くの木の枝を束ねて圧し折り、バラバラと重ね───鬼火を用いて火を灯す。
生木にも関わらずメラメラと燃え上がる焚き火へと狼の魔物を焚べれば、自身も近の剥き出した岩場へと腰を降ろした。

宿儺姫 >  
腹の足しにはなるが喧嘩相手としては物足りない。
中には目を瞠るような強力な魔物も出会いはしたが…力任せならばやはり負けない。
九頭龍山に住まうドラゴンにも殴りかかりはしたが、強敵ではあれど負けはしない。
自身に土をつけたと言えば…面白いことに此処に来てからは人ばかりである。
あるいは魔族、魔王と名乗る者。
どちらにせよ人の姿をしたものが多かった。

「──となればやはり強者は街中か」

バチバチと脂の焼け落ちる音を聞きながら、己の額から伸びる双角をするりと撫でる。
大きな、立派な角である。
鬼の膂力の要とも言えるそれは誇らしげに天へと伸びている。
小さな角であればあるいはうまいこと隠して人間の街に侵入することも出来たろうか。
…いや、どの道強者とみれば喧嘩を売る気性。すぐに騒ぎとなるのは頭の悪いこの鬼とてわかる。

この王国にて出会った同族…鬼は片手の指で足りる程。
そのどれもと心地良い殴り合いができた。
以前シェンヤンの山へと戻った折、自身の在った集落が滅んでいることを知った。
屈強な雄の鬼も多くいた筈だったが、何かしらがあったか…定かではない。
そんなこともあってか、寂しい…というわけでもないが、同族相手とのあの無遠慮な殴り合いはただただ愉しく──。

「…ま、人里には向かぬもの。また何者かと出逢えたら幸運程度に思っておくか」

ただの狩り、では趣が足りない。
焼けてゆく己の狩った魔物の姿を視界に納めながら、嘆息する…。

宿儺姫 >  
魔物といえど野生の獣に近いもの。
立ち上る肉の焼ける匂いは、余りよくはない。
ただの丸焼きなのだから当然ではあるが、味も大したことはなかろう。
腹が満たされれば良いのは間違いない。
飢えに飢えれば…過去、封印されるより以前のように人里にて人を襲い喰らう鬼となることは理解っている。

無論、人の味も覚えている故に。
年端もいかぬ生娘であれば肉もやわらかく、はらわたに臭みもそれほどない。
赤子ともなればそれはより顕著となり───。

「ふふ。人と仲良うする同族(オニ)とばかり出会うのはどういったコトじゃろうな」

絆された、というわけではないが。
或る意味かるちゃーしょっくを受けたのも確かではある。

「さて、焼けたか?」

どれ、と熱をものともせず丸焼きとなった狼の魔物を引っ張り上げ、爪にて燃えた毛皮を引き裂き、肉へとその牙を突き立てる──

「ウム、不味い」

──しばらくの間、不満を零しつつも鬼が肉を噛み千切り咀嚼する音がその場に響いていた。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」に虹石の獣さんが現れました。
虹石の獣 > (静けさの中に、変化が訪れる
初めは小動物が、次いで、先刻狩人たる鬼から逃れた筈の狼達が
踵を返し、かと言って、鬼に反旗を翻すでも無く、ただ、駆け去って行く
その様に覚えは在ろう、其れは逃走だと。

鬼自身がそうであった様に、明確な脅威より逃れる為の其れであると
一瞬、騒がしさを増したあたりが、風が過ぎ去る様にまた
元の静けさを取り戻すまでは、直ぐの事

――だが、その静けさに。 確かに、鬼の元へと近付く何かの存在は
隠される事も無くば、気取る事が出来て仕舞うだろう。)

「―――――――クゥルルルルルル……。」

(――独特な鳴き声が響き渡る。
一般的な獣の中に、少なくともこの大陸に、そんな鳴き方をする物はそう居らぬ
暗闇の中より、土を草を踏みしめ、ゆうらりと影が動く
獅子の如き大きな体躯を持ちながら、獅子とも虎とも似つかぬ、獣の姿が

鬼の視界に、其の輪郭を露わとするまでは、時間は掛からぬ。

其れと同時に鬼にも伝う物は在ろう。
――其れが最早、只の獣と言う枠には収まり切らぬ。
幻獣、魔獣――或いは、東の言葉で表すならば。 ――化生の者、で在るのだ、と)。

宿儺姫 >  
「──…んぁ?」

変化は、唐突に。
小さな獣がざわめきだし、駆けてゆくは魔物の姿。
その変化を鬼はよく知る。
無論、自らが捕食者としてそういった者を追うこともある故に。

「ふむ……」

立ち上がり、喰らっていた獣を焚き火へと戻す。
淡い碧の光を灯す鬼火の焚き火はあたりを妙な雰囲気照らしあげ──そして。

「……"ここいらの魔物"…にしては随分と──」

それは、そんな場所に姿を現した。
人間の女に比べれば長身であると言えよう牝鬼など比較にならぬ獣。
大型の肉食獣と比較しても十二分に大きな──。

「──面白い。何者かは知らぬが、久々に肌が粟立つわ」

ぞくりとしたものをその背に感じる。
武者震いか、それとも本能的に感じた悍けか。
それは牝鬼自身にも判断はつかない。
頬を伝う冷え冷えとした汗は、目の前の存在が尋常の者ではないと本能が告げる証。

──瞬間。
獣が動くよりも疾く、弾かれるようにして牝鬼は跳躍し、虹石の獣へと襲いかかっていた。
掻き立てられた闘争本能に寄るものか、あるいは先手必勝を決めねばならぬという直感か。
巨木をも一撃で薙ぎ倒す、剛脚による渾身の蹴りをその獣の首目掛け叩き込まんと───。

虹石の獣 > (食事を喰らう鬼を、静かに獣は見て居た
狼も、人相手であれば十分に脅威となる獣で在ろう
だが、今宵ばかりは相手が悪かった。 ――獣と鬼では、文字通り”格が違う”
だが、其れを憐れんで居た訳では無い。 その視線は只、純粋に其の狩人を捉えて居た
人であろうか、鬼であろうか、此れには其の区別等無関係であるとばかりに

其れは、此方に向けて、疾風の如く跳躍した鬼を見ても、変わらず
丸太の如き豪脚が、首を刈り取らんと迫る其の段にて漸く――)

「―――――クゥルルル……!」

(足に、蛇の如く長い尾を巻き付かせる。
ぐんっ、と強い制動が掛かり、蹴りの威力が減衰されるだろう
が、獣も又、予想外では在った。 蹴りの威力は殺し切れず
其の横面を、強かに蹴り飛ばされて、ぐらりと巨体の首が揺れた

――だが、其れで済んだとも言える。 一声、鳴き声が響くと同時
足に絡めた尾の力で、鬼の身体を地面に叩き付けんとする
獣としては、反射的に放り投げたに近い反応、であろうが
軽く頭を振り、少しばかり痛がる素振りを見せた後
其の前足で、鬼の体躯を地面に縫い留めんとしながら。)

虹石の獣 > 「――――――……礼ヲ知ラナイナ、ニンゲン。」

(―――体毛が僅かに逆毛立った。
明確に、其の雰囲気が変化する。 ――虹色が、赤へと変ずる。
まるで、生ける物への警告と――怒りを、教える様に)。

宿儺姫 >  
「──、ぬ…!?」

鬼の眼には、その行動は奇妙に思えた。
己が一撃、必倒の蹴りを避けるでなく、防御るでなく──その勢いを殺そうとした。
結果として鬼の膂力はそれに押し負けず、獣の顔面を蹴り叩いてはいた──が。

「(──こやつ、知恵があるのか?)」

一瞬過ぎったそのような思考。
その一瞬に、急激に己の肉体にかかる重力が急加速的に強くなる。
それは地面に引き寄せる、獣の蛇のような尾が絡んだ脚を引き寄せられての、叩きつけ。
中空では如何な鬼の怪力を以ってしても抗うことなど出来ず───。

「がはッッ──!!」

その背を硬い大地へと強かに打ち付け、肺から吐き出された呼気は喘鳴と伴い鬼の口から漏れ出した。

「か、ふっ…──ぐゥゥッ!!」

僅か、その衝撃に動きが止まっていた鬼の肉体を巨躯の前足が大地へと押し潰す──そして、鬼へと投げかけれたのは……咆哮でも、鳴き声でもなく…言葉。

「……ッ、く、くく…っ。ただの、獣、ではないようじゃ……な…!!」

人語を解する、見たこともない獣…。
それは明らかに、ただの魔物ですらない───極上の強敵!

「呵々…ッ、礼儀、なぞ…生まれた瞬間からもっておらんッッ!!───第一、我は人間などに非ず…!ぐ、ぬ…っ!!!!!」

己を押し付ける獣の前足をその両手で掴み、押し上げんと両肩に力が籠もり──そのシルエットには相応しからぬ筋繊維の隆起を見せてゆく──。
その最中でさえ、体毛が逆立ちまるで怒りを体言するかのような赤へと変わる様子を見てとれば、また一筋その頬へと冷や汗が伝う──。

こいつは、自分以上の怪物であるかも知れぬと。

虹石の獣 > 「―――――クゥルルルルル……。」

(同じ鳴き声、だが、最初の其れとは明らかに響きは異なる
ただ攻撃されただけならば、此れまでに幾度も経験は在る
だが、鬼の一撃は、いなされる事無く"当たって仕舞った"
獣にとって、其れは鬼を、敵と見做すには十分な事柄

地面に縫い留めて居る筈の鬼が、力任せに拘束を振り解こうとして居る
その体躯の何処に其れほどの強力を備えて居るのか
自らが知るニンゲンと言う生き物は、其れほどまでに強靭な生き物では無い
一瞬、均衡が破られ掛け、前足が浮く。 僅か獣の瞳が、感嘆めいて開かれるが

――其れを又自らの重みと、膂力で以て再び、押し込み返せば。
足に絡み付かせて居た尾を其の儘伸ばし、鬼の体躯へと巻き付かせて締め上げよう。
僅かでも四肢の自由を奪いながら、ひゅるり、鬼の眼前に尾の先端が、しゃらりと触れ。)

「――――――同ジ形、同ジ言葉。 ――ニンゲンデナイナラ、オマエハ何ダ。」

(獣の咽頭で人の言葉を喋るからか、何処と無く不明瞭な部分は在れど
確かに知性を有する獣の其れ。 鬼と人、其の区別がついて居ないのは
単なる知識量や経験の問題でも在るのだろうし、獣に、其の区別は不要

ゆらり、尾の先端が、動きを一泊緩めた。 ――否、其れは、拳を握り込むに同じ
硬質化した先端が次の瞬間、無防備であろう鬼の、脇腹へと放たれる
尋常ならざる筋繊維の其の上から、力任せの殴打を、繰り返さんと)。

宿儺姫 >  
「──さて、のう…!区別が、つかぬなら──それも良かろう…!!」

ならば身を以って知れ。
人と鬼との区別など説明するの面倒だ、と。
巨躯の獣の前足を渾身の力押し返しはじめた矢先ではあった、が──。

「な、に──、ぐぁ…ッッ──!!?」

獣の尾が触手のように鬼の獅子に絡み、めきめきと締め上げる…。
それは鬼の剛力を以ってすら、容易に解けるものではない…どころか──

「ッ、───!!!」

強靭な四肢なれど力が分散する形となり、再び牝鬼は獣の前足に押し込まれる形となった。
まるで獣を相手にしているとは思わぬ状況──それでも鬼は力任せに傾倒する。
再び、己を蹴倒す脚を押しあげんと両腕に力を籠める──しかし。

ズドッッ──

「!? ぅ、ごッッ」

強烈に肉を打つ音と共に、牝鬼の肉体が横から圧し曲げられたかのようにくの字に折れ曲がる。
見開いた翠の双眼は狼狽するように揺れ──直後、その口から苦悶の声が漏れた。
無防備な脇腹へと突き刺さった強烈な一撃は重厚な牝鬼の筋繊維を引き千切り、その奥の肋を一撃で砕く程のダメージを与えていた。

「ッ 貴さ───」

牝鬼が牙を剥き、咆哮するよりも疾く。
繰り返される殴打がそれを寸断し、申し訳程度に肉体を覆う襤褸布をその衝撃で更に張り裂きながら牝鬼の強靭な胴を破壊してゆく──。

その殴打が降り止むのは、牝鬼の肉体から抵抗の力が完全に失われた頃合か───。
ただの人間の身体であれば粉々に砕けていたに違いない。

「………、ぁ…、が……──っ」

それほどの打撃に晒された牝鬼は投げ出された四肢を小刻みに痙攣させ、意識も朧と思しき貌を晒すに至っていた。
殴打に晒され続けた胴には無数の打撃痕が残り、強靭なる鋼の筋繊維は叩かれ叩かれ、柔腹と変わらぬ、完全に弛緩しきってしまう程に──。

虹石の獣 > (力勝負に応える、と言う矜持は、獣には無い
在るのは、自らを害する存在を、ただ打ち負かすと言うだけの事
故に其処に容赦は無く、加減も無い。正しく鬼でなくば、ニンゲンであれば
其の命が磨り潰され、潰えて居ても不思議は無かった

――だが、逆を言えば鬼でなくば、怒らせる事も適いはしなかったのだろうが。

繰り返される一方的な殴打。 初めは鋼の如き硬さを誇って居た肉も
執拗な衝撃で次第に砕かれ、ニンゲンと変わらぬ其れと化す
最早力を込める事すら叶わぬのだろう、先刻までの様に逃れようとする気配も失せ
ただ、其の身を痙攣させるばかりとなり果てたなら
――ゆっくりと前足を退かし、其の身を尾で持ち上げ。)

「――――――……、…クゥルルル……。
……マダ、生キテ居ルカ、ニンゲン。」

(――死んではいまい。 その鼓動は未だ、尾に感じられる。
応えるほどの余裕が在るかは判らぬ、だが、少なくとも命は保たれて居るなら

――其の身を、尾による束縛は変わらずとも、己が背に乗せ
まるで戦勝品を得たかの如くに、自らが元来た道を戻り、歩き出す
先に在るのは森。 獣が今、根城として居る、深き奥森。)

「―――――殺シハシナイ。」

(――その一言が、気休めとなるか如何かは。 鬼次第)。

宿儺姫 >  
「っが、は………っ」

己の肉体が宙に浮く、浮遊感。
人間以上の、派手な目方も巨獣にとっては大差ないのだろう。
持ち上げられ、問いかけられる言葉に返すのは言葉ではなく───

「───」

未だ僅かに灯る、碧き眼光。
人間に比べれば圧倒的、図抜けているといっても良い頑丈さ。
あれほどの攻撃の嵐も鬼の生命を断つには遥か遠くであった、そう感じさせる程にその眼はまだ生きている、
その意思が肉体を動かすことに繋がるかどうかは、また別の話なのだが───。

「(──なんという、怪物…。これほど打ちのめされては、指先すらも動かせぬわ)」

殺しはしない、と明言する言葉が耳に届けば、そこに去来するの安堵…。
もっとも──ではリベンジマッチも叶おうといった理由での安堵でしかなかったが。

斯くして、戦利品として巣穴へと持ち帰られることとなり──。
怪物の巣穴に持ち帰られる…普通に考えれば喰われるのだろう、といったところだが……、

虹石の獣 > (森に踏み入り、道無き道を進む
微かに枝を踏む音、茂みを掻き分ける音、背中に居て判るのは、其の程度か
骨が砕かれている以上、僅かな振動でも痛みには繋がろう
だが、必要以上の苦痛で無いのは。 獣の歩みが丁寧なのか、或いは

――不意に、女の胎へと獣の尾の先端が触れる
先に散々肉を殴打し、骨を砕いた其れでは在るが
ちくりと、柔らかくなった筋繊維の隙間に、微かな痛みを与えた折より
ゆっくりと苦痛が、緩和して行くのを感じられる筈。)

「――――――……ツイタ。」

(森の奥、山肌にぽっかりと開いた天然の洞窟
其の奥へと這入り込み暫く進んだ後、そう、一言声を響かせる
僅かに開けた空間、其の奥に、不自然に植物が根を生やし寝床の様に茂り
其処に、ゆっくりと飛び乗れば、背に乗せた鬼を、再び己が前に持ち上げ、運び

――僅かに首を傾げる。 じっと、鬼の姿を観察するように視線を向け
其れから、尾の先端が、鬼の身体を確かめる様に、頭から下へ辿って行く。)

「――――……ニンゲント、オマエハ何ガ違ウ?」

(――疑問。 人間では無いと言った鬼へ対する、知識欲、或いは、好奇心
不意に足元から、植物の蔦が伸びて形を作り、女の寝床を作る
其処に鬼を、ゆっくりと降ろせば、尾による拘束を漸く解き
――襤褸布と化して居た其の衣服を、邪魔とばかり、びりと裂く

獣にとっても、こんな生き物は初めて見るのだろう。
人と同じ容姿をしながら、人とは明らかに異なる、戦闘能力を誇る生き物
自らを脅かしたと言う事実よりも、今は獣らしき純粋な興味で
ぺたり、ぺたりと、其の身を触るのだ)。

宿儺姫 >  
運ばれる折、ちくりと下腹部にその尾の先端から何かが刺さるような感覚を覚える。
さては毒か、と思案するが、そこから感じるのは肉体に残る損傷の苦痛が和らいでゆく様…。
──理解しかねる状況ではある。
しかし己を運ぶ獣にしかみえぬ者は人語を介し一応の意思疎通が可能だった。
であれば──意図的なものが或るのだろう。

着いた、という獣の言葉通り。
巣穴と見られる洞穴へと到着し、草葉の寝台へと降ろされる。
自然治癒能力の高い鬼のこと、既に意識は明瞭としていたが、未だ肉体を満足に動かせるでもなく。
もはや身を隠す機能すら失った襤褸布を引き剥がされれば、小さく嘆息し、その視線を獣へと向ける──。

問いかけは、先程と同じもの。
人間とどう違う──獣の目から見れば同じに見えるのだろう。
それを闘争の力で以って示してやりたかったが、相手は怪物としての格が違った。
打倒しそれを示すのに失敗した故に罰は悪い。
しかし己を打ち負かした者の言葉、応えぬわけにもいかぬと。

「違う…。我は鬼…人を喰らう悪しき者ぞ」

言葉を紡げば未だ腹が痛む。
先程の尾からのなにやらで大分マシではあるが。

その浅黒い肌、獣に裸身を晒すことに抵抗や羞恥もない。
その身を触られれば、返す感触は人の肉体に比べあまりにも頑強。
肉であることには変わりはないが、その肌理細やかな皮膚の厚さ、人であれば柔中な部分も押し返す程の弾力を持ち。
無論、闘争の要…膂力の出処となる部分は鋼の如き強靭さ──叩かれ満足に固められぬほど、弛緩してはいるが。

「…見た目ではわからんか。…ヒトにこのようなモノはなかろ」

ごほ、と咳込みつつも声を絞り出し、動かすのもおっくうな右手を挙げ、指で己の角を指してみせる…。
一体この怪物は何者なのか。
己を打倒、しかも余裕を以ってとあらば、並の存在でないのは伺えるが──。