2023/11/07 のログ
アルマース > 「もうちょっと早く気づいてもらうのに、あたしの香水の匂いでも覚えてもらわないとね」

劇場で用意された衣装と薔薇の香りに紛れ、いつかの夜には無かった砂漠の花の香りがある。
今日は普段着だから服にも体にも染み込んでいるのは確かだけれど、犬でもないと遠くからの嗅ぎ分けは無理だろう。

「喜んで。空を手分けするのがまず大変そうだけど、修理は小一時間かかるって言ってたし。

 過保護ねえ、かすり傷よ。
 人手があればそりゃあ喜ぶだろうけど――アドラー?
 あなたって依頼中でもお困りの人を放っておけないくらい、死ぬほど親切だったのね?」

転んで――正確には転びかけて不用意についた手を木肌で擦ったくらいである。
枝の先についた火をカンテラの中に移す。これさえあればまあ、道を戻るにも支障はない。
カンテラを地面に置いておいて。アドラーの勢いに、何かあるのかしらと近づく瞳をじいっと見つめて首を傾げる。

アドラー > 「まるで犬だな。
 君の匂いをしっかりと刷り込むには、それこそ一夜を共にしなければ」

匂いを覚えてと言われ、あまり見せないばつが悪い表情をする。
前回のように話をするためではなく、肌を触れ合わせるという意味のことを冗談交じりに言いながら
彼女に近づけば微かに砂漠の凛として咲く花の香りがして。

「血の匂いに敏いと言ったはずだ。
 この程度の傷なら感染症に罹る心配はないが…何より、君にとっては商売道具だろう。
 
 それと、怪我をしている美人を放っておけるほど、私は女たらしではないのでね」

自分のためなのか、彼女が大事なのか、曖昧な返答をしつつも彼女の手を取り、傷の箇所を見つめる。
持ってきた水筒で軽く流せば、清潔な布等で応急処置。
慣れているのか布を結ぶのもかなり手際がいい。

アルマース > 「あっはは! あたしが誘ってそんな顔する男、これまでいたかなあ。
 断られたのなんて十年――十年じゃあないか、とにかくとっても久しぶり。
 でも、十年前のあの子があたしの人生で一番良い男だったから、
 あなたがああ言ったとき、何となく嬉しかったのよねえ……
 天邪鬼なのかなああたし」

されるがまま、掌を出して。処置されるのを見つめている。
細かい傷は薄く血が滲む程度で流れてもいなかったが、空気に触れなくなってひりひりが治まった。

「足じゃなくて良かったと思って……。
 硝子を踏みます、って占い師に最近言われたんだ。
 砂とか芝の上で素足で踊るの気持ちいいんだけど、控えてるの。偉いでしょ。
 ……女たらしだから放っておかないんじゃなくて~?」

誘いを断れる男のことを本当に女たらしだと思うわけはないけれど。
ありがと、と言って、男の掌の上、裏、表、と自分の手をひっくり返した。

アドラー > 「待て、今のも誘っていたのか?
 …興味深い話題だ。君の初恋か?詳しく聞いてもいいか?
 手に入れられないものほど、綺麗に見えるのさ。隣の芝生は青く見えると言うだろう」

今のも誘い文句の一つとは思わず、冗談で流してしまった後にややびっくりした表情。
そして十年前のあの子、という話に食いつく。
そういえば、自分の話はしてきたが彼女のことをあまり知らなかった
今度は彼女に昔話をしてもらおうと、話題を振ってみて

「舞踊を生業としている君にとっては不吉な予言だな。
 足に気を配るのもよいが、他の部分にも注意は払った方がいい。
 特に顔の傷は、メイクで隠し通せない場合もある。

 ふふ、どちらでもいいさ。私は友人である君を放っておきたくないだけだ」

傷の手当てが終われば彼女から離れて元の位置に。
揶揄われても余裕綽々と言った様子で微笑みを返す。

アルマース > 「んーん。脈の無い男は揶揄いたくなるみたい。ごめんね?」

もうしないとは言わない。諦めて、という笑顔だ。
膝を抱えて焚火に目を移す。炎の映る瞳が見ているのは遠い砂漠の生まれ故郷。

「十歳で求婚してくれたの、かあいいでしょ……。
 断ったけど、何年か後にこっちから迫ったら『もうすぐ婚約するから』だって。
 ――実際手に入らなかったから美化しちゃってるんだろうね。
 十歳のあたしには、真面目な子を弄んでポイする選択肢はなかったからなあ」

全く彼の言う通りである。
忠告には、はあい、と軽い返事。
爆ぜる火に、手当された掌を透かすように見る。
爪に色を塗ることも覚える前の子どもの手をそこに重ねて。
記憶の中に浸りそうになって、無理やり顔をアドラーの方に向け直す。

「アドラー少年の初恋のお話もしていいのよ、冒険譚の続きも聞きたいけどね。
 大した稼ぎじゃないのに今日の依頼を受けたのだって、
 アドラーの話を聞いて外が恋しくなったからだと思うし。
 怪我したら半分くらいアドラーの責任ということにしましょ」

アドラー > 「君のような女性は久しぶりだ。年上を揶揄うのも程々にしてくれ」

笑顔を浮かべる彼女と相反して、こちらはややあきれ顔。
こちらも青い瞳で炎を見つめれば、その瞳に明るさが移って。

「淡いな。人生なんてそのようなものさ。
 あの時ああしていればよかった、頭に過るのはそのような事ばかりだ。
 だが、古い友人が言っていたよ。『人は無意識のうちに最良の人生を選択している』と
 
 全員が全員そうとは言わないが、その時の君が手に入れられなかった以上の何かを、今の君は持っているんじゃないか?」

感傷に浸る彼女に哀れみ同情するでも、貶すでもなくただ自分の意見を述べる。
しかし、そこには影を差すことより希望に満ちた言葉を投げかけて。

「私の初恋かぁ。もう覚えていないな。冒険譚の方のストックはたくさんあるが。
 ふふ、私の責任か。ならば責任を果たす為にも馬車の修理や次の公演は出向かなければな」

自分の初恋についてはとぼけるような素振りではぐらかして
地面に置いた道具類を懐へと仕舞えば、彼女のカンテラを持って立ち上がる。

「さて、そろそろ馬車の方に行かなければいけないんじゃないか?
 御者も心配しているだろう。送るよ」

横座りになっている彼女の方へ手を差し伸べる。

アルマース > 「そお? 年下を揶揄うのはかあいそうでしょ。
 弱い者いじめはしないのよ」

年上だから気兼ねなくぽんぽん口にしている――のかどうか、実際定かではないが。
青い目に向かって屈託なく微笑んだ。

「そうね、何度やり直せたってあたしはあの子の手は取らない。
 自分で選んだからこそ最良なんだわ。きっとね。
 人に押し付けられる天国より自分で選ぶ地獄の方がいいもの」

手に体重を思い切りかけてよろけさせてみようかな、とも思ったが、年上をほどほどに敬うことにして。
大人しく手を借りて立ち上がり、借りた敷布を払ったり畳んだり、準備をしてから馬車まで案内するだろう。

「あなたの古い友人も恋には興味が無かったの?
 その人も揶揄ってみたいわねえ」

何となし、アドラーと似た雰囲気で古い友人、を思い浮かべた。
道無き道を戻る途中、とぼける男を色んな方向からつついては話を引き出そうとする。
結局星はひとつも数えられずに――

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」からアルマースさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」からアドラーさんが去りました。